God's in his heaven,all's right with the world ◆ApriVFJs6M
ようやく――探し求めていた存在が姿を現した。
灰色のジャングルが林立する市街地で仲村ゆりはうっすらと口元を歪め笑みを浮かべていた。
無念の死を遂げた者達が集う世界で彼女は神の痕跡を探し続けていた。
神への復讐、それこそを彼女は死後の世界での生きる意義として世界に抗い続けている。
理不尽な人生を強いた神に一矢報いるため。
彼女は妹を、弟を死に至らしめた運命という名の神への反逆者だった。
彼女がいた場所はこの世に未練を残した者がたどり着く世界。
そこで死者は真に天国へ昇る時を待つための場。
天国でも地獄でもない場所――煉獄。
彼女はその煉獄に留まり続け神の出現を待っていた。
だが神は現れなかった。
長きに渡り、神の尖兵である天使と思い幾度となく刃を交えた少女は天使でもなんでもなく、ただの人間でゆりと何ら変わる事の無い少女だった。
煉獄に留まり続ける死者を昇天させる天使なんて最初からいなかった。
この世界に神なんてモノは初めから存在しない――
ある程度は予測はしていた最悪の事態。
ならそれまでのSSSの活動は全くの無駄なことで、
同じ煉獄に留まり続ける立花奏を神への反逆の名の下に一方的に傷つけていたこと他ならない。
なんて茶番。
居もしない神を相手に戦争ごっこを続けていただけ。
他の団員に気取られぬよう、大義の喪失によるやるせなさを内に秘めていたゆりだった。
だが神は現れた。
神は神らしく人の運命を弄ぶ。
神の描いた新たな筋書きは『最後の一人となるまで殺しあえ』
くだらない――
神はまったくもってくだらない遊戯に興じるものだ。
ここは煉獄で存在するのはとうの昔に死んだ人間達のみ。
例え殺しあったところで次の日には全員が生き返る。
無限に殺し、殺されそして蘇る。
さしずめ彼女達は戦乙女によって天界へ導かれた戦奴だろうか。
神は哀れな人間を黄金宮に招き無限に殺し合うのを眺めながら美酒を呷る。
なんとも悪趣味であろうか。
否、人の運命を簡単に弄ぶ神には丁度良い遊びだ。そのほうが挑みがいがある。
ゆりに与えられた武器は一振りの長剣。
重量のあるそれはシンプルながらもしっかりとした作りになっていた。
愛用のベレッタM92Fとナイフでないのが残念であるが、こればかりはどうしようもない。
神が初めから個人の愛用の武器を渡すはずなんてないのだから。
ゆりは手に持った長剣を空に掲げた。太陽の光を反射して刀身がきらりと煌いた。
この剣を神の喉元に突き立てるまで何度でも戦ってやる。
七度斃れようとも七度蘇り神へ抗い続ける。
三流脚本家の神を舞台から引き摺り下ろしてやる。
「いいわ――この物語(せかい)が神様(アンタ)の作った奇跡〔システム〕のとおりに動いてるってんなら―――まずはその幻想をぶち殺す!!」
ゆりは高らかに宣言する。
理不尽な運命を課した神への反逆の狼煙。
その言葉を近くで聞いていた者が一人いた。
「だけど――神、空に知ろしめす。全て世は事も無し。あんたの決意も神様にとっちゃあ取るに足らぬ出来事かもしれないぞぉ~。そうは思わないかなそこのハ○ヒ似のお人。
人がいくら足掻こうと定められた運命は変えようがない。なら、あるがままを受け入れよ。おおっ? あたしったらすごく哲学者チック?」
ピンク色の妙な色合いのセーラー服を着た小柄な少女が物陰から姿を現した。
彼女の手には双剣が握られている。殺気はないが得体のしれない雰囲気を持った少女の出現にゆりの剣を持つ手が強く握り締められる。
