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あるSS書きの個人的七つ道具の使い方(事例編)
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haruhioyaji
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0.お題は「SOS探偵団」
という訳で、SOS団に依頼が持ち込まれて推理する、という鉄板なストーリーを道具箱を駆使してやっつけてみたいと思います。
1.まずはタロットを開いてみる
ところがどっこい、ミステリーなんて見当もつかないので、とりあえずタロット×グレマスに聞いてみました(何度も)。
これなら行けるかな? と思ったのが、次のものです。
これなら行けるかな? と思ったのが、次のものです。

いつもはマルセイユ版という古いタイプのタロットを例にしてたのですが「絵がかわいくない」と不評なので、標準的なウェイト版を使ってみました。
無理矢理に読むとこんな感じです。
- まず「送り手」が「女教皇」ですが、これは本を膝の上に開いた若い女性です。物語の一つの軸は、「送り手」から離れたもの(「対象」)を巡って物語は進み、最終的に「受け手」のもとに至る、というものです。
- 「対象」は「審判」、最後の審判のアレです。ここにおいて善なる者が救済され、悪なるものが討ち滅ぼされる訳ですが、この話はミステリーなので、ここは「真実の解明と、それにより真犯人に罰がくだり、容疑者の疑いははれる」といった感じでしょうか。
- 「主人公」はこの「対象」を求めて活動することが物語の二つ目の軸になる訳ですが、「主人公」=探偵とすれば、これはミステリーの王道的あらすじですね。実は「対象」と「主人公」はデフォルトにして、他の4つをランダムに選びました
- 実はミステリーの主人公は、どんな描かれ方をしようと、犯人の方であって、探偵はたかだか狂言まわしにすぎない、という見方もあるのですが、その場合は、別のアプローチがあるでしょう。
- 3つめの軸は、主人公を挟む、協力者と敵対者の軸です。主人公を探偵にしたので、敵対者は、探偵の推理(真実の探索)を邪魔するものとして現れます。しかもタロットは「塔」。これはいわゆるバベルの塔でして、傲慢とそれによる破滅を意味してます。探偵の敵役としてぴったりですね。犯人と「探偵の邪魔者」とを別にすることはありますが、今回はそんなに長い話にしないということで、犯人と「探偵の邪魔者」は兼任してもらいます。
- 今回の「協力者」は「星」のタロットでした。占いでは逆位置になっても否定的な意味を持たない、ラッキータロットです。絵を見ると裸の女性ですが、そこにではなく、彼女が2つの容器から、水の上と土の上とに水を注いでいるところに注目です。意識と無意識の象徴なんてことをいいます。探偵、犯人、と決まりましたが、この「薄々わかっているが、それが茫漠たる不安としてしか自覚していない「彼女」が、今回の依頼人にふさわしい、と思います。時に依頼人は、物語世界の開幕スイッチを押す者として「送り手」の位置を占めることもあるのですが、自らも事件に巻き込まれ、探偵とともに(ときに離れて)奮闘するパターンの依頼人は「協力者」の位置の者としたいものです。
ここでやったようなタロットの解釈ですが、七つ道具ー書物篇で取り上げた
この本を、カンニングしてやってます。
「キリスト教や古典文学など西洋美術に特有の主題・象徴・人物・動植物・観念・持物などについて、図像学の成果に基づきながら明快に解説した、イメージを読むための美術基礎事典」だそうで、
「キリスト教や古典文学など西洋美術に特有の主題・象徴・人物・動植物・観念・持物などについて、図像学の成果に基づきながら明快に解説した、イメージを読むための美術基礎事典」だそうで、
- タロット占いの本がタロットの意味、占いでの解釈の仕方を教えてくれるのに対して、
- 『西洋美術解読事典』は「なぜ、そういう意味をもつようになったのか?元ネタは何か?」まで教えてくれます。つまり歴史的なタテの筋と、神話、文学、美術へと広がる横の線がわかるので、もっと知りたくなったら何を見ればいいか、もっと想像を広げようと思ったらどっち方向へぶっ飛ばせばいいかの見当がつきます。
これで6つのタロットの意味と位置から、ストーリー上での役割が判明しました。ここまでだと、「なんと、どこにでもあるような推理ものの二番煎じ(というか、出がらし)」でしかありませんが、まずはスタートを切れたことを寿ごうと思います。
