Chain of Destiny♮師弟対決再び


正面入り口の自動ドアが開き、来訪者の存在を知らせる。
気の利いた電子音が鳴り響くようなことはなかったが、それでも名護には今来たのが誰なのか既に分かっていた。
周囲を警戒しながら病院へ足を踏み入れた青年に、名護は見覚えがない。

だが、いやだからこそきっと彼こそが“そう”なのだと名護は確信して、立ち止まった青年に向け一つ声をかけた。

「渡君」

発せられた声は、努めて平静を装ったもの。
総司を呼ぶときと同じような声音を心がけたつもりのそれに、しかし青年――渡は眉を顰める。
自分が記憶を取り戻したように思えて驚愕しているのだろうか。

いや違うと、名護には既に分かっていた。

「やめて下さい名護さん、今の貴方に僕の記憶はないはずです」

「……見透かされていたか」

苦笑と共に俯いた名護の瞳には、しかしどこか喜色も浮かんでいる。
きっと、渡は今の自分の一声だけで、目の前の“名護啓介”が以前までのそれと何かが根本的に違うと気付いたのだろう。
声音なのか、呼び方なのか、或いはそこに込める思いなのか。

きっと、所詮は演技に過ぎない今の自分と本心から彼を弟子と思っていた名護啓介の差は、彼からすれば一目瞭然だったに違いない。
だがそれでも、裏を返せばそんな注視しなければ気付けないような些細な差を一瞬で気付ける程度には、彼もまた自分を好ましく思っていてくれたということなのだろう。
それが、彼を最高の弟子と紹介していた自分の言葉は決して独りよがりではなかったのだと思えてどことなくくすぐったく思えた。

だがそんな感慨に耽って、沈黙に暮れている時間は無い。
一つ息を吸い込んで、名護は渡へと向き直った。

「君の言う通りだ。仲間から君の話を聞き、自分の記憶がなくなっていると知りはしたが……情けない話だ。君とこうして相見えてもなお、今の俺には君のことを何一つ思い出すことが出来ない」

「当然でしょう。他でもないこの僕が、貴方の記憶を消したんですから」

渡の言葉に、名護は珍しく打つ手なしという具合で自信なさげに俯いた。
一方で、こんな正直に弱い感情を吐露する名護はこの1年間の交流の中で初めて見た、と渡は目を丸くする。
きっとそれは、この1年で彼が大きく成長したお陰で、こうも気楽に弱音を吐けるほど強く余裕を持てるようになった為なのだろう。

出会う時期が違えば、こんな彼を見ることもあったのだろうか。
そんな抱くべきでなかった思考が浮かぶ渡の一方で、当の名護は渡の視線を気にする様子もなく続けた。

「だがそれでもやはり……俺には君を、単なる敵と見ることは出来ないらしい」

顔を上げた名護の瞳には、しかし先ほどまでの不安はない。
それはまさしく、平素と同じ揺るぎない正義と覇気を取り戻し、確信に満ちた彼の顔であった。

「これが記憶を失う前の俺が抱いていた思いの残滓なのか、それとも今の俺の自己満足なのか、それは分からないが……どちらにしても俺は、君と拳ではなく言葉を交したいと思っている」

自分の拳で自分の掌を叩くジェスチャーを交えながら、名護は渡を見つめる。
全てを知る渡からすれば、それは最終的に拳で語り合うことになってしまった以前の自分を恥じているようにも思えたが、当然ながらこの名護がそれを知るよしもない。
両者の中に存在する微妙な記憶の差異によって生まれた渡の僅かな隙に、名護はすかさず言葉を続ける。

「だから聞かせてくれないか、渡くん。君がこれまで何をしてきたのか、何故俺の記憶を消さなければならなかったのか、そして……これから君は、どうするつもりなのか」

真っ直ぐに自身の瞳を見つめて問うた名護に対して、渡は暫し沈黙する。
自分の懸念通り病院に名護がいたのはともかくとして、彼はまた自分を説得するつもりらしい。
自分のような重荷に囚われなくて済むように記憶を消したはずなのに、これではまた以前の焼き直しになるだけだ。

