戦いの儀



武藤遊戯は逃げていた。
何からか、などと語るまでもない。
この会場内を闊歩する野生の獣――――ヒグマからだ。

「いきなり熊と会うなんてツイてないぜ!」

遊戯王の世界には多種多様な人間がいる。
恐竜さんの化石を移植され、恐竜のDNAを持つことになった人間。
ダイナマイトの爆発に巻き込まれた上、崖から墜落しても無事な人間。
熊を一頭伏せてターンエンドする人間。
その他にも様々な技能を持った人間がいる。
武藤遊戯はその中でも頂点に君臨する伝説の決闘者(デュエリスト)。

栄えある初代キング・オブ・デュエリストである。
しかしそれ以外は普通の人間であり、ヒグマを倒せる力などあるわけがない。
故に逃げるしかなかった。

(このままじゃ追い付かれちゃうよ、もう一人の僕!)
「分かってる……こうなったらやるしかない!」

ヒグマの圧倒的なスピードに追い詰められた遊戯は、左腕に装着した盾のような機械に手を伸ばした。
否、それは盾のような機械ではなく盾。
決闘者にとって必須アイテムである決闘盤(デュエルディスク)だ。
決闘盤の中心にセットされたデッキから何枚かカードを引く。
その中から一枚のカードを素早く選び、決闘盤に置いた。

「【幻獣王ガゼル】を召喚!」

遊戯の背後から角の生えた獣が現れ、ヒグマへと襲い掛かった。
決闘者にとって決闘盤が盾なら、カードは剣である。
一般人にとってはただの紙切れだとしても、遊戯にとっては何よりも信頼できる武器なのだ。
雄叫びを上げる幻獣王ガゼル。
ヒグマはその場に静止し、鋭い目付きでガゼルを見据える。
今まで纏っていたヒグマの気配が”動”から”静”へと変わっていく。
そして、肉体にも変化が訪れた。

ヒグマの左腕の皮膚が盛り上がり、そこから肉が突き出る。
突き出た肉は肘の方へと伸びていき、やがて金属のように硬化していった。

「馬鹿な、そんなことがあるのか……?」

遊戯は目の前の光景を見て、己が目を疑った。
ヒグマの左腕にあるのは、あまりにも見慣れた機械。
己の左腕にも装着されている物と同じ――――決闘盤だ。

「このクマ、決闘するつもりなのか!?」

素っ頓狂な声を上げる遊戯。
にわかには信じ難い話だが、ヒグマは決闘をするつもりのようだ。
動物が決闘できるのか、という疑問が残る。
だがとある島にて、猿が決闘をしたという記録が残っていた。
猿が決闘できるのだから、ヒグマが決闘できても何の問題もない。
それに戦闘では歯が立たないが、決闘ならばこちらにも勝機がある。
むしろキング・オブ・デュエリストにヒグマ如きが勝てるわけないだろう。

(どうせ使ってくるのは熊に関連するカードだよ、もう一人の僕なら勝てるさ)

膨大なカードプールの中から熊に関連するカードを何枚か上げていく。
その中にはそこそこ強力なカードもあるが、他の動物と組み合わせることで力を発揮するものばかりだ。
ヒグマとしてのプライドを持つ彼らなら、他の動物のカードを使うわけがない。
大した相手ではない、と遊戯は踏む。

「【レスキュー・ラビット】召喚、除外してデッキから【ヴェルズ・ヘリオロープ】を二体特殊召喚」
「は?」

遊戯はキレた。
ヒグマは他の動物を使用するどころか、遊戯の知らないカードを使ってきたのだ。

「待て、なんだそのカードは? どうしてそんなカードを持っている!?」
「私の使用する【ヴェルズ】は2011年に登場したデッキだ
 2004年に漫画もアニメも終わった貴様にとっては未来のカードだろうな」

ヒグマは決闘をするどころか、遊戯の知らない未来のカードを使ってきた。
しかもなんと喋ったのだ。
決闘はコミュニケーション能力が必要なため、言語を扱うことは必須である。
しかし、常識的に考えて熊が喋るわけがない。
遊戯は頭を抱えたが、そういうものだと解釈した。
きっとヒグマのフィールかなんかだろう。

「【ヴェルズ・ヘリオロープ】二体でオーバーレイ、【ヴェルズ・オピオン】をエクシーズ召喚」

緑色の兵士二体が交じり合い、現れたのは氷の翼を持った四足歩行の黒龍。
なんか枠が黒いカードだった。
遊戯の知らない召喚方法だったが、ヒグマのフィールによって頭に入り込んできた。
エクシーズ召喚とは同じレベルのモンスター二体を重ね、エクストラデッキ(旧融合デッキ)のモンスターを更に重ねる召喚方法らしい。
上の例で語るなら、ヴェルズ・オピオンはレベル4であるヴェルズ・ヘリオロープを二体素材にしている。
基本的にレベル以外の制限はないが、ヴェルズ・オピオンは強力過ぎるために素材がヴェルズのカードに限定されていた。
そしてエクシーズモンスターのミソは、下に重ねたエクシーズ素材に関連した効果を持っているようだ。

「【ヴェルズ・オピオン】の効果発動、エクシーズ素材を一枚墓地へと送り、デッキから【侵略の汎発感染】をサーチ」

遊戯が唸っている間にヒグマは決闘を進めていく。
ヴェルズ・オピオンのエクシーズ素材を捨て、デッキから一枚のカードを加えていた。

「俺が知らないモンスターばかり……一体どうすればいいんだ」

カードゲームにおいて、相手のカードを知っているかどうかは大きな差になる。
未来のカードで構成されているヒグマのデッキは、遊戯の知識にあるわけがなかった。
一方的に情報差があるという状況は遊戯の圧倒的に不利だろう。

(こうなったらあれしかない!)

