愚直(前編)



【E-4 病院跡地 06:05 a.m.】

辺りに生命の気配が一切感じられないような爆心地の中心で、ン・ダグバ・ゼバは一人、仰向けに空を眺めていた。
彼がその瞳に映すのは、視線の先にある雲の流れではなくこれから自分はどうするべきかという漠然とした今後の展望だった。
無論、今までと変わらず会場を気ままに歩き回り参加者を殺して回るという選択肢も、なくはない。

だがそれを彼が安易に選択しないのは、グロンギの王たる自分にとって、今の状況を無為にするのは少々惜しい気もしたからだ。
ダグバは先の戦いによって首輪が爆破されたために、既に大ショッカーによる放送でその名が呼ばれている。
殺し合いにおいて死亡者として扱われること、それは言ってしまえば本来グロンギ族が行うゲゲルにおいて、失敗者がゲドルードを爆破されたようなもの。

グロンギのゲゲルであればンの階級はルールを無視出来る特権を持つが、今の彼はただの一参加者に過ぎない。
つまり今のダグバはこの殺し合いにおいては擁護しようのない敗北者であり、ゲゲルを進める権利を失ったただの弱者なのだ。
数多のグロンギがその命で償ってきたゲゲルの失敗を、あろうことか王たる実力を持つ自分が犯してしまったのである。

何らかの要因によってこの身体に流れる血の色の変化と共に死なぬ身体を手に入れたからと言って、その事実を無視出来るはずもなかった。

(君もこんな気持ちだったのかな?ゴオマ)

そんな中ふとダグバは、自分の力を拝借しなければろくな力もなくこき使われるだけだったグロンギ族の面汚し、ズ・ゴオマ・グのことを思い出す。
ゲゲルのルールを無視したことでその後一切の温情を与えられず、最後は過ぎた力でその身を滅ぼした愚か者。
ルールを重んじるグロンギ族にとって当然であったその扱いはしかし、王たるこの自分にも変わらず与えられるのだろうか。

――ぞくり。

自身がゴオマのように足蹴にされる想像が頭に過ぎって、不意にダグバは背筋に走る悪寒を感じた。
自分よりもずっと弱く、ゲリザギバスゲゲルにさえ辿り着けない連中に蔑ろにされるのは、どれだけ惨めだろうか。
ラ族の管理すら受けずに自由に誰かを殺していいはずの自分が、誰も殺してはいけないという枷をはめられるのは、どれだけ屈辱的だろうか。

自身を恐れ怯えていたはずの存在が、一転して自分をただの死に損ないとして扱うというあり得ない未来が、しかしいよいよ現実味を帯びてくる。
だが、王から一転して一族の面汚しに落ちる未来の幻視に対しダグバが浮かべたのは、全てを失った絶望の表情ではなかった。

(怖い……とっても怖いよ……!)

彼は、笑っていた。
これまでの中で最も上質で、現実味のある恐怖の予感に対して、ダグバはただ愉悦を覚えていたのである。
クツクツと自分の喉から沸き立つそれは、恐らくは恐怖を知る前とは全く違う性質を帯びていることを自覚しながらも、彼はその笑みを止めることはしない。

(でも、もっと怖くなるには、どうすればいいのかな?)

だが王の欲望は、尽きることを知らない。
今のままでは足りないと、より深く、より上質な恐怖を探求しようと思考を巡らせて、彼の思考はとある事象に辿り着く。

(世界が滅びる瞬間っていうのは、怖いものだったりするのかな)

この殺し合いが開かれた理由であるという、世界の崩壊。
参加者の全滅によって世界がまるごと崩れ落ちるその瞬間に居合わせるのは、きっと怖いに違いない。

「―――――ん?」

そこまで考えてふと、彼は漠然とした違和感を覚えた。
大ショッカーが述べていた、世界の崩壊とそして許されるただ一つの世界の存続。
敗北など露ほども考えておらず、そもそも世界の存亡などどうでもいいダグバにとってはどちらにせよ興味のない部分であったために気にしていなかったが、それを翳す存在はいったい誰なのだろうか。

もしもダグバでさえ成したことのない世界の崩壊を――それも10つも同時に――行えるだけの超常の力を持つ存在が、この殺し合いを取り仕切っているのだとしたら。
自分に知覚さえ許さず、あんな首輪まで嵌めただの駒として扱うような存在が、大ショッカーの頂点に座しているのであれば。
その存在の予感こそが、ダグバの恐怖への探求をより深めさせる。

(強いのかな……会ってみたいな)

未だ見ぬ大ショッカー首領への期待が、彼の中で渦巻いていく。
今の自分でさえ敵わないかも知れない規格外の存在との可能性に、ダグバは心躍る思いを抱く。
好奇心に沸き疲労など感じさせない挙動で立ち上がったダグバはそのまま、この会場を抜け出し大ショッカー首領のもとへ移動しようと強く念じて――しかし何も起こらなかった。

