デデンネと友達!
少女は怯えていた。
冒頭の理不尽な殺し合いの指示、目が追いつかぬ間に死んでしまった人間。
そしてヒグマ。
彼女は様々な冒険を友人達と歩んできた。
恐竜を狩るハンターたちと敵対したことも、他の星形の戦争に巻き込まれたことも、人ならざる動物の世界で冒険したことだってある。
だがそれらは心強い友人と、何より未来から来た猫型ロボットによって成り立った冒険譚だ。
この場には少女一人、周りはヒグマと知らない人間。
そもそもヒグマだなんて、余りに現実味があり過ぎて恐ろしい。
奴らは実在し、その名前をニュースや事件特集に轟かせる。
一般的小学生であればブラウン管越し、ないし動物園で檻越しにその姿を見たことがあるかないかの相手だ。
そのヒグマが……と考えがめぐり、ぞくっと背筋が寒くなる。
きい、ときしむ床、少女は慎重に歩く、
目覚めた場所は運がよいことに屋内。
彼女はその年頃の少女にしては冷静に沈黙し、涙をこらえていた。
からから、扉を開いた少女は、小さく声を上げた。
あたりを見回し、やはり、と気づく。
眼の前に溢れる湯気、脱衣かごがいくつも入った棚、湿り気を帯びてきしむ床。
ここは入浴施設……平たく言えば温泉だ。
「ど、どうしましょう……」
ごくり、とつばを飲む。
実際風呂になんぞ入ってる場合じゃない。
殺し合いの場+ヒグマがうろつく最中、全裸で、無防備に、リラックスするなど言語道断。
だが悲しいかな、彼女は三度の飯よりお風呂と焼き芋を愛する可憐な小学生。
風呂に入るのが仕事と言っていいほど出演した作品で風呂に入っている。
入らざるをえない、ここで入らなければ彼女は
源静香足り得ないのだ。
これで同級生の少年でもいればキャーえっちーな展開になることであったろう。
するり、と意を決して少女は上着を脱ぐ。
スカートを、下着を、最後に靴下を。
辺りに気を配っているせいか遅々とした動きで無くなりゆく布。
そして取り払われた、薄く膨らむ予兆を見せた胸。
ぺたりぺたりとタイルに吸い付く足裏の音。
何の目的があるのか嫌に充実したお風呂セットを広げ、いつもどおり丁寧に体を清める。
こうしていると、殺し合いやヒグマなど夢のように思える。
しかし鏡にくっきり映る首輪は現実を認識させ、彼女を落胆させた。
耐水性はあるらしいそれから目を背け、待ちに待った広い湯船に浸かる。
少しばかり塩のにおいがする。
因みにこの温泉はナトリウムが多く含まれており、血の巡りをよくし湯冷めしにくく、打ち身捻挫などに効能がある泉質である。
飲水することもでき、子宝の湯とも呼ばれる。高血圧の人は飲まない方がいい。
湯を肌にあて滑らせ、鼻歌まで歌い出すほどに。
少女の肢体に興味津々なのは言うまでもないが、ここで少し視点はズレる。
少女の後ろ、天然温泉のイメージを強めるために設置された人工の岩の間辺り、少女の死角になってる辺りを注視していただきたい。
おわかりいただけるだろうか?プカプカと浮かぶ一匹のモンスターの姿を。
濃いオレンジの丸い体、長く黒いしっぽ、アンテナに似たひげを時折ぴくぴくとさせて湯に浮かぶ――ポケモン。
彼の名前は
デデンネ、いや正確には彼か彼女かも分からない。
女湯にいるということは♀なのかもしれない。♀としておこう、せっかくの温泉だ。
アンテナポケモン、つい最近発見されたばかりの電気とフェアリーのタイプを持つポケモンだ。かわいい。
不幸にもヒグマがうろつく孤島に放り込まれたデデンネだが、彼女は状況を把握していない。
寧ろ人間の言葉なんて聞いても居ない。
支給されたきのみを幸せそうに頬張り温かいお湯に浮いている。かわいい。
さて、そんなデデンネはお湯の流れに乗って望むでもなく静香の前に現れた。
「あら、かわいい」
急に流れてきたデデンネに驚くもそこは女の子。
かわいらしい見た目のデデンネに頬がゆるむ。
掬いあげてみようと彼女はデデンネに近づく。
「デ……デデンネ……」
デデンネは、ビビっていた。
見たことのない人間、迫り来る人間、頬張ったきのみが飲下せない緊張感。
緊張感によりデデンネは電気を放つ。
尋常じゃないくらい電気を放つ。
電気はナトリウムが含まれたお湯を伝導していき少女に届く。
デデンネがガチビビリするくらいの悲鳴が風呂場に響いた。
だってめっちゃ怖かったから、仕方ない話なのだ。
花畑でのんびり暮らしてたデデンネだもの、可愛いから許して欲しい。
デデンネが目を開けると、湯に浮かぶのは少女の死体。
無残さと面影を半々残した少女の死体。
中身が相当エグい。ミディアムレアといったところか。
この温泉に誰か訪れることがあれば結構なトラウマになるだろう。
そしてデデンネはどうしているかというと、ぷかぷか流されていた。
自分に襲いかかる(彼女にはそう見えた)人間は沈黙したし、安心してお湯を楽しめる。
罪悪感も自分が何をしたかも考えず、ぷか~と気ままにデデンネは流れていった。かわいい。
流れるのにも飽きたのかデデンネは岩場に上り、またきのみを頬張る。かわいい。
すると、扉が開く、否、壊される音が浴場に轟いた。
すっかり忘れていたがヒグマである。
これは殺し合いでヒグマである。
呑気していたデデンネは、小首を傾げた。
リングマか何かだろうか、そう思ったのかもしれない。
我々ではこの愛らしいポケモンの心中を推し量ることは出来ない。
私達はデデンネではないから。
ヒグマはざぶざぶとお湯をかき分け少女を喰らう。
お湯に血が広がり、とてもじゃないが入りたくないシロモノに変わってしまった。
ヒグマはデデンネを見る。
ぎろりと、積極的に食い足りなさをアピールする。
でも今度は電気を発したりはしない。
野生が、デデンネの野生が生き残る最善策を選ぶ!!
「デデンネ!」
ぴょんっと跳ねる!!
「デデーンネ!!」
横にゆらゆら揺れる!!
「デデンネー!!!」
もう一回ポーズを決めて翔ぶ!!
この光景の驚くべきところは、ヒグマもデデンネと寸分たがわぬ動きをとったことである。
飢えで動いていたヒグマが、優しくデデンネを持ち上げた。
デデンネの使った技はなかまづくり。
本来は相手の特性と自分の特性を同一にする技だが、なんとこのデデンネ、ヒグマを仲間にしてしまったのだ。
「デデンネ!!」
「グルルルル……」
ヒグマの肩に乗ったデデンネはヒグマ任せに外に出ることにした。
この無垢なる魔物がいくつの命を奪うか、あんまり想像したくはない。
でも可愛いから、デデンネ。
かわいいは正義。
デデンネ!
【I-5温泉/深夜】
【デデンネ@ポケットモンスター】
状態: 健康
装備:無し
道具:気合のタスキ、オボンの実、ランダム
支給品0~1
基本思考:デデンネ!!
【デデンネと仲良くなったヒグマ】
状態:健康
装備:無し
道具:無し
※デデンネの仲間になりました。
【源静香@ドラえもん 死亡】
最終更新:2014年10月04日 20:37