Chain of Destiny♮スーパーノヴァ




「フン!」

「ぐあぁ!」

オールオーバーの一撃を受けて、カブトの変身が解除される。
病院での爆発を見て全力で駆け抜けて何とか間に合いこそしたものの、しかしドラス戦での疲労は決して癒えていない。
そんな状況で先ほどよりも強化されたネオ生命体と単身で戦えば、この結果も当然とすら言えるものだった。

そして今、レイキバットさえ失った総司には振り下ろされる剣を躱す術もなく――。

「総司君!」

突如として横から飛び込んだ名護が、総司の身体を抱きかかえるようにして剣を躱しそのまま倒れ込む。
ありがとう、と彼にお礼を言うのと同時に、総司はその視線の先にあるものを映して思わず笑みを浮かべた。
一体その先に、何があるというのか。

彼の視線に釣られて振り返ったアルティメットUDがその瞳に映したのは、自身に向けてゆっくりと歩む二人の戦士の姿だ。
門矢士と紅渡。
それは、決して相容れないと思われていた男たちが、今志を同じくして宿敵へリベンジを行おうとするまさにその光景。

だが総司からすれば狂喜乱舞すべきその悲願の達成に対し、アルティメットUDは心底つまらなさそうに嘲笑を漏らした。

「なんだ、誰かと思えばお兄ちゃん達か。さっきも負けたのに、またやられに来たの?」

彼の滲み出る自信は、決して過剰なものではない。
その実力は凄まじいものがあるのは確かだし、恐らくまた挑んだとしても彼らの勝ち目は薄いだろう。
――単身ならば。

「確かに、俺たちはお前にさっき負けた。だがそれは、一人一人での話だ」

「一人一人?二人になったからって何か変わるって言うの?」

士の言葉に、アルティメットUDは意味が分からないとばかりに鼻で笑い飛ばす。
しかしそんな傲慢な悪を前に、士は決して屈さない。

「変わるさ、俺達は一人一人じゃとても弱い。強い敵にだけじゃなく、自分自身にだって負けてしまうことが、あるくらいには」

語りながら、士は渡を一瞥する。
自身の心の声を聞こうともせず逃げ続けていた今までの渡。
仲間の存在を最初から信じようとせず絆を断ち切ろうとばかりしてきた、弱い自分。

もう彼は、そんな自分に負けたりしない。

「だがそれでも……支え合える仲間がいれば、俺達はどこまでも強くなれる。どんな枷だって振り払って、なりたい自分になることが出来る!」

名護と総司が、深く頷く。
彼らが紡いできた絆こそが、この言葉の証明だ。
師弟の絆、数多の人が見せた渡を見捨てない覚悟、そして……時代を超えた親子の愛情。

全てが積み重なって、今ここにこうして彼らがいる。
それが士と渡にとって、何よりの力となっていた。

「だから今度は、お前にも絶対に負けない。俺達は今……一人じゃないからな」

「お兄ちゃん……一体何者?」

顔を見合わせ頷き合った二人に対し、アルティメットUDは問いを投げる。
だがそれは、とどのつまり彼が待ち侘びていたものだ。
自身の存在の証明、そして自身が生きる限り紡ぎ続ける世界を巡る旅の記録。

許されざる悪を前に、彼が名乗り続けるその名前は――!

「通りすがりの仮面ライダーだ……覚えておけ!」

士の高らかなる宣言を受けて、アルティメットUDは吠える。
それこそ丁度、かつて渡が激情を露わにしたのと同じように。
しかしその程度の威圧に、今更彼らが怯むはずもない。

――KAMEN RIDE……
「ガブリッ―――!」

亡き父に、亡き友に受け継いだ力をそれぞれ手に抱いて、彼らは強く叫んだ。

「「変身!」」

――DIEND!