「―――――あれ?」

茫然と立ち尽くしたまま、彼は間抜けな声をあげた。
自身にかけられた制限はもう、首輪の爆発と共に消滅したはずなのに。
どこにでも瞬時に移動できるという自身の能力はしかし、なぜか発動しなかった。

「―――――もしかしてこれも、君の力なのかな?」

しかしそんな自身の不調に対しても、なおダグバは笑みを溢したまま、届くかもわからない声と共に天を仰ぐ。
先ほどよりはマシなものの、未だこの体を縛るような何かが存在している。
そんな実感が、今確かに彼の中に存在していた。

「―――――なるほどね、まだ君に会うには早いって……そういうこと?」

誰もいない虚空に対し、ダグバはそこに何者かの存在を感じながら問う。
つまりは元の世界における自身のように、彼と戦うにはこの会場で優勝しなければならないのだとすれば。
この会場で全ての仮面ライダーを倒すというゲリザギバスゲゲルを勝ち抜かない限り、首領とのザギバスゲゲルに挑めないのだとすれば。

挑まれるのみだった自分が、挑む側になるのだとすれば。
それはダグバにとって、今までにないほどに意欲的に戦う理由に繋がる。
これまでにないほどの楽しみを前にして、彼は再び天を見上げた。

「―――――じゃあ、僕がこのゲゲルを終わらせれば、君も会ってくれるよね?」

瞬間浮かべるは、これ以上ない笑顔。
世界の存亡などという下らないルールのゲゲルは、早いところ終わらせてしまおう。
どこの世界が残ろうが、どこの世界も残らなかろうが、ダグバには関係ない。

その先にある大ショッカー首領とのザギバスゲゲルにだけ思いを馳せて、彼は西方へとその目を向けた。
彼の瞳に映るのは、最早大ショッカー首領のみ。
初めて知った単身で自分を大きく超える存在との戦いに昂る心を胸に、彼は仮面ライダーなどさっさと“整理”してしまおうと、ほぼ反射的に全てを焼き尽くそうとする。

――ドクン。

だが彼がその手を翳すより早く自身の胸の中、不死者の証明である緑の血を送り出す心臓が、一層高く鼓動した
強敵の存在に昂るそれとはまた違う、どこか焦燥感を伴うような苛立たしい鼓動。
何事かとダグバが理性で考えるより早く、これを生みだす存在をすぐにでも殺せ、戦えと何者かが脳内で語り掛けてくる。

それが誰かはダグバには分からない。
ただその声に従い戦えばいい、それだけを本能が訴えかけてくる。
そして同時、戦わなければいけない相手もその理由も知らないというのに、その声に抗うことは最早彼にはできなくなっていた。

別段、抗う理由もない。どうせ全員殺すのだから、まずはこの苛立たしい感情を消すのが優先だろう。
そんな僅かな理性の囁きと、それさえ押し潰すほどに強い本能に従ってその衝動が指し示す先を静かに見据えたダグバの姿は、次の瞬間にはそこから消え去っていた。




【F-5 Gトレーラー 05:54 a.m.】

「それじゃあ君たちは、本当に乃木怜治に襲われたのか……?」

「あぁ。二人になって蘇った奴に、な……」

「まさか彼がそんなことをするなんて……信じられない」

橘朔也を犠牲にしながらもダグバに勝利を収めたフィリップ達は、放送を前に先ほど合流した葦原涼との情報交換を行っていた。
そうした中やはりフィリップにとって最も衝撃的であったのは、仲間と信じた乃木の裏切りについて。
いや、裏切りというのも些か語弊があるだろうか。

というのも涼の話からすれば、乃木は「大ショッカーを倒す」という意見を覆らせた様子はない。
寧ろ志村純一のように、自身の信じた彼の言葉が全て嘘だったなら、まだ納得が出来るというのに。
自身の前で吐いた言葉にも涼に死を宣告した瞬間にも、彼には一貫して大ショッカー打倒の意思が存在している。

だからこそ余計に自分は乃木のほんの一面しか見れていなかったと言われているようで、それがフィリップには心苦しかった。
だがそんな彼の傷心には目もくれず、村上はその鼻を嘲笑で鳴らす。

「大方、首輪を解除するまでの間、その可能性があるあなたに対して媚を売っていた、ということなのでしょうね。化けの皮を一枚剥いだ途端表われる本性がそれとは、醜い事この上ない」

所詮は俗物だったということですよ、と容易く結論づけようとする村上。
そんな彼の冷静な態度が気に食わないとばかりに、涼は勢いよく立ち上がり村上の肩を掴んでいた。

「言いすぎだぞ、村上。あいつは確かに俺を殺そうとした。……だが、亜樹子に殺されそうになった俺を助けてもくれた、命の恩人だ」

「……正気ですか?」

乃木を悪と断じるのは許せないとばかりに、彼を庇うような言葉を吐いた涼。
対する村上の口から洩れたのは、呆れを多分に含んだ疑問の声だった。

「乃木という男は、あなたを守ろうとしたわけではない。口ぶりからするに彼は自身が復活することを分かっていて、死ぬのに都合のいい状況を見つけた、というだけのことでしょう」

