ヒグマのグルメ
「なあ好奇心で聞くんだが……DIO。
君が出会った生きものの中で…一番強い生物って…どんなヤツだい?
君が今まで世界中から探し求めたヤツでもいいし…
新しく創った合成ゾンビでもいい…」
「どんなスタンドだろうと、スタンドにはそれぞれ、その個性にあった適材適所がある。
獅子には獅子の……カワウソには、カワウソの……それが生きるという事だ。
生物も同様、強い弱いの概念はない。」
「質問が悪かった……子供が遊びで話す
『スーパーマンとデッドプールはどっちが強い?』
そのレベルでいいよ。」
「穴持たずと名付けた生物が最も『強い』。
だが、手にあまる」
「穴持たず……名前は弱そうだな」
「帰る場所を見つけられなかったヒグマさ。
だがそれ故に強い。制御できないほどにだ」
『ある賢人達の会話(事実かは不明)』
寂れた食堂で黙々と食材を炒める小太りの女性がいた。
彼女はグリーンドルフィン刑務所に勤務する職員であり、
殺し合いをしろと言われたことはどこ吹く風といつも通りフライパンを返していた。
地響きと獰猛な息遣いが聞こえたと思ったら自動ドアが粉砕していた。
驚くことはない。いや、実際内心おったまげだが彼女はそんなことはおくびにも出さない。
のそり、のそりと来訪者が彼女に近づいてくる。
「何が食べたい?」
厨房の奥から来訪者に大声で尋ねた彼女に恐怖心がないわけではない。
中年女性として平凡な人生を生きてきた自覚のある彼女は
決して不屈の心があるわけでもなく、目を見張る知恵があるわけでもない。
しかし、彼女は日々の勤めを果たす重要さを心で理解していた。
だからだろうか。
厨房から声かけた彼女は来る運命を冷静に受け止めていた。
意地ではない、諦観でもない、義務の中で死ねれば本望という想いが
彼女に恐るべき穴持たずを受け入れさせたのだ。
少し首を伸ばせばヒグマの瞳が見えた。
飢餓感のあまり目は充血し、息も荒く、
剥き出しの凶暴性のみで獲物を追い求めている証拠だった。
何も言わずに彼女はこんがり焼けた豚肉を出した。
「鮭が良かったかい?」
おどけたように女性は言った。
ヒグマは無言で彼女を見つめている。
「鮭でも良かったんだろうけどね。
あんたはずっと頑張ってきたんだろ。
豚肉でも喰えば少しは心が落ち着くんじゃないかと思ってね」
ヒグマは豚肉と彼女を交互に見やってからもそもそと皿に乗っている肉を食べ始めた。
「美味しいだろ?」
優しく黒人の女性は笑っている。
「鮭はすばしっこく川を登るけど豚はだらだらと寝てばかり。
珍しいだろ。そういう生き物も?」
ディオですら匙を投げたヒグマの目に一瞬だが穏やかな光がよぎった。
荒んだヒグマの心を今、女性の優しさが確かに暖めているのだ。
静かな時間がゆったりと流れた後、
ヒグマは食堂を出た。
背後には何も載っていない皿が転がり。
頸動脈だけを食いちぎられ、痛みもなく死んだ黒人女性の遺体が横たわっていた。
それでも今のヒグマには黒人女性が残したポークの優しさが心に刻まれていた。
【ストーンオーシャンのグリーンドルフィン刑務所で豚の反対は鮭だぜとイカしたことを言った黒人調理師のおばさん 死亡】
【G-4街/深夜】
【穴持たずポーク】
状態:健康
装備:無し
道具:無し
※ポークの魂に
目覚めました
最終更新:2014年10月04日 20:27