士のディエンドライバーが、戦いの幕開けを合図するように高く銃声を響かせる。
それによって纏われるシアンの鎧に、しかし士は特別の感慨を抱く事もない。
ただ少しだけ、自分にはやはりこの鎧は似合わないなと、何の意味も持たない愚痴を漏らしたくなった、それだけだった。

一方で、ダークキバの鎧を纏う渡の心には、この鎧に先ほどまではいなかったはずの父が一層強く感じられた。
紅渡の名を誇り続ける覚悟をしたからなのか、或いは士を通じて彼の言葉を聞いたからなのか。
そのどちらにせよ、もうこれまでのように負けはしないと、渡は確信していた。

「グオオ!」

獣の如き唸りを上げて、アルティメットUDが大地を蹴りつけ駆け抜ける。
剛脚を轟かせ迫る彼を前にして、ダークキバはその懐からザンバットソードを取り出して応じた。
オールオーバーとザンバットが、火花を散らし拮抗する。

実力は同格、剣としての格も、剣士としての才覚も互角程度。
なればその勝敗を決めるのは残されたフィジカルの差だと、アルティメットUDが力を込めるが、ダークキバの狙いは決して鍔迫り合いによる勝利ではなかった。
剣同士での戦いの決着を待つこともせず放たれたディエンドの弾丸が、アルティメットUDの腕から大剣をはたき落とす。

意識外からの攻撃に得物を失い呻いたアルティメットUDへ、ダークキバは躊躇なくザンバットを振るった。
勢いを盾で凌ぎきれず後退する彼を前にして、間髪入れずディエンドは次なる攻撃の手として二枚のカードをドライバーへ滑り込ませる。

――KAMEN RIDE……HIBIKI! KABUKI!

続けざま放たれた電子音声が、虚空に二つの像を結ぶ。
並び立った二体の傀儡は、本来共に戦うはずなどなかった異形の鬼たちだ。
だがそんな経緯など、今の彼らには関係ない。

ただ自身らを呼び出したディエンドの意のままに、彼らは同時にアルティメットUDへと己の腰に備え付けられた音撃鼓を装着した。
かつてキングに通用したソリッドシールド攻略の音撃打が、今また二重奏となって奏でられる。
だが、二人に増えたとは言え所詮彼らは分身に過ぎない。

アルティメットUDの豪腕を以てすれば、この程度の拘束を解くことなど時間の問題。
だが、そんな事はディエンドも先刻承知の上である。
攻撃を完成させる為の最後のピースに向けて、彼は勢いよく呼びかけた。

「渡!」

「はい!」

ディエンドの意図を察したのだろう。
返答と同時、ダークキバはその足下へ禍々しいキバの紋章を浮かび上がらせる。
同時、気合いと共に彼が腕を振るえば、今まさに音撃鼓を打ち破ろうとしていたアルティメットUDの背をそれが拘束し、彼からいよいよ抵抗の術を奪った。

「ウェイクアップ2!」

そして、そんな格好のチャンスを見逃す彼ではない。
すかさずキバットにウェイクアップフエッスルを噛ませ、沸き上がる魔皇力に任せて高く宙へと跳び上がる。
同時、それによって発動したキングスバーストエンドのタイミングを理解していたように、響鬼と歌舞鬼が音撃打を終え虚像となって消滅する。

残されたキバの紋章だけであればアルティメットUDには打ち破ることも出来たかも知れないが、しかしそれももう遅かった。

「ハアァ!」

掛け声一つ、アルティメットUDの胸へダークキバ渾身の一撃が突き刺さる。
同時、無条件でその身を守るソリッドシールドが浮かび上がるが、その程度の防壁、闇のキバの必殺技を前には砂の砦に等しい。
瞬く間に罅割れ砕け散り、遂に彼を守る盾は跡形もなく破壊されてしまった。

背に負った紋章すら打ち破り、アルティメットUDは大きく吹き飛ぶ。
その身が地面を抉り転がるが、しかしすぐさま立ち上がる。
その胸から硝煙を燻らせ、確かなダメージをその身に届かせながらも、しかし彼は未だなお萎えぬ殺意で以て仮面ライダーらを睨み付けていた。

全身に受けたダメージを微塵も感じさせぬ威圧を伴って、アルティメットUDは大きく吠える。
同時、かつてない強敵を前に警戒を緩めず構え直したダークキバの元へ、今の隙にコンプリートフォームへと変身を遂げていたディエンドが並び立つ。
奴を倒すには、やはり特大の一撃を食らわせるしかない。

そう思考を巡らせて、彼は懐から三枚のカードを抜き出した。
渡と心を通わせたことによって色を取り戻したそれらのカードこそ、この勝負の決着をつけるのに相応しい。
チラとダークキバを一瞥して、ディエンドは手に持つカードの縁を見せびらかすように叩いてみせる。

「決めるぞ、渡」

「……うん」

――KAMEN RIDE……KIVA!