「――そうだとしても!奴が俺を救ったのは事実だ。理由なんて、どうでもいい」

常に冷静さを保ち相手を客観的に読み取れる事実から説き伏せようとする村上に対し、涼はしかし取り合う様子も見せない。
これ以上やり取りをしていてもきっと彼は意見を変えないだろうと溜息をついた村上は、彼を相手にしても無駄かと椅子に深く腰掛けながら、その視線を涼の後ろにいる男に向ける。

「では後ろの……相川さんでしたか、彼を信じているのもそれと同じ理由、ということですか?」

大して上等な椅子でもないのに我が物顔で踏ん反り返るその姿勢は、まさしく大企業を背負う社長たる威圧を誇っていた。
だが、そんな緊張感を誇る村上の警戒を含んだ瞳を、今名を挙げられた男、相川始は視線を逸らすことなく鋭く睨み返す。
この程度の修羅場など何度も潜り抜けてきたことが伝わるその双眸は、村上のそれと空中で火花を散らす。

「待て、こいつは乃木とは違う。確かに殺し合いに乗ってこそいたが……それは自分の世界を守ろうとしただけで、悪い奴じゃない」

数舜の間、言葉もなく視線を交わしていた二人の沈黙を、涼が打ち破る。
一方で睨み合いをやめ再び視線を涼へと移した村上の表情は、未だ険しいままだった。

「分からない人ですね。大ショッカーのような得体のしれない集団が吐く言葉を簡単に信じ、誰かを手にかけようとするその精神こそが信用ならないのでは、と言っているのですよ」

「それは――」

村上の理路整然とした指摘に、涼は思わず口を噤んだ。
それでも始を信じた自分に嘘をつかないよう、なんとか二の句を継ごうとする。

「――葦原涼、正直僕も村上峡児と同じ意見だ」

だがそれより早くその場に響いたのは、意外にもフィリップの放った冷たい声であった。
彼は先ほど乃木の裏切りに悲しんでいたものとは真逆の、倒すべき敵に向けられる視線を始に向けている。

「彼はカテゴリーキングと共に病院を襲った張本人だ。五代雄介が操られているのを知ったうえで地の石を破壊することもせず、多くの犠牲者を出した。……それを、僕はなかったことにはできない」

秋山蓮を、ヒビキを、海東大樹を、そして五代雄介のことを、フィリップは思い出す。
大ショッカーを倒すため、本来互いに戦わなければならない運命さえ覆して手を取り合った異世界の仮面ライダーたち。
そんな彼らの望みと命を多く断ち切ったあの戦いに関与していたこの始という男を、フィリップはそう易々と許すことが出来なかった。

「――俺はそれでも構わない」

だがそんな高ぶりゆく場の熱気を、始の低く落ち着いた声が一瞬で鎮めた。
フィリップの怒りを収めようとしていた涼でさえ言葉を失うその中で、彼は動じず三者の中心に歩を進める。

「お前らが俺をどう思おうと関係ない。俺はただ自分の世界を守るのに最適な手段を取るだけだ。勿論、大ショッカーの言うことが本当だったとわかれば、俺は容赦なく貴様らを殺す」

「相川!」

始の確固たる意志表明に対して、涼は咎めるような怒声を飛ばす。
だがそれで止まるほど、始も生半可な覚悟ではない。

「お前には最初から言っていたはずだぞ、葦原。俺はただお前が世界の滅びる運命を変えられるかどうか見極めるだけだと。別に俺はお前たちの仲間になったつもりも、協力すると言ったつもりもない」

「私を前にそこまで言い切るとは、随分実力に自信がおありになるようだ」

始の扇動にすら取られかねない発言を見逃すことが出来ず応じたのは、やはり村上だった。
彼の眉間には皺が寄っており、口調とは裏腹にかなりの激情を秘めているのが伺える。

「言っておくが、もし今ここで戦うことになったとしても、俺は負けるつもりはない」

「……ほう」

言外に「下手なことをすれば殺す」と含まれた村上の威圧さえも、始は予想通りだと言うようにさらりと流す。
あくまで涼しげな態度を崩さない始に対し、村上もまた殺気を緩めることなく鋭い視線を向け続ける。
両者互いに、一瞬でも気を抜けば戦いが始まってもおかしくはない……そんな緊張感の中、突如として一つの人影が二人の間に飛び出していた。

「――待て!今は俺達が争っている場合じゃないだろう!」

両手を大きく広げ、涼は無理矢理に臨戦態勢にあった二人を引き剥がす。
それぞれの顔を交互に見やりながら「こんなことは時間の無駄だ」と伝えてくる彼を見て、村上は再び嘲りと呆れを込めた小さな笑いを漏らした。