遊戯が心の中で叫ぶ。
どうやら秘策があるようである。

「カードの効果を見せてもらってもいいですか?」
「いいだろう」

遊戯はヒグマへと近づき、ヒグマからカードを受け取った。
決闘中に分からないカードがあれば効果を確認するのは基本中の基本である。

《レスキューラビット/Rescue Rabbit》 †
効果モンスター(準制限カード)
星4/地属性/獣族/攻 300/守 100
このカードはデッキから特殊召喚する事はできない。
自分フィールド上に表側表示で存在するこのカードをゲームから除外して発動する。
自分のデッキからレベル4以下の同名通常モンスター2体を特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。
「レスキューラビット」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

《ヴェルズ・ヘリオロープ/Evilswarm Heliotrope》 †
通常モンスター
星4/闇属性/岩石族/攻1950/守 650
ルメトモ ヲンエウユシ ツメハ イカハ ンネヤジルナウコウス
ノズルエヴンイ イシマタノラレワ ルナクアヤジ テシニイスンユジ

《ヴェルズ・オピオン/Evilswarm Ophion》 †
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/闇属性/ドラゴン族/攻2550/守1650
「ヴェルズ」と名のついたレベル4モンスター×2
エクシーズ素材を持っているこのカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、
お互いにレベル5以上のモンスターを特殊召喚できない。
また、1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。
デッキから「侵略の」と名のついた魔法・罠カード1枚を手札に加える。

《侵略の汎発感染/Infestation Pandemic》 †
速攻魔法
自分フィールド上の全ての「ヴェルズ」と名のついたモンスターは、
このターンこのカード以外の魔法・罠カードの効果を受けない。

ヒグマが使用したカードを見て、遊戯は顔を真っ青にしている。
明らかにインフレしていた。
ブラッド・ヴォルスやヂェミナイ・エルフで戦っていた時代は何処に行ったのだろうか。

「【ヴェルズ・オピオン】で【幻獣王ガゼル】に攻撃」

ヴェルズ・オピオンの口から放たれたブレスが放たれる。
幻獣王ガゼルの攻撃力が1500なのに対し、ヴェルズ・オピオンの攻撃力は2550。
戦闘で敗れた幻獣王ガゼルは砕け散り、その残骸が遊戯へと襲い掛かった。

「ぐあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

遊戯:LP8000→6950

この決闘はヒグマパワーによりダメージが実体化している。
襲い掛かってくる衝撃に遊戯は悲鳴を上げた。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド」

ヒグマ:LP:8000 手札:4
デッキ: 墓地: 除外: フィールド:
モンスター:1「ヴェルズ・オピオン/ATK2550」 2「/」 3「/」 4「/」 5「/」
魔法・罠:1「■」2「■」3「」4「」5「」

「俺のターン、ドロー!」

デッキから新たなカードを引く遊戯だが、その表情は苦しげである。
それもそうだろう。
ヴェルズ・オピオンがいる限り、レベル5以上のモンスターを特殊召喚できないのだ。
よく分からない人は、こいつがいる限りブラック・マジシャンも暗黒騎士ガイアも出せないと思えばいい。
遊戯は知るよしもないが、【ヴェルズ】は2013年11月現在において最強デッキの一つと呼ばれていた。
相手の強力なモンスターを封じ、自分だけが一方的に攻め入ることができるからだ。
そう、まるでヒグマが四肢を一本ずつもいでくように。
緩やかに、確実に、対戦相手を死に至らしめるのである。
決闘者にとってカードが剣なら、ヒグマにとってのカードは爪と牙。
獲物を死に至らしめ、己が食料と変えるための手段なのだ。

(くっ……この手札ではあのモンスターを倒すことはできない、ここは凌ぐしかない)

上級モンスターの特殊召喚を封じられた遊戯に、ヴェルズ・オピオンを倒す手段は無かった。

「俺はモンスターをを裏守備表示で召喚、さらにカードを二枚セットしてターンエンドだ」

遊戯:LP:6950 手札:3
デッキ: 墓地: 除外: フィールド:
モンスター:1「■」 2「/」 3「/」 4「/」 5「/」
魔法・罠:1「■」2「■」3「」4「」5「」

「私のターン、ドロー。スタンバイ、メイン。【ヴェルズ・サンダーバード】を召喚」

《ヴェルズ・サンダーバード/Evilswarm Thunderbird》 †
効果モンスター
星4/闇属性/雷族/攻1650/守1050
魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、
自分フィールド上のこのカードをゲームから除外できる。
この効果は相手ターンでも発動できる。
この効果で除外したこのカードは次のスタンバイフェイズ時にフィールド上に戻り、
攻撃力は300ポイントアップする。
「ヴェルズ・サンダーバード」の効果は1ターンに1度しか発動できない。

「バトルフェイズに突入、【ヴェルズ・オピオン】で裏守備モンスターへ攻撃」
「罠カード発動、【魔法の筒】!」

《魔法の筒/Magic Cylinder》 †
通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。
攻撃モンスター1体の攻撃を無効にし、
そのモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

これは相手の攻撃を無効にし、その攻撃力分のダメージを相手に与えることができる強力なカードだ。
容易に入手することができたため、遊戯王の馴染みのある者なら一度は使ったことがあるだろう。

「……」

考え込む素振りを見せるヒグマ。
遊戯もヒグマの顔を見据えながら、ごくりと生唾を呑み込む。

「通そう」

ヒグマ:LP8000→5450

「しかしこの瞬間、【ヴェルズ・サンダーバード】の効果を発動」

ヒグマの宣言と同時に、ヴェルズ・サンダーバードがフィールドから飛び去っていく。
このカードは他のカードの効果が発動した時、除外ゾーンに逃げることができるのだ。

「このままターンエンドだ」

ヒグマ:LP:5450 手札:4
デッキ: 墓地: 除外: フィールド:
モンスター:1「ヴェルズ・オピオン/ATK2550」 2「/」 3「/」 4「/」 5「/」
魔法・罠:1「■」2「■」3「」4「」5「」

