果実の祭典


「なんで『アイツ』がココにいるなっしー!?」

長方形に近い身体から突き出した短い手足を必死に動かしながら、その黄色い生物は必死に駆けていた。

灰色に澱み上方に視線が固定された目。
Tシャツを着ているかのように蒼く彩られた胴体中央部。
胸元に飾られた、返り血とも蛾とも呼ばれる、赤いリボンのようなもの。
そして頭の上には、歩を踏み出すたびに揺れる緑の葉。

御存知、千葉県船橋市の「非公認」ゆるキャラ、ふなっしーその人である。

その、Tシャツに見える蒼い部分と、顔の黄色い部分との境目には、巨大なベルトのようなものが光る。
そう、首輪だ。
爆弾入りの首輪だ。
ふなっしーの体型上、そのままスポッと上に抜くこともできそうだが、彼の短い手ではそれも叶わない。
それに、そんなものに構っていられないほどに深刻な危機が、彼の背後から迫っている。

ふなっしーは駆ける、駆ける、ゆるキャラ業界屈指の運動能力を駆使してひたすら駆ける。
薄暗い森の中、木々の下を潜り、倒木を飛び越え、坂を駆け昇り小川を飛び越え、ひたすら駆ける。

――そんな彼の背後、数秒遅れて響く、追跡者の足音。
木々の枝を無造作にへし折り、倒木を踏み砕き、坂を駆け昇り小川を踏み越え、執拗に追跡する巨大な獣。


森に漂う甘い香りは、ふなっしーの汗か、涙か、それとも――


「……ふぎゃれべっ!? プッシャーーーーッ!?」

とうとう、ふなっしーが湿った落ち葉に足を滑らせて転倒する。
ついうっかり梨汁を漏らしてしまったあたり、その動揺の程が伺える。

「く、くるなっしー……!
 てか、なんで『オマエ』が『ココ』に……!」

近寄ってくる獣臭、そして、そこに混じる高級感あふれる芳香。
木々の間からゆっくりと姿を現した、最強のケダモノ――

ふなっしーとは別ベクトルで異端のゆるキャラ。
北海道は夕張代表。

知らない仲ではない。
ご当地キャラやゆるキャラのイベントで何度も共演している。
そのたびに襲われ、噛み付かれ……しかしある意味、それは既にお約束であって。


その本質は――けっして『ゆるキャラ』の枠に収まるものではない!
メロン熊、それは夕張のおいしいメロンを食い荒らして変貌した、野生のフルーツアニマルなのだ!
そして、見守る者もなく、遮る者もいないこの場では――

まさに、その獣性が解き放たれる。

「ぎゃぴっ!? ま、マジでやめっ!?
 千切れちゃう、千切れちゃうなっし……
 プシャーーッ!?
 やめて中身出ちゃうやめてなっし、やめなっし……
 プッシャーーーーッ! プシャ、プッシャーーーーーッ!」

森の中、熊の爪と牙が振るわれるたびに、悲鳴と梨汁の噴出音だけが響く。

運動会であれば勝ち目もあったろう。
舞台の上のショーであれば笑いも取れたであろう。
しかしこの場は、残酷なまでの殺し合いのための空間。
ふなっしーがメロン熊に抵抗できる余地など、絶無であった。

ひときわ大きな梨汁の噴射とともに、梨の化身はその動きを止めて。
森の中、シャク、シャク、と小気味よい咀嚼音だけが刻まれ始めた。




【ふなっしー@ゆるキャラ 死亡】


【D-8森/深夜】

【メロン熊@ゆるキャラ】
状態:健康
装備:
道具:
基本思考:ただ獣性に従って生きる
1:……。
※穴持たず3は夕張のおいしいメロンを喰い荒らし、メロン熊へと変貌を遂げていました。


No.002:DEVILMAN:URSUS ARCTOS 投下順 No.004:鮭狩り
No.002:DEVILMAN:URSUS ARCTOS 時系列順 No.004:鮭狩り
ふなっしー 捕食(No.074:スーパーヒーロー大戦H
メロン熊 No.047:変身!空から……

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最終更新:2014年09月15日 01:30