加速せよ、魂のトルネード(3)






カブトへと到達せんとしていた風の矢を、黒い壁が切り伏せる。
ガッ、と鈍い音を立て地に落ちる両断された矢を、誰もが驚愕の目で見やる。
何故なら今カブトの前に立ったその戦士の登場を予想していたものは、この場に誰一人としていなかったのだから。

「始……!?」

未だ膝をついたままのカブトが、思わず彼の名前を呼ぶ。
歓喜ではなく驚愕を含んだその声に、しかし張本人であるカリスが振り返ることはない。
ただ真正面から風のエルに敵意の眼差しを向けながら、しかし彼の心中には先ほどまでとは違う総司への感情が芽生えつつあった。

(ジョーカーの男がああまで庇う理由はある……か)

先ほど剣崎を殺したワームとして総司を殺そうとした自分を必死に止めた、ジョーカーの男こと左翔太郎。
彼もまた仮面ライダーであり、剣崎からその志を受け継いだ一人なのだという彼の言葉を、始は正直信じてなどいなかった。
それでもその言葉を無視しブレイバックルを破壊させるのも寝覚めが悪いと、一度はその矛を収めたのだ。

その言葉の真偽を確かめる機会、それを大ショッカーとの次なる戦い……すなわちこのエルロードとの戦いに求める形で、ではあったが。
では果たしてこの戦いで総司の姿は始の目にどう映ったかと問われれば、その答えはただ一つ。
剣崎を殺し、笑顔で逝ったあの男と同じ姿をした男は、始をしても一点の疑いなく仮面ライダーの一人だった……そう認めざるを得ないものだった。

(この地にはお前と並ぶだけの仮面ライダーが多くいる、か。俺にその名を名乗る資格はないが……この男は、違うのかもしれないな)

そうしなければ生まれ変わることは出来ぬと、笑顔で死んだあの男。
彼が残したその最後の言葉が指す存在の一人に、今自身が背に庇う新たなカブトも含まれているのだろうか。
既に確かめようもないそんな感慨を拭うように、カリスは腰のカードホルダーから一枚のカードを取り出す。

ハートスートのK、パラドキサアンデッドを封じたそれを眼前に構えて、彼は勢いよくそれをバックルへと滑らせた。

――EVOLUTION

進化を意味する英単語が、カリスの身体を赤く染めていく。
全てを滅ぼす最悪の死神でありながら人の血を思わせるその体色は、まさしく“相川始”だからこそ辿り着いた一つの最終形。
仮面ライダーワイルドカリスへの変身を果たした彼は刹那、両手に鎌状の双剣を携え風のエル目掛け飛び掛かる。

飛び交う矢など意に介する必要もない。
今までにも増してあっさりと切り伏せながら、カリスはワイルドスラッシャーを振るう。
息つく隙すら見せぬ彼の連撃に、風のエルはあっさりとその身を刻まれ吹き飛んでいく。

「総司、大丈夫か!?」

カリスの圧倒的な強さに息を呑むカブトに対し、ダブルが駆け寄る。
ダメージこそ負ったが、少し休めば戦えるようになるだろう。
自分たちの不手際でカブトが致命傷を負わなかったことを、彼らは心から安堵した。

「僕は大丈夫だよ、それよりも始を手伝って。僕も、すぐ行くから」

「総司……お前」

複雑な感情を抱いて問うた翔太郎の声に、カブトはただ頷く。
仮面に隠れその表情を伺うことは出来ないが、それでも彼が決して渋々始を助けようとしている訳ではないことは明らかだった。
自身を仇として殺意を向けてきた相手すら許容し共に歩もうとするその意志は、翔太郎からしても眩しいほどの仮面ライダーの資質とすら言える。

或いはそれすら彼が剣崎の死に対して抱いている大きすぎる自責の念が生む覚悟なのかもしれないが、それでも。
ダブルはカブトの意を受けて、ゆっくりと立ち上がった。

「行くぜフィリップ、あいつだけに良い格好させらんねぇ」

「あぁ、エクストリームで勝負だ」

風のエルを切りつけるワイルドカリスの姿を目の当たりにしながら、しかしダブルも当然見ているだけで終わるつもりはない。
慣れた手つきでメモリをサイクロンへ換装したその瞬間に、フィリップのデイパックより飛来した鳥を模した自立型メモリが気絶する彼の身体をその身に吸収する。
思いがけぬ光景に困惑するカブトを尻目にそのメモリがドライバーへと装填されたその瞬間、エクストリームは独りでに己が身を開いていた。

――XTREME!

