Chain of Destiny♮父の鉄拳


「変身!」

――KAMEN RIDE……DECADE!

彼がカードをドライバーへ叩き込めば、流れる電子音がその名を叫ぶ。
幾つかの虚像がオーバーラップして士の身体に重なると同時、ドライバーから吐き出されたカードが顔面へと突き刺さる。
それによって身体全体が色を取り戻せば、それによって彼の仮面ライダーディケイドへの変身は完了していた。

「はあああぁぁぁ!」

ライドブッカーをソードモードへと変形させ、ディケイドはアルティメットUDへと向けて駆け出す。
その勢いのまま掛け声を上げて彼は剣を振るうが、しかし敵の持つ破壊剣に拒まれ届かない。
どころか返す刀が彼の身から火花を散らし、競り合おうとしたディケイドを容易く引き剥がす。

吹き飛ばされ地を転がったディケイドは、しかしすぐさま立ち上がり対策を講じつつ敵の実力を見極めた。
成る程、ネオ生命体が自惚れるだけの事はある。
恐らく単純な力だけで言えば、今の彼はあの電撃を纏ったガドルをも凌いでいると言って過言ではない。

これまで戦ってきた中でも間違いなく最強の一角である敵を前に、だからといって諦めるわけにはいかないと、ディケイドはライドブッカーから新たなカードを抜き出していた。

――FORM RIDE……DEN-O AXE!

電子音を受けて、ディケイドの身体にオーラアーマーが装着される。
それによって換装された姿はまさしく『電王の世界』で時の運行を守る仮面ライダー、電王のもの。
ベルト以外は別物とすら言えるその変身を完了した彼は慣らすように肩を回して、そのままもう一枚カードをドライバーへ投げ込んだ。

――ATTACK RIDE……TSUPPARI!

迫り来るアルティメットUDへ向けて、ディケイド電王が目にも止まらぬ速さで掌底を放つ。
単純な力だけで言えば今の自身が持つカードの中で最強とも言えるアックスフォームの攻撃をこれだけ連打すれば、或いは。
そんな考えでの攻撃だったが、しかしそれらは全てアルティメットUDには届かない。

文字通り彼の目の前に生まれたソリッドシールドが、ディケイドの攻撃を全て阻んで通さないのだ。

「フンッ!」

つまらないとばかりに一閃されたオールオーバーが、ディケイド電王を薙ぎ払う。
火花を散らし悲鳴を上げて彼の巨体が吹き飛ばされるが、しかしそれでめげはしない。
彼の次なる攻撃の手は、もう切られていたのだから。

――KAMEN RIDE……KABUTO!

――ATTACK RIDE……CLOCK UP!

先刻総司から受け継いだ、新たな力。
ディケイドカブトへと変身した彼は、クロックアップのカードを切って高速空間へと飛び込む。
力で敵わないなら、速さで勝負だ。

しかし目の前でかき消えたディケイドを追うようにして、アルティメットUDもまた凄まじい速度でその高速戦闘に応じる。
かつてディケイドやダブルと戦った時に見せたような、目にも止まらぬ連撃。
それがキングを吸収したことで以前より素早くなったというのなら、それはクロックアップの領域にも至ろうというもの。

信じがたいその光景に目を見開いたディケイドカブトに体当たりをかまして、アルティメットUDは勝ち誇ったように鼻を鳴らす。
だが勝利宣言にはまだ早いと、ディケイドは息つく間もなくカードをドライバーへ叩き込んだ。

――KAMEN RIDE……RYUKI!

三度変わったその身体が、赤い龍の力を纏う仮面ライダー、龍騎のものへと変身する。
そろそろ策も尽きてきたかと痺れを切らしたアルティメットUDが高速でディケイドへと迫る一方で、彼はもう既にカードの装填を完了していた。

――ATTACK RIDE……ADVENT!

召喚を意味する電子音声に乗せて、鏡の中から巨大な影が吐き出される。
ドラグレッダーと呼ばれるその召喚獣は、当然ながら龍騎の力を受け継いだディケイドにも使役が可能だ。
その巨体を前に思わず怯んだアルティメットUDに刃と化した尻尾をぶつければ、これには流石の彼もその俊足を止めて応じざるを得ないようだった。

――FINAL ATTACK RIDE……RYU・RYU・RYU・RYUKI!

