ヒビ割れエクソダス ◆5ddd1Yaifw
――――最期まで、生きてみせろ。
「……」
「…………短時間で、こんなに」
無機質な男の声がどこからともなく流れ出してから数分後。
翼の男が告げた真実は、二人の胸を貫いた。
これは夢じゃない、現実だ。呼ばれた犠牲者の数が、物語っている。
今まで誰とも出会わなかった為に、イマイチ殺し合いを信じきれなかった二人を、無理矢理に現実へと引きずり込む。
死んでいる、今もどこかで誰かが死んでいるかもしれない。
数時間前の微笑ましいやり取りが、どこか遠くの事のように感じられた。
「知り合い、呼ばれたの?」
「ええ……絶対に死にそうにない馬鹿な人でしたのに。正直、信じられませんわ」
佐々美は顔を青ざめながら必死に身体の震えを押さえつける。
それは、弱みを見られたくないが為の意地か、自分が殺されるかもしれない恐怖か。
女の子の気持ちなんてわからない鷹文には想像もつかないが。
(まぁ、僕の方は無傷。万が一って覚悟は無駄になった訳だけど)
放送の中では彼の知る人名は呼ばれなかった。
最も、100を超える参加者の中で知り合いは一割にも満たないのだ、死ぬ確率が低いのは当然といえるのか。
どちらにしろ、運が良かった。姉も、その恋人も、元彼女も。
全員がこの島で生きている。それは、鷹文にとっても喜ばしいことだ。
(うん、ラッキーラッキーってことで。それに、一番死にやすいのって絶対僕だよね。心配するだけ無駄かもね。
他の皆、腕っ節強いし。ねぇちゃんとかヤバイもんね、勝てる確率ゼロパーセントだよ)
中学時代の姉はまさしく最強だった。
誰も顧みず、ただ喧嘩に全てを委ねた化物だった。
化物は言い過ぎかもしれないが、当時の鷹文にとっては化物以外の何者でもない。
一人で男性複数を余裕で蹴散らしていた姉は、この島でもその力を発揮しているかもしれない。
(……思い詰めてないといいけどね。ねぇちゃん、正義感強いし。目の前で救えなくてヤケになる可能性も否定出来ないよね)
姉である智代は、外面は至って冷静で頼りになる姉御タイプではあるが内面は違う。
自分が死にかけた時、姉は泣いていた。
この世の絶望ありったけを詰めたかのようなぐしゃぐしゃの表情を浮かべて。
(うーん、前言撤回。やっぱ、心配だよ)
そんな風に、姉は弱いのだ。
自分みたいにドライではない、情に生きる女性であるから。
できるだけ、早く合流して安心させないと、と鷹文は心の中で誓う。
(まっ、僕は大丈夫だからいいんだけど。それよりも、今は――)
横でフラフラになっている佐々美をどうにか立ち直らせないといけない。
今にも倒れそうな、ワンパン一発でKO、格ゲーで言う赤ゲージというやつだ。
鷹文としても、いつまでも滅入った空気はごめんなので声をかけることを考えたが。
(どうやって慰めるべきなのかなぁ……下手なこといって怒らせたら最悪だしなぁ。
バッドコミュニケーションは勘弁して欲しいよ)
鷹文はうんうんと頭を悩ませるながらも、気の利いた言葉を必死に捻り出す。
ギャルゲーみたいに選択肢が出れば楽なのに、とは口が裂けても言えない。
現実は二次元とは違って厳しいのだ。一つのミスで取り返しがつかないことになってしまう。
「えっと」
「……ご迷惑をおかけ致しました。申し訳ありませんわ」
「あ、はい。大丈夫……?」
「正直、まだ落ち着けてはいませんけれど。
今は泣く時ではありませんわ。しかるべき時に、悲しんで。ちゃんとしたお線香も上げますわ」
鷹文がナイスでウイットに富んだ慰め方を考えている内に佐々美は立ち直ってしまった。
よかったのか、よくないのか。いやいやいいに決まってる。
正直、女の子の扱いなんて慣れていないから助かった。
無論、何かあったら支えるつもりではあったが。
(でも、今でこそ僕達は無事だけど。次に放送で呼ばれるのは、僕達かもしれないんだよね?)
この六時間で鷹文達は他の参加者と出会えていない。
自分達と同じ殺し合いに異を唱える人達であったり、進んで殺し合ってる怖い人達だったり。
どちらの部類にせよ、鷹文達は早急に他の参加者と対話をすべきなのだ。
(呼ばれた名前がそれなりに多いってことは怖い人達もそれなり、かな?
どっちにしろ僕達に足りないのは情報だね。情報ゼロでどうにか抜け出せる程、あの翼の人も甘く無いだろうし)
つらつらと現状の打破を鷹文は考えるが、どうしてもふいに思ってしまうのだ。
もしも、脱出なんて不可能だとしたら?
自分たちがいる場所が袋小路の絶望に包まれているとしたら?
(その時、僕達はどうするんだろうね……? やっぱ、殺し合っちゃったりするんだろうか?
内部分裂嫌だなぁ。外も内も気にするってすっごく大変だし)
考えたくもないが、佐々美が気が狂って自分に襲いかかってくる可能性だって否定出来ないのだ。
加えて、ここから逃げる方法すら定かではない。
船に乗って逃げるのか? それとも飛行機か?
わからない、何もかもがわからない。
加えて、不確かな情報だけで物事を進めることなんてできない。
(もう八方塞がりなんだよねぇ。諦める気はないけどさ、すっごく大変。
首に巻かれてるコレもあるし)
そして、この島から脱出する前に外さなくてはならない首輪。
これがあるおかげで自分達は常に命を握られている。
考えれば考える程、詰んでいるとしか思えないくらいに、自分達は追い詰められているのだ。
「……ないない尽くしでもうお終いってね」
「何か言いまして?」
「いや、何でもないよ」
嘘だ。何でもなくなんかない。
佐々美はきっと知らないのだ。自分達が置かれている現状がどうしようもないぐらいに、危機的なものだということに。
逃げ道すら封じられた今、この世界はまるで檻のようで。
(僕達は、誰も生きて帰れないんじゃないか?)
――――僕達は、逃げられない。
【時間:1日目午後18時20分ごろ】
【場所:F-2】
笹瀬川佐々美
【持ち物:猫(志麻)、水・食料一日分】
【状況:健康】
最終更新:2015年03月15日 08:55