新たなメモリが極限を叫ぶと同時、ダブルの身体から眩い輝きが溢れ出す。
それに呼応するように彼が腕を大きく広げれば、そこにあったのは最早今までのダブルの比ではない。
運命で定められた最高のパートナーだけが辿り着ける最強のダブル、サイクロンジョーカーエクストリームの姿が、そこにあった。

「さぁて、反撃開始と行こうか?」

不敵に告げるダブルの声に、最早一点の不安さえも覗くことはなかった。




「力を手放すが良い。それがお前達の何よりの望みだっただろう」

大ショッカーの刺客たるアンノウンが投げかけたその言葉に、イクサは内心拭いきれない不安を感じていた。
自分がその呼びかけにどう答えるか、という意味ではない。
共に戦う自身の仲間である二人がそれにどう答えるのか、迷いない確信とまで言えるようなものを抱ききれなかったからだ。

(真司君、修二君……)

俯せに地に倒れたままの姿勢で、イクサはチラと後方を見やる。
ナイトに変身した城戸真司と、デルタに変身した三原修二。
彼らに共通するのは、彼らは決して自分と違い悪への義憤によって戦っている訳ではないということだ。

真司が元の世界でライダーとなり戦っていたのは、ライダー同士の殺し合いを止め、ミラーモンスターから人々を守る為。
修二に至ってはこの数時間の別行動の間に少しばかり戦う決意を固めたばかりで、それまでは戦わなければならない状況に不平を訴え続けていた。
共に悪への義憤を人並みに抱く好ましい青年であるとはいえ、言ってしまえば力への執着という点で言えば、彼らの目標はその力を捨てることだとすら思えたのである。

(……)

彼らに対して、憤る気持ちは沸いてこない。
誰かを守る為に戦う事と、悪を打ち倒す為に戦う事は、似ているようで大きく違う。
彼らは心優しい青年だ。その拳を握り誰かを殴りつけることなど、相手が誰であれ望むはずがない。

その末に多くの命を救えるのだと頭で分かっていたとしても、無理に彼らにそれを強いることは、今の名護には出来なかった。

「……出来るかよ」

例え一人だとしても、と決意を固めようとしたイクサの動きを止めたのは、後方から届いた小さな声だった。
思わず振り返れば、名護が今まで見たことがないほどに戦意を滲ませるナイトの姿が、そこにはあった。

「何故だ、お前は戦いを止める為に力を得たはず。何故更なる戦いを求めるのだ」

地のエルが、震えた声で問いを投げかける。
彼からすれば純粋に疑問なのだろう、何故真司が立ち上がろうとしているのか、心の底から理解出来ないに違いなかった。

「俺も正直、この世界に来るまでは、ライダーなんてやめたいって思ったこともあったけどさ……でも、約束したんだ」

漏らすように呟きながら、ナイトはゆっくりと、しかし真っ直ぐに立ち上がる。
絶対に迷うことのない、曇り無き瞳を地のエルへと向けながら。

「『人類の自由と平和の為に戦うヒーロー』って意味の仮面ライダーとして、皆で一緒に戦おう、って」

「そいつはもう、いないけど」と続ける声は、それまでと比べて少し暗い。
だがそれでも言葉を途切れさせることはしない。
抱いた決意を、彼との誓いを決して嘘にはしない為に。

「だから……俺は戦う。最後まで、”仮面ライダー”として」

ナイトが告げたその名前は、最早13人の殺し合いの果て願いを叶える戦士の意ではない。
一緒に笑って、一緒に餃子を食べて、一緒に戦おうとそう屈託無く言い合った彼と、確かめ合ったその名の定義。
世界を滅びから守り、大ショッカーを倒す正義の戦士の意で仮面ライダーを名乗ったナイトの姿には、一点の曇りも見られなかった。