次いでディケイドライバーが必殺の一撃を奏でれば、ドラグレッダーはアルティメットUDを弾き飛ばし主の元へ舞い戻る。
そのままディケイドの周りを数度旋回して、彼らは同時に宙へ向けて飛び上がった。

「ハアアアァァァ……!」

気合いを込め、ディケイド龍騎が空を舞う。
勢いをつけるためか数度空中で回転して、彼はその右足を真っ直ぐ敵へ向けて伸ばした。

「タアアアアァァァァァ!!!」

それを合図と受け取ったか、ドラグレッダーが龍騎へ向けて火炎弾を吐き出す。
単純な跳び蹴りだけではなくミラーモンスターの援護さえ受けたその炎を纏う必殺技の名は、ドラゴンライダーキック。
数多くあるライダーの必殺技の中でも有数の撃破率を誇る、凄まじい一撃だった。

刹那、ディケイドの右足とアルティメットUDの盾が、衝突する。
周囲へ凄まじいインパクトを伴ってぶつかった蹴りと盾は、しかし両者どちらとも譲らずに拮抗する。
無論傍から見れば、ただ受け止めただけのアルティメットUDに比べれば、勢いに勝るディケイド龍騎の方が勝りそうにも思える。

だが此度勝利を掴んだのは、その最強の盾だけでなくより強靱な肉体をも携えていたアルティメットUDの方だった。

「フン!」

「ぐあっ!」

気合いと共に、オールオーバーがディケイド龍騎の身体を切り上げる。
これまでと違い遂にダメージが限界を迎えたのか、その身体が通常のディケイドへ戻り地を滑る。
同時、今までと違い切り札たるファイナルアタックライドすら容易く防がれた今、彼に次の策は残されていなかった。

そして地に片膝を突き肩で息をするディケイドを前にして、アルティメットUDは彼へ見切りを付ける。
恐らくディケイドは既に持ちうる有効な手札を全て切り終えてしまったのだろう。
なればもう彼に興味はない。

遊びの時間は終わりだと言うように、彼はその胸からアルティメットボムと呼ばれる最強の光弾を放った。

「ぐわああああぁぁぁぁ!!!」

爆炎が生じ、絶叫が響いてディケイドの変身が解除される。
もう片膝を突くことすら出来ず俯せに倒れ伏した士に対し、アルティメットUDはつまらなさそうに溜息を吐いた。

「もう終わり?なら――ここで死んじゃっていいよ、お兄ちゃん」

宿敵に完勝し、彼は士の生を終わらせるため再びその胸部にエネルギーを充填させる。
これまでのダメージに呻き、地に這いつくばる士には、もう為す術なくそれを甘受する道しか残されていない。
どうしようもない運命を前に誰もが諦めかけた、しかしその瞬間。

「――ハアアアァァァァァ!!!」

気高い咆哮を轟かせて、アルティメットUDに切りかかる緑の戦士がいた。
その手に握るゼロガッシャーを振るいアルティメットボムの発射を中断させた彼の正体は、しかし意外なものだった。

「渡!?」

呼んだ士の声に応えることなく渡は、いやゼロノスはアルティメットUDに怒涛の連撃を仕掛ける。
だがそれでも、究極の力を身に着けたネオ生命体には力及ばない。
金属音を響かせてゼロガッシャーが敵の盾に阻まれたかと思えば、振り下ろされたオールオーバーが彼の身体を蹂躙する。

悲鳴を上げ、得物をも取り落として後退ったゼロノスを、しかしアルティメットUDが見逃すはずもない。
その剣にエネルギーを乗せて振るい放たれた衝撃波の直撃を受けて、いとも容易くゼロノスの変身は解除され、渡は地へと倒れ伏した。

「渡君!」

名護が、脚を引きずりながら彼に駆け寄る。
戦う術が残されていなくても、彼の無事を確認したかったのだろう。
だがそんな感慨に、ネオ生命体の感情が揺り動かされるはずがなかった。

「つまんないの。まぁいいや、じゃあ皆纏めて……殺してあげるよ」

不気味な哄笑を上げて、アルティメットUDがその歩を進める。
アルティメットボムを放たないのは、一人一人嬲り殺しにするつもりなのだろう。
だがそんな彼の歪んだ自我を皮肉るだけの余裕は、もう士にも残されていなかった。