ダークキバの頷きを受けて、ディエンドライバーが三度新たな電子音声を放つ。
叫ばれた意外なその名にダークキバが驚愕を禁じ得ない中、虚像は実像となりその姿を現実のものとする。
刹那、そこに立っていたのは、『キバの世界』を代表し、黄金のキバの異名も持つ仮面ライダー、キバ。

それは渡からすれば二度と見るはずがないと思っていた、過去の自分の姿だった。

「キバット……?」

だがその姿にダークキバが抱く感慨は、過去の自身との邂逅ではなく今は亡き相棒との再会に対するものだった。
キバの腰に鎮座する相棒に声を掛けるつもりで彼に呼びかければ、意識のない傀儡であるはずのそれはしかし、彼の呼びかけに深く頷いてみせた。

――FINAL FORM RIDE……KI・KI・KI・KIVA!

ディエンドライバーの指示に従って、キバの身体は大きく変形していく。
人体の可動域を無視し、超常を逸した変形を完了したキバの姿は、まさしくキバットを模した弓と形容するのが相応しい。
その両手で以て、ダークキバがキバアローと化したキバを抱きかかえる。

それは彼からすれば、まるでもう二度と叶わないと思われていた生涯の親友との和解を成し遂げたような、そんな心地ですらあった。

――FINAL ATTACK RIDE……KI・KI・KI・KIVA!

必殺の準備を終わらせた彼らに対抗するように、アルティメットUDがその胸にエネルギーを滾らせる。
だがそんなものに恐れを抱く理由はもう何も無い。
カテナを解き放ちその魔皇力を全開にしたキバアローを引き絞って、ダークキバは真っ直ぐに構えた。

「キバって……行くぜええぇぇぇぇ!!!」

相棒の声が、胸を打つ。
放たれたアルティメットボムを目がけて、キバが矢を解き放つ。
それと同時ディエンドも銃口から巨大な光線を打ち込めば、二つの必殺技は交わり更に巨大な一条の矢となって敵へと迫る。

刹那、衝突した相対する二つの光。
だが力を合わせた彼らの攻撃を前に、究極の名を冠した光弾は最早僅かな拮抗すら許されず掻き消えた。
そしてその勢いが、その程度で収まるはずがない。

放たれた最強の矢は、アルティメットボムを突き破った勢いを一切萎えさせることなく、その先にあるアルティメットUDの胸をも、容易く射貫きそのまま虚空へと消えていった。

「そんな、僕が……グゥゥ、オォォ……!」

胸に風穴を開け、身体のバランスを失ったアルティメットUDが呻き、その巨体を大きく後ろへ倒れさせていく。
同時、打ち込まれ、高まりきったエネルギーの奔流が彼の身を突き破って巨大な爆炎を生じさせ、その全身を消滅させる。
それはまさしく、幾度となくあまりにも大きな悲しみをこの地に振りまいてきた王を名乗る邪悪の企みが、今度こそ全て無に帰した瞬間だった。

アルティメットUDの撃破を受け、役目を終えたキバアローがダークキバの手を離れ人型へと戻る。
降り立ったキバはしかし、何の言葉を発することもない。
ただ再び虚像と化して空に溶けるまで、ずっとダークキバの事を、静かに見守り続けていた。

そしてそれは、ダークキバも同じこと。
謝罪や感謝ですら、今この瞬間に限っては無駄な言葉に過ぎない。
ただ向かい合うだけの二人の間にあったのはしかし、他の誰にも立ち入ることの出来ない、まさしく二人だけの世界だった。

一分の時間制限によりキバが消滅し、ダークキバの変身も解ける。
それでも渡は未だ思いを馳せるように虚空を眺めていたが、そんな彼の意識を浮上させたのは、あまりに遠慮無く彼に抱きついた名護だった。

「やったな、渡君!」

「名護さん……」

もう少しだけ余韻に浸りたい気持ちもあったが、しかし彼に掛かればそんな湿っぽい空気もどこへやらだ。
やっぱり名護さんは名護さんだなと微笑して、渡はそれから辺りを見渡す。
総司と士、確かな殺意を以て戦った彼らが歩んでくるのを前にして、自分は言わなければならなかった。