「俺は、知りたいんだ」

ナイトに追随するように、デルタもまた口を開く。
その声はもう、震えていなかった。

「父さんは今までどこにいたのか、俺達にベルトを送ったのはなんでなのか、それから……なんで父さんが大ショッカーにいるのか」

先の放送で大ショッカー幹部としてその姿を見せた自身の父、花形。
ずっと会いたかった彼との予想外の再会は、しかし修二に新たな戦う理由を与えていた。
会って、話をしてみたい。

今までの色んな事や、真理や草加のことも。
もし父が自分の知るような彼とはもう違っているのだとしても、それでも。
子供が父に会いたいと思うことに、理由など必要なかった。

「だから、俺は戦わなきゃいけないんだ。その答えを、知るまでは」

言うが早いか、いつの間にか立ち上がっていたデルタの姿に、イクサは呆気に取られる。
彼は本当に、自分が考えていたよりずっと逞しくなった。
それもきっと良い師匠がついていたからだろうな、と名護は思う。

彼を支えた存在が自分ではなく、あの無邪気な魔人であることに、少しばかり悔しさを覚えながら。
二人に負けているわけにはいかないと、イクサは勢いよく地に二本の足を突き立てた。

「これで分かったか、俺達は決してお前達に屈しはしない。それが、仮面ライダーの答えだ」

「……ぐっ」

呻いた声は、地のエルのもの。
きっとこいつがこの答えを理解することは永遠にないに違いない。
だがそれでいい。

不可解で気紛れで名状しがたい行動を平然と取る、それこそが人間の心なのだから。
これまでにないほど誇り高く、人であることに胸を張りながら、イクサは大きく息を吸い込んだ。

「悪魔の集団大ショッカー!世界を、そしてそこに生きとし生けるもの全てを、貴様らに滅ぼさせはしない。イクサ、爆現……!」

――R・I・S・I・N・G

イクサの純白の鎧が弾け飛び、その姿を青く染める。
それは、22年の月日を経て生まれた人類の英知の結晶、彼が守るべき素晴らしき青空の化身。
ライジングイクサの名を持つ最強形態へと変身を遂げたイクサの姿が、そこにはあった。

――IXA RISER RISE UP

電子音を受けて、チャージを開始するイクサライザー。
さしもの地のエルと言えど、その直撃を真正面から受けるわけには行かぬと察したか。
イクサに向けて手を翳し、塵を放つことでそれを妨げようとする。

「ヌウ……ッ!」

だが刹那彼に突き刺さった白い三角錐状のエネルギーが、その挙動すら押し止める。
ふと見ればそこにあるのは銃口を向けるデルタの姿。
不味い、と打開の策を講じようとした瞬間には既に、デルタは大きく宙に向け飛び上がっていた。

「だああああぁぁぁぁぁ!!!」

絶叫にも等しい雄叫びと共に、ルシファーズハンマーの一撃が地のエルの身体を貫通する。
だが彼に、今まで味わったことのない猛毒に悶える時間が与えられることはなかった。

「ハァッ!」

掛け声一つ吐いて、イクサがトリガーを引く。
それを受け解き放たれた巨大なエネルギー弾は、為す術無い地のエルを焼き大きく吹き飛ばす。
大きく弧を描いて地に落ちた彼はその身から煙を上げ、まさしく満身創痍の風体。

しかし未だ健在である以上は負けを認めるわけには行かぬと、彼は立ち上がる。
……或いは、立ち上がってしまった、と言うべきかも知れないが。

――FINAL VENT

轟いたエンジン音に思わず振り向いた地のエルの目に映るのは、自身に向けて突撃せんとする一騎の巨大な鉄の馬。
それは、自身と契約モンスターたるダークレイダーが一体となって敵を貫くナイト最強の必殺技、疾風断。
その身をマントに包みなお速度を上げ続けるその膨大な質量の塊を避けるだけの体力は、もう彼には残されていなかった。

「ぐうぅああああぁぁッ!」

都合三発の必殺技の連続直撃は、強化された地のエルと言えど、到底耐えきることを許される威力ではない。
絶叫を上げ爆散する敵の肉体を見やりながら、彼らは大きく安堵の息を吐いた。