「あんた……誰よ」
「チミチミぃ~、人に名を尋ねる時は自分から名乗りたまえっ!」
「……ゆり、仲村ゆりよ」
「あたしのことはまーりゃんと呼ぶのだ! えっと、ゆり……ゆり……ゆりっぺ!」
異常なまでのハイテンションなまーりゃんこと朝霧麻亜子にゆりは警戒を強める。
彼女は自分と同じ死者かそれともNPCなのか……いや、十中八九人間だろう。NPCにしては個性が強すぎる。
「いやあ~、ゆりっぺは素晴らしいねぇ……その若さでそんな決意できるなんて立派だのー。、
あたしは駄目だねえ、ささやかな日常を守ることしか考えられない小市民ってわけよ。神様の作った奇跡に踊らされる側かにゃー?」
「何が言いたいわけ?」
剣を握り締める手にさらに力が入る。
こいつはおそらく――
「だ・か・らぁ~、あたしの大好きな人達のためにぃ、あんたのお命頂戴ってわけだよん!」
言葉を言い終わるやいなや麻亜子は双剣を構えるとゆりに切り掛かった。
だがゆりも麻亜子の襲撃を予測しており、装備した剣で彼女の初太刀を受け止める。
金属同士がぶつかり合い、甲高い音を辺りに響かせ火花が舞い散る。
「ほほう……あたしの一撃を受け止めるとはなかなかの手練れの者――!」
「あんたこそいい筋してるじゃない――! SSSに入る気ないかしら?」
さらにぶつかり合う剣戟。
双剣であるがゆえに麻亜子は手数に優れるが、両手で剣を構えるゆりの一撃は重く受け止めるごとに手が痺れていくのを感じる。
「あんたはまだ死んだばかりで状況をうまく把握できてないと思うけど、殺し合いなんてするだけ無駄よ。死んだところで三日もすれば生き返るわ」
「はっはっは、何を言ってるか意味がわからんなぁ! あたしが死んだ? 冗談きついぜベイベー」
「みんなそう言うのよねぇ。まああんたもロクな死に方しなかったから自身の死を受け入れられないのも無理はないけど……ねっ」
「はぁっ? じゃあ、ここに来てるさーりゃんやたかりゃんも実はとっくに死んでるって言いたいの?」
「その二人が誰だか知らないけど、そうよ。あたしもあんたもとっくに死んだ人間……よッ!」
「ちィ……!」
ゆりの上段からの斬撃を受け止める麻亜子。
間髪入れずに下段、中段。流れるような三連撃をかろうじて受け止める。
ゆりの動きはその見た目よりも遥かに機敏で洗練されたものだった。
一方麻亜子もトリッキーな動きでゆりを翻弄し、有効な一撃を出させない。
さらに一合、二合、三合、四合。お互い一歩も引かず打ち合う二人。
(まっずいなぁ……これ以上はあたしの不利か……しかしゆりっぺ真顔で自分達は死人だなんて頭大丈夫かね)
だが小柄な体格の分、麻亜子に疲労の色が見え始める。
そしてゆりの放つ言葉が麻亜子の反応を鈍らせる。
そんな時、道の向こうから意外な人物が手を振りながら駆け寄ってきた。
「ゆりっぺーーーー!! 僕だよ僕ーっ!!」
「なっ……! 大山くん!? あのバカッこんな時にっ」
初めてゆりの顔に動揺の色に染まる。
現れた三人目はどうやらゆりの知り合いのようである。
少し童顔な少年はゆりと麻亜子が何をしているのか気にも留めず近寄ってくる。
「チャ~~~ンス! とぅ!」
「しまっ――」
麻亜子が放つ双剣を使った二方向からの斬撃。しかしゆりはかろうじて回避する。
だがこれは陽動、麻亜子の真の狙いは――
「フリーズ! ヘイユー! ホールドアップ!」
「えっえっえっ?」
麻亜子は素早く大山と呼ばれた少年を羽交い絞めすると彼の喉元に剣をあてがう。
「ふははははは! ゆりっぺこいつの命が惜しければ武器を捨てるのだっ! そしてあたしの逃走を手を振って見逃すのだっ」