一度進みだした車は、次第に弾みをつけていくはずですから。
2.キャラクターを具体化/整理する
さすがにこれだけでは何ともなりませんので、もう少し、SOS団以外の、事件を構成するキャラクターたちのイメージを膨らませてみます。
- 犯人を掘り下げる
- 「塔」
- 塔=閉じ込めと飛び降り
- バベルの塔=天の神に並び立とうという傲慢不遜と、それによる破滅と混乱。
- 嫉妬と独占欲の塊、プライドが高いが恐ろしく自信がない、才能はあるが挫折を恐れるあまり描き終えることができない芸術家。
- 最後はがけから落ちる(?)男。
- 「送り手」の役割と人物像を考える
- 送り手は、ときに物語世界の設立者であり、ときにメタレベルに立つものです。
- ここでは、ミステリーらしく、死者として登場してもらおうと思います。
- すでに死んでいるが、真実を残し(遺書?)、まだ真実を知らない生ける人(元恋人?、友人?)たちを走らせる。物語のフレームを作っている存在。
- タロットは「女教皇」。図書委員や文芸部員にしてもいいんですが、長門さんのポジションはSOS団にしときたいので、別の人を考えます。
- 事件の依頼者は、物語を開始させる、この「送り手」ポジションをとることがままあるのですが、「死せる送り手」としたのと、知性と献身のイメージ、犯人が過信が故の不信の人である千夜一夜物語のシャフリヤール王であるとして、それを救おうとした知性の女性シェヘラザード姫をイメージしました。
- ただし物語が始まった時点では死んでいて、犯人に殺されたイメージです
- 受け手は誰なのかを考える
- 受け手に位置するのは「愚者」。
- これは、向こう見ずな無垢な存在であり、「送り手」が真実を伝えたい相手=生前の友人(たち)ですね。彼女たちは今も危機にあるのに、それに気づいていない。
- では依頼人もその一人? ここでは「援助者」ポジションと「星」のタロットを生かして半分は無知で、無意識では気づいている感じ、でいくのはどうか、と考えました。「受けて」ポジションと「愚者」にも、片足つっこんでる感じです。
- 事件を構成するキャラクターたちを整理します
- 依頼者(女性);協力者ポジションでタロットは「星」。うすうすは事実に気づいている。
- 犯人(男性):敵対者ポジションでタロットは「塔」。性格は上で考えた感じで行きます。
- 物語以前に殺された女性:何か事件を明るみにするものを残している。犯人の元恋人?
- 殺された女性の友人:無知ー男が殺したことを知らない。向こう見ずー今はその男とつきあってる?
と、こんな感じでしょうか。
ミステリーの場合、人間関係を解きほぐすと事件の真相が明らかになる、というパターンが多いので、逆にどんな人間関係なのかをデザインできると、自ずとあらすじもできちゃうことが多いです。
つまり、隠れている人間関係を少しずつ見つけていくのが、ストーリー中盤の主な出来事になるわけです。
つまり、隠れている人間関係を少しずつ見つけていくのが、ストーリー中盤の主な出来事になるわけです。
3.キャラクターの動機、行動、目指すところを考える
主人公ーライバル対照表をアレンジして、事件を構成するキャラクターたちの対照表をつくってしまいます。
先ほどやったキャラクターの整理を、表に再構成することで、足りない設定や修正すべき点を明らかにしていこうという訳です。
先ほどやったキャラクターの整理を、表に再構成することで、足りない設定や修正すべき点を明らかにしていこうという訳です。
動機 | 行動 | 目標 | 対立点 | |
男(犯人) | Aを殺したことを隠したい | (?さて物語の中では何をどこまでさせるといいか?) | 事件の隠蔽と・・・ | 女Aの目標と対立 |
女A(すでに殺されている) | (?動機がいまいち不明) | 真実を告げる遺書を残している | 真実が友人?BとCに伝わること | 男(犯人)の目標と対立 |
女B(依頼者) | (?動機がいまいち不明) | SOS団に事件の真相究明を依頼する | Aの殺したものをつきとめること | 男(犯人)の目標と対立 |
女C(事件の真相を知らない) | (?動機がいまいち不明) | Aの死後、男(実はAを殺してる)とつきあっている。 | 男との関係がうまくいくこと(真相究明に興味ない) | 女Bの目標と対立 |
結構、埋まってないところが多いです。まあ、そんなもんでしょう。
ですが、はっきりさせるべきところが明らかになりました。
ですが、はっきりさせるべきところが明らかになりました。
4.動機を掘り下げるべきか?