「……葦原さん、あなたは本当に信じているのですか?この男が裏切ることはないと」

「あぁ、こいつは俺が世界の滅びる運命を変えられるのか見定めると言った。なら、俺はそれを示すだけだ。そうすればこいつはもう、誰かを殺す必要もなくなる」

彼の言葉に多分に含まれている自身への侮蔑、嘲笑の感情は、涼にもはっきりと感じ取れている。
だがそれをさして気にする様子も見せず涼は始の盾になるように村上の前に立ちはだかった。
チラと始を垣間見た後再び村上を捉えた彼の瞳は、やはり揺らぐことを知らない。

「それに、何度裏切られ、傷ついたとしても、その度に立ちあがれば運命なんて簡単に変えられる――それが仮面ライダーだと、俺はあいつらに教えてもらった。だから今度は俺が、運命を変える番だ」

かつて自分に大切なことを教えてくれた仮面ライダーたちを、彼は胸に思い描く。
運命を変える。陳腐で抽象的な言葉だが、彼らと共にならそんな大言壮語も果たせるような気がした。

「では、あなたの願いが届くことなく、彼が誰かを手にかけてしまったら?その時はどう責任を取るおつもりです?」

だが対する村上は、悲しいことに涼の夢を信じはしない。
どこまでも現実主義者として、在り得る可能性を検討しようとする。

「俺がそうはさせない。だが、もしもそうなったならその時は……俺がこいつを倒す」

しかしそんな辛い現実に目を向けることにも、涼は躊躇しない。
仲間を信じたい、運命を覆したい……それらの希望が裏切られることなど、既に何度も経験済みだ。
だから、それがあり得ないなんて夢見心地の反論はしない。

だがそんな辛い可能性を確かに有り得る未来の一つとして理解しつつも、未だ涼の瞳は曇ることを知らない。
一方でこの場に来てからの短い時間でもう幾度となく見た“彼ら”に共通するその目を前に、村上の身体からは既に戦いへの気迫は失せてしまっていた。

「……その言葉は、以前私にも言ったはずですが。貴方は随分と厄介ごとを抱え込むのがお好きなようだ」

「あぁ、おかげで裏切られるのにも、もう慣れたさ」

寂しげな涼の言葉には、しかしどこか吹っ切れたような爽やかさが介在していた。
霧島、金居、亜樹子、志村、乃木……考えてみれば自分でも呆れてしまうほどに自分は騙され続けている。
殺されそうにもなった、心が折れそうにもなった、こんな自分なんてどうしようもないのだと、全てを投げ出してしまいたくなった。

だがそんな自分を繋ぎ止めてくれたのは、あの曇ることを知らない太陽のように輝きを放つ瞳を持つ男達の言葉だった。

『――間違えたのならもう同じ間違いをしないように学べば良い』

『――一人じゃ上手く行かなかったってんなら、これからは俺達が支えるよ』

胸中に思い出されるは、自身が度重なる裏切りと自分自身の犯した過ちに心折れそうになった時、仲間たちがかけてくれた言葉。
仲間を殺されたヒビキも、自分を幾度となく叱咤してくれた士も。
仮面ライダーとして誰かを守るために戦うなんて自分には無理だったのだと諦め自棄になりかけた自分を、彼らはあっさりと破壊したのだ。

裏切りの痛みを知った分だけ誰かを裏切らないようにすればいい、傷ついた分だけ強くなればいい、そうして信じた道を行けと。
一人きりじゃどうにもならない逆境であっても、支え合える仲間がいれば結果は変わるはずだと。
どうにもならない現状と、誰も助けてくれないという絶望感に一人藻掻き苦しむだけだった自分を、仮面ライダーはいとも簡単に救って見せた。

人を護ってみるのも悪くはない。そんな譲歩を含んだ感情が人を護りたい、誰かの力になりたいとそう変化したあの瞬間を、涼は忘れはしない。
自分の抱いていた「どうせ自分なんか」という諦観を、まるで何てことのないように覆した彼らの行いこそが一つの運命をひっくり返して見せた証拠だというのなら。
自分もそれを、成し遂げてみたかった。彼らの意思を継ぐ者の一人として。

「……そうですか、ではお好きにどうぞ」

まんじりともせず意見を変える様子もない涼を前に、村上は最早興味を失ったようにそっぽを向きトレーラー内に設置された椅子に座り込んだ。
一方の始もまた戦意を失ったようにトレーラーの床にぶっきらぼうに座り込み、戦いの意思がないことを示す。
その両者の瞳がそれぞれ互いを警戒するように光り続けていることは重々承知だが、ともかく一応は無事やり過ごすことが出来たと涼が胸をなで下ろした、その瞬間。

絢爛なパイプオルガンの音色と共に、大ショッカーが告げる三度目の定時放送が、開始された。




【F-4 Gトレーラー 06:02 a.m.】

一台の巨大なトレーラーが広い道路の中心を我が物顔で突き進んでいく。
昇り始めた陽の光をその横原に照り返しながら揺れる車体の中で、フィリップは一人机に向かっていた。
その机上には今までの首輪解析の情報が纏められているが、彼の思考は今首輪に向けられてはいない。