「俺のターン、ドロー!」

カードをドローする遊戯。
同時に飛び去っていたヴェルズ・サンダーバードがフィールドへと戻ってくる。
その攻撃力は300上昇し、1950へとなっていた。

「くっ……」

強力なカウンターパンチを決めたというのに、遊戯の表情は優れないままである。

「俺はモンスターをもう一体裏守備表示で召喚して、ターンエンドだぜ」

遊戯:LP:6950 手札:3
デッキ: 墓地: 除外: フィールド:
モンスター:1「■/?」 2「■/?」 3「/」 4「/」 5「/」
魔法・罠:1「■」2「」3「」4「」5「」

「私のターン、そのままバトルフェイズに突入、【ヴェルズ・オピオン】で1の裏守備モンスターに攻撃」

ヴェルズ・オピオンのブレスが姿を見せぬモンスターを貫く。
裏守備モンスターはホーリー・エルフ。
守備力で劣る彼女は氷像と化し、その生命を無残に散らせていく。

《ホーリー・エルフ/Mystical Elf》 †
通常モンスター
星4/光属性/魔法使い族/攻 800/守2000
かよわいエルフだが、聖なる力で身を守りとても守備が高い。

「続いて、【ヴェルズ・サンダーバード】で2の裏守備モンスターに攻撃」

ヴェルズ・サンダーバードが空中から急降下し、二体目の裏守備モンスターへと襲い掛かる。
そのカードの正体はエルフの剣士。
守備力はたったの1200であり、ホーリー・エルフと同様に破壊される――――はずだった。
エルフの剣士はヴェルズ・サンダーバードの嘴を剣で受け止め、その猛攻を耐え凌いだのだ。

「……【翻弄するエルフの剣士】か」

《翻弄するエルフの剣士/Obnoxious Celtic Guard》 †
効果モンスター
星4/地属性/戦士族/攻1400/守1200
このカードは攻撃力1900以上のモンスターとの戦闘では破壊されない。

「ああ、このモンスターは攻撃力1900以上のモンスターには破壊されない。
 【ヴェルズ・サンダーバード】の効果を使ったのが裏目に出たな」

ヴェルズ・サンダーバードの元々の攻撃力は1650。
本来なら翻弄するエルフの剣士を破壊できていたが、自身の効果で攻撃力が1950になっていたため破壊に失敗していた。

「小癪な真似を。私はカードを一枚伏せてターンエンドだ」

ヒグマ:LP:5450 手札:4
デッキ: 墓地: 除外: フィールド:
モンスター:1「ヴェルズ・オピオン/ATK2550」 2「ヴェルズ・サンダーバード/ATK1950」 3「/」 4「/」 5「/」
魔法・罠:1「■」2「■」3「■」4「」5「」

「俺のターン……モンスターと魔法罠を一枚ずつ伏せてターンエンドだ」

遊戯:LP:6950 手札:2
デッキ: 墓地: 除外: フィールド:
モンスター:1「■/?」 2「翻弄するエルフの剣士/DEF1200」 3「/」 4「/」 5「/」
魔法・罠:1「■」2「■」3「」4「」5「」

「私のターン。フッ、どうやら貴様の小細工もここまでのようだな」
「何……?」
「私は【ヴェルズ・ヘリオロープ】を通常召喚」

レスキュー・ラビットの効果でデッキから呼び出され、ヴェルズ・オピオンの素材になったモンスターだ。

「【ヴェルズ・ヘリオロープ】の攻撃力は1950、【翻弄するエルフの剣士】を破壊することは……はっ、エクシーズ!」
「その通りだ【ヴェルズ・サンダーバード】と共にオーバーレイ・ネットワークを構築!」

ヴェルズ・ヘリオトロープとヴェルズ・サンダーバードが光の球へと変わり、地面に発生した渦へと吸収されていく。
そして、現れたのは帆に50と刻まれた黒い木組みの船。

「現れよ! 【No.50 ブラックコーン号】! そして効果を発動だ!」

ブラックコーン号のエクシーズ素材が消費され、効果が発動する。
遊戯のフィールドにいた翻弄するエルフの剣士が、ブラックコーン号の砲口へと吸収された。

「発射!」

そして、砲弾として遊戯に発射された。

「ぐうぅぅっ!」

遊戯:LP6950→5950

これこそがブラックコーン号の効果。
相手モンスターを砲弾へと変え、プレイヤーに射出するのだ。

《No.50 ブラック・コーン号/Number 50: Blackship of Corn》 †
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/闇属性/植物族/攻2100/守1500
レベル4モンスター×2
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、
このカードの攻撃力以下の攻撃力を持つ
相手フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターを墓地へ送り、
相手ライフに1000ポイントダメージを与える。
この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

「さらにバトル、【ヴェルズ・オピオン】で裏守備モンスターに攻撃」
「罠カード発動! 【聖なるバリア -ミラーフォース-】!」

《聖なるバリア -ミラーフォース-/Mirror Force》 †
通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。
相手フィールド上に攻撃表示で存在するモンスターを全て破壊する。

非常に有名なカードの一枚。
相手の攻撃宣言で発動し、相手の攻撃表示モンスターを全て破壊する単純明快なカードだ。
ヴェルズ・オピオンのブレスが跳ね返され、ヒグマのモンスター達へと襲い掛かる。

