新しい誕生祝い
「ひえーっ!」
辺りも真っ暗な深夜のこと。
とある森の中、必死に走るおっさんがいた。
彼こそは、
ウィルソン・フィリップス上院議員である。
何故走っているのか? 答えは簡単だ。
ヒグマに追いかけられているからである。
というのも彼は最初、この企画をなめ腐っていた。
上院議員である自分が死ぬわけがない、と根拠もなく信じ切っていたのだ。
だから最初、ヒグマを目撃したときには
「これこれ……若いヒグマというものは血気がさかんすぎていかんことだのうフッフッフッ……」
と結構のんきしていたのだ。
だがそんな彼は悲劇に襲われ、こうして必死こいて逃げ惑っている。
「殺される!逃げなきゃ殺されるッ!逃げなきゃあ!殺されるウウウウウウウウウウウウ」
悲劇の正体は、彼の顔をよく見ればわかる。なんとこの上院議員、前歯が二本無くなっているのだ。
何故か? 別に成長期だからと言うわけではない。自然に取れたのではなく、折られたのである。ヒグマに。
死ぬほど痛かったと思う。
「わ、ワシはウィルソン・フィリップス上院議員だぞォー! こんなところでヒグマなどに喰われるなんてェー! ありえなァァーい!」
しかしここで痛みに屈さないのがフィリップスさんの凄いところ。
彼は支給された物品を熊に投げつけながら逃げていたのである。
なかなかやる、この男。さすがは大学でレスリング部のキャプテンをつとめていただけのことはあるといえよう。
ランタンやら水やら地図やらを投げつけて逃げるなんて、そうそう出来るものではない。極限状態であるなら、尚更だ。
しかし彼ならば出来る! 何故ならば! 上院議員にできないことはないからだッ! ワハハハハハハハーッ!
「畜生ー! ヒグマはこれでも喰らっとれ!」
そしてその内、彼は妙な物を手に取った。
支給品が収められた袋から、何か刃物のようなものが出てきたのである。
ぱっと見よく分からない。さながら矢の先端のようだった。武器になりそうだ。速攻で投げる。
「ん!?」
するとここで上院議員は、吉良(きちりょう)を掴んだ!
「おおおおっ!」
なんと投げつけた矢の先端らしきものがヒグマに刺さり、突如ヒグマが動きを止めたのである。
どうやら刺さると痛いところに刺さったらしい。このチャンスを活かすことが出来れば逃げられるかもしれない!
「ワハハハハハハハーッ!」
こうして、ウィルソン・フィリップス上院議員は見事ヒグマから逃げおおせたのであった。
◇ ◇ ◇
そしてウィルソン・フィリップス上院議員が去って数分後……動きを止めていたヒグマに異変が起きた。
まず、目を閉じて唸るのをやめた彼(彼女?)は声を張り上げ叫び、両の眼をこれ以上無いほど開く。
するとヒグマの傍らに、謎のビジョンが現れた! 寄り添うように浮かび上がるその姿はまさに人型! だが人間ではない!
色は鮮やかなパープル! さながらスミレの花畑を想起させるが、そんなきれいな色とは裏腹に、雰囲気はどこか禍々しくも思える。
そう、これはスタンドと呼ばれるものだ!
ウィルソン・フィリップス上院議員は一つ、大きなミスを犯した。
いや、違う。逃走という勝ちを掴むために痛すぎるリスクを払ってしまったと言うべきか。
彼がヒグマに投げつけたのは、傷つけた対象にスタンド能力を与える(運が良ければだが)というもの!
そしてヒグマは運よくスタンド能力を得た!
しかも〝見たモノに恐怖を植え付ける〟という熊の習性にぴったりなスタンドをッ!
「恐怖した時に思わずしてしまう行動」を見抜きさえすれば、どんな相手をも封印出来てしまうスタンドを!
そう! すなわち、これが意味することは、ただ一つ!
究極幽波紋使い(スターダスト・クマセイダーズ)、エニグマのヒグマの誕生だッーっ!!
【H-8 森/深夜】
【ウィルソン・フィリップス上院議員】
状態:ほうほうの体
装備:なし
道具:なし
基本思考:生き残る
【エニグマのヒグマ】
状態:究極幽波紋使い(スターダスト・クマセイダーズ)
装備:スタンド「エニグマ」
道具:なし
基本思考:ドドドドドドドドドドドド
※スタンドの矢の先が落ちています
最終更新:2014年10月04日 20:24