流星
こう草原の地面に、いっぱい武器とか刺さってる。
すごい綺麗な武器ね。
光ってるやつ。
で、その中心でふいーっと手で汗をぬぐってるおっさんみたいなヒグマがいる。ふい~って。
そういう仕草もするからなんとなくヒグマには見えないけど、ヒグマ。
穴持たずってわけじゃないけどヒグマ。
ここは断固として譲らない。他のヒグマ放棄したヤツとは一味違う。
蜂蜜と黒蜜くらい差がある。
あ、ハチミツ食べたいな。
別に穴持たずでも何でもないヒグマはそんな感じのことを思いながら、
一仕事やったなって感じで汗をぬぐってた。ちょっといい気分だった。傍目からみたらおっさんだった。
でもひとしきり仕事終わりの満足感みたいのを感じたあと、やっぱりムカついてきた。
だってこのヒグマ別に飢えてないし、人は食糧って感じじゃないもの。
それなのにさっき理不尽に攻撃されたじゃん? そりゃあ怒るよ。
どんな温厚なヒグマだって怒る。怒ってがおーとか言う。がおー。ぷー。ぶんすか。
だからそういうわけで別に穴持たずってわけじゃないヒグマは、
近くの地面に刺さってた、まあまあ良い感じにトガってる宝具を抜いて、打った。
腹いせにカキーンって打った。
けっこう遠くまで飛んでったよね。これもしかして新記録出たかもしれない。
流れ星みたいだったもん。
うん、いいよね、流れ星。ちょっと癒されちゃったなあ。
【B-7 草原/黎明】
【穴持たずではないヒグマ】
状態:弾道4、ミートB(72)、パワーA(84)、パワーヒッター、アベレージヒッター、広角打法
装備:ちょうどいい感じの宝具
道具:無し
※ちょっと癒されました。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~十― ←飛んでるいい感じにトガった宝具
.
(あれは……?)
空を不意に見上げてみたら流れ星が見えて、
ああそっか、ここは地底じゃないんだと
古明地さとりは今さら思った。
(……願わくば、地底でゆっくりしていたかったわね)
でも残念ながらここは地表だし、感傷に浸る暇も流れ星に願う暇も無かった。
下から平仮名で表すにはちょっと凶悪すぎるヒグマの鳴き声がしていて五月蠅いし、
その灰色のヒグマは再びさとりを木の上から地面に落とそうと、
木の幹に向かってスラッシュアンドスラッシュを繰り返しているのだから焦りしかない。
ぐら。
また傾いてきた。
さとりは足をふんばり、どうにかいい感じのタイミングでジャンプする。
ぴょんと隣の一本杉に移った。……そう、木が倒されるならば、隣の木に移ればいい。
ここは森だ。木はたくさんあるから、何回かこうして移ればヒグマも諦めてくれるのでは。
最初の木を倒されるというギリギリのところで、さとりはその事実に、すんでのところで気付いたのだった。
でも、それはもう2時間以上前の話だ。
(もう、無理か……)
さとりの居るB-8の木という木は、ほぼ全て
灰色熊にもう倒されてしまった。
今さとりが着地した一本杉から移れそうな木は、その中には無い。
つまり“詰み”だった。この一本杉が倒れたらもうゲームエンド。さとりはばらばらに引き裂かれて死ぬ。
しかしなんとも不思議な話で、ここに至ってさとりは迫る“死”を冷静に受け止めていた。
(まあ……“厄介者”の最後としては……あなたに殺されるというのも、悪くはないのかしら?)
最近はそれでも、少しは善くなっていたけれど――。
心が読めてしまう妖怪さとりは、もとより他者から見れば、厄介者。
ヒトとは共存できずゆえにヒトを襲い、ヒトから厄介者とされるヒグマと、境遇だけ見れば少し似ていた。
そして、死が必定であるならば。
妖怪や人間に殺されるよりは、同じはぐれ者に殺されたほうが、幾分か気が楽かもしれないと。そう思ってしまった。
一本杉は細かった。
さとりがそんな自らの思考を否定する時間を作るには、少し、細すぎた。
(あ……折れ……)
なすすべなく宙に投げ出される。さとりの細い体は自由落下していく。
疲れからか、まるで死を受け入れたかのように、さとりの体は地面に向かうことを抗わなかった。
両眼からも涙は流れない。目下のヒグマが牙を剥いているのを無感情に見つめていた。
だから自分でも気づいてなかった。
さとりの身体から伸びている、隠せない心の目が、代わりに涙を流しているのには。
「――おい!! ちょっと待ちなァア!」
……流れ星が煌めいたかと思った。急にさとりは強い光を感じた。
なんで? まだ夜は明けてないのに。
次の瞬間、さとりは何者かのやさしい腕に抱きとめられて、
それを行った彼女はそのまま強く地面を蹴ってジャンプしたから、さとりの体は再び宙に浮いた。
自分ひとりでは到達できなかった高さまで、浮いた。
「おい、大丈夫か!?」
「え……あの……」
「あー、あたしは
纏流子ってんだ。こっちのほうから流れ星が飛んでくるのが見えたからさ、
走ってきたらこっちから音がしたから――えっと、もしかしてあんたが助けを呼んでたとか?」
跳躍の放物線の最上点で、一瞬だけ時間が止まる。
さとりを掬い上げたのは、黒髪に赤い房をひとすじだけ入れた、強い目の少女だった。
なかなか扇情的な衣装を着ていたので少しびっくりした。
少女のぎざついた瞳に睨まれて、さとりは上手く言葉が出せなくなる。
頑張って問いには答えようとした。首をぷるぷると振って“違う”。……そしたら少女は「そっか」と言って、
「じゃあ運が良かったな。おかげであたしが助けに来れたぜ」
と言った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~十― ←宝具まだ飛んでる
.