「無駄だ、伏せていた【侵略の汎発感染】を発動」

最初のターンにヴェルズ・オピオンの効果でサーチしたカードだ。

「このカードの効果で、このターン【ヴェルズ】と名の付いたモンスターは魔法・罠の効果を受けない!」

ヴェルズ・オピオンの身体が黒い靄に包まれ、跳ね返されたブレスを更に跳ね返す。
それは遊戯の裏守備モンスター――――磁石の戦士βを木っ端微塵に粉砕した。

《磁石の戦士β/Beta the Magnet Warrior》 †
通常モンスター
星4/地属性/岩石族/攻1700/守1600
α、β、γで変形合体する。

このカードの効果を知っていたからこそ、魔法の筒の発動に成功しても遊戯は喜ぶことができなかったのだ。
あの場面で魔法の筒を囮にし、本命である聖なるバリア -ミラーフォース-を発動する算段であった。
しかし、ヒグマは囮に引っかからなかった。
ヒグマが相当なデュエルタクティクスを持っていることを遊戯は理解する。

「だが【No.50 ブラックコーン号】は【ヴェルズ】じゃない、沈没してもらうぜ」
「分かってるさ。だがこのタイミングで【サイクロン】を発動。残ったカードは破壊させてもらう」

墓地へと送られるブラックコーン号。
だが同時に突風が発生し、遊戯のセットカードを破壊する。
そのままヒグマはターンエンドを宣言し、遊戯のターンへと回った。

《サイクロン/Mystical Space Typhoon》 †
速攻魔法
フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。

ヒグマ:LP:5450 手札:4
デッキ: 墓地: 除外: フィールド:
モンスター:1「ヴェルズ・オピオン/ATK2550」 2「/」 3「/」 4「/」 5「/」
魔法・罠:1「■」2「」3「」4「」5「」

(まずいよ、もう一人の僕!)
「分かってる……!」

ライフポイントでは遊戯が勝っているが、カードの枚数においては圧倒的な差が付いていた。
ヒグマの手札は四枚、フィールドにはヴェルズ・オピオンと二枚のセットカード。
遊戯の手札は三枚、フィールドにはセットカードが一枚のみ。
単純計算で三枚の差が付いてしまっている。

「俺はモンスターを裏守備表示でセット、ターンエンドだ」

遊戯:LP:5950 手札:2
デッキ: 墓地: 除外: フィールド:
モンスター:1「■/?」 2「/」 3「/」 4「/」 5「/」
魔法・罠:1「」2「」3「」4「」5「」

「私のターン! 【ヴェルズ・カストル】を召喚して効果を発動!
 手札にいるもう一体の【ヴェルズ・カストル】を召喚する」

《ヴェルズ・カストル/Evilswarm Castor》 †
効果モンスター
星4/闇属性/戦士族/攻1750/守 550
このカードが召喚に成功したターン、
自分は通常召喚に加えて1度だけ
「ヴェルズ」と名のついたモンスター1体を召喚できる。

「レベル4のモンスターが二体ということは……」
「ああ、【ヴェルズ・カストル】二体でオーバーレイ・ネットワークを構築!
 現れよ、ジェムナイト・パール!」

《ジェムナイト・パール/Gem-Knight Pearl》 †
エクシーズモンスター
ランク4/地属性/岩石族/攻2600/守1900
レベル4モンスター×2

二体のヴェルズ・カストルが重なり合い、現れたモンスターはジェムナイト・パール。
特殊な効果は無いが、ブラック・マジシャンを凌駕する攻撃力を持つモンスターだ。

「【ジェムナイト・パール】で裏守備モンスターに攻撃」

ジェムナイト・パールの強力な右ストレートが放たれる。
クイーンズ・ナイトは腹パンを受けて、その場に倒れ込んだ。

「【ヴェルズ・オピオン】で武藤遊戯に直接攻撃!」

そして、ついにヴェルズ・オピオンのブレスが直接遊戯へと放たれる。

「うわああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

遊戯:LP5950→2400

紙のように吹き飛ばされる遊戯。
背後にあった壁へと激突し、口から血を吐き出す。
どうやら肋骨が数本逝ってしまったらしい。

「ふっ、このままターンエンドだ」

ヒグマ:LP:5450 手札:3
デッキ: 墓地: 除外: フィールド:
モンスター:1「ヴェルズ・オピオン/ATK2550」 2「ジェムナイト・パール/ATK2600」 3「/」 4「/」 5「/」
魔法・罠:1「■」2「」3「」4「」5「」

耐え難い激痛が遊戯から根こそぎ戦意を奪い取っていた。
おそらくヒグマに殴られたのと同じくらいのダメージだろう。
それでも立っていられたのは、キング・オブ・デュエリストとしての意地だろうか。

「俺は……光の護封剣を発動」

《光の護封剣/Swords of Revealing Light》 †
通常魔法
相手フィールド上のモンスターを全て表側表示にする。
このカードは発動後、相手のターンで数えて3ターンの間フィールド上に残り続ける。
このカードがフィールド上に存在する限り、
相手フィールド上のモンスターは攻撃宣言できない。

ヒグマのフィールドに無数の光剣が降り注ぐ。
これらは三ターンの間だけ、相手モンスターの攻撃を封じる効果を持つ。
まるでヒグマを見世物にするための檻だ。

「そして……モンスターをセットしてターンエンドだ」

遊戯:LP:2400 手札:1
デッキ: 墓地: 除外: フィールド:
モンスター:1「■/?」 2「/」 3「/」 4「/」 5「/」
魔法・罠:1「光の護封剣(0ターン)」2「」3「」4「」5「」

「キング・オブ・デュエリストとあろう者が時間稼ぎしか出来ないか、無様だな」

ヒグマの煽りを受けても、遊戯は言葉を返さない。

「フンッ、このままターンエンドだ」

ヒグマ:LP:5450 手札:4
デッキ: 墓地: 除外: フィールド:
モンスター:1「ヴェルズ・オピオン/ATK2550」 2「ジェムナイト・パール/ATK2600」 3「/」 4「/」 5「/」
魔法・罠:1「■」2「」3「」4「」5「」

「俺のターン……モンスターをセットしてターンエンド」

遊戯:LP:2400 手札:1
デッキ: 墓地: 除外: フィールド:
モンスター:1「■/?」 2「■/?」 3「/」 4「/」 5「/」
魔法・罠:1「光の護封剣(1ターン)」2「」3「」4「」5「」

