あなたは、動物というものと本当に意思疎通できているだろうか?
動物の気持ちをわかっているだろうか?
自分はペットと分かり合っていると憤慨しないでほしい。
ただ、その行為の真偽は、言葉ではわからない。動物は言葉を発さない。
無論、人間は言葉を発するから、皆分かり合えるということもないので指針レベルだが、
言葉というものは意思を形付ける。

ここにいるのは、人間ではない。悟り妖怪という、他の生き物の思考を読み取る妖怪。
名は、古明地さとり。彼女は、多くのペットに慕われ、暮らしている。
なぜなら、彼女はペットの真意を汲めるから。
ペットからすれば、本当に心を通わせることのできる唯一の存在だから。

その彼女が、ヒグマという本来言葉を発さない存在が闊歩する場所に放り込まれた。
彼女の瞳が写すものはいったいなんだろう。
深く深く黒い森の中、桃色の髪をした少女がいかにして熊と出合ったか。



周囲を見れば、そこは石畳がかすかに残り、数枚の石壁が残る森の中。
二度にわたる突然の空間転移に驚きながらも、静かに周囲をうかがう。

ふざけてる。さとりはそう思った。
仮にも、怨霊渦巻く地霊殿の主である自分。それに殺しあえと。
言葉として思考を形にする。――ありえない。

妖怪とは、人を襲うもの。だが、それは他者に強制されるものではない。
あくまで、妖怪として、存在のあり方なのだ。

あんな男の言うがままに、他人を傷つける気など毛頭ないし、無論殺されてやるつもりもない。

さとりは、全方位に能力を広げる。
空間そのものに触手を伸ばすように、ツタを伸ばすように。
彼女の妖怪としての能力は読心。対象の心を読み取るもの。
ならば能力を広げれば、一種のレーダーのようにも作用する。

心の読み取れる存在が周囲にいないということは、周囲に何もないということに他ならないからだ。

「どうやら、ひとまずは大丈夫のようね」

能力の探査の結果は、白。
自分の周りに、心を持つ存在がいないことを確認し、ようやくさとりは小さく息を吐いた。


そして、さとりは自分の真横にある石碑に背中からもたれかかり――

背中から放たれる殺意に三つの目を見開いた。
石碑から反射的に背を離し、後ろを振り向く。そこにあったのは、苔むしたような石版ではない。

熊だ。口から涎をたらし、灰色の毛並みに覆われた、熊。

それをさとりは反射的に凝視し、

「あ……」

熊の心を読み取った。とって、しまった。
さとりの中に流れ込んでくる熊の思考。

目の前の熊は、蜂蜜を求めている。だが、それは森にある蜂の巣から取れる蜂蜜ではない。
さとりの体内に流れる、血管の中にある蜂蜜だ。

狂気の如き飢え。
相手の体液すべてを啜り、肉を喰らい、相手のすべてを蹂躙したいという意思。
人間のような悪意ではない。あくまで本能としての衝動。
数多のペットの心を読んできたさとりとて、いやさとりだからこそ耐えられない。
言葉を喋れない動物と心を通わせ、動物の心というものをさとりは見てきた。
だが、それらすべてを凌駕する狂気の本能。

未知というものの恐怖がさとりを恐慌に陥らせた。

咄嗟に飛んでさとりは逃げようとした。相手は、野生動物、飛べば追いつけない。
そう思いふわりとさとりは空を飛び――

「えっ――!?」

巨大な木へ激突しそうになった。
飛べない。いつものように自由に空を舞えない。
浮遊するように浮かべても、自由自在にはいかない。
高い木ひとつ飛び越えられない。

あわてて手を前に出し、減速。
木を跳び箱か何かのように飛び超えるようにかわし、木の上に着地する。
自分の体が自分の思うようにいかない不思議に、両手を、全身を見る。

考えがまとまらない。ぐちゃぐちゃとした思想が形にならず、思考が乱れる。
だが、状況は思考への没頭を許さない。

木の下から聞こえる、熊の声で我に返る。
恐る恐る木の下を覗き込む。

そこには、5mはある巨木の幹に、もたれかかる一匹の熊。あがってくる様子は、ない。
じっとさとりは熊を眺めるが、くまは幹に手を打ち付け、吠えるだけだ。

ひとまず、一難やり過ごしたと思い、熊が去るまでさとりは待つことにした。
その間に、思考を、体の変化を見極めなければ。
そう思い、思考のふちへ雑音を殺し没頭しようとして、


ガリ、ガリ、ガリという異音を聞いた。

再び、下をさとりは見る。
そこにいたのは―――

「い、いやああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


巨木を削り、木を平然と倒そうとする熊の姿だった。


皆さん、マジック・ザ・ギャザリングというカードゲームをご存知だろうか?
ウィザーズ・オブ・ザ・コースト社から発売され、世界的に多くのプレイヤーから愛される、
トレーディングカードゲームだ。

そのカードの種類は何万をくだらない。
だが、それだけのカードの中でも、多くの人から愛されるカードはそう多くない。
最強トップレアの精神を刻むもの、ジェイス。
ストーリーでも活躍し、多くのものから母と呼ばれ慕われるスリヴァー・マザー。
ゲーム世界最強の悪と恐れられ、すべての悪の呼ばれたニコル・ボーラス。
そんなカードたちの中、ちっぽけで平凡で、それでいて彼らより古い。
彼らと同じく慕われるカードの一枚にして、さまざまなカードの指標となり、俗称にも使われるカード。



それの名前は、『灰色熊』。


カードテキスト:
ドミナリアの灰色熊から走って逃げてもむだだ。
追いつかれ、たたきのめされたたあげくの果てに食われちまうのがオチだ。
もちろん、木に昇るのは手だろうさ。
そうすれば、灰色熊が木を倒してお前さんを食っちまう前に、ちょっとした風景を楽しめるからな。


【B-8 森/深夜】

【古明地さとり@東方project】
状態:恐慌
装備:なし
道具:基本支給品、ランダム支給品1~3
基本思考:???

【灰色熊@MTG】
状態:生物化
装備:無し
道具:無し
基本思考:蜂蜜(血液)ほしい。
※日ごろは石碑(カード)になってます。一定時間で石碑に戻るかもしれないししないかもしれない。
※2/2のバニラですが、エンチャントしたら話は別です。

No.018:ヒグマのグルメ  投下順 No.019:デデンネと友達!
No.018:ヒグマのグルメ  時系列順 No.019:デデンネと友達!
古明地さとり No.050流星
灰色熊

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最終更新:2014年10月04日 20:30