「ゆ、ゆ、ゆりっぺ? 一体どうなってるの。ていうか助けてぇ~~!」
見事に人質に取られてしまった大山の情けない姿に頭を抱えるゆりだった。
「まーりゃんったら悪役ぅ~! さあ5秒以内に返事を聞かせてもらおうか。5・4・3・2……」
「ゆりっぺぇ~」
「1・ゼロ……タイムアーップ! さあ決断の時だゆりっぺ!」
「はぁ……しょうがないわねえ……大山くん」
「は、はい!」
「とりあえず死んで」
「え~~っ!? やっぱりぃ~っ?」
「なん……だと……?」
ゆりの予想外の返答に狼狽する麻亜子。
あっさりと人質を見捨てるゆり。
そして死ぬことを大して気に留めてないような大山の言動。
「どうせ生き返るんだからいいでしょ」
「で、でもいくら生き返ると言っても痛いことには変りは――」
「いいから、死んどけ。あたしの命令に逆らうっての?」
「うう……わかったよ」
「というわけで、まーりゃんとやら。こいつ好きにしていいわよ」
「できるだけ痛くしないで欲しいなあ……」
何を言っているんだこいつらは――
麻亜子の双剣を持つ手が震える。
本当にここは死後の世界なのか?
本当に自分はすでに死んだ人間なのか?
まさか――そんなはずはと思いつつ一度頭に浮かんだ疑念は離れない。
「そ、そんなブラフであたしが騙されるとも。ほ、ほんとだぞー! あたしは本気だからなーっ!」
「だから、殺りなさいっての」
「くっそー、少年! 恨むならそこのゆりっぺを恨めぇぇぇぇぇッ! 南無三――ッ」
大山の喉にあてがわれた剣を引く麻亜子。
すうっと赤い筋が喉に真一文字に引かれた刹那、ぱっくりと喉が裂けて赤い血液が噴水の如く迸る。
「かっ……は……ゆり……ぺ」
口をパクパクと金魚のように開けてどさりと崩れ落ちる大山。
彼は二度三度大きく痙攣すると動かなくなった。
「さて……あんたはどうする? しばらく大山くんみたいに死んで頭でも冷やしてみる?」
目の前で知り合いが真っ赤な血を噴き出して死んだいうにも関わらず平然とするゆり。
麻亜子はぎりりと歯軋りをして持っていた双剣を手放して大の字に寝転がって言った。
「負け負け! あたしの負け! こんなマジキチを最初に狙おうとしたあたしの負け! もう煮るなり焼くなりしろーーー!!」
「ちょっとお……気違いとは失礼ねえ。彼、しばらくすれば生き返るから。それとあんた気に入ったわ! あたし達の仲間になりなさい!」
「はぁ?」
「あんたみたいな腕の立つ人間を捜し求めていたのよっ! あのふざけた神を倒すために!」
駄目だ……この女、本物の気違いだ。
麻亜子は頭を抱えて悩む。
「さーりゃん……たかりゃん……すまぬ……あたしはこの女の毒電波にやられてしまったようだ……SAN値が下がりまくりだぜ……もうどうにでもなーれ」
「よし決まりね! まーりゃん行くわよ!」
「うーい……で、彼どうすんの?」
「ああ、そのうち生き返るから放っておきなさい。大山くんの荷物も置いておきましょ。目が覚めて何もないというのはさすがに困るだろうし」
「はーい……」
こうして仲村ゆり率いる死んだ世界戦線(SSS)はまーりゃんという新たな仲間を得て、神への反逆を企てるのであった。
「ところでゆりっぺの剣……焼肉みたいな臭いするのはあたしの気のせいかのう……」
「えっ? そうかしら?」
【時間:1日目午後1時00分ごろ】
【場所:F-2】
朝霧麻亜子
【持ち物:
オボロの刀、水・食料一日分】
【状況:健康】
大山
【持ち物:不明支給品、水・食料一日分】
【状況:死亡】
最終更新:2011年08月28日 03:41