(東側の全域が禁止エリアなんて、この戦いも終わりが近いと思いたいけど……)

彼が今考えているのは、先ほどの定時放送で告げられた実質的な会場の半分以下への縮小について。
60人もいた参加者が4分の1にまで減った為に予想される停滞を防ぐ狙いがあるというのは、容易に想像出来る。
だがその一方で涼や始を襲った乃木怜治やキングについて容認するような姿勢を見せ、どころか更なる刺客を送り込むという文脈を含んだ先の放送に、フィリップは不安を隠しきれなかった。

(キングの乱入はともかく、乃木怜治の復活まで大ショッカーの目論見通りだったなら、やっぱり首輪の解除も……)

彼が懸念しているのは、自身が手がけてきた首輪の解除という目標が、果たして本当に大ショッカー打倒に意味のあることなのかということ。
自分が地球の本棚で調べた内容であるならともかく、首輪の解析機は所詮大ショッカーがこの会場に予め用意したもの。
首輪の解析、そして解除さえ大ショッカーがゲームの一環として仕組んだものであることは、元より明らかなことだ。

それでも首輪による生殺与奪権を大ショッカーに握らせたままではいられないと首輪の解析を進めてきたが、果たしてこれは自分が考えるほどに意味のあることだったのだろうか。

(――ッ、何を考えてるんだ、僕は!)

ぶんぶんと頭を振り、浮かんできたマイナス思考を頭から追い払う。
今まで『首輪を解除しうる人材』として受けていた恩恵を甘受しておいて、この期に及んでその責任から逃れようというのか。
そんなことが、自分に許されるはずないではないか。

(そうだ、どっちにしろ今は出来ることを一つ一つやっていくしかない。例え今は掌の上でも、絶対に――)

どこで聞いたのか、駄目で元々という言葉をフィリップは思い出す。
無駄かどうかはやってみて結果が出ない限り分からない。駄目そうに思えても、やってみれば意外な結果が伴うこともある。
そんな泥臭い考え方が、彼はさほど嫌いではなかった。

自分に出来ることは全てやろうと改めて首輪解除の決意を固めたフィリップは、そのまま視線をトレーラーの隅へと移す。
悟られぬよう視線だけで捉えたそこには、未だ微動だにせず相川始が座り込んでいた。

相川始……)

再びその名を脳裏で繰り返す。
五代雄介を利用して病院を襲い、多くの仲間の死に関わった男。
それだけでなく橘朔也の情報によれば、彼……ジョーカーが最後に生き残るアンデッドになったとき、世界が滅ぶとすら言われているらしい。

真偽はどうであれ、生きているだけで世界の存亡に関わると忌み嫌われるその様はまさしく――。

「――悪魔、か」

思わず脳裏に浮かんだ言葉を、噛み締めるようにフィリップは吐き出す。
悪魔。それはかつて、自分が組織に囚われていた時呼ばれた呼び名であった。
今は相棒となった左翔太郎が、メモリを作りその性能を知ろうとする自分に対し吐いた、心からの侮蔑の言葉。

今となればその感情も言葉も、仕方のない表現だと納得出来る。
数多の犠牲者を出し、人々の心と美しい街を腐らせていくガイアメモリを、ただ何の感情もなく生みだしていく。
まさしくそれは悪魔のような所業であるし、幾ら数えても終わりのない罪なのだと、フィリップはその身を以て痛感している。

だから仮に罪を犯したとしても、一生をかけてそれを贖おうとする意識さえあればその罪を赦すべきなのではないか、そう思ってもいる。
だが始にはそれが見られない。自分の罪を認め背負って生きていこうとするような意思を、少なくとも表だって見せようとはしていない。
だから少なくとも今の始を赦すべきではない。そう思う自分は、確かに存在するのだが。

(君は彼の何をそこまで信用できるんだ、葦原涼……)

だからこそ、涼があそこまで一心に始を信用できるということにどうにも理解を示せない。
無論、彼が度重なる裏切りの果てに自棄になっており無意識に死に場所を探している、という見方も出来なくはないだろう。
だがそんなやけっぱちの末だと切り捨てるのは些か乱暴ではないかとフィリップに感じさせるくらいには、彼の瞳は力強いものだった。

(全く、不思議なものだね。理論の欠片もない感情論に、ここまで心を揺さぶられる日が来るとは)

先ほどまでの涼の必死の剣幕を思い出し、フィリップは思わずその姿にとある半人前を重ねていた自分を自覚する。
信じる。そんな非論理的な感情で何度も死にかけた彼が、しかしそれ以上に何度も誰かを救ってきたのを、誰よりも近いところで自分は見ていた。
そんな彼と一蓮托生の運命を共にする内、いつの間にかそうした感情で道理をひっくり返そうとする存在を、フィリップもまた信じるようになっていた。