立ち上がることも出来ず悠然と迫りくる絶望を睨みつけていた彼らの元へ、しかし救世主が現れる。
突如空から戦場へ飛び込んだ一筋の赤い光が、アルティメットUDに突撃しその歩みを止めたのだ。
まさか、とこの場にいる誰もが驚愕する中、それは主の元へ颯爽と舞い戻り彼の手中へと収まった。

士が、名護が、目を見開く。
何故ならそこにいたのは、先刻渡が殺したと言ったはずの自分たちの仲間、総司その人であったのだから。
カブトゼクターを掴んだ総司が、倒れ伏す面々を一瞥する。

きっと旅に出ると言った直後にこうして戻ってくるのは、些か決意が必要だったことだろう。
だがそれでも、彼は迷わずにこの場に現れた。
渡との話を終わらせるため、そして何より……仮面ライダーとして、仲間の危機に駆け付けるために。

「変身!」

――HENSHIN

――HYPER CAST OFF

カブトゼクターをベルトに叩き込んだ総司の身体が、一瞬でハイパーフォームへと変化する。
変身の完了と同時、彼は雄叫びを上げてアルティメットUDに掴みかかりそのまま駆け抜けていく。
敵を引き離し、傷ついた仲間の安全を確保する為だろう。

彼らが幾つかの民家の壁を突き破る度、喧騒が遠くへ離れていくのを受けて、士はようやく立ち上がり渡へと歩み寄っていた。

「大丈夫か?渡」

だが、未だ倒れ伏す渡へ向け差し伸べた士の手を、見向きもせず彼は振り払う。
思わず怪訝な表情を浮かべた士に対し、渡は一つ自暴自棄になったように乾いた笑いを吐いた。

「笑いたいなら笑えばいいでしょう、ディケイドがいる限り世界は滅びる……そう分かっているはずなのに、僕は他ならぬその悪魔を救ってしまったんですから」

言葉を紡ぐ渡の表情は、どこまでも苦悩に染まっていた。
きっと、自分自身何故アルティメットUDから士を庇ったのか分かっていないのだろう。
悲痛なその声音からは、何より自分自身に対する深い失望と不信感が見て取れて、士は思わず言葉を失ってしまう。

だが、そうして生まれた沈黙を打ち破ったのは、やはりと言うべきか名護だった。

「誰が君を笑うものか」

言って彼は渡と同じ視線になるためにしゃがみ、彼の肩を抱く。
真正面から渡の瞳を見つめる名護の表情には、一切の嘘や後ろめたさが感じられなかった。

「渡くん、君は今自分の身を挺して目の前の命を救ったんだ。それの何を恥じる必要がある、もっと胸を張りなさい」

「違います、そんなんじゃない!僕はただ、勝手に身体が動いただけで……!」

「なら尚更素晴らしい。理屈などじゃなく目の前の命を救いたい、それは俺たち仮面ライダーの正義と同じだからな」

「違う、違う、僕は仮面ライダーなんかじゃ……!」

駄々っ子のように首を振る渡の瞳には、いつの間にか涙が浮かんでいる。
何時だかも見た光景だと名護は一つ笑って、彼の身体を優しく揺すった。

「いいや渡くん、君は仮面ライダーだ。正義を信じ、誰が相手であろうと助けようと尽力するその優しさ……それらを持つ君が、そうでないはずがない」

「正義なんて、僕はそんなもの――」

「なら君は何故、総司君を殺したと嘘をついたんだ?」

「ッ!それは……」

名護の問いに、渡は言葉を詰まらせる。
あれはただ、名護に自分を敵と認めてもらうためについた咄嗟の嘘のはずだ。
そうでしかないと言い切ればいいはずなのに、渡はしかしそれを口にすることが出来なかった。

「君が嘘をついたのは、そう言えば俺達が君を裁いてくれると、そう思ったからじゃないのか?今までの行いに罪の意識があるから、それに対する罰を望んだ……違うか?」

名護の言葉に、渡は何を言い返すことも出来ず俯く。
何故あんな嘘をついたのか、そもそも何故自分は総司を殺すことが出来ず見逃してしまったのか。
その答えはもしかすれば名護の言うように、自分は内心では罪の意識に苛まされ仮面ライダーによる裁きを望んでいたからなのかも知れなかった。