だが、だからといってここで名護の言葉に一切揺り動かされず彼と戦う道を選べるかと問われれば、それもまた難しい問いである。
自分に関する記憶をなくしたからといって、名護が自分の守りたい存在の一人であることに変わりはない。
ここで使命の邪魔だからと彼を殺し、元の世界で待つ恵に辛い思いをさせるのは、自身の願いを自分で否定することに他ならなかった。

なればやはり、今度こそ名護自身の意思で自分を救うことを諦めさせる他ない、と渡は結論づける。
名護が記憶を失って尚まだ自分を救い上げようと言うなら、渡も今度こそ彼に自分を諦めさせるしかない。
少なくとも以前の記憶がある自分と、“紅渡”に関する記憶全てを失っている今の名護であれば、敗北を認めた前回と異なる結果になる可能性も有り得る。

暫しの逡巡の後、十分に勝算を認めた渡は、今度は自分から真っ直ぐに名護を見据えた。

「……いいでしょう。貴方にはやはり、話しておく必要がある。僕の罪と、そして何故僕が貴方の記憶を消したのか、その理由を」

それから渡は、少しずつ語り出した。
以前名護に話したのと同じく、加賀美という男を誤って殺してしまったことや、ファンガイアのキングを倒しその称号を継いだこと。
そしてキバットと離別したことや、ディケイドを倒す為に協力関係を結んで病院を襲ったこと、それによって多くの仮面ライダーが犠牲になっただろうこと。

全てが全て以前と同じ語り口ではなかったが、しかしそれを聞く名護の表情は以前と同じ真面目なものだった。
例え相手の記憶が一切なかったとしても、救いたいと思った相手の言葉には真摯に耳を傾けるのが、名護という男なのである。
少なくとも、それだけ真面目に聞いてくれる相手を前にして、渡が中途半端に話すことは許されなかった。

「それから僕は、この場で初めて貴方と出会い……そして、貴方の記憶を消しました」

「それは……俺が君に頼んだのか?」

さらりと流された二人にとって最も大きいはずの事象に、名護が問いを投げる。
或いはと考えたそれにしかし、渡はすぐさま首を横に振った。

「いいえ、貴方の僕に関する記憶は、僕が自分の意思で消しました。貴方が僕の罪を、背負わなくて済むように」

「……正直だな、君は」

苦笑した名護の瞳には、しかし当然だとでも言うような確信が宿っていた。
幾ら渡が罪を重ねたとして、自分がそんな弟子を見捨てて記憶を消せと懇願するはずがない。
もしそんな見苦しい真似を頼むくらいなら、きっと自分は弟子に腹を刺されるまで説得を続ける道を選ぶはずだろうから。

半ば有り得ないと考えていた可能性ではあったが、しかし悩むことなくそれを肯定する渡の姿は、やはりどこか憎めないものであった。
本来であれば心優しい最高の弟子であったのだろうと何度目とも知れぬ感慨を抱きながら、しかし名護はその瞳を鋭く光らせて渡を見やる。

「渡君、俺は例えどんな罪を犯したとしても、その生涯をかけて償う覚悟があれば許されるべきだと思っている。だが君がそれを拒み俺の記憶を消したと言うことは――」

「――えぇ、その通りです名護さん。僕の罪はこれまでだけじゃない、これからもずっと重なっていくものだから……貴方に、それを背負わせることは出来ませんでした」

確認のように告げた名護の言葉に、渡は再び即座に肯定を返す。
嘘偽りのないその返答を見て、しかし名護はやはりかと心中で呟いた。
予想していた通り、今も彼はまだ殺し合いに乗っているらしい。

殺し合いにより得られる世界の安寧など大ショッカーの出任せかも知れないのに、今の彼はそれにすら縋らずにはいられないのだ。
きっと、以前の自分も同じように彼にそれは間違っていると熱弁し、仲間になれと呼びかけたに違いない。
だがその言葉に対し、彼は世界が滅びる可能性をしかし捨てきれなかったのだろう。

一方で自分を殺す訳にもいかず、その折衷案として苦肉の策で彼は自分から記憶を消したのだ。
例え自分がどれだけの罪を被ろうと、紅渡についての記憶がそもそも無ければその境遇に悲しむことも出来なくなるだろうと考えたのかも知れない。
或いは、そうすればきっと自分はもう彼の罪を背負うなどと言わなくなるに違いないと、そう考えたのかも知れなかった。