「ウォラ!」

ダブルの振るうプリズムソードの一刃が、風のエルの身体に消えぬ傷を残す。
明らかに襲い回復に、ダブルの持つ剣そのものが自身の治癒能力を阻害しているに違いないと彼は察するが、しかし反撃の手を講じる暇はない。
横から飛び込んできたカリスの持つ双剣が、構えかけた憐憫のカマサを叩き落とし風のエルの唯一の得物を奪い去った。

「トゥア!」

カリスに切り上げられた風のエルの身体が、容易く宙を舞う。
先ほどまでと打って変わって呆気なく地を転がりながら、彼は冷静に戦況を把握する。
――このままでは彼らには勝てない、と。

どうすればいいのかは分からない。
あの方に頼んだとして、更なる力を自分にくださるという保証もない。
だがそれでも、ここで馬鹿正直に戦ったとして何の意味もないことだけは、確かな事実であった。

「あ、野郎!」

思うが早いか、ダブルが叫ぶ声も無視して風のエルは高くその翼を広げ飛び上がる。
その果てに強さを得られる根拠などなくても、ただ今は彼らにやられたくないという意地にも似た感情だけを抱いて。
だが、高く高く太陽に向けて飛んでいくその翼は刹那、太陽から彼目がけ舞い降りた金色の光に射貫かれた。

「ぐあ……ッ」

呻き、地に落ちる風のエル。
最早逃走すら許されなくなった彼が、それでも何とかその瞳に映したのは。
先ほど自身を貫いた金色の矢……否、剣をその手で受け止めるカブトの姿だった。

「これは……」

困惑を漏らしたカブトが持つその剣の名は、パーフェクトゼクター。
葦原涼の死後、誰の手にも止まることなく自立行動を続けていた孤高の存在だ。
だがそんないきさつなど、当然のことながらカブトが知るよしなどない。

今カブトに変じる総司は本来の所有者の天道とは違い、これがどんな存在なのかすら知らないのだから、それも無理のないことだった。
――刹那、パーフェクトゼクターに色とりどりの機械仕掛けの昆虫たちが集っていく。
そのうち黄色と青のそれに、カブトは見覚えがない。

だが最後に装着された紫のゼクターには、彼にも浅からぬ因縁があった。

(渡君……)

それは、自身の兄弟子であり、一度は道を違え拳を交えたこともある紅渡が使っていたサソードゼクター。
掬いきれなかった後悔の一つでもあるその力を抱いて戦うことは、総司にただの力だけでない強さを与えていた。

「助かったぜ総司、おかげでこいつを逃がさずに済んだ」

「その剣……なるほど、君がそれの本来の持ち主だったというわけだ」

「お喋りは後にしろ、まずはあいつを片付ける」

総司への感謝を漏らした翔太郎やパーフェクトゼクターへの感慨を漏らしたフィリップに対し、カリスはあくまでも冷静に戦況を見つめる。
事実、彼らを前に立ち上がった風のエルは最後の抵抗を試みようと、その敵意を込めた眼差しを真っ直ぐに三人へ向けていた。

「おっといけねぇ。じゃあさっさと片付けるか、お二人さん?」

「うん!」

ダブルの声に従って、彼らは全てを終わらせるため必殺の一撃の準備を開始する。

――KABUTO POWER, THE-BEE POWER, DRAKE POWER, SASWORD POWER
――ALL ZECTERS COMBINE

パーフェクトゼクターを操作するカブトと、13枚のカードを統合するカリス。
二人に負けていられじと、ダブルは懐から4本のメモリを取り出した。

――CYCLONE! HEAT! LUNA! JOKER! MAXIMUM DRIVE!

――MAXIMUM HYPER CYCLONE

――WILD

「ビッカーファイナリュージョン!」

嵐の如くけたたましく鳴り響いた電子音声に負けぬ声量で、ダブルが叫ぶ。
刹那放たれた三つの輝きは、世界を一瞬で白く塗り染めるほどの眩さで以て風のエルの身体を蹂躙する。
少しの後、光が止み景色が元通りの色を取り戻した頃にはもう、彼らの前に敵はなかった。




「ヤァッ!」

ディケイドの掛け声と共に振るわれたライドブッカーが、水のエルの身体を切りつけ火花を散らした。
思わず後退した彼は反撃の手を講じるが、しかしそれを封じるように飛び込んだクウガの拳がその手から長斧を打ち落とす。
息の合ったそのコンビネーションに思わず舌打ちを漏らせば、その隙を逃さずアギトの跳び蹴りが水のエルの身体を大きく吹き飛ばしていた。