「私のターン、カードを一枚セットしてターンエンド」

ヒグマ:LP:5450 手札:4
デッキ: 墓地: 除外: フィールド:
モンスター:1「ヴェルズ・オピオン/ATK2550」 2「ジェムナイト・パール/ATK2600」 3「/」 4「/」 5「/」
魔法・罠:1「■」2「■」3「」4「」5「」

「俺のターン……カードを一枚伏せてターンエンドだ」

遊戯:LP:2400 手札:1
デッキ: 墓地: 除外: フィールド:
モンスター:1「■/?」 2「■/?」 3「/」 4「/」 5「/」
魔法・罠:1「光の護封剣(2ターン)」2「■」3「」4「」5「」

「私のターン、このままターンエンドだ」

ヒグマ:LP:5450 手札:4
デッキ: 墓地: 除外: フィールド:
モンスター:1「ヴェルズ・オピオン/ATK2550」 2「ジェムナイト・パール/ATK2600」 3「/」 4「/」 5「/」
魔法・罠:1「■」2「■」3「」4「」5「」

「俺のターン、さらにもう一枚セットカードを追加してターンエンドだ」

遊戯:LP:2400 手札:1
デッキ: 墓地: 除外: フィールド:
モンスター:1「■/?」 2「■/?」 3「/」 4「/」 5「/」
魔法・罠:1「光の護封剣(3ターン)」2「■」3「」4「」5「」

「私のターン……どうやらこれで勝負は着いたようだな」

新たなカードをドローしたヒグマは、その口を嗜虐的に歪める。
光の護封剣の効果はまだ一ターン残っている.
にも関わらず、どうやって勝負と着けるつもりなのだろうか。

「私は【ヴェルズ・カイトス】を召喚し、二枚目の【侵略の汎発感染】を発動!」

《ヴェルズ・カイトス/Evilswarm Ketos》 †
効果モンスター
星4/闇属性/水族/攻1750/守1050
このカードをリリースして発動できる。
相手フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊する。

侵略の汎発感染はヴェルズのモンスターが魔法・罠の効果を受けなくなるカード。
つまりは光の護封剣の効果も受けなくなる。
光の護封剣があるにも関わらず、遊戯に攻撃を仕掛けることができるということだ。

「行け、【ヴェルズ・カイトス】、2のセットモンスターを食い散らせ!」

二足歩行の魚類という異様な姿を持った怪物が、遊戯のモンスターを一瞬にして噛み砕いてしまう。
それはまるで遊戯の末路を暗示しているようだった。

「……ふふっ」
「何を笑っている」
「貴様が破壊したモンスターを見てみるといいぜ」
「なに……そのモンスターは【人喰い虫】。フッ、成る程、そういうことか」

《人喰い虫/Man-Eater Bug》 †
効果モンスター
星2/地属性/昆虫族/攻 450/守 600
リバース:フィールド上のモンスター1体を選択して破壊する。

「俺が破壊するのは【ヴェルズ・オピオン】だ!」

魚の口から這い出てきた虫が、ヒグマのフィールドに鎮座するヴェルズ・オピオンを丸呑みにする。
侵略の汎発感染は魔法・罠を無力化するが、効果モンスターまでは対応することができない。
遊戯は侵略の汎発感染の死角を突いたのだ。

「自慢の魔法カードも、効果モンスターの前には無力だったようだな」
「少しはやるということか。【ジェムナイト・パール】で残った裏守備モンスターに攻撃だ」

エースモンスターが破壊されたというのに、ヒグマに一切の動揺はない。
獣だということを忘れてしまうような洗練された動作で、ジェムナイト・パールに攻撃を指示した。

「俺のモンスターは【メタモルポット】だ。互いに全ての手札を捨て、新たにカードを五枚ドローする効果を持つぜ」

《メタモルポット/Morphing Jar》 †
効果モンスター(制限カード)
星2/地属性/岩石族/攻 700/守 600
リバース:お互いの手札を全て捨てる。
その後、お互いはそれぞれ自分のデッキからカードを5枚ドローする。

ヒグマは四枚の手札を捨て、デッキから五枚のカードを揃える。
遊戯は手札が無いため、そのままカードを五枚ドローした。

「私はカードを一枚セットして、ターンエンドだ」

ヒグマ:LP:5450 手札:4
デッキ: 墓地: 除外: フィールド:
モンスター:1「/」 2「ジェムナイト・パール/ATK2600」 3「ヴェルズ・カイトス/ATK1750」 4「/」 5「/」
魔法・罠:1「■」2「■」3「■」4「」5「」

430 :戦いの儀 ◆OtgLZc7O4.:2013/11/01(金) 01:06:48 ID:XuO3BWsA0
「俺のターン、ドロー! これでようやく反撃に移れるぜ!」

今まで上級モンスターの召喚を縛っていたヴェルズ・オピオンは死んだ。
ここからようやく遊戯が攻勢に移ることができる。

「俺はセットしていた【大嵐】を発動! 互いの魔法・罠を全て破壊するぜ!」

《大嵐/Heavy Storm》 †
通常魔法(制限カード)
フィールド上の魔法・罠カードを全て破壊する。

遊戯とヒグマの周囲を台風と勘違いするほどの強風が包み込む。
互いのセットカードを一掃する、遊戯王が始まった頃から存在する強力なカードだ。

「無駄だ、【神の宣告】を発動、ライフを半分支払って【大嵐】を無効にする」

ヒグマ:LP5450→2725

《神の宣告/Solemn Judgment》 †
カウンター罠(制限カード)
ライフポイントを半分払って発動できる。
魔法・罠カードの発動、モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚の
どれか1つを無効にし破壊する。