(紅渡くん、君は何と悲しくなるほどに優しい青年なんだ……)

そんな渡のどこまでも辛い決断を案じて、名護の胸は強く締め付けられるように痛んだ。
世界を守る為にと自分を強く奮い立たせなければならなかった青年、紅渡。
差し伸べられた手を無慈悲に切り落とすことも出来ず、愛する全てを救おうとした結果自分が一番辛くなる選択肢を選ばなければならなかったのだろう。

そんな切なすぎる優しさに胸を打たれながら、名護はやはり自分は間違っていなかったのだと深く理解した。
これほど思いやりに満ちた素晴らしい青年を、記憶が消えた程度で誰が見捨てられようか。
そんな残酷なことなど、許されていいはずがない。

例え何度記憶を消されようと、燃え続けるこの胸の正義がある限り自分は紅渡を諦めることはないだろう。
それが、この会話の果てで名護が導き出した自分なりの答えだった。
一方で話すべき内容は終えたとばかりに一息をついた渡は、自分の答えを告げる為に再び口を開く。

「……分かったでしょう名護さん。僕はあまりにも多くの罪を重ねました。数多の仮面ライダーを犠牲にし、貴方の記憶だって消した。そんな僕に今更戻る道なんて――」

「――何を言い出すのかと思えば、そんなことか」

だが、これまでの罪を踏まえ、仮面ライダーらとの隔絶を強く意識して言葉を放った渡に返ってきたのは、しかし笑みすら携えた名護のあっさりとした返答だった。
記憶がない今度こそ名護は自分を諦めるだろうと考えていた渡にとって、その迷いのなさは余りにも意外なもので、彼は思わず言葉を失ってしまう。

「確かに君が犠牲にしてしまった人々への償いは続けなければならないだろう。だが、少なくとも俺の記憶に関してはそう思い詰める事でもない。俺はまだ、こうして生きているのだから」

「生きて……?」

なまじ渡との記憶が失われているからか、自分の想定する返しと全く違う返答を続ける名護に、彼は困惑を隠し切れない。
だがそれを優しい頷きで肯定して、名護は続ける。

「そうだ、例え記憶が消されたとしても、罪を重ねたとしても、君も俺もこうして生きている。なら、また一から作っていけば良い。以前と同じ……いや以前よりもずっと素晴らしい俺達の思い出を」

それはあまりにも名護らしい言葉だった。
理想論染みているようであり、しかし同時にそれが可能なのではないかと思わせる説得力も、言葉に滲み出ている。
だが、そんな素晴らしい師の言葉であったとしても……いやだからこそ。

今の渡にとってそれは、決して受け取れるはずがないあまりにも眩しい誘いだった。

「そんなこと、出来るわけ……」

「出来るさ。俺が名護啓介で、君が紅渡であるという、その事実がある限り」

咄嗟に出た自身の拒絶に対する名護の曲がらぬ意思の表明を受けて、変わらないなと渡は苦笑する。
もう自分に囚われなくていいように記憶を消したのに、名護は今なお自分の為に尽くそうとしている。
自分の罪なんて背負わず仮面ライダーとしてだけ戦ってほしかったのに、また必要のない厄介ごとを抱え込もうとしている。

そして同時に、キングであるという自負、責任があったあの時と違い、従者から直接それを否定された今となっては、名護の手を取り紅渡に戻るというのは、限りなく魅力的な提案ですらあった。
自分の罪を名護と共に償い、大ショッカーや世界の崩壊など、全ての責任は他の誰かに任せてしまう。
そんな風に生きられたらどれだけいいだろうと夢想して……しかしそれでは駄目だと渡は首を振った。

自分のような裏切り者が、彼らの中にいていいはずがない。
もし世界崩壊が本当だった時、背後から名護のかけがえない仲間を刺しかねない自分が、許されていいはずがないのだ。
そしてそんな悲しみを、名護が背負う必要もない。