「ぐうう……!」

その威力故地面を滑りながらも、しかし水のエルは未だ背を地に着けはしない。
むしろこれから真の戦いだとばかりに、大きく咆哮し三人の頭上へあの紋章を複数発生させる。
空を覆い尽くそうとする圧倒的質量に呻くアギトとクウガ。

だが唯一人この絶望的な状況にもなお希望を絶やさぬ男が一人、彼らの側で切り札を抜いていた。

――FINAL FORMRIDE……A・A・A・AGITO!

「ちょっとくすぐったいぞ」

「え……?」

ディケイドライバーがその名を詠唱するのと同時、狼狽えるアギトを気に留めることもせずディケイドがその背中をなで上げる。
それを受け光を放つアギトの肉体は、刹那最早人型で収まらぬ異次元の変形を遂げていく。
一瞬のうちにアギトトルネイダーへと変身を終えたアギトの姿は、言うなれば宙を浮かぶスライダーの如し。

傍目には異常な光景に水のエルでさえ呆気に取られるその一方で、ディケイドは何の躊躇もなくそのシートの上へ飛び乗っていた。
だが彼はすぐにアギトトルネイダーを発進させることはしない。
察しが悪いなとばかりに溜息一つついて見せて、彼はぶっきらぼうにクウガを振り向いた。

「何突っ立ってる、お前も乗れ」

「……あぁ!」

ディケイドの差し伸べた手を受け取り、アギトトルネイダーへと飛び乗るクウガ。
かつてもディケイドとこうして並んだことはあるが、それでも今見える光景は、あの時と随分違って見えた。

「ハァッ!」

感慨に耽る間もなく、水のエルが次々に紋章を解き放つ。
そのどれもが直撃すれば危ういほどの威力を誇っていたが、逆に言えば当たらなければどうと言うことはない。
スーパーマシンと化した今のアギトを前にしては、その程度の攻撃の嵐を全て潜り抜けることなど、造作も無いことだった。

一瞬で水のエルまで距離を詰めたアギトトルネイダーが反転し、バーニアから放たれた火で敵の身を炙る。
それを受け水の化身たる彼が呻いたその隙に、トルネイダーは空へ向けて一心に加速を開始していた。

――FINAL ATTACKRIDE……A・A・A・AGITO!

ディケイドが装填したカードに秘められた力を、ドライバーが叫ぶ。
それと同時高く太陽を背に飛び上がったディケイドとクウガに並ぶのは、クロスホーンを展開したアギトの姿だった。

「ヤアアアァァァァ!!!」

ディケイドが、クウガが、アギトが雄叫びをあげながらその右足を真っ直ぐに伸ばす。
そして既に万策尽きた水のエルに、この攻撃を前に対処出来るだけの手は存在していなかった。

「ぐわあああああぁぁぁぁぁ!」

三人の仮面ライダーによるトリプルライダーキックの直撃を受けて、水のエルの肉体は無惨にも爆発し消滅する。
地に降り立ち――今度こそ油断なく確実に――敵の消滅を見届け変身を解いた士の視界にふと映ったのは、同じく変身を解除した一条へと駆け寄るユウスケの姿だった。
だが予想に反して、その様相は勝利を分かち合わんとする浮かれたものではない。

まるで悪戯がバレた子供のように、切り出し方を悩んでいるような、そんな所在なさげな仕草だった。
きっとそれは、一条がアギトになったことに責任を感じているからだろう、とディケイドは思う。
彼の先ほどの言葉も、こんな形で消えぬ力を得てしまった事も、全て自分に原因があるのだと彼は感じているのだ。

だがそんな彼の後ろめたさを全て察した上で、士は敢えて何も言わない。
一条とユウスケ、その二人の間にある絆も、きっと自分が思っている以上に強いものに違いないと、そう感じるから。

「一条さん、俺……俺は……」

「――小野寺ユウスケ!」

「え?」

果たして言葉を探し続けるユウスケに対し一条が示したのは、力強く空へ向けて伸びる親指だけを伸ばしたサムズアップだった。
士もかつてどこかで、聞いたことがある。
サムズアップというのは、古代ローマにおいて素晴らしいと認められる働きをした者にだけ与えられる称賛の証だったと。