これまた遊戯王初期から存在するカード。
ライフポイントを半分失う代わりに、あらゆるカードを無力化するカードだ。

「そいつはどうかな? 俺がセットしていたのも【神の宣告】だぜ
 貴様の【神の宣告】を無効化する! これで【大嵐】の効果は発動する!」

遊戯:LP2400→1200

遊戯の神の宣告でヒグマの神の宣告は無力化され、予定通りに大嵐は発動する。
ヒグマの場に眠っていた強力な魔法・罠カード達は吹き飛んでいった。

「そして【死者蘇生】を発動! 墓地の【ブラック・マジシャン】を蘇らせるぜ!」
「【ブラック・マジシャン】だと? ……そうか、【メタモルポット】で捨てた手札か」

《死者蘇生/Monster Reborn》 †
通常魔法(制限カード)
自分または相手の墓地のモンスター1体を選択して発動できる。
選択したモンスターを自分フィールド上に特殊召喚する。

《ブラック・マジシャン/Dark Magician》 †
通常モンスター
星7/闇属性/魔法使い族/攻2500/守2100
魔法使いとしては、攻撃力・守備力ともに最高クラス。

ついに遊戯のエースモンスターが姿を現す。
事前の仕込みにより、たった一枚のカードで参上するのはまさに奇術師といえるだろう。

「【千本ナイフ】を発動して【ジェムナイト・パール】を破壊! 【磁石の戦士γ】を召喚してバトルだ!」

《千本ナイフ/Thousand Knives》 †
通常魔法
自分フィールド上に「ブラック・マジシャン」が
表側表示で存在する場合のみ発動する事ができる。
相手フィールド上に存在するモンスター1体を破壊する。

《磁石の戦士γ/Gamma the Magnet Warrior》 †
通常モンスター
星4/地属性/岩石族/攻1500/守1800
α、β、γで変形合体する。

「【ブラック・マジシャン】でヴェルズ・カイトスに攻撃! 黒・魔・導(ブラック・マジック)!」

ブラック・マジシャンの杖から放たれた光弾が、ヴェルズ・カイトスを爆発させる。

「さらに【磁石の戦士γ】で直接攻撃!」

そして、磁石の戦士γの拳がヒグマの鋼鉄にも匹敵する皮膚を打ち抜いた。

「……」

ヒグマ:LP2725→475

「俺はこのままターンエンドだ!」

意気揚々とターンエンドを宣言する遊戯。
肋骨が数本逝っているというのにノリノリである。

遊戯:LP:1200 手札:3
デッキ: 墓地: 除外: フィールド:
モンスター:1「ブラック・マジシャン/ATK2500」 2「磁石の戦士γ/ATK1500」 3「/」 4「/」 5「/」
魔法・罠:1「」2「]3「」4「」5「」

「私のターン」

ヒグマのライフポイントは三桁にまで減少している。
それでも一切の動揺が見られないのは、決闘者としての矜持からだろうか。
それとも皮膚が硬いからだろうか。
おそらく後者だろう。

「私は【ヴェルズ・カストル】を召喚。効果で手札の【ヴェルズ・サンダーバード】を召喚する」
「ッ! まさか!」
「二体のヴェルズモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築、現れよ、【ヴェルズ・オピオン】!」

やっとの思いで倒したにも関わらず、二体目のヴェルズ・オピオンが即座に現れる。
あまりの絶望に遊戯はぽかんと口を開けていた。

「【ヴェルズ・オピオン】で【磁石の戦士γ】に攻撃だ!」

遊戯:LP1200→150

磁石の戦士γが破壊され、遊戯のライフは三桁寸前まで削られてしまう。
攻撃の余波で遊戯は再び吹き飛ばされ、大量に吐血した。

「そして【ヴェルズ・オピオン】の効果で三枚目の【侵略の汎発感染】をサーチ、セットしてターンエンドだ」

ヒグマ:LP:475 手札:3
デッキ: 墓地: 除外: フィールド:
モンスター:1「ヴェルズ・オピオン/ATK2550」 2「/」 3「/」 4「/」 5「/」
魔法・罠:1「■」2「」3「」4「」5「」

「……」

呆然と顔を伏せる遊戯。
手札に対抗できる手段もなく、場にいるのは攻撃力で劣るブラック・マジシャンのみ。
ライフポイントも150だけであり、もはや勝ち目はなかった。

「もはや戦う気力もないか。ならば降参(サレンダー)するがいい
 せめてもの情けだ、痛まぬように喰ってやろう」

ヒグマの突き放すような声が遊戯の心を砕く。
それは甘い誘惑だった。
ここで勝負を捨てれば、痛まずに死ねるという。
震える右手が少しずつ浮き、デッキの上に手を乗せようとする。
それは降参を意味する行為だった。

(駄目だよ、もう一人の僕!)

デッキの上に手が乗る寸前、表遊戯が闇遊戯の腕を押さえ付けた。

(相棒……!)
(どんな時でも降参だけは絶対に駄目だ。それは相手に対する最大の侮辱なんだ!)
(だが、奴はヒグマだ)
(ヒグマでもだよ! あのヒグマは真の決闘者……いや、真の決闘熊だ!
 彼も海馬くんや城之内くんと同じ、誇り高い決闘者の一人だよ)

遊戯の脳裏に今まで戦ってきた決闘者達の顔が過る。
海馬や城之内、孔雀舞といった誇り高き決闘者達の顔。
インセクター羽蛾やバンデット・キースといったインチキ野郎達。
相手のカードを盗んだり、捨てたり、イカサマをしたりする奴もいた。
しかし、ヒグマは不正行為をしなかった。
その気になれば、持ち前の牙や爪で遊戯を殺すこともできただろう。
だが、ヒグマは決闘を続けた。
そこには一人の決闘者としての誇りがあると言えるのではないだろうか。

(僕達はキング・オブ・デュエリストだ。誇り高い決闘者を前にして逃げるわけにはいかないよ)
(相棒……そうか、そうだよな)