上の表で、いずれも未完成なのは、各キャラクターの「動機」です。
動機は行動の前にあるものですが、行動とその結果(行動に対する、他の人の反応(行動)を含む)はまた、人を動機付けたりします。
動機を掘り下げることは、それに先行する(自分や他人の)行動を見つけることだし、その行動にも動機があります。動機と行動の連鎖は、その気になればいくらも遡れますが、どこかで打ち切らないと切りがないのも事実です。物語や小説の長さは限りがあって、すべてを書き尽くすことはできません。何を書き、何を書かないか、を選択する必要があります。
動機を掘り下げることは、それに先行する(自分や他人の)行動を見つけることだし、その行動にも動機があります。動機と行動の連鎖は、その気になればいくらも遡れますが、どこかで打ち切らないと切りがないのも事実です。物語や小説の長さは限りがあって、すべてを書き尽くすことはできません。何を書き、何を書かないか、を選択する必要があります。
今回の場合、「男が女Aを殺した」という行動が、男を含む女A、B、Cという4人のキャラクターたちを動機付けています。そして、3.の表にある4人の「行動」はすべて、「男が女Aを殺した」という行動に対する反応に他なりません。
根っこにあるのは「男が女Aを殺した」なのですから、この行動の動機を押さえれば、今回の物語の、動機ー行動の連鎖に、収まりをつけることができそうです。
根っこにあるのは「男が女Aを殺した」なのですから、この行動の動機を押さえれば、今回の物語の、動機ー行動の連鎖に、収まりをつけることができそうです。
さて、最も簡単でずるい「動機」は「狂気」です。「まともな人は人を殺さない」という「常識」を裏返せば、「狂った奴が人を殺す」訳ですから、「なぜこの男は人を殺したのか?」に対する、最も簡単な答えは「その男は狂っていた」です。
「狂気」は、その説明が必要でないので楽ですが、楽なだけに放っておくと「なんでもあり」になってしまいます。「狂気」のwhy(理由/原因)は問わず飛ばすことができても、「狂気」のwhat(対象;何について狂気は発露されるか)と when/where(いついかなる場合に狂気は発露されるか)、つまり「狂気」の対象と範囲は明確にしておく必要があります。あるいは「狂気」の対象と範囲を限定するために、「狂気」のwhy(理由/原因)は用いることができます/スマートに「狂気」の対象と範囲を説明し限定することに使えます。
「狂気」は、その説明が必要でないので楽ですが、楽なだけに放っておくと「なんでもあり」になってしまいます。「狂気」のwhy(理由/原因)は問わず飛ばすことができても、「狂気」のwhat(対象;何について狂気は発露されるか)と when/where(いついかなる場合に狂気は発露されるか)、つまり「狂気」の対象と範囲は明確にしておく必要があります。あるいは「狂気」の対象と範囲を限定するために、「狂気」のwhy(理由/原因)は用いることができます/スマートに「狂気」の対象と範囲を説明し限定することに使えます。
「塔」のタロットから引き出された、男の狂気は、「過信故の不信」「信じすぎるあまり、信じられなくなる」といった狂気です。これはまた、千夜一夜物語のシャフリヤール王の狂気でもあります。この王もまた、一夜をともにした女たちが王の寵愛を裏切り享楽に耽るのを見て、今後、こうした「裏切り」が起こらないように、一夜をともにした女を朝には殺すようになります。
ここに「嫉妬と独占欲の塊、プライドが高いが恐ろしく自信がない、才能はあるが挫折を恐れるあまり描き終えることができない芸術家」というのを代入して、思いつきをマインドマップで広げてみました。
描き終えることのない芸術家が、描き終えた場合を考えます。
彼の理想の美は、今や彼の描いたキャンバスの上にあります。しかしモデルは生身の人間です。いつ、彼の理想を裏切る行動をとるかもしれません。シャフリヤール王のごとく、裏切られないためにモデルを殺す、狂った画家というのが思い浮かびました。
これまで、画家にとっては不幸ですが、モデルたちにとって幸運だったのは、彼女たちが画家の理想の美には足りず、彼が最後まで絵を描くことができずに中断したまま、彼女たちを捨て追い出していた、そのために殺すまでには至っていなかったことです。そこでは彼は、自信過剰で、そのくせ作品を完成させられない「自称天才」でしかありませんでした。
さて、その画家の前に、絵を完成させるに足りる美を備えた女性が現れたところから、悲劇が始まります。
5.キャラクターの動機、行動、目指すところを考える(その2)
犯人役が固まってきたので、先のキャラクターたちの対照表を加筆修正してみます。
動機 | 行動 | 目標 | 対立点 | |
男 | モデルを絵に近づける。 | 絵ができると不安定な人間は消し、次のモデルを探す。 | 美の追求 | A,B,Cのそれぞれとコンフリクト |
女A | 友人を救うために | 自らモデルに。死ぬ前に真相を書いた手紙を書く | 画家の正体を友人B,Cに伝える | 男とコンフリクト、女Cのコンフリクト |
女B | Aの死の真相を明らかにしたい | SOS団に調査依頼 | Aが残した真実をつきとめる | 男の野心の邪魔に |
女C | 男を自分のものに | Aの死後、男のモデル(自称愛人)に | 男と恋人になること | 男の野心とコンフリクト、Aがモデルになることも邪魔 |
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