だから今回も、信じてみても悪くないかもしれないと思う。
仮面ライダーが覆す運命というものを、自分も信じてみたい……そんな小さな我儘も、人間の一部だと思うから。
キィと音を立てて椅子から立ちあがったフィリップは、そのまま始の目の前にまで歩を進める。

怪訝な瞳で見上げる始に対して自分の中に沸き上がる嫌悪感を確かに自覚しながらも、フィリップは彼から視線を逸らすことはしなかった。

相川始。やっぱり僕は君のことを簡単に許すことは出来ない。それはきっと、君が自分の罪を数えるまで、変わらないと思う」

「……そうか」

短い始の返答は、そんな分かり切ったことを言いに来たのかとでも言いたげな気怠げなものだった。
だが一方のフィリップもまた、そんな分かり切った下らない問答をするために先ほどまでの思考を巡らせていたわけではなく。

「だけど……君を信じたいという葦原涼のことは、僕も信じてみたい。だから君に、これを渡そう」

「何を――」

言いながらフィリップが懐から取り出したのは、彼の戦力になり得るラウズカード群……ではなく。
たった一枚、幸せそうな三人の家族が映っている一枚の写真だった。
だがそれを目にした始の手は、ろくな言葉さえ紡ぐことなく、一瞬のうちにそれをフィリップの手から掠め取る。

「……貴様、なぜこれを」

思わず身体が動いたというような様子で写真を――自身が“相川始”になったきっかけともいえる、栗原晋から受け継いだ彼ら家族の写真を――その手の内に収めた始は、しかし油断なくフィリップに鋭い視線を向けていた。
そんな恩知らずともいえるような始の行為を、予想の範囲内だとフィリップはさして不快にも思わなかった。

「それは元々、橘朔也が君に渡そうとしていたものだ。君がジョーカーであるのか相川始であるのか、それを見分けるために使えるかもしれないと」

「橘か……」

その名前を呟いて、始の心は僅かにざわついた。
幾度となく攻撃され、封印されかけたこともある、どちらかといえば敵だった男。
この思い出の写真までを自分が敵か協力できるか利用できる材料の一つだと考えていたと言われ不快には思うが、しかし死んでよかったとまでは言い切ることは始には出来なかった。

だがそこまで考えて、始は今の会話にふと小さな違和感を覚える。

「待て、橘が俺の“時期”を知りたがったのは分かるが、お前の理由はなんだ。なぜ今更これを俺に渡した」

始の鋭い追求にはやはり、微塵も隙が見られなかった。
橘が栗原親子の写真を使って自分を『ただのジョーカーアンデッド』であるのか『人間として生きようとする相川始』であるのか判別しようとしたのは、理解が及ぶ。
剣崎を通した関係であったとはいえ何度も共闘した間柄でもある自分を、ただ封印するだけでは剣崎に忍びないとでも思ったのだろう。

だが、フィリップが今この写真を渡したところで、その狙いは果たせていない。
元より『人間として生きようとする相川始』が自分の意思で殺し合いに乗ろうとしているという状況なのだ、写真を見せたところで判別できる内容など最早ないと言っても過言ではない。
それを交渉の材料に使うでもなくただ渡すだけであるというのは橘の狙いからはやはりずれていると、始は疑問に思わずにはいられなかった。

「……僕が君にそれを渡したのは、大した理由じゃない。家族の写真くらいは自分で持っていたいだろうと、そう思っただけさ」

だが、情に足下を掬われまいとする始の抱いた懐疑心は、フィリップにとっては見当違いも良いところであった。
呆気にとられた始を置いて先ほどまで座っていた机に座りなおした彼は、懐から一本の刷毛を取り出す。
琉兵衛、文音、冴子、若菜、そして来人。

自信の本名と共に姉と両親の名前が刻まれたその刷毛……イービルテイルのことを、フィリップは覚えていない。
消えた記憶の中に存在するのだろう家族の思い出を、一切思い出すことが出来ないのである。
勿論、そうした記憶処理を施したのが他ならぬ自身の家族であることも、フィリップは既に知っている。

だがしかし、そんな薄暗い過去を踏まえてもなお、家族というものに対する彼の感情は人並み外れて強いものだった。
だから殺し合いに乗って誰かを殺め憎むべき敵なのだとしても、せめて守りたかった家族の写真くらいは渡しておきたかった。
それが決して本当の家族ではなく、偽りのもとに成り立つものなのだとしても、その尊さは変わらないはずだと思うから。

「フィリップ……と言ったか。俺もお前に、伝えておきたいことがある」

物思いに耽りながら刷毛をしまい、再び首輪の解析図に向き合おうとしたフィリップのもとに届いたのは、意外なことに始の声だった。
礼さえ期待していなかった彼の意外な申し出に、フィリップは僅かばかり怪訝な表情を向ける。