顔を上げる遊戯。
そこにいるのはヴェルズ・オピオン。
だが、恐怖は無かった。

「降参はしないのか」
「ああ、降参はしない。俺はもう逃げない」

デッキの上に手を乗せる。
だがそれは降参ではなく、新たなカードをドローするための動き。
闇遊戯の手に、表遊戯の手が重なる。
デッキの上が眩い光を放っていた。

「俺と」
(僕の)

「(ドローッ!!」)

目を瞑り、カードを引く。
そして、そのまま決闘盤に叩き付けた。

「俺は【天よりの宝札】を発動!」

遊戯が引いたのは最強のドローソース・天よりの宝札だ。
互いに手札が六枚になるようにドローするという、強欲な壺もびっくりのインチキカード。

「フッ、何かと思えばそんなカード。【天よりの宝札】は実際に販売される際に弱体化している! 勝負を捨てたのか!?」

そう、ヒグマの言う通りである。
天よりの宝札はあまりにも強すぎるため、実際にカード化された際には以下の効果になっている。

《天よりの宝札/Card of Sanctity》 †
通常魔法
自分の手札と自分フィールド上に存在する全てのカードをゲームから除外する。
自分の手札が2枚になるようにカードをドローする。

強欲な壺も別の意味でびっくりのクソカードだ。
当然誰も使わず、皆のカード入れの奥底に眠り続けている。
この決闘は現実に存在するカードで構成されているため、天よりの宝札もこっちの効果になっているはずなのだ。

「いや、俺は勝負を捨ててなんかいない。見るがいいぜ! 俺の【天よりの宝札】を!」
「なに……馬鹿な!? 【天よりの宝札】の効果がアニメ効果になっているだと!?」

だが、遊戯はここに来て覚醒した。
ヒグマを真の決闘者と認め、相棒と共に立ち向かったことでデッキが応えた。
それにより天よりの宝札のテキストが書き換わり、アニメ効果へと変わったのだ。

《天よりの宝札/Card of Sanctity》 †
通常魔法
自分の手札と自分フィールド上に存在する全てのカードをゲームから除外する。
自分の手札が2枚になるようにカードをドローする。


《天よりの宝札/Card of Sanctity》 †
通常魔法
互いのプレイヤーは手札が6枚になるようにカードをドローする。

「俺の手札は三枚! よって新たに三枚のカードをドローするぜ!」

デッキの上からカードを補充する遊戯。
新たに加わったカード達を見て、フッと息を吐き出す。

「勝利のピースは全て揃った。この決闘、俺達の勝ちだ!」

そして、勝利を宣言する。

「カード効果で手札に加わったことにより、俺は【ワタポン】を特殊召喚!」

《ワタポン/Watapon》 †
効果モンスター
星1/光属性/天使族/攻 200/守 300
このカードがカードの効果によって自分のデッキから手札に加わった場合、
このカードを手札から特殊召喚できる。

「そして、手札から魔法カード、【クリボーを呼ぶ笛】を発動!
 デッキから【クリボー】を呼ぶぜ!」

《クリボーを呼ぶ笛/The Flute of Summoning Kuriboh》 †
速攻魔法
自分のデッキから「クリボー」または「ハネクリボー」1体を選択し、
手札に加えるか自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

《クリボー/Kuriboh》 †
効果モンスター
星1/闇属性/悪魔族/攻 300/守 200
相手ターンの戦闘ダメージ計算時、このカードを手札から捨てて発動する。
その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になる。

「そんな雑魚モンスターを並べて何になると言うのだ! 私の【ヴェルズ・オピオン】は倒せない!」
「ああ、確かにこのままじゃ倒せないさ――――このままじゃな」

遊戯の場にいるのはブラック・マジシャン、ワタポン、クリボーの三体だ。
そう、三体。
遊戯王に馴染みのある読者ならば既に気付いているだろう。
遊戯の場に三体のモンスターが揃った意味を。

「俺は【ブラック・マジシャン】【ワタポン】【クリボー】の三体を生贄に捧げる」

三体のモンスターの魂が天へと昇っていく。
空を黒々とした雲が覆い尽くし、彼らの目前に巨大な雷が落ちる。

「いでよ!」

現れたのは太古から存在する神のカードの一枚。
エジプトの神の名を持つ、天空を支配する巨大な龍。

「【オシリスの天空竜】ッ!!」

《オシリスの天空竜/Slifer the Sky Dragon》 †
効果モンスター
星10/神属性/幻神獣族/攻 ?/守 ?
このカードを通常召喚する場合、
モンスター3体をリリースして召喚しなければならない。
このカードの召喚は無効化されない。
このカードの召喚成功時には魔法・罠・効果モンスターの効果は発動できない。
特殊召喚したこのカードはエンドフェイズ時に墓地へ送られる。
このカードの攻撃力・守備力は自分の手札の数×1000ポイントアップする。
また、相手モンスターが攻撃表示で召喚・特殊召喚に成功した時、
そのモンスターの攻撃力を2000ポイントダウンさせ、
攻撃力が0になった場合そのモンスターを破壊する。

「馬鹿な……この状況で神のカードを召喚しただと!?」

ヴェルズ・オピオンには一つだけ抜け穴があった。
あくまで封じているのは特殊召喚だけで、生贄を捧げることによる召喚は普通に行うことができる。
死者蘇生等による召喚ができないというだけなのだ。