「うわ、すっげージャンプ力……。さすがビッチは違うね」
纏流子が流星のように飛び出して古明地さとりを救ったそのとき、
黒木智子は少し遅れて、その場所へぜーはーと、やっと辿りついたところだった。
元からクマのある目がさらに疲れ目で酷いことになっている。いよいよクマが一生残るかもしれない。
それもなにもヒグマと、流れ星のせいだ。智子は改めてこの状況に舌打ちをする。
クマーから逃げて南下していた流子と智子は、流れ星を見た。
誰かが助けを求めて何かを打ち上げたのかもしれない。そう流子が言った。
二人は話し合い、ヒグマに見つからぬよう隠れつつさらに南下。このB-8の森まで走ってきたところ、
倒されそうな一本杉に捕まって震えている古明地さとりの姿を認めた。
「ヒィ! た……た、タスケなキャ」
「ああ……でもまずいな。あたしがあの子を助けに行ったら、智子が無防備になっちまう」
確かにその通りだと思ったが、そこで智子はつい見栄を張ってしまった。
「エ、な、ナニさ! 大丈ブだよ!」
「智子?」
「ワ、ワタシハダイジョウブだから、早くあのコを助けてアゲナよ。コッチはま、マカセテヨ。むしろその、ヒグマくらい倒すし!」
「そうか。分かった!」
「えっ」
「すぐもどってくるからそのへんに隠れてろよ!」
流子は割り切りの良い少女だった。
ぽーいって放り出されたかと思えば比較的滑らかに智子は地面に下ろされ、
すぐに翻って流子は「神衣・鮮血」を起動させて、ぴょーんと宙へジャンプしていった。
かくして智子は一人取り残されたのだった。
まあ、ヒグマもとい灰色熊はさとりと流子のほうへと向かっていったので、智子が命の危険にさらされることはなかった。
しかし。そうなると、今度は智子の心になにやらくすぶるものがあった。
(あれっ……私、またぼっち……? しかもクマにもモテてない……?)
もちろんクマにモテてないなどというのは勘違いで、
ヒグマが一度目に入れた獲物に執着しているだけなのだが、
助けてくれた人が離れていった空虚感と生来の卑屈さが、変な感情を智子の心に生じさせた。
(なんかすげームカついてきたぞ……いや、待てよ? この状況、不意打ちできるんじゃね!?)
疎外感の果てに自分を妙に客観視するところまでいった瞬間、逆転の発想が智子を襲った。
ヒグマはさとりと流子のほうに向かい自分には目を向けなかった。
つまり智子は今、ヒグマに奇襲することができるのだ!
その思いつきのどきどきはモテない少女にデイパックを開けさせた。
入っていたのは1枚のカードだった。
「これは!?」
智子はそれを知っていた。だって少女はそれのエキスパートだ。
そして目の前のヒグマを見て、こいつそういえば見たことあるな、と思った。
すぐに智子の思考回路に、「もしかして」が生まれる。そして、本当に自然な動作で、智子はカードを掲げた。
「つ、通常召還っ……行けッ、《
グリズリーマザー》! あいつを倒せえ!」
「グォオオオオオオオオッ!!」
叫ぶ。
高校生にしてカードショップで小学生を相手に戦い続ける女王、黒木智子はカード名を叫ぶ。
するとカードの絵柄そのものな青黒い毛並みのヒグマがその場に現れて咆哮した。
……ヒグマロワだからヒグマカードはヒグマ枠として実体化する。
それは目の前の灰色熊が証明している。遊戯王カードであっても、当然その現象は適用される。
星4/水属性/獣戦士族/攻1400/守1000。
《グリズリーマザー》はマスターの指示に従って、背中が隙だらけとばかりに、灰色熊へと組みかかっていった!!
