DEVILMAN:URSUS ARCTOS


この物語に、飛鳥了は存在しない。


――――地獄だ、ここは。


青年、不動明は孤島の中を進みながら心中で吐き捨てた。
地図で表すとF-7に存在する廃墟の地下室の中を歩いていた。
そこには複数の人間の死体が転がっていた。
まるで人体のジグソーパズルと言わんばかりに破損した死体が。

――――ここは人とヒグマが創りだした地獄だ。

その正体がなんであるか、明はわかっていた。
先ほどの会場でその神をも思わせる暴虐を見せたヒグマの仕業に他ならない。

――――人類の誰もがヒグマから逃げ、ヒグマ自身も冬眠に失敗し未来へ必死にもがき続ける。

これは恐らく穴持たずとなったヒグマの凶暴性のテストだろう。
本当にその個体は人を襲うのか。
炎を熱いと思うかを試すような、そんな無意味なテストだったのだ。

――――この地獄は、続く。ヒグマが生きる限り、冬が終わらない限り。

明はこの地獄の正体を知っている。
人類の凶暴性とヒグマの凶暴性。
種類は違うが、恐ろしさは同じ。

――――もはやヒグマは手がつけられない。

これはヒグマだけが創りだした地獄ではない。
人が作り出し、ヒグマが泣いて喜んだ地獄だ。

――――まさしくサタンだよ、眼鏡の青年!ヒグマを持って人間を殺す黙示録の蛇だ!

有冨春樹へと向かって侮蔑そのものの賛辞を心の中で送る。
そして、同時にこれから起こることへの舌打ちも行った。

「ハッピーバースデー、デビルヒグマ」

もはや悪魔へと変わったその動物に対して、それでも明は祝福の言葉を送った。
背後へのヒグマへの、祝福の言葉だ。
明の背後から一匹のヒグマが現れた。
ただならぬ気配。
ヒグマだ。

「綺麗だな、お前……」

その自然界の暴虐を形にしたかのようなヒグマに、賛辞の言葉しか出てこない。
人間の醜さを目の当たりにしたからだろうか。
醜悪な人類に比べればヒグマが天使のように思えたのだ。

それでも、明はヒグマと戦うことを決めた。
生きるために、生きるために。

「ヒグマを一匹も殺せないんなら、デビルマンになった意味ねーだろーが!」

誰に言うでもなく、明はヒグマへと向かって不敵に笑みを浮かべた
子供のかけっこのポーズを連想させる不格好な姿勢。

「デヴィゥゥィゥィゥ!!」

意味を持たない叫び。
しかし、明はその姿を歪に変化させていく。
肉体は風船のように膨らんでいき、体の節々は岩石のように硬質化する。
顔面は彩りを変え、兜を被ったかのように皮膚が隆起していく。
髪は蝙蝠を連想させる形に固定化され、角を思わせる形にセットされた。
その姿、まさしく悪魔。
そう、そこには悪魔がいた。

「勝負だ、ヒグマ!」

ヒグマvsデーモン。
古代に行われた種の存亡をかけた決戦。
その続きが、黙示録の再現がこの場で行われようとしていた。

「滅びろ、ヒグマ!!」

デーモンの勇者と呼ばれたアモンの膂力を使った正拳突き。
しかし、ヒグマはその正拳突きに合わせるように
明らかにデビルマンの攻撃のほうが早かった。
しかし、ヒグマの攻撃のスピードはデビルマンを遥かに凌駕していたのだ!
デビルマンの拳とヒグマの張り手がぶつかり合う。
空気が震え、周囲の死体が衝撃で吹き飛ぶ。
決着は一瞬だった。
デビルマンの拳は真っ二つに裂ける。
拳、手首、二の腕、肩口。
右腕が一瞬で破壊されたデビルマンは、声にならぬ叫びを上げて悶え苦しんだ。
技量も知能も持たぬ穴持たずに、人の心を持った悪魔が敗北した瞬間だった。
穴持たずに駆け引きも糞もない、少なくともこのヒグマにはそんなものは存在しない。
ヒグマは躊躇いなく左腕を振り上げる。
そして、目にも留まらぬスピードで振り払った左手はデビルマンの腹部に食い込み、容易く真っ二つに両断した。

――――デビルマン・不動明は未来永劫の眠りについた。

別に神の軍団は訪れない。

【不動明@実写版デビルマン 死亡】

【F-7廃墟/深夜】
【穴持たず1】
状態:健康
装備:なし
道具:なし
[備考]
※デビルヒグマの称号を手に入れました。

No.001:グリズリーハンターSATEN 投下順 No.003:果実の祭典
No.001:グリズリーハンターSATEN 時系列順 No.003:果実の祭典
不動明 死亡
穴持たず1 No.049:戦いの儀

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最終更新:2014年09月15日 01:26