紅渡の優しさを捨てキングの非情を取ったはずなのに、それすら完遂出来なかった中途半端な自分に生きている資格などないと、そう考えて。
もう世界を守るなどと考えるのも疲れ果てて、その決着を悪として討たれる形で遂げようとしていたのかも知れない。
改めて考えてしまえば、しかしやはりそれは自分の罪に対する逃げでしかない。

結局、自分は最初からずっと、色んなものから逃げることしか考えていなかったのかもしれない。
そんな風にすら思えてきて、渡は自分自身に呆れたように小さく自嘲を漏らした。

「そうかもしれません。……けど、結局その罰は与えられなかった。僕が仮面ライダーにも、その敵にもなりきれなかったから……それをきっと、見透かされていたんですね」

「そうかもしれないな、君は単なる敵とは違った。……だがそれは決して、過ちや瑕疵なんかじゃない」

渡の言葉を肯定しつつ、しかし名護はやはり彼を見捨てようとはしない。
真っ直ぐに彼の瞳を見据えて、どこまでも根気強く続けた。

「君には真の邪悪と違い、死以外にその罪を償う方法が残されているはずだ、渡君。俺達と共に、仮面ライダーとして戦う道が」

それは、何時までも変わらない名護の思いだった。
記憶が消されようと、総司のように悩む一青年として目の前の渡を諦められない。
どこまでも真っ直ぐで、理想主義的な彼の正義。

しかしそれと同じ申し出を既に一度拒んでいる渡にとって、その手を今更掴み取るのはただ名護の甘さに付け込むようにしか感じられなくて。
名護の大切な記憶すら消したのにそんな都合の良いことは許されないと、渡は首を大きく横に振る。

「でも……僕がやり直せるはずありません。僕のせいで失われた命は、あまりにも……多い……!」

「そうだとしても、償い続けるしかないだろう。君の、一生をかけてでも」

「そんなの……出来るわけない!」

不意に見た渡の顔は、既に涙と鼻水でぐしゃぐしゃに濡れている。
きっと、感情の整理も出来ていないのだろう。
ただその胸に抱いた激情を発露させて、渡は思い切り名護を突き飛ばし立ち上がった。

「加賀美さんに、キバットに……それに深央さんだって!僕のせいで死んだ、僕が殺したんだ!なのに……なのに僕が、そんな風に生きていて良いわけないじゃないか!」

「渡君……」

遂に心の内を打ち明けた渡に対し、名護はその感情の重さ故に思わず言葉を失ってしまう。
彼はきっともう、自分でも分かっているはずなのだ。
非情な王として、異なる世界の罪なき命を摘み取れるほど、自分は残酷にはなれないと。

しかし、それでも自分の罪の意識故にもう仮面ライダーに戻ることだけは出来ないと、そう自分に枷を架しているのだ。
戻れない理由も、きっと既に形骸化した使命感でしかないのだろう。
進むことも出来ず戻る選択肢も絶った今、彼にとって死は確かに一つの救いなのかも知れない。

名護がそんな事を考え言葉での説得を諦めかけてしまう程度には、今の渡は正攻法で立ち直らせることの難しい存在と化していた。
だが……いや、だからこそ。
この地に唯一人、今の彼が直面しているのと同じような無理難題を、常識外れのやり方で常にひっくり返してきた唯一無二の存在が、ここにいる。

正攻法で無理ならば、いっそ劇薬で毒を制してしまえば良い。
そう胸を張って言い切れる彼こそが、この膠着状態を“破壊”する上では、最も相応しかった。

「おい」

「え?」







――声に振り向いた渡の頬を、不意に放たれた握り拳が打ち据える。







名護のものではない。
それは、今の今まで静観を続けていた門矢士の、突如として放たれた迷いない鉄拳だった。
強い衝撃を覚え、渡はそのまま受け身も取れず地に倒れ込む。

名護が渡の名を呼び駆け寄ろうとするが、しかし士がそれを制する。
後は俺に任せておけ。瞳だけでそう伝えて、彼は渡へと向き直った。
鋭い瞳で自身を見上げてくる彼に対し、士は殴った手を力なくぶらつかせる。