「お前の相棒……左翔太郎は殺し合いには乗っていない」

「翔太郎に会ったのか!?」

「あぁ、運命を変えて見せると……そう言っていた」

それまでの静けさはどこへやら、唐突に飛び出した相棒の名に驚きを隠せないフィリップ。
こと今に至るまでそのスタンスから行動までの一切を知ることのできなかった唯一無二の存在は、やはり殺し合いに乗っていなかった。
当然そうに違いないという確信こそあったものの、亜樹子さえ殺し合いに乗った現状において、あの左翔太郎と言えど万が一が存在するのではと不安に感じる自分がいたのも確かなこと。

だがそんな中でも信じ続けたその思いがようやく裏付けられたという事実は、しかし彼が思っていた以上の心強さを与えていた。

「フィリップ、お前は本当に信じているのか?奴が運命を変えられると」

「勿論さ。どんな逆境でも諦めず立ち上がる……それが左翔太郎という男だからね」

始の問いに迷う様子も見せず、フィリップは即答する。
彼もまた仮面ライダーが運命を覆す事を信じ疑っていない。
そんな純真な瞳を前にして、始はまた自分の胸の内が痛むのを感じた。

(とはいえ次に会ったときは、戦わなければならないがな……)

翔太郎へのフィリップの信頼を目の当たりにした始にはしかし、やはりというべきか決して彼に関して自分が知る全てを教える気はなかった。
彼が共に行動していた木場勇治を殺したのは自分だということ、それを隠し無力な人間として彼と行動を共にしていたこと、結果的にそうならなかっただけで彼を利用することも考えていたこと。
そして最後に……それらの真実を知ったらしい今の彼と自分は、次に会えば戦わなければならないということ。

(ジョーカーは同じ世界に二人もいらない、戦うしかない……か。皮肉なものだな、こんなところまでバトルファイトと同じか)

名前が同じだけのはずだった異世界の“ジョーカー”が、いつしか自分たちの世界でのそれと同じような役割になりつつあることを、始は自嘲気味に笑う。
バトルファイトにおけるジョーカーは、勝ち残れば世界を終わらせるまさしくワイルドカード。
そんな札はバトルファイトに二枚も必要ない。もしそれが存在するのなら、どちらか一枚だけが残るまで戦うしかない。

自分の行いが招いた結末とはいえ、世界が滅ぼうという瞬間にまでその名に縛られるというのは、皮肉としか言いようがなかった。

(もし仮にこの場でもどちらかしかジョーカーが生き残れないというのなら、俺は――)

死神として持ち主を死に至らしめる最悪のカードたるジョーカー、相川始
そして運命を覆し持ち主を勝利に導く最強のワイルドカードたるジョーカー、左翔太郎。
ジョーカーというカードが持つ二面性をそれぞれが担っているというなら、その戦いの結末にこそ自分が望む運命の行く末があるのではないかと、始は思う。

無論ただで負ける気こそないが、もし負けるのだとすれば、その時は――。
だが瞬間、その思考を断ち切るように不意に始の全身に電撃が走るような錯覚が生じた。
全身の毛がぞわりと逆立つような、生温くもあり背筋が凍るようでもある不思議な感覚。

どうしようもない不快感と共に伝わるのは、これを生みだす相手を殺さなければならないという半ば使命感にも似た衝動だった。

相川始!?どうしたんだ!」

瞳孔を開き勢いよく立ち上がった始に対し、フィリップの困惑を秘めた怒声が飛ぶ。
しかしそちらに意識を向けずただひたすらに殺意を漲らせ続ける始は、やがてトレーラーの進行方向とは真逆の方向を睨みつける。
“何か”が、その方向にいる。何かは分からないが、逃がしてはおけない“何か”がその方向にいることだけは、確信を持つことが出来た。

――CHANGE

直線距離など意味がないとさえ思えるほどに刺さるような殺意を受けながら、始はバックルにハートのAのカードを通す。
泡立つようなエネルギーと共にカリスへと変身した彼は、そのまま本能に身を任せトレーラーを飛び出そうとする
ただひたすらに、その視線の先に待っているだろうこの“敵”を倒さなければならないと走り出そうとして。

「―――――僕なら、ここにいるよ」

唐突に巨大な気配が背後に移動すると同時、耳元に響いた聞き覚えのない声にそれ以上の行動を止められた
突然出現した暴力的なまでの存在感に対し、カリスはカリスアローを出現させ振り向きざま切りかかる。
最強のアンデッドとさえ呼ばれたカリスの怪力で以て放たれたその一撃は、しかし生身のままの背後の存在の、ただその腕一本で受け止められていた。

「―――――あはは、気が早いなぁ」

焦った様子もなく、力を込めた様子もなく。
ただ何事もなくそこに立っているだけの白服の青年は、笑っていた。
張り付いた能面の様な気味の悪い笑顔。何者なのだと疑問を抱くより早く、ようやく状況に理解の追いついたフィリップの困惑と驚愕を含んだ声が飛んでいた。