「総司君、士さん、その……今まで本当に、すみませんでした」

「……いいよ、渡君がちゃんと自分に向き合えたなら」

「総司君……」

総司の優しい言葉に、渡は二の句を継げなくなる。
どうしようもなくなって笑みを交し合った彼らの元に、士は総司の言葉に頷きつつ歩み寄った。

「渡、さっきの言葉はあの時限りじゃない。もしお前がまだ、仮面ライダーとして戦った末に死のうと考えてるなら……」

「……えぇ、分かってます。もうその心配はいりません」

心の底から、渡は断言する。
もう、死ぬつもりなんてない。
少なくとも自分から全ての罪を被って死ぬだなんて逃げは、既に彼の思考からは消え失せていた。

そしてそんな渡の覚悟を前にして、士は満足そうに頷く。
微笑を携え渡と向き合う彼の姿は、到底世界を破壊する悪魔とは思えないほど穏やかなものだった。

「渡君」

名前を呼んだのは、名護だ。
その瞳には、先ほどまで渡を説得していた時のような、真剣な光が浮かんでいる。

「これから君は、数え切れないほどの人間に数え切れないほど謝っていかなくてはならない。だが心配することはない、君は……他ならぬ俺の弟子なのだから」

「名護さん……」

記憶を消し、何度も彼の手を拒んだというのに、名護はまだ自分を弟子と呼んでくれた。
それがどうしようもなく嬉しくて、渡の目に再び涙が滲む。
そんな彼を前に名護も僅かに涙ぐみ……そんな湿っぽい空気を切り替えるように、総司は敢えて戯けて間に入ってみせた。

「でも名護さん、渡君は一回名護さんの記憶を消しちゃってるから……名護さんの弟子としては、今は僕の方が先輩だよね?」

「え……?」

自身が以前犯した過ちを掘り返すような言葉に仰天して総司を見やる渡の顔は、あまりに真面目なもので。
それが何より可笑しくて、総司も名護も思わず吹き出してしまう。

「ふふ、そうだな。今は総司君が先輩で、渡君が後輩だ」

「よろしくね、後輩君!」

「そんなぁ……」

俯く渡に対し、いよいよ士も吹き出す。
朗らかな笑いに包まれた彼らの中に、もう憎しみは存在しない。
ただこれからもずっと罪を抱き生きていく仲間として、渡を受け入れていた。

「さぁ、行こう渡くん、病院で君の手当をしなくては」

談笑を終え、仲間達が病院へと歩んでいく。
その背中を眺めながら、渡はふと空を見上げた。
深央や加賀美、それにキバットは、これからの自分を見守ってくれるだろうか。

病院で自分のせいで死んでしまった人や、かつての王は自分を許すことなく恨み続けるだろう。
それを思うと自分は本当に、多くの思いを抱いて生きていかなければならないと再度実感する。
それに、世界の崩壊やディケイドの真実など、これからも自分の目で見定めなければならない事は、あまりにも多い。

だがそれでも、父と母がくれた紅渡の名を胸を張って名乗れるという事だけで、渡の心中は透き通るように冴え渡っていた。

「渡くーん!どうしたのー?置いてっちゃうよー!」

「……今行く!」

仲間の自分の名を呼ぶ声に否定をせず応じられることが、これほどまでに嬉しいこととは。
そんな当たり前を再実感しながら、渡は勢いよく走り出した。
――そうして全ては、ハッピーエンドに向かっているはずだった。

この場にいる憎しみに囚われた唯一の邪悪の、その牙が未だ健在でなかったなら。

「――アハハハハハッ!油断したねお兄ちゃん、終わりだよ!」

「何ッ……!?」

突如として響いた幼い哄笑に、全員が振り返る。
それを発する一つの影は、アルティメットUDとして打倒されながら、しかしまだ消滅にまで至っていなかったネオ生命体のコアのものだった。
FFRによる攻撃を前にしても未だ立ち上がったのは、キングから授かった頑強さ故か、或いは単にネオ生命体の執念によるものか。

ともかく、その身体の節々から火花を飛び散らしながらも、しかし彼は勝利の余韻で油断しきった士に向けて、一筋の光弾を放った。
抵抗は、間に合わない。
ディエンドライバーやイクサナックル、彼らがそれらの武器を取り出すより早く、光弾は間違いなく士の命を刈り取るだろう。