なれば自分に残されたのは、やはり紅渡でもキングでもなくなった孤独な愚者として、一人罪を重ね続ける道でしかなかった。
故にこそ、名護をまた自分は拒まなければならない。
そうだ、“彼”の名を出そう。きっと今の名護にとっては、“彼”の存在はかつての紅渡と同じほどに大きいものになっているはずだから。

自分の発しようとしている言葉と、それが意味する師への二度目の裏切りに、僅かばかり唇が震える。
だがそれでもこれが自分の進むべき道なのだと、渡は必死にその戸惑いを自分の中に押し込んだ。

「いいえ名護さん、ならやはり僕は貴方とは歩めません。僕はもう紅渡じゃないし……それに、僕は貴方の最も大事な人の事も、既に殺している」

「なに……?」

名護の顔が、嫌な予感に染まっていく。
これを口にすれば、もう彼も手を差し伸べようとはしないだろう。
だが、それでいい。薄汚い嘘つきとして生きていく覚悟は、既に出来ているのだから。

「えぇ、そのまさかです。僕は天道総司を名乗るあの青年と出会い……そして殺しました」

冷たく告げた渡の声が、その場を沈黙へと包み込んでいく。
それまで熱心に言葉を紡いでいた名護の顔から、それを境にするように血の気が一気に引いていくのが、遠目でもはっきりと視認できた。
どうやらやはり、あの青年の存在は彼にとってかなりの支えになっていたらしい。

それこそ丁度、以前の“紅渡”と同じ、最高の弟子だったのだろう。
そんな存在の名をただ自分の為に使うことにどこか胸が締め付けられる苦しさを覚えるが、しかしそんな甘さに囚われている暇はない。
例えこれから先どんな仕打ちを受けようとも、自分は言わなければならないのだ。

世界を守る為、そして名護に不必要な罪を背負わせない為に。

「念のために言っておきますが、勿論“本人”の方ではなく、もう一人の方です。彼は言っていました、貴方の分まで自分が僕を“紅渡”に戻すのだと。しかし、貴方と違って彼には僕が見逃す理由もない。だから――」

「――そこまでだ、紅渡」

渡の言葉を中断させたのは、しかし名護の声ではなかった。
聞き覚えのある、しかし聞きたくはなかったその声の主を、渡は知っている。
刹那、ほぼ反射的に振り返った渡の目が映したのは、以前病院で取り逃がした世界の破壊者とも悪魔とも呼ばれるディケイド、門矢士その人であった。

「ディケイド……」

その姿を捉えた瞬間に、渡は胸中から湧き出る複雑な感情を自覚する。
今までの話を盗み聞きしていた、という行為自体に苛立ちを覚えるのは確かだが、それ以上に彼の存在をどうするべきか、渡の中でもまだしっかりと定まっては居なかったからだ。
キングとして彼を打ち倒すのか、紅渡として彼の善性を信じるのか。

――『もし、本当に士が破壊者だったなら、その時は俺があいつを破壊する』

かつて地の石の支配を抜け出したクウガが、自分を真っ直ぐに見据えて言った言葉を思い出す。
ディケイドと共に旅を続けてきた仲間であるはずなのに、彼は自分の為に悪魔を破壊する役割を請け負って見せると言い切った。
もし本当に懸念の通りにディケイドが諸悪の根源であるなら、それを倒す義務は自分に在るのだから、渡は彼の善性を信じていいのだと。

信じたいと思った自分の心そのままに生きてみればいいのだと、彼は笑って見せた。
その優しさを不意に思い出してしまって、渡は不意に言葉を失ってしまう。
一刻も早くディケイドを破壊しなければ全ての世界が滅びる。

他ならぬ自分が広めてきたその言葉の真偽が定まらないことに、何より苦悩を抱きながら。

「待ってくれ士君、俺と渡君の話はまだ……!」

「いや啓介、後は俺に任せてくれ。俺も、こいつと少し話がしてみたい」

そして渡以上に士の登場に動揺していたのは、名護だった。
総司を殺していたという言葉には確かに驚いたが、しかしまだ彼を倒すべきと判断を下すのは早急ではないのか。
そう訴えかけようとする彼に対して、士はただ小さく手でその勢いを制した。