「ダグバ!?」

「ダグバ……こいつが?」

フィリップの叫んだその名前に、始は聞き覚えがあった。
剣崎のブレイバックルを使い、その力を人殺しにだけ利用したという邪悪。
橘がその身を犠牲に倒したとされていたその存在が、なぜ生きて今ここにいるのかという素朴な疑問は、それを押し流すように脳内に迸る闘争本能に打ち消された。

一瞬にして後方へ跳びダグバとの距離を引き剥がしたカリスは、そのままバックルをカリスアローへ装填し、流れるような動きでカードをラウズする。

――TORNADO

響く電子音声と共にカリスアローへと風が集っていく。
弦を引くような動作と共に高まり切ったエネルギーを、カリスは男に向けて射る。
だが、相当量の威力を込められた風の一矢に対し、ダグバはただその掌を伸ばすのみだった。

「何……!?」

カリスでさえ驚愕を禁じ得ない悠長な動作。
だが既に放たれた矢はカリスの動揺など知ることもなく、ダグバに一直線に向かっていき何ら特別の抵抗もなくその身を一直線に貫いた。
ダグバの掌の中心とその先にある彼の右肩、そしてその背後にあったトレーラーの強化壁までも、的確に貫通したのである。

開け放たれた穴より飛び込む暴力的なまでの外気の中、見た目にはあまりに痛々しい裂傷から鮮血が弾け飛ぶ。
しかしその中でダグバが口にしたのは、決して痛みに悶える悲鳴ではなかった。

「―――――ふふふ。やっぱり、痛いね」

先ほどまでと何も変わらない、張り付いたような気味の悪い笑顔だった。
あまりに人間離れした反応に、カリスでさえ戦慄を覚える。
だがそれ以上に彼の目を引いたのは、ダグバの纏う白衣を着々と染めていくその血の色にあった。

そう、ダグバの身体からたった今流れゆくそれは、人の身を流れる赤い血ではなく不死者たるアンデッドの証明、始と同じ緑の血。

「その血……まさか貴様……!」

「―――――うん、そういうことみたいだね」

カリスの仮面の下で目を見開いた始に対し、ダグバはただ何も変わらず笑うのみ。
既に塞がりつつある自身の掌の穴をちらりと見やったその目には、やはり絶望は浮かんでいない。
ただ愉悦だけを求める深淵の様な深い黒が、どこまでも広がっていた。

全身を脂汗がじっとりと滴るような嫌な感覚に支配されたカリスは、それを打ち払うようにカリスアローを構え直し再びダグバに切りかかる。
だが瞬間、それよりも早く身体を襲った凄まじい横殴りのGに、思わずその膝をついた。

「フィリップ!何があった!敵か!?」

運転席より飛んだのは、動揺と憂慮を含んだ涼の怒声だ。
先ほどGトレーラーの壁部分をホークトルネードが破壊したことで異変に気付き、敵襲を感知して急ブレーキを踏んだのだ。
助手席に座っていた村上も無言ではあるものの何らのベルトを装着している様子であり、このままでは乱闘になることは最早自明の理だった。

「―――――ちょっと、場所を移そうか」

だが涼や村上が後部トレーラーの状況を詳しく把握するより早く、カリスの胸倉をつかんだダグバは一瞬にしてトレーラーの上部を破壊し道路へと飛び出していた。
あまりの早業にカリスでさえ僅かな抵抗さえ出来ず成すがまま吹き飛ばされる中、ダグバは再び何事もなかったかのようにただそこに着地し直立する。

「―――――じゃあ、そろそろ始めるよ」

前座はこのくらいで十分だろうとでも言う様に短く告げたダグバは、その身を一瞬にして変化させる。
細身の優男風だった先ほどまでの風貌を一切匂わせないその姿は最早、彼本来のグロンギ態とも大きく異なっていた。

透き通るような白の身体は以前よりも増してより強固に、より美しく。
グロンギの王たるその地位を示すのみだった金色の装飾は、今やその全身の殆どを覆い尽くし。
そして究極の闇の名に相応しい黒に染まり切っていたその瞳は、彼の身体を流れる血と同じく人ならざる異形の緑を宿していた。

本来得るはずのなかった自身のベルトの欠片の余剰分に加え、ジョーカーの不死性さえ得た今の彼は、最早究極を超えている。
本来の歴史に存在しなかった“沈みゆく究極(セッティングアルティメット)”さえ超えたその姿に、最早正式な名称など存在しない。
だからこそ、安直と言われようとこう呼ぶしかあるまい。

“沈みゆく究極さえ超えた究極の領域(スーパーセッティングアルティメット)”と。
自身の新たな姿に愉悦を覚える様子もなくカリスを見つめるダグバの緑の瞳には、ただ戦いへの喜びだけが映っていた。



140:夢に踊れ(後編) 時系列順 141:愚直(後編)
投下順
131:飛び込んでく嵐の中(4) 村上峡児
フィリップ
相川始
葦原涼
ン・ダグバ・ゼバ
134:第三回放送 ラ・バルバ・デ


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2019年07月14日 16:24