だけれど一条がユウスケに向けるそれにそんな元来の意味以上のものがあるのは、彼の笑顔が示している。
これからの憂いも、これまでの後悔も、全て感じさせないその顔とそのジェスチャーは、きっと並大抵の言葉で表すことの出来ない感情を秘めている。
だが、いやだからこそ、だろうか。

最初は戸惑いつつあったユウスケも、一条にサムズアップを返す。
きっと由来など何も知らないのだろうが、それでもこの場で最も必要なのはそれを交し合うことなのだと、そう理解したとびきりの笑顔で。
万感の意をその親指に込めた二人の間に、言葉はいらなかった。

――パシャリ。

その一瞬の光景を切り取るように、シャッター音が小さく鳴り響いた。




「……終わったな」

水、風、地。
三つの元素を司る高位のエルロードたちが仮面ライダーを前にその身を散らしたのを見届けて、バルバは小さく呟く。
とはいえその表情には、常と変わらぬ冷ややかな色しか浮かんでいない。

全てが予想通りだとでも言うように、そして全てがまるで空想の中の出来事に過ぎないかのように。
だが、現実味を伴わない無感動な瞳をした彼女とは対照的に、抱えきれぬ憤りをその全身から滲ませる存在もまた、この場に一人。
愛すべき従者を喪っただけでなく、その戦いによって因縁の宿敵の復活を目の当たりにした首領……闇の青年である。

「人よ……やはり貴方たちは、アギトを受け入れると言うのですね」

拳を握りしめ、彼は俯く。
かつての従者が言ったように、人はいずれアギトの存在すらを受け入れるのかも知れない。
だが残念ながら、それを自分が許容することは有り得ない。

皮肉にも、一条薫という”人間”のアギトへの変身によって、それは彼の中で悲しいまでに揺るがない事実として認識されてしまった。
故にそう……アギトを受け入れうるとさえ宣言された人という種そのものへの無償の愛すらも、彼の中で今崩れつつある。
願いの為であれば力を手に嬉々として同族を打つことが出来、姿形が似通った異種族すら正義の名の下に繁栄の礎として踏みつけることが出来る。

偶然にも見つけてしまった異世界で見た人の生き様がどれも、あまりにも醜いものであったから。
それを受け入れたくなくて、どうにか希望を見出そうと全ての美醜を問わず全ての異世界から仮面ライダーと怪人を集めたこの殺し合いを開いた。
例えどれだけ無意味な催しでも、その果てに彼らを愛することが出来るのかどうかを見定めることは出来るだろうと、そう考えて。

「もう間もなく、この殺し合いは終わる。私も答えを……出さなければならないのかもしれません」

誰にともなく、一人呟きだけを残して。
彼の、オーヴァーロード・テオスはゆっくりと歩き出す。
全てを決めるその瞬間に必要な最後の材料を得るために。

仮面ライダーへ自身の言葉を、告げる為に。




時刻は18:00。
都合五度目の定時放送を告げるその時間に、しかし今までと違い飛空挺が現れることはない。
テレビも何の映像を映し出すこともなく、首輪が音声を届けることもない。

静まりかえった空間の無音が、むしろ耳を刺激する。
誰もが何一つとして異変を逃すまいと張り詰めた、痛いほどの緊張感の中。
不意に”それ”は、彼らの中心に現れていた。

「なッ……!?」

一体どうやって、いつの間に。
思わず飛びのき各々の武器を構えた彼らに、しかし突如として存在感を増した”それ”はただゆっくりとその手を制止を呼びかけるように翳した。

「――初めまして。こうして直接お会いするのは、初めてですね」

「お前は……!」

高まった緊迫感が、ひたすらに”それ”に集まっていく。
黒い服を着た、一目見てただならぬ存在感を放つ男。
第四回放送において乃木を呆気なく葬った忘れがたい驚愕の記憶が告げている。