しかし彼にはまだ、諦めることは出来ない。
亡き仲間たちに、渡に、そして彼女に誓ったのだ。
自分は生きて彼らの存在を未来に繋ぐと。

だが、無情にも迫る光弾は、彼の感傷を理解しない。
今にも士の身を突き破ろうと凄まじい勢いで――。










――だが、何時まで待ってもその瞬間は士に訪れない。
刹那、その違和感に耐えきれず目を開いた彼がその瞳に映したものは、眼前にまで迫っていたはずの光弾の姿ではなく一つの人影。
それは、自身の盾になるように飛び出し、ネオ生命体の光弾を一身に受け止めてその腹に大穴を空けた、紅渡の姿だった。

「渡!」

「士、さ……」

士の声に返すことも出来ず、渡はそのまま前のめりに倒れ尽す。
予想だにしなかったその展開に、場にいる誰もが驚愕に染まる中、しかしその凶行を成し遂げた下手人はただ一人下卑た笑い声を上げた。

「あれぇ?……まぁいいや、どっちにしろ……僕の勝ちだよね!」

そう言って、自身の狙った相手ではない者が死にかけている状況に、しかしネオ生命体は脇目も振らずに爆笑する。
ただ誰かを殺すことが出来たということが、それだけ嬉しくてたまらないのだろう。
大凡最後の悪足掻きに過ぎない抵抗でそれだけの悪意をまき散らせるのだから、なるほど彼は紛れもなくキングの切り札に過ぎなかった。

「ははっ、僕の思ったとおり……やっぱり、人間は弱――」

だが、最後の捨て台詞を吐こうとした彼の言葉は、そこで止まる。
それ以上彼が薄汚い口を動かす前に、すかさず放たれたディエンドライバーとイクサナックルの光弾が、その眉間を的確に打ち抜いた為。
断末魔すら許されず爆発したネオ生命体にはもう目もくれることもせず、彼らは渡を抱きかかえた。

「渡!」

「渡君!」

だがその呼び声に、渡は最早まともに応えることも出来なかった。
腹部を打ち抜かれた影響で、口中にまで血が沸き上がっていたのだ。
一目見てもう無理だと分かってしまうようなその惨状を前に、しかし士は必死に呼びかける。

「渡、お前……なんで俺を庇った!」

その問いは、困惑と何より自分自身の不甲斐なさへの憤りが滲んでいる。
ネオ生命体が狙っていたのは自分だったはずなのに、何故彼が身代わりになったのか。
しかしそんな士に対し、渡は今までに士が見たこともないような優しい笑みを浮かべた。

「当然ですよ、士さん……貴方の中には、父さんも含めて……たくさんの人の……音楽が流れてる。僕はそれを……守りたかったんです」

「たくさんの……音楽……?」

自身の胸に手をあてて、士は俯いた。
彼の言う心に流れる音楽とは何なのか、士には正確にはよく分からない。
だがそれでも、士には理屈ではなく心で彼の言葉が理解出来た。

きっとそれこそが、渡が戦い続けてきた理由。
人の心の中に流れるそれぞれの音楽を守る為に、彼は……仮面ライダーキバは戦ってきたのだ。
自分に思いを託していった仲間達は、未だ自分の胸の中で音楽となって生き続けている。

そんな絆の形に気付かされて、士は思わず込み上げる思いに言葉を詰まらせる。
そしてそうして沈黙に沈んだ士に代わって渡へ声をかけるのは、名護の仕事だった。

「……待っていろ渡君、今病院に連れて行って助けてやる!士君、総司君!担架を持ってきてくれ!彼を運ばなければ――」

「――やめて、下さい……もう、いいんです、名護さん……」

「良いわけがあるか!俺が君を救ってみせる、だから、だから……!」

必死の思いで叫ぶ名護に、しかし総司も士も動けない。
分かっているのだ、名護の意思がどれだけ固くても、これはもうどうしようもないと。
なれば彼の言葉を最後まで聞き届けることこそが、自分たちの使命に違いないと。

それは、既に名護にも分かっている。
だがそれでも諦めきれないとどうにか彼を救おうとして、しかし答えは見つからない。
あまりの無力感に言葉を失った彼に対して、渡は死力を振り絞り必死に言葉を紡いだ。

「すみません、名護さん……僕は結局、最後の、最後で貴方をまた……裏切ってしまった。紅渡として……生きて罪を償うこと……それすらも、僕には出来ませんでした……!」

涙を浮かべながら、渡は悔いるように漏らす。
以前はキングとして冷酷な王の道を往くと名護を裏切り記憶を消した。
そして今度は、紅渡として罪を背負って生きていくと決めたはずなのに、その約束を裏切ってもう死のうとしている。

