変身!空から……


ウィルソン・フィリップス上院議員は走っていた。
と言ってもそれは全力疾走というにはあまりに不恰好な、どすどすという小走りだ。
公務の名目で行われる視察や慰問と言う名の観光、会議と呼ばれる国民の血税を浪費する食事回。
そんなものにかまけていた彼には、熱心に選挙活動をしていた頃のエネルギッシュさなど見る影もなく、選ばれし議員という肩書きが意味を成さないこの地において
税によって蓄えられた贅肉が揺れるたびにハァハァと息を切らして肩を揺らすその姿は十把一絡げの壮年男性となんら変わることはなかった。
とはいえ、ヒグマから逃げおおせた後も走れるその脚力は若き日の遊説あってこそであろうし、ヒグマの動きを止められる支給品を引き当てた運もまた彼の実力の範疇である。

そう、今日の彼はツイてるし、ノッてるのだ。


先程のクマとの遭遇以来、彼は西へと走り続けていた。
地図によれはそこには温泉があるのだという。ただ温泉、という表記ではあるが、温泉施設だとは限らない。
それでも彼がそこを目指すのには明確な理由がある。
単純なことだ。地図の表記で「温泉」、それ以外のほとんどが「森」。
木々の間からヒグマや他の参加者が飛び出してくる恐怖におびえるよりは、温泉がある場所のほうが間違いなく視界が確保されているはず。
もし鬱蒼と繁る木の間にほんの少しお湯が湧いているならそれは「森」である。「温泉」と書くからには「森」ほど木はないはず。
地図の表記からそこまで読み取った上で、彼は西へ向かっていたのだ。

そう、今日の彼はサエてさえいたのだ。

……目の前に緑色の丸い影を認めるその瞬間までは。

「なっ、なんだ貴様はァァァ!?」
フィリップス上院議員は思わず声を上げた。それが人間でない、ヒグマかもしれないと確認できた上でである。
本来ならすぐさま取って返して別の進路、いわゆる退路を探るべきところだ。
それでも声を上げずにいられなかったのは、その影があまりにも異様だったからである。
「メメメメメロォン!?」
そこにいたのはフィリップス上院議員もよく支持者からギフトで送られる高級なマスクメロン、それも人間大のそれの真ん中に、ヒグマの顔が付いた化け物だったのだ。
「ひいぃぃぃぃッッ!?」
よくよく見れば顔どころではない。
鋭い爪も、むき出しの牙も、毛深い手足も、すべてヒグマのそれである。
見れば見るほど、ヒグマである。メロンなのはメロンの部分だけだ。

先程同じゆるキャラであるふなっしーをおいしく召し上がった後、気の赴くまま東に進んでいたメロン熊と上院議員。
彼らが出会ってしまったのはもともと二者がいた場所からの中間地点、上院議員の目指した温泉ゾーンのあたりだった。
見れば温泉が彼らの数十メートル先で暢気に湯気を立ち上らせている。
「あ、あひぃぃぃ!?」
情けない悲鳴を漏らし、ついでに軽く失禁をして、フィリップス上院議員はその場に尻餅をついた。
先ほどまでの快進撃はどこへやら、すっかりパニックに陥った彼に、無慈悲にもメロン熊は歩みを進める。
「殺される殺される今度こそ殺されるゥゥゥ!!」
もう一度自分の運に頼るべく手を伸ばしたデイバッグからは、状況を打開するに至らない基本支給品ばかりが投げ出される。
「グォァルァァァァァァ!!!」」
咆哮一喝。
汗と涙と尿に塗れた議員へと、メロン熊の爪が振り下ろされる。
上院議員は己の死を予感し、目を閉じる。
次に来るのは当然、爪が肉を裂き、血が噴出す音に違いない。
上院議員も、メロン熊も、そう考えていたはずだ。

しかし、いつまでたとうとその瞬間は訪れはしなかった。
「あ、あれ?」
目を開けたフィリップス上院議員の目の前に、暴虐の緑球は存在していなかった。
もとよりそんなもの夢オチだったのではないかと思うくらい、あっさりと消えうせていた。
「助かった……のか?」
しばし呆然と周りを見回して、静寂を確認して、叫んだ。
「やったぞ!また助かった!!ツイてる!このフィリップス、間違いなくツイているぞーッッ!!!」
そう言いながら、かれは走り出し、走りながら服を脱ぎ、そして温泉へと一直線にダイブした。

【現在地:E-8 温泉】
【ウィルソン・フィリップス上院議員】
状態:温泉気持ちいい!(全裸)
装備:本当になにもなし(全裸)
道具:なし(全裸)
基本思考:今日はツイてる!!(全裸)

