想いの契約 ◆auiI.USnCE
何故こんな事になっているのだろうと私――藤林椋は思う。
だけど、それは凄惨な殺し合いに巻き込まれて思ったわけではなくて。
今、目の前で行われている事が意味不明なだけだ。
「しかし、本当に美味しいですわね。この料理」
何故、何故、自分は見知らぬ人とおせちをつついているのだろう。
しかも、その人は少し人という容姿から、かけ離れていた。
獣みたいな耳と尻尾をしている……有体にいえば獣人と言えばいいのかな。
そんな人が私の目の前で、お酒を飲みながら料理に舌鼓を打っている。
「え……は、はい」
私は少しどもりながらも、同じくおせちに入っていた蒲鉾を口に入れた。
けど、正直頭の中が混乱していて味は全くと言っていいほど解らなかった。
目の前の女の獣人――カルラさんはそんな私をみてにっこりと笑った。
私はそれに少しどきっとしながらも、次のおかずに箸を付ける。
……私がカルラさんと出会ったのはほんの少し前のことだった。
殺し合いとか怖くて堪らなかった私は独りで怯えていた。
震える手で名簿を見た時、其処にはお姉ちゃんや勝平さん、岡崎くん達の名前が。
皆も巻き込まれてると知ったら、何故か安心した自分がいて。
そんな自分に直ぐ自己嫌悪してしまう自分もいた。
そして、自己嫌悪に陥りながらも、私が次に取り出したのは何故かおせちだった。
何段にも重なっていて、とても美味しそうな匂いがしていた。
おまけにお酒も付いている。
これが自分の支給品と気付くのに、大分時間がかかってしまった。
気付いた時に、大分落胆してしまったけれども。
その後、どうしようかと戸惑っている時に、カルラさんはやってきた。
いきなり、獣みたいな格好をした女の人が現れて戸惑って混乱しかけたが、カルラさんは私を宥めてくれたのだ。
そして、おせちを見て
――美味しそうですわね。それ
と、指をさしていい、なんやかんやで食べ始める事に。
全くを持って程の目まぐるしい展開に驚き、今も混乱している。
けど、いつの間にか不安や恐怖が無くなっていたのに気付いたのはおせちを大分食べていた頃だった。
きっと、カルラさんが気を使ってくれたのだと気付くのに、時間はかかる訳が無かった。
「ねえ、貴方本当に知らなくて?」
「えっ、えっ何の事ですか?」
少し前の事を思い出していた私にカルラさんが話しかけてくる。
私は急に話しかけられたことに驚きながら、カルラさんのほうを向く。
カルラさんは先程と同じように優しい笑みを浮かべている。
「ほら、最初に聞いた……」
「ああ、とぅすくる……でしたっけ……すいません……やっぱりよく解らないです」
「そう……」
出会った時に聞かれた事、その事を私はよく解らなかった。
トゥスクルという国の事やカルラさんが語る世界の常識は、私にとってまるで御伽話の様なものしか思えなくて。
私は首を振って、理解できないと答えた。
カルラさんは少し、怪訝な表情を浮かべながらも、また表情を戻して
「ねえ、貴方。好きな殿方はいらっしゃる?」
「え……?」
「愛してる殿方ですわ」
唐突に言われた質問。
好きな人、愛している人。
思い浮かんだ人の顔は笑っていて。
私はその事を思うと少し恥ずかしくなってしまう。
顔が熱くなるのを感じながら、私はこくんと頷き
「……はい」
カルラさんに答えを返す。
きっと顔は真っ赤だろう。
カルラさんは上品そうに笑って
「そう……なら貴方は……」
けど、表情は何処か寂しそうに。
何処か哀しそうに
「その殿方の為に何かしようと思う気持ちは……持っていて?」
私に、そう尋ねた。
その質問に私は少し迷いながらも。
好きな人の事を思い浮かべて。
私なら、その人の為に
「ええ、ちょっとでも……あの人の役に立ちたいと……思います」
何か役に立てるなら。
きっと、私は何かするだろう。
そう思ったから。
私は顔を熱くしながらも笑顔で返事を返した。
「そう……そうですわね。それが当然ですもの……」
カルラさんは自問するように呟き。
目を閉じて。
「だから…………」
強く、手を握り締めて。
目を開けて。
その目は意志の篭った目で。
でも、何処か哀しそうで。
「――わたくしは貴方を殺しますわ。主様の為に」
私に、その拳を向けた。
驚くと同時にカルラさんの殺気に体を動かす事が全く出来ない。
恐怖がいきなり、表れて。
私は怯えるように呟く。
「どうして……?」
「………………ウィツアルミネティアの契約ってご存知かしら?」
カルラさんはそれでも、淡々と喋る。
私はその問いに、首を横に振って答えた。
恐怖で言葉が出なかったから。
「わたくしは誓ったのですわ。わたくしは主様の奴隷。髪の毛一本から血の一滴に至るまで。魂さえも主様の物と契約した」
「……えっ」
「だから、その誓約通り、わたくしは主様の為に、殺しますわ。主様に生きてもらう為に」
そう告げたカルラさんに。
私は、
「……そんなの……哀しすぎるじゃないですか」
ただ、哀しいと思った。
とても、とても。
酷い誓いだと思った。
「大好きな想いを、そんな誓いで縛って……その為に殺すんですか?」
「……ええ」
「カルラさんの意志は……あるんですか?」
「……ええ」
頷くカルラさんは強い目をしていた。
でも、やっぱり何処か哀しそうに見える。
私はその誓いの為に殺さなければならないカルラさんが。
大好きな人の為に、殺さないといけないカルラさんが。
「やっぱり……哀しいですよ……カルラさんの本当の気持ちは……何処ですか?」
「……黙りなさい。貴方に何がわかると言うのかしら」
カルラさんは少し怒って。
そして、
「御免なさい。さよなら……大好きな人に会わせることが出来なくて……悪かったですわ」
私に拳を打ち込んだ。
何もかもが砕ける音がして。
でも、私は最後に微笑んでいたと思う。
「―――、だいすきです」
私は、最後は、大好きな人へ想いを伝えた。
カルラさんの悲しそうな顔と。
頭に浮かんだ大好きな人の笑顔。
それが、私が最後に見たモノだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
カルラは椋を殺した後そのまま、何処かへ歩き出す
拳で心臓を一突きにして、椋を殺した。
一瞬で逝けたはずだ。
「……ふう」
すこし、決心が鈍ってしまった。
最初に彼女に出会ったとき殺すつもりだったのに。
おどおどしていた姿が、自分の仲間の女の子を思い出して。
つい助けてしまった。
そして、椋の言葉で改めて自分を奮い立たせ、彼女を殺した。
迷いはもう、無いはずだ。
だって、自分の想いは本物なのだから。
カルラにとってあの契約は本当に大事なものなのだから。
哀しいものなんて、有り得ない。
嬉しいものなのだから。
だから、殺した。
無実なか弱い少女を。
でも、その事に後悔は無い。
これが、カルラの生きる道なのだから。
手を血に染めて、そして、主を生かす。
それがカルラの生きる意味なのだから。
だから、これから、もっともっと殺す。
全ては愛する主の為に。
「けど……酒が無いとやってられないですわね」
そう呟いた彼女は、何処か憂鬱そうな顔を浮かべながら、
酒を一杯飲み干したのだった。
【時間:1日目午後1時00分ごろ】
【場所:F-7】
カルラ
【持ち物:不明支給品、酒、水・食料二日分】
【状況:健康】
藤林椋
【持ち物:無し】
【状況:死亡】
最終更新:2011年08月28日 03:42