やはり自分が言ったとおり、自分は薄汚い裏切り者でしかないのだと強く実感して、渡はそれが何より辛かった。
だがそんな渡の苦悩を一瞬にして断ち切るのは、やはり名護の言葉だった。

「何を言う渡くん、君は一度も俺を裏切ってなどいない。君はずっと愛する誰かを守る為に戦ってくれていたんだろう……その優しさの、どこが裏切りだと言うんだ!」

それは、以前の記憶を持っていた名護が、キングとしての自分の行いを肯定してくれた時の言葉と、よく似ていた。
本当に名護さんは何も変わらない。
自分たちが名護啓介と紅渡である限り、素晴らしい関係を築けるはずだという、先ほどの言葉を思い出す。

自分はキングとして紅渡の名を捨て、名護からは記憶を消してその絆を断ち切ったはずだったのに、結局こうしてまた繋がってしまった。
彼がどこまでも名護啓介で……そして遂に自分も彼に負けて、紅渡に戻ってしまったから。
本当にこの人には敵わないなと苦笑して、渡は最後の最後、今この瞬間に抱いた気持ちをどうしても彼に伝える為、薄れ行く意識を繋ぎ止めて口を開いた。

「名護さん……やっぱり貴方は……最高、です……」

ただ、それだけ言い切って。
渡の首は、がくんと力なく項垂れた。
師への感謝と、謝罪と、そして称賛の全てを込めた、その一言。

かつて彼に憧れ弟子入りしようとした時、彼を崇め持ち上げようとした一心で、渡が放った言葉。
それを、この名護が覚えているはずもない。
だがそれでも、彼はどうしてもこの言葉からまた始めたかった。

自分が紅渡として、名護啓介に最初に抱いた感情と同じ全幅の憧憬を告げることで、また一から、二人の関係を。
しかしそれは、叶わない。
その言葉を最後にして、もう渡の意識は永遠に失われてしまったのだから。

「……渡君?」

名護の呼びかけに、渡がもう応えることはない。
始まりの言葉だけを残して、渡は逝ってしまった。
もうどれだけ彼らが名前を呼ぼうと、身体を揺さぶろうと、応じることはない。

どうしようもないその喪失感に、名護は胸を強く締め付けられ、力強く彼の身体を抱き寄せる。

「聞こえないぞ、渡君……!もっと……大きな声で言いなさい……!渡君……!」

涙で途切れ途切れになりながらも告げたその言葉に、しかしもう返してくれる声はない。
それがどうしようもなく心苦しくて、名護はそれから長い時間、嗚咽を上げて渡の亡骸を抱きしめていた。

一方で、そんな彼の背中を呆然と見ることしか出来ない士の胸にも、渡の死はあまりに大きな穴を空けていた。
物理的な意味ではない。また、一人自分のせいで死んでしまったという事実が、彼の心を締め付けるのだ。
一真にヒビキ、雄介に巧、そして良太郎に……渡。

自身に力を託して死んでしまった多くの仲間達。
それを思えば、自分に残された彼らの力を記録したカードなど、文字通り紙くずに等しい。
それでもまだ歩まなければならない苦しみとやるせなさを、士は慟哭として吐き出すことも出来なかった。


【二日目 昼】
【D-1 市街地】


【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】ダメージ(大)、疲労(大)、決意、仮面ライダーディエンドに2時間変身不能、仮面ライダーディケイドに1時間50分変身不能
【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式@仮面ライダーディケイド、ディエンドライバー+ライダーカード(G3、王蛇、サイガ、歌舞鬼、コーカサス)+ディエンド用ケータッチ@仮面ライダーディケイド、トライチェイサー2000@仮面ライダークウガ
【道具】支給品一式×2、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、キバーラ@仮面ライダーディケイド、 桜井の懐中時計@仮面ライダー電王 首輪探知機@オリジナル
【思考・状況】
基本行動方針:大ショッカーは、俺が潰す!
0:どんな状況だろうと、自分の信じる仮面ライダーとして戦う。
1:渡……。
2:巧に託された夢を果たす。
3:友好的な仮面ライダーと協力する。
4:ユウスケを見つけたらとっちめる。
5:ダグバへの強い関心。
6:仲間との合流。
7:涼、ヒビキへの感謝。
【備考】
※現在、ライダーカードはディケイド、クウガ、龍騎~キバの力を使う事が出来ます。
※該当するライダーと出会い、互いに信頼を得ればカードは力を取り戻します。
※ダグバが死んだことに対しては半信半疑です。