「いきなり、何を……!」

「根性注入」

恨み節の一つでも言いたいのだろう渡に、士はあっさりと言い放つ。
無論、そんな四字熟語で納得出来るはずもない。
怒りと共にすぐさま立ち上がって、渡は士に掴みかかる。

だがそれすら予想の範囲内とでも言うように、彼はあっけらかんと続けた。

「……人は前に進むものだ。悲しみを乗り越え、大きくなった時……大切な人は隣にいる。お前は、前に進むしかない」

「は?」

突如として士が述べた格言に、渡は困惑を示す。
だがそんな様子を気にする素振りも見せず、士は何かを察したように苦笑を浮かべた。

「音也の言葉だ。あいつ、道理で俺に向けた即興の言葉にしては出来すぎてると思ったぜ。まさか、元はお前に向けた言葉だったなんてな」

「父さんの……?」

不意に出た父の名に、襟を掴む渡の力が緩まる。
それを受け彼の後方へと足を進めながら、士はなおも言葉を紡ぐ。

「あぁ、俺が今のお前みたいに自棄になりかけた時、音也が目を覚まさせてくれた。今俺がやったのと同じように、その拳でな」

渡を殴りつけた自身の拳を見やりながら、士は思い出す。
この世の全てを憎み破壊し尽そうとした自分に対し、音也はその拳であるべき姿を思い出させてくれた。
破壊者なんかじゃない、世界を巡り紡ぐ仮面ライダーとしての、自分の姿。

その瞬間から、ずっと胸に秘めていた彼への恩を何らかの形で返すというのなら今を置いて他にはないと、士はそう確信していた。

「でも、父さんが僕に言葉を残すなんて有り得ません。だって、父さんはもう――」

「――細かい事情は俺も知らないさ。だがお前になら分かるはずだ、俺の言ってることが、嘘か本当か」

言われて渡は、殴りつけられた自身の頬を触る。
――熱い。
それは名護との殴り合いで生じた痣よりも、まして今までのどの戦いで受けた傷なんかよりも、ずっと熱くそして痛かった。

そして、だからこそ理解する。
この痛みはきっと、士の言うように父の仕置きの分まで含まれているからこそのものだ。
勿論、父が自分を知るはずなどないし、理屈は決して通らない。

だがそれでも、渡には分かる。
士は決して、嘘などついていない。
先ほどの言葉も拳も、正真正銘自身の父から受け継いだものなのだ。

「父さん……」

呟いて、既に亡き父に思いを馳せる。
悲しみを乗り越えて前に進めば、そこに大切な人はいる。
綺麗事でしかないはずのそれはしかし、何故だか今までの何よりも渡の心に強く響いた。

「渡」

士が、渡へ再び呼びかける。
彼の父の言葉を告げる役目は終えた。
だからこれから先は、渡に向けて士が自分自身の言葉を紡ぐ番だった。

「これから先お前がどう生きるのか、それはお前次第だ。だがどんな生き方を選ぶにしろ、その先で罪を償う為に死のうなんて思ってるなら……俺がここでお前を潰す」

それは、決して咄嗟に吐かれた出任せではない。
彼は本当に、渡の真意次第ではここで彼を破壊しようとしている。
その覚悟に思わず身が引き締まる思いを抱いた渡を前にして、士は続ける。

「……沢山の罪を重ね、多くの思いを受け継いできた俺達には、生きる義務ってやつがある。死んでいった奴らの思いを未来に繋ぐ為にも、な」

「未来に……」

士の言葉を復唱して、渡は不意にこの会場に来る前からずっと自身のポケットに押し込めていた一枚のステンドグラスを取り出す。
それは、自身が殺してしまった深央への罪の意識を絶やさない為に、バラバラに飛び散った遺体の中から自分が持ち出してきたものだ。
最早何の意味も無いはずなのに、何かに導かれるようにそれを掲げれば、突如として虚空に自身の愛しい女性の姿が浮かび上がった。

「深央さん……」

既に消えてしまったはずのその姿がそこにあることに驚きつつ、渡は彼女の名を呼ぶ。
それだけで深央は、渡の大好きだった儚げな笑みを浮かべた。

「僕、いいのかな……紅渡として――仮面ライダーとして、生きても……」

問えば、当然だと言うように彼女は笑顔を浮かべ首肯する。
そしてまるで役目を終えたことを悟ったように、渡の手の内からステンドグラスが消滅する。
だがそれは、今の渡にとってはもう深央の形見が消えてしまったことを意味しなかった。