この男と正面からやりあうのは、不味いと。

「皆さんには、まだ私の名を伝えていませんでしたね。私は貴方たちが大ショッカーと呼ぶ組織の首領、名は――テオス」

それは、悠久に渡るこれまでの歴史において、彼が人の身へ初めてその名を告げた瞬間だった。


【二日目 夜】
【D-1 病院前】


【門矢士@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】MOVIE大戦終了後
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、決意、首輪解除
【装備】ディケイドライバー@仮面ライダーディケイド、ライダーカード一式+アタックライドカードセット@仮面ライダーディケイド、ディエンドライバー+ライダーカード(G3、王蛇、サイガ、歌舞鬼、コーカサス、ライオトルーパー)+ディエンド用ケータッチ@仮面ライダーディケイド
【道具】支給品一式×2、ケータッチ@仮面ライダーディケイド、キバーラ@仮面ライダーディケイド、士のカメラ@仮面ライダーディケイド、士が撮った写真アルバム@仮面ライダーディケイド
【思考・状況】
基本行動方針:大ショッカーは、俺が潰す!
0:どんな状況だろうと、自分の信じる仮面ライダーとして戦う。
1:カードが揃った、か。
2:ユウスケをもう究極の闇にはさせない。
3:ダグバへの強い関心。
4:相川始がバトルファイトの勝者になった時のことはまたその時に考える。
【備考】
※現在、ライダーカードはクウガ~ディケイドの力全てを使う事が出来ます。


【小野寺ユウスケ@仮面ライダーディケイド】
【時間軸】第30話 ライダー大戦の世界
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、アマダムに亀裂(更に進行)、首輪解除
【装備】アマダム@仮面ライダーディケイド 、ガタックゼクター+ライダーベルト(ガタック)@仮面ライダーカブト、 ZECT-GUN@仮面ライダーカブト
【道具】なし
【思考・状況】
0:テオスに対処する。
1:これ以上暴走して誰かを傷つけたくない。
2:……それでも、クウガがもう自分しか居ないなら、逃げることはできない。
3:士に胸を張れる自分であれるよう、もう折れたりしない。
【備考】
※アマダムが損傷しました。地の石の支配から無理矢理抜け出した為により一層罅が広がっています。自壊を始めていますが、クウガへの変身に支障はありません。
※ガタックゼクターに認められています。


【左翔太郎@仮面ライダーW】
【時間軸】本編終了後
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、首輪解除
【装備】ダブルドライバー+ガイアメモリ(ジョーカー+メタル+トリガー)@仮面ライダーW、ロストドライバー@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2(翔太郎、木場)
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、世界の破壊を止める。
0:テオスに対処する。
1:仲間と共に戦い、大ショッカーを打倒する。
2:相川始かダグバ、どちらかが生き残れば世界が全て滅びる……?
3:ジョーカーアンデッド、か……。
【備考】
※大ショッカーと財団Xに何らかの繋がりがあると考えています。
※キング@仮面ライダー剣から、『この場でジョーカーアンデッドが最後のアンデッドになったときには、全ての世界が滅びる』という情報を得ました。


【フィリップ@仮面ライダーW】
【時間軸】原作第44話及び劇場版(A to Z)以降
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、首輪解除
【装備】ガイアメモリ(サイクロン+ヒート+ルナ+ファング+エクストリーム)@仮面ライダーW
【道具】支給品一式×2、T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW、ツッコミ用のスリッパ@仮面ライダーW、霧彦のスカーフ@仮面ライダーW、イービルテイル@仮面ライダーW
【思考・状況】
0:仲間と共に大ショッカーを打倒する。
1:テオスに対処する。
2:大ショッカーは許さない。


【一条薫@仮面ライダークウガ】
【時間軸】第46話 未確認生命体第46号(ゴ・ガドル・バ)撃破後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、首輪解除
【装備】アクセルメモリ+トライアルメモリ@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW
【道具】食糧以外の基本支給品×1、車の鍵@???
【思考・状況】
基本行動方針:照井の出来なかった事をやり遂げるため『仮面ライダー』として戦う。
0:テオスに対処する。
1:ありがとう、津上君。
2:五代……。
3:鍵に合う車を探す。
4:一般人は他世界の人間であっても危害は加えない。
5:遊び心とは……なんなんだ……。
【備考】
※体調はほぼ万全にまで回復しました。少なくとも戦闘に支障はありません。
※アクセルドライバーは破壊されました。
※仮面ライダーアギトに変身することが出来るようになりました。このことによる反動などがあるかは不明です。