【名護啓介@仮面ライダーキバ】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(大)、ダメージ(大)、精神疲労(大)、左目に痣、決意、仮面ライダーイクサに1時間45分変身不能
【装備】イクサナックル(ver.XI)@仮面ライダーキバ、ガイアメモリ(スイーツ)@仮面ライダーW 、ファンガイアバスター@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2(名護、ガドル)
【思考・状況】
基本行動方針:悪魔の集団 大ショッカー……その命、神に返しなさい!
0:自分の正義を成し遂げるため、前を進む。
1:渡君……。
2:直也君の正義は絶対に忘れてはならない。
3:総司君のコーチになる。
4:例え記憶を失っても、俺は俺だ。
5:どんな罪を犯したとしても、総司君は俺の弟子だ。
6:一条が遊び心を身に着けるのが楽しみ。
7:最悪の場合スイーツメモリを使うことも考慮しなくては。
8:乃木怜治のような輩がいる以上、無謀な行動はできない。
【備考】
※ゼロノスのカードの効果で、『紅渡』に関する記憶を忘却しました。これはあくまで渡の存在を忘却したのみで、彼の父である紅音也との交流や、渡と関わった事によって間接的に発生した出来事や成長などは残っています(ただし過程を思い出せなかったり、別の過程を記憶していたりします)。
※「ディケイドを倒す事が仮面ライダーの使命」だと聞かされましたが、渡との会話を忘却した為にその意味がわかっていません。ただ、気には留めています。
※自身の渡に対する記憶の忘却について把握しました。
※士に対する信頼感が芽生えたため、ディケイドが世界破壊の要因である可能性を疑いつつあります。


【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】疲労(極大)、ダメージ(極大)、仮面ライダーカブトに1時間55分変身不能
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)+カブトゼクター+ハイパーゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×2、753Tシャツセット@仮面ライダーキバ、魔皇龍タツロット@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:天の道を継ぎ、正義の仮面ライダーとして生きていきたい。
1:渡君……。
2:剣崎と海堂、天道や翔一の分まで生きて、みんなのために頑張る。
3:間宮麗奈が心配。
4:放送のあの人(三島)はネイティブ……?
5:士が世界の破壊者とは思わない。
6:元の世界に戻ったら、本当の自分のお父さん、お母さんを探してみたい。
7:剣崎、翔一、ごめんなさい。
【備考】
※自分が翔一を殺したのはキングの罠であることに気付きました。
※渡より『ディケイドを破壊することが仮面ライダーの使命』という言葉を受けましたが、信じていません。


【紅渡@仮面ライダーキバ 死亡確認】
【ネオ生命体@仮面ライダーディケイド完結編 GAMEOVER】
【残り人数 11人】

【備考】
※渡のデイパックの中身{サガーク+ジャコーダー@仮面ライダーキバ、ゼロノスベルト+ゼロノスカード(緑一枚、赤一枚)@仮面ライダー電王、ザンバットソード(ザンバットバット付属)@仮面ライダーキバ、サソードヤイバー@仮面ライダーカブト、支給品一式×3、GX-05 ケルベロス(弾丸未装填)@仮面ライダーアギト、アームズモンスター(ガルルセイバー+バッシャーマグナム+ドッガハンマー)@仮面ライダーキバ、北岡の不明支給品(0~1)、ディスカリバー@仮面ライダーカブト}がD-1市街地、渡の死体にそのまま付けられています。
※ネオ生命体が持っていたキングのデイパックの中身{T2ゾーンメモリ@仮面ライダーW、グレイブバックル@仮面ライダー剣、デンオウベルト&ライダーパス@仮面ライダー電王、首輪(五代、海東)}がD-1市街地にそのまま転がっています。
※キバットバットⅡ世がこの後どうするのか(名護達の仲間に戻るのか、また誰か資格者を見つけようとするのか)は不明です。



151:Chain of Destiny♮父の鉄拳 投下順 152:第四回放送
時系列順
擬態天道 153:Rider's Assemble(前編)
名護啓介
門矢士
紅渡 GAME OVER
ネオ生命体


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2020年07月30日 23:01