比較優位の源泉はこれまで多くの経済学者が様々な理論を考え出してきた。
その中で、新貿易理論と呼ばれる理論を打ちたてたのが、クルーグマンである。
- 比較優位に基づかない貿易
- 外部的規模の経済のケース
- 内部的規模の経済のケース
- 新新貿易理論
比較優位に基づかない貿易
世界の貿易において最も規模が大きいのは先進工業国同士の産業内貿易である。
先進工業国はどこの国も比較優位のパターンが類似しており、
比較優位に基づいた貿易理論では現実を説明することに限界が来ていた。
そこでクルーグマンが比較優位に基づかない貿易理論を発明した。
その貿易理論は現在では新貿易理論と呼ばれている。
この理論のポイントは規模の経済と、市場の競争形態である。
規模の経済には二つの種類が存在する。
それが内部的規模の経済と外部的規模の経済だ。
内部的規模の経済とは、企業が大規模生産を行うことで平均費用が低下する場合のことを言う。
リカードの理論やヘクシャー=オリーンモデルでは平均費用が一定と仮定されていた。
外部的規模の経済は個別の企業は平均費用に影響を与えることはできないが、
産業全体の規模拡大によって全企業の平均費用が低下するケースを言う。
市場の競争形態については
ミクロ経済学で詳しく扱うが、ここで軽くおさらいしておく。
市場の競争形態には、独占、寡占、完全競争、独占的競争とがある。
独占は1社、寡占は数社だけで市場を支配しており、それぞれの企業はプライスメーカーである。
完全競争には無数の企業が一つの市場にひしめき合っている。
それぞれの企業は自ら価格を設定できず市場価格を受け入れざるを得ないプライステイカーである。
独占的競争では完全競争と同じ様に一つの市場に無数の企業が存在する。
それぞれの企業の製品には財バラエティ(多様性)が存在し、個々の企業が自らの製品に独占力を持っている。
外部的規模の経済の状況では完全競争と不完全競争の両方のケースがありうる。
この状態では、企業の個々の行動が不確定であるためだ。
今回は完全競争のケースを考え、比較優位に基づかない貿易について考察する。
内部的規模の経済では、企業は独占度の上昇による市場支配力の増加を目指す為、不完全競争のケースになる。
今回は独占的競争モデルを用いて産業内貿易を扱う。
外部的規模の経済のケース
このケースを考える上での仮定をいくつかおいておく。
- 2国2財モデル(ドイツ、フランス、衣服、自動車)
- 生産要素は労働のみで、両国ともに賦存量は10単位
- 生産要素は完全利用され国際移動も行われない
- 研究開発や技術の水準は両国で同一
- 自由貿易
- 規模の経済(規模に関して収穫逓増)
仮定の2と4より、各国はいずれの財にも比較優位を持たない。
表中の数字は、各財1単位の生産に必要な労働投入量である。
閉鎖経済
貿易によって利益が発生することを確認するため、貿易が存在しない場合をまず考える。
この状態では各国ともに各財の生産に5単位ずつ投入しているとする。
以下にその場合の生産量を表にしておく。
生産特化
貿易の前段階として生産特化を行う。
別にどちらがどの財に特化しても構わないが、ドイツが自動車、フランスが衣服としておく。
以下にその際の生産量を表にしておく。
|
ドイツ |
フランス |
衣服 |
0 |
10+α |
自動車 |
2+α |
0 |
表中の+αは規模の経済によって生じた生産の効率化分である。
貿易
生産特化した状態から、自国にある財を輸出してない財を輸入する。
|
ドイツ |
フランス |
衣服 |
5+α/2 |
5+α/2 |
自動車 |
1+α/2 |
1+α/2 |
これで各国ともに閉鎖経済の状態よりも多くの財を手にすることができた。
内部的規模の経済のケース
独占的競争の市場では財バラエティが存在する。
このような市場の例には衣服や書籍、映画などがある。
私たちは毎日どんな服を着るかを考え、本屋で自分好みの本を探す。
それを私たちは楽しんでいるし、より多様な種類があるほど良いと考えるだろう。
消費者には商品の差別化を好む性向があると言えそうだ。
その性向が存在するため、それぞれの企業は差別化された財を生産するインセンティブを持つ。
衣服の市場を例として考える。2つの国フランスとイタリアが存在するとする。
私は服には詳しくないので例は出せないが、2つの国には多くの衣服を販売する企業が存在する。
フランスの人がイタリアの服を欲しがることは必ずあるだろうし、その逆もまたありえる。
そうなればフランスの消費者は個人的にでもイタリアから輸入をするだろう。
何故ならばそのイタリアの服はそれを生産するイタリアの企業が独占力を持っているからである。
そこにビジネスチャンスを感じて輸入を請け負う企業が登場するかもしれない。
独占的競争の市場ではこのようにして貿易が発生すると考えられる。
新新貿易理論
ここまでリカード、ヘクシャー、オリーン、クルーグマンの貿易理論を紹介してきた。
それらの理論では全て貿易がどのようにして起こるかの理由を探していた。
リカードは生産性の格差、
ヘクシャー=オリーン理論では生産要素の賦存量の違い。
そしてクルーグマンの新貿易理論では、規模の経済と財バラエティだった。
ここまでが1980年代頃までの話である。
それではその先に
国際経済学はどのような発展を遂げたのだろうか?
実は新しい新新貿易理論という(奇っ怪な名前の)理論が誕生している。
新貿易理論の独占的競争のモデルでは、財が差別化されているだけで質はすべて同じというものだった。
その方が数式的に扱いが楽であるからが理由なのだが、あまり現実的なモデルとは言えない。
なぜなら世の中の服にはカッコイイだとかカワイイと言われる服があるのに対し、ダサいと言われる服も存在する。
Melitzは2003年に財ごとに異なる品質を持っているという理論を作り上げた。
これが、新新貿易理論と呼ばれる理論となっている。
最終更新:2013年08月15日 16:25