【城戸真司@仮面ライダー龍騎】
【時間軸】劇場版、美穂とお好み焼を食べた後
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、強い決意、首輪解除
【装備】ナイトのデッキ+サバイブ(疾風)@仮面ライダー龍騎
【道具】支給品一式、優衣のてるてる坊主@仮面ライダー龍騎
【思考・状況】
基本行動方針:仮面ライダーとして、みんなの命を守る為に戦う。
0:テオスに対処する。
1:自分の願いは、戦いながら探してみる。
2:蓮、霧島、ありがとな。


【三原修二@仮面ライダー555】
【時間軸】初めてデルタに変身する以前
【状態】覚悟、ダメージ(中)、疲労(中)、首輪解除
【装備】デルタギア(ドライバー+フォン+ムーバー)@仮面ライダー555
【道具】草加雅人の描いた絵@仮面ライダー555
0:テオスに対処する。
1:流星塾生とリュウタロスの思いを継ぎ、逃げずに戦う。
2:リュウタ……お前の事は忘れないよ。
3:父さんが何故大ショッカーに……?


【相川始@仮面ライダー剣】
【時間軸】本編後半あたり(第38話以降第41話までの間からの参戦)
【状態】ダメージ(中)、疲労(中)、首輪解除
【装備】ラウズカード(スペードA~Q、ダイヤA~K、ハートA~K、クラブA~K)@仮面ライダー剣、ゼクトバックル(パンチホッパー)@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式、栗原家族の写真@仮面ライダー剣、ブレイバックル@仮面ライダー剣
【思考・状況】
基本行動方針:栗原親子のいる世界を破壊させないため、大ショッカーを打倒する。
1:テオスに対処する。
2:ディケイドもまた正義の仮面ライダーの一人だというのか……?
3:剣崎を殺した男(天道総司に擬態したワーム)はいずれ倒す。
4:ジョーカーの男……変わった男だ。
5:もしダグバに勝った後、自分がバトルファイトの勝者になれば、その時は……。
【備考】
※ホッパーゼクター(パンチホッパー)に認められています。
※ディケイドを世界の破壊者、滅びの原因として認識しました。しかし同時に、剣崎の死の瞬間に居合わせたという話を聞いて、破壊の対象以上の興味を抱いています。


【擬態天道総司(ダークカブト)@仮面ライダーカブト】
【時間軸】第47話 カブトとの戦闘前(三島に自分の真実を聞いてはいません)
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、首輪解除
【装備】ライダーベルト(ダークカブト)+カブトゼクター+ハイパーゼクター+パーフェクトゼクター@仮面ライダーカブト
【道具】支給品一式×2、753Tシャツセット@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:天の道を継ぎ、正義の仮面ライダーとして生きていきたい。
1:テオスに対処する。
2:剣崎と海堂、天道や翔一の分まで生きて、みんなのために頑張る。
3:放送のあの人(三島)はネイティブ……?
4:士が世界の破壊者とは思わない。
5:元の世界に戻ったら、本当の自分のお父さん、お母さんを探してみたい。


【名護啓介@仮面ライダーキバ】
【時間軸】本編終了後
【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、決意、首輪解除
【装備】イクサナックル(ver.XI)@仮面ライダーキバ、ファンガイアバスター@仮面ライダーキバ
【道具】支給品一式×2(名護、ガドル)、名護のボタンコレクション@仮面ライダーキバ
【思考・状況】
基本行動方針:悪魔の集団 大ショッカー……その命、神に返しなさい!
0:自分の正義を成し遂げるため、前を進む。
1:テオスに対処する。
2:直也君の正義は絶対に忘れてはならない。
3:総司君は心強い俺の弟子だ。
【備考】
※紅渡は死亡しましたが、ゼロノスカードで消えた記憶は消えたままです。


154:加速せよ、魂のトルネード(2) 投下順 155:[[]]
時系列順
一条薫
城戸真司
三原修二
相川始
擬態天道
名護啓介
門矢士
小野寺ユウスケ
左翔太郎
フィリップ
ラ・バルバ・デ
オーヴァーロード・テオス
水のエル GAME OVER
風のエル
地のエル


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最終更新:2021年08月14日 13:19