空っぽになった手を握りしめて、渡は士へと向き直る。
最も重大な確認すべき事を、彼に確かめる為に。

「ディケイド……いえ、士さん。一つだけ聞かせて下さい」

遂に渡からの士への呼び名が、忌むべき悪魔のそれから個人を指す名前となった。
だがそれに感慨を抱くこともなく、士は彼の言葉を促すように頷く。

「父さんがさっきの言葉を貴方に言ったということは……貴方もまた、誰か大切な人を亡くしたんですか?」

それは、渡にとって聞いておかなければならない質問だった。
最後の最後、彼を信じて良いのかどうか、その質問の答えが彼の行く末を左右する……そんな質問。
だがあまりにも意外な角度から向けられたその言葉に士は暫し逡巡して、それからどこか遠くの虚空を見つめた。

邪悪によって、失われた光。
自分の帰る場所になると言ってくれた、あの優しい笑顔。
自分が全てを破壊した後、倒してくれる存在として認めた、唯一の存在。

渡の問いによって、士はもう彼女がどこにもいないことを再度実感する。
だが、この苦しみから逃げずに告げなければならなかった。
彼女の思いを、優しさを、そして記憶を……未来に繋ぐ為にも。

「――あぁ」

放たれた肯定の言葉は、極めて短い上にどこか掠れている。
だがそれだけで、渡にとって必要な情報が全て含まれていた。
彼は破壊すべき悪魔ディケイドではなく、自分と同じように誰か愛すべき存在を亡くし悲しみに暮れた一人の青年だったのだ。

その事実が、渡を縛り付けていた最後の鎖を打ち壊す。
キングとして他の世界を滅ぼし自身の世界を守るだとか、ディケイドを倒さない限り世界は滅びるだとか、そんな運命にはもう屈さない。
父の言葉を証明する為に、そして深央の、加賀美の、キバットの命を未来へと繋げる為に、自分は迷わず前に進み続ける。

だからこそ、もう自分の心には嘘をつかない。
紅渡として……偉大なる男である紅音也の息子として、自分は戦い続けてみせる。
どんな世界の誰であろうと人の心の中に流れる音楽を守りたいし、例えその存在が世界を崩壊に導くのだとしても自分は“門矢士”を信じたい。

決意を固め、渡は俯いていた顔を見上げ士へ向けて強く頷く。
皮肉にもそれは、かつてユウスケに説かれた王の資格を、キングの名を捨てる覚悟をしたことで渡が得た瞬間だった。
そしてそんな彼の元へ、飛来する黒い影が一つ。

パタリパタリと羽ばたいて渡の元へと飛来したそれは、あるべきキングの姿とはかけ離れたはずの今の渡の姿を見て、しかしどこか満足そうに頷いた。

「フン、いい目をするようになったな……音也の息子に相応しい」

「キバットバットⅡ世……戻ってきてくれたの?」

渡に名を呼ばれた黒い影……キバットは、そんな彼の問いをさぞつまらなさそうに鼻で笑い飛ばした。

「言っただろう、俺は俺のやりたいようにやると。王としてではなく、紅渡としてのお前の行く末……それを見てみたくなった」

「……ありがとう」

渡には、それしか言える言葉がなかった。
ただ、自分を見捨てた彼が自分を“紅渡”としてまた認めてくれたことが、これ以上無く嬉しかった。
だが、それで立ち止まっている訳にはいかない。

今もまだ、このすぐ側で戦いは続いているのだ。

「……行くぞ、渡」

「はい」

士に呼ばれたその名前を、もう否定することはしない。
誰に何と言われようと、今度こそもう逃げることはしないと決めたから。
そして同時、肩を並べ共に歩んでいく二人の背中を見て、名護は満足そうに頷いた。


151:Chain of Destiny♮師弟対決再び 投下順 151:Chain of Destiny♮スーパーノヴァ
時系列順
擬態天道
紅渡
名護啓介
門矢士
ネオ生命体


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最終更新:2020年02月24日 10:22