“話”。
文字通りの意味のようでもあり、彼がこのタイミングで言うと隠語のようでもある。
どちらにせよ渡が目の敵にしているはずの士がここで現れるのは、些か不安が残る展開だった。

「渡、少し場所を移すぞ。ここじゃお互いやりづらいだろ」

そして士はそのまま、渡に病院内からの移動を提案する。
言外に、名護は抜きで、という意味が感じられるそれを受けて、名護は事態の結末を案じ僅かばかりその眉を顰めた。
だが、逆に言ってしまえばそれだけで、士を必死に止めることはしない。

この数時間の交流で、名護の中にもディケイドの話の真偽がどうであれ士を信じたいという思いが芽生えていたのである。
きっと、彼ならば任せても悪いようにはならない。
そんな確信めいた直感が、名護にそれ以上の口出しを妨げさせていた。

「……えぇ、分かりました」

暫しの思考の末、渡は士の提案に従うことにした。
彼が本当に対話を望んでいるのか戦いを望んでいるのかは分からないが、しかしどちらにせよ自分の答えを導くのにも或いは役立つかも知れない。
そんな僅かな希望を抱いて、渡も彼の後に続いてエントランスを去って行くのだった。







――彼らは、知らなかった。
こうして長々と話をしている間に、北方向から病院へ向け、凄まじい勢いで突き進む一つの影があったことを。
キバーラも、サガークも今まで索敵していたはずの存在が全て彼らのデイパックへと収まり、そして話し合いだけであるのに緊迫した空間を生み出していた為。

故にこそ、それは訪れる。
士と渡が不在となり、一人彼らの帰りを待っていた名護だけが残る、その最悪の瞬間に。
迷える青年の運命を決める試練は今、すぐそこにまで迫っていた。






「……ここらへんでいいだろ」

D-1エリアの市街地の一角で、士はふと足を止める。
追随して彼の後を歩いていた渡も同様に歩みを止めれば、士は緩く振り返った。
見渡せば周囲は開けた地形となっており、戦いに支障は及ばないようになっている。

人に話が聞かれないだけの距離にしては遠すぎる移動距離に、渡は先ほどの言葉が名護に対する方便に過ぎなかったのだと理解する。
分かっては居たはずなのに淡い期待を抱いていた自分を自覚しながら、渡はデイパックからゼロノスのベルトを取り出す。
だが、そんな彼に待ったを掛けるのは、他ならぬ士だった。

「待て、始める前に聞いておきたい。お前、本当に総司を殺したのか?」

「え……?」

虚を突くような質問に、渡は思わず言葉を詰まらせる。
まさか、嘘だと見抜かれたというのか。
そんなはずはないと自分に言い聞かせながら、渡は何とか言葉を吐き出した。

「……勿論です、さっきも言いましたが、僕に彼を見逃す理由はありませんから」

「それで啓介が悲しむとしてもか?」

続けざま投げられた問いは、渡の胸に突き刺さる。
だが、元々彼を突き放す為についた嘘なのだ。
ここで折れる訳には、いかなかった。

「えぇ、世界を守るにはそうするしか方法がない。その為に名護さんが苦しむとしても……それは仕方の無いことです」

「……成る程な」

渡の絞り出すような言葉を受けて、士は思案するように僅かに俯く。
その瞳に映る渡の姿は、敵としてなのか或いは違う形なのか。
僅かに続いた沈黙の後、士は考えても埒が明かないとばかりに懐からディケイドライバーを取り出した。

どうやらやはり、自分と戦う気らしい。
もう話し合いは終わりだということか。
それも当然だろうと思う一方で、渡はどこか心の芯が冷たく凍えていくのを感じていた。

「どうした、俺を破壊したいんじゃなかったのか?」

「……そうですね、僕にそれ以外の道は残されていません」

士の挑発を受けて、渡は甘い自分を振り切るようにゼロノスのベルトを腰に巻き付ける。
そのまま渡は緑のカードを、士はディケイドのカードを構え、いよいよ因縁の第二幕が幕を開けようという、しかしその瞬間。