~~~~~~~~~~~~~~~~十― ←飛距離まだまだ伸びてる
.
パワー2の灰色熊とATK1400のグリズリーマザー。
数値の上では明らかにグリズリーマザーのほうが有利であったが、異種カード戦に数値は関係ない。
より獣性の強いものが相手を殺せる――それが野生の戦いだ。
肉を貪るように絡み合い、本能のままに殴り合い、組み合い、牙を立てていく。
「よしやれっ!」「いけーっ!」
グリズリーマザーの噛みつきは灰色熊の肩を噛みちぎらんとす。
しかし灰色熊のベアクローがグリズリーマザーの正中線をえぐるように掬う。その勢いでマザーは一歩退かせられる。
どうにか体勢を立て直したグリズリーマザーに灰色熊はさらにタックル。
押し倒してマウントを取る。そのままパウンド、パウンド、パウンド。
しかしバランスの崩れを冷静にひっくり返され、グリズリーマザーの鋭い爪で引っ掛かれる。
「いいぞ!」「いけーっ!」
グリズリーマザーの鋭い爪は灰色熊の喉笛を突き刺そうと迫る。
しかし灰色熊はそれを口で挟んだ。グリズリーマザーは突然の動作に動揺した。その勢いで灰色熊は爪を噛む。
どうにかそれを引き抜いたグリズリーマザーは灰色熊の涎がついた爪をちょっと見つめた。
一方灰色熊のほうも牙と爪がこすれ合う感触が口の中に残っているようで複雑な表情をした。
両者少しだけ間合いを取ったが、何かを悟ったかのように再び互いに組み合っていく。
「そこだーっ!」「ころせー!」「……あれ? 何だか彼らの心が……」
と、流血沙汰の殴り合いのなか、なにやら次第に雰囲気が変わっていった。
二匹の顔に赤みが差して……なんとなく互いに攻撃の手を緩めていく。
でも何だか身体の接触は増えて……取っ組み合っては相手の匂いを嗅ぎ、
押し倒しては体を擦り付けあい、ごろんごろんと地面を転がって……、
なんだか殺伐としたバトルはいつのまにやら、二頭の熊のじゃれつきあいへと変わっていった。
「「「!?」」」
考えてみれば、グリズリーマザーはその名前からして明らかにメス。
そして灰色熊はといえば、その勇ましい姿はどうみてもオスであった。
つまりそういうことであった。
二匹のヒグマはひとしきりいちゃいちゃしたあと、しっぽりと森の奥に消えていった。
【灰色熊、グリズリーマザー(穴持たず11) 入籍】
「……入籍した」
「なにぃぃいいいいいいいい!!?? あいつらリア充になりやがった!!!???」
「ま、まあいいんじゃねえか? とりあえず、助かったんだしよ」
「あっ! ……その、助けて頂いてありがとうございました、お二方」
「あ。は、ハイ」
「ああ。なんかあたしの見せ場がいつの間にか無くなってたけど、無事でよかったぜ」
そしてヒグマが消え、あとにはたくさんの倒木と三人の少女が残された。
あと困惑もすごく残ったが、戦闘せずにヒグマを無力化できたのは僥倖だったといえよう。
古明地さとりは二人に礼をした。そう、ともかく一件落着だ。
ただ……。ヒグマの入籍は置いといて、ひとつだけ疑問が残った。
「そういえば……あの流れ星は結局なんだったんでしょうか?」
【B-8 更地と化した森/黎明】
【黒木智子@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
状態:安心、膝に擦り傷
装備:なし
道具:基本
支給品、ランダム支給品0~1
基本思考:纏流子に着いていく
1:ヒグマが……リア充に……?
【纏流子@キルラキル】
状態:健康
装備:片太刀バサミ@キルラキル、鮮血@キルラキル
道具:基本支給品
基本思考:殺し合いに対する抵抗
1:まあ、めでたしめでたしなんじゃねえか?
【古明地さとり@東方project】
状態:恐慌
装備:なし
道具:基本支給品、ランダム支給品1~3
基本思考:ここで死ぬのも、と思ってたけど……
1:あの流れ星は一体なんだったのかしら。
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ヒュー ┼╂┼ ←いい感じにトガってた宝具
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\ホームラン きろく 4エリア!/
【B-3 森/黎明】
【クマー@穴持たず】
状態:健康、アンテナ
装備:無し
道具:無し
※鳴き声は「クマー」です
※見た目が面白いです(AA参照)
※頭に宝具が刺さりました。
最終更新:2015年01月18日 02:10