「【オシリスの天空竜】は手札一枚につき攻撃力×1000となる!
 俺の手札は三枚、よって攻撃力は3000ッ!!」

だが、この状況で三体もの生贄を用意するのは非常に難しい。
それを成し遂げたというのは、まさに遊戯がキング・オブ・デュエリストだからだろう。

「【ヴェルズ・オピオン】に攻撃! 超電導波サンダー・フォース!!!!」

オシリスの天空竜の口から発射された電撃により、二体目のヴェルズ・オピオンを悲鳴を上げながら消滅する。
その余波がヒグマに襲い掛かり、その肉体を焼き尽くした。

ヒグマ:LP475→25

「俺はこのままターンエンドだ!」

遊戯:LP:150 手札:3
デッキ: 墓地: 除外: フィールド:
モンスター:1「オシリスの天空竜/ATK3000」 2「/」 3「/」 4「/」 5「/」
魔法・罠:1「」2「]3「」4「」5「」

今の今まで傷一つ付かなかったヒグマの皮膚は、オシリスの天空竜の攻撃で焼け爛れている。
ライフポイントはたったの25。
遊戯の場にいるのは神のカード、オシリスの天空竜。
もはやヒグマに勝ち目は無い。

「――――ククッ」

だが、

「クハハハハハ……」

ヒグマは、

「ハーッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

笑った。

「見事だ。本当に見事だぞ人間。まさか熊界最強の決闘者である私がここまで追い詰められるとは思っていなかった」

嫌味などではない。
ヒグマは本気で遊戯を褒め称えていた。
熊界最強の決闘者であるヒグマと互角に渡り合い、ここまで追い詰めたのだ。

「だが、最後に勝つのは私だ」

ヒグマが繰り出したのは二枚のカード。

「【ヴェルズ・マンドラゴ】を守備表示で特殊召喚、さらに【死者蘇生】を発動して墓地の【ヴェルズ・ヘリオロープ】を守備表示で特殊召喚」

《ヴェルズ・マンドラゴ/Evilswarm Mandragora》 †
効果モンスター
星4/闇属性/植物族/攻1550/守1450
相手フィールド上のモンスターの数が
自分フィールド上のモンスターの数より多い場合、
このカードは手札から特殊召喚できる。

「【ヴェルズ】のモンスターが二体……今更オピオンを出しても無意味だぜ」
「ああ、そうだ。だが私が召喚するのはオピオンではないッ!
 二体の【ヴェルズ】でオーバーレイ・ネットワークを構築する!」

僅かな油断だった。
確かに神は強力だが、決して無敵ではない。
極限の状況下でオシリスの天空竜を召喚したことは、ある意味での驕りを遊戯に生んでいた。
天よりの宝札は強力なドローカードだが、相手の手札も潤沢にしてしまうという欠点がある。
ヒグマも、引いていたのだ。
逆転のきっかけに成り得るカード達を。

「現われよ! 【ヴェルズ・バハムート】!」

ヒグマの場に現れたのは、二体目となるヴェルズの龍。
絶対零度の吐息を吐きながら、淀んだ目で遊戯とオシリスの天空竜を睨み付ける。

「私は【ヴェルズ・バハムート】の効果を発動。手札一枚とエクシーズ素材を墓地に送り……【オシリスの天空竜】を奪い取る!」

オシリスの天空竜に異変が起こる。
ヴェルズ・バハムートの全身から発された黒い靄に包まれ、悲鳴を上げながらのた打ち回る。
呆然と立ち尽くす遊戯。
オシリスの天空竜から助けを求めるような視線が向けられるが、もはや遊戯に為す術はなかった。
黒い靄に侵されたオシリスの天空竜はやがて遊戯の元から離れ、ヒグマのフィールドへと移っていく。
先程までの助けを求めるような目は、獲物を見つけたヒグマのような目へと変わっていた。

《ヴェルズ・バハムート/Evilswarm Bahamut》 †
エクシーズ・効果モンスター
ランク4/闇属性/ドラゴン族/攻2350/守1350
「ヴェルズ」と名のついたレベル4モンスター×2
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、
相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。
手札から「ヴェルズ」と名のついたモンスター1体を捨て、
選択した相手モンスターのコントロールを得る。

「貴様の負けだ、死ね」

オシリスの天空竜の攻撃力は5000。
遊戯のライフポイントは150であり、手札にも場にも墓地にも対抗できるカードはない。
今度こそ本当に遊戯の負けだ。

「……俺の負けか」
「怖いか?」
「いいや、いい決闘だった。負けるというのに何処か清々しい気分だ
 最後にアンタのような真の決闘者……いや、真の決闘熊と戦えたことを俺は光栄に思う」
「そうか……さらばだ」


オシリスの天空竜の口から放たれる電撃が、遊戯の全身を呑み込んだ――――


「……」

オシリスの天空竜の攻撃により、遊戯の肉体は完全に消滅していた。
この決闘は闇のゲーム。
勝者だけが生き残り、敗者は消え去るのみ。
決闘の敗者である遊戯は、この世から去ったのだ。

「……」

無言のまま、遊戯が立っていた場所を見つめるヒグマ。
その心に去来したのは何だったのだろうか。
決闘が終わったため、もはや彼が言葉を操ることはできない。
故にその答えを理解する者は誰も居ない。
ただ一つ事実として残っているのは、ヒグマ――――穴持たず1に新たな称号が加わったこと。
デビルヒグマは今この瞬間から、キング・オブ・デュエリスト・デビルヒグマになったのだ。

「……」

踵を返し、立ち去っていくヒグマ。
そして、彼は思い出した。

そういえば遊戯を食べ逃したなあ、と。

【武藤遊戯@遊戯王 死亡】

【F-6 廃墟/黎明】
【穴持たず1】
状態:火傷
装備:なし
道具:オシリスの天空竜@遊戯王
[備考]
※デビルヒグマの称号を手に入れました。
※キング・オブ・デュエリストの称号を手に入れました。

No.048:ウルトラファイト ヒグマロワイアル編 投下順 No.050:流星
No.039:ルールをいちいち気にする参加者の鑑 時系列順
武藤遊戯 死亡
No.002:DEVILMAN:URSUS ARCTOS 穴持たず1 No.081:のこりギリギリ

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最終更新:2015年01月06日 15:32