――病院の方向から、突如として爆発音が響いた。

「な……ッ!?」

二人は同時に、その爆音の方へと向き直る。
見れば、病院の一階部分から爆発により生じた黒煙が止めどなく空へと吐き出されている。
最もあくまでダメージを負ったのが一階部分だけである点から見るに以前の渡がしたような大規模な奇襲ではないようだが、それでも何かがそこで暴れたというのは一目瞭然だった。

そして同時、渡の胸に最悪の可能性が過ぎる。
何かが暴れたというのなら、その相手は十中八九間違いなく、彼ではないかと。

「名護さん……!」

一人だけそこに残された師の名前を呼び、士の事さえ捨て置いて渡は駆け出す。
何が起きているのかは分からないが、それでも彼の安否だけが今の渡にとっては最も重要なことだった。
そして渡から遅れること数秒、士もまた病院へと駆け出す。

戦いの中で渡の真意を見定めようと思っていたのだが、しかしそれは叶わないらしい。
だがもし本当に名護が信じたように彼の中にまだ正義が眠っているというのなら。
向かった先にある混沌が彼の迷いを断ち切ってくれるのかも知れないと、士は思った。




ライジングイクサの身体が、切りつけられ火花を散らす。
呻きながらも反撃を試みるが、しかしイクサカリバーは敵の身体に傷を付けることすら叶わない。
すぐさま得物を切り落とされ、無手になったイクサの身体を敵が持つ巨大な大剣が一合二合と連続して切り刻む。

苦悶と共に数歩退いて、なればと新たに手に取ったイクサライザーを乱射するが、しかしそれも敵の生じさせたエネルギーの障壁に阻まれ届くことはない。
見覚えのあるその盾にイクサは目を見開くが、しかしそこから先それによって更なる反撃の糸口を手繰り寄せることは出来なかった。
雄叫びと共に突貫してきた敵の強力な体当たりが、イクサを大きく吹き飛ばしその変身を解除させたのだから。

「名護さん!」

受けたダメージ故、地に這いつくばり敵を睨むことしか出来ない名護の元へ、駆け寄る声が一つ。
どうやら渡たちが騒ぎを聞きつけて戻ってきてくれたらしいと、名護は安堵する。
そのまま抱き起こすようにして名護を起き上がらせた渡は、それから彼をこうまで追い詰めた敵を見やり、そして同時に驚愕した。

目の前にいるその怪人が持つ剣と盾、そしてその身体に刻まれた幾つかの意匠に、彼は見覚えがあったのだから。

「キング……!?」

それは、かつて自身の相棒を屠った憎むべき宿敵の剣と盾、そして金色の甲殻だ。
だがキングとは似て非なる今のその姿に困惑を抱いた渡の元へ、遅れて駆けつける足音が一つ。
そうして現れたマゼンタカラーのインナーにジャケットを羽織った男の登場にいち早く反応したのは、意外にも怪人だった。

「お兄ちゃん」

「……ネオ生命体か」

異形の存在に兄と呼ばれたことを一切気にする様子もなく、士はその存在の正体を見破る。
ネオ生命体、かつてスーパーショッカーが蘇らせた最強最悪の怪人。
9つの世界の仮面ライダーやダブルと協力して打ち倒したはずだが、やはり彼も蘇らせられたらしい。

面倒なことをしてくれると舌打ちを吐いて、士はそれから今の彼が持つ得物の存在に気付いた。

「その剣と盾……成る程な、大体わかった。今度はドーパントじゃなくキングを吸収したって訳だ」

「うん、そうだよ。この身体凄いんだ、前のと比べものにならないくらい頑丈で強いんだよ。今ならきっと、お兄ちゃんだって簡単に殺せる」

「そうか、それなら……試してみろ」

その低い声音に似合わぬ可愛らしい口調で話すネオ生命体、否アルティメットUDを前に、士はディケイドライバーを腰に当て付ける。
それによってドライバーからベルトが排出され彼の腰に巻き付くと同時、彼はライドブッカーからカードを抜き出して目前へと掲げ、誇示するようにそれを勢いよく翻した。


151:Chain of Destiny♮彷徨える心 投下順 151:Chain of Destiny♮父の鉄拳
時系列順
擬態天道
紅渡
名護啓介
門矢士
ネオ生命体


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最終更新:2020年01月24日 15:49