さて、ここで時間は少し巻き戻る。
ここはI-1地点、崖の上である。
見渡す限りの森と、踏み外せば死を意味する断崖の上で、男は佇んでいた。
赤黒いコートに身を包んだ男の名は駆紋戒斗
ダンスチーム・バロンのリーダーを勤める彼は、戒めるように自分に言い聞かせる。
「どうする俺。朝までここにいるか。それとも、飛び降りるか。そうだ、最後に頼れるのはいつだって自分だけ。力無き者は……」
ばっ、とコートを翻し、腰に装着した戦極ドライバーを見つめる。
「消え去るのみ!!」
叫びと共にデイバッグから取り出したのはロックシードである。

さて、ここで彼の持つアイテムについて簡単に説明しよう。
まず戦極ドライバー。これは仮面ライダー鎧武において、各ライダーが共通で使う変身用のベルトである。
当然玩具も発売されている。メーカー希望小売価格はオープンとなっており、決まっていないが7000円前後であることが多いようだ。
このベルト、昨今よくある「2号ライダーは別の変身グッズ」というようなものではなく、バックル端のフェイスプレートだけがキャラクターによって異なり、
それを認識することでベルトがライダーごとに異なる音声を発するのだ。ちなみにベルトに付属されているのは鎧武とバロンのフェイスプレート。
基本セットであればここにオレンジとバナナのロックシードが付属している。
発売当初は昨今のライダーの例に漏れず売り切れていたが、最近は玩具屋でも安定して売られていることが多く、買うことは難しくないだろう。
この戦極ドライバー(7000円)だが、9000円前後で売られるホルダー+パインロックシードのついたセットも存在している。
このスペシャルセット(9000円)に付属のホルダー、一件チャチなプラスチックの器具とロックシード1つで2000円とは、と思われがちだが、それは違う。
と、そのホルダーの説明の前にロックシードの説明をしなければなるまい。

今回のライダー変身のキモであるこのロックシード。非常に出来がいい。
前作であるウィザードのウィザードリングに比べ、それ単体でのプレイバリューが高いのだ。
なにより「ガチャン!」という開錠の手ごたえがこの上なく気持ちいい。
ベルトに二つ、ホルダーに一つ、先日発売された追加ライダーのフェイスプレートとのセットに一つ付属しているが、ここで朗報がある。
11月初旬に、食玩でこのサウンドロックシードが単品発売されるのだ。価格は約500円。
フォーゼスイッチやオーメダル、400円したウィザードリングよりもさらに高いが、一つ一つのサイズ感と重量感に先ほど述べたプレイバリューを加えれば納得のプライスである。
さて話を戻そう。このロックシード(500円)とホルダー(1500円相当)だが、これがまた非常に「気持ちいい」。
ベルトに装着し、このホルダーにロックシードをぶら下げる。
この時もまた「ガチャン!」である。取り外す時も「ガチャン!」そして変身前に「ガチャン!」。もうたまらない。
ベルトはそれなりに高価なため安易にオススメはできないが、食玩でロックシード(500円)だけでも手に入れて、毎週日曜朝を迎えるというのは、アリだ。

さて駆紋戒斗が取り出したロックシード(500円)は、本来彼が所持しているバナナロックシード(7000円のドライバーに付属)ではない。
それはメロンのロックシード。彼はまだ本編で出会っていない、仮面ライダー斬月の所持品だ。
それでも、それがロックシード(500円)であることは彼の目にも明らかであった。
なので、迷わずそれを構える。
「変身!!」(ガチャン!)(ガチャン!)(ガチャン!)
身じろぎするのも恐ろしい絶壁の上にあって、流れるような動きでロックシード(500円)を戦極ドライバー(7000円)に装着し、刀を模したギミックでロックシード(500円)を切る!
(メロンベアームズ!)
彼の上空に、巨大なメロンが召喚される。

本来、彼の住む世界にあっては、この変身を行う際、フルーツの鎧はジッパーによって開かれた異空間より転送される。
しかし4話において、その異空間での変身であれば直接頭の上に召喚されることが確認されている。
つまりこの場所、この孤島は
「俺たちの住む世界ではない…か」
自分の頭に降ってくるメロンを冷静に見つめて、駆紋戒斗は呟く。
「ん?」
そのメロンに、違和感を覚えた。
「何か生えていたような」
しかし時すでに遅し、彼の頭部はメロンの中で兜を装着されている。
(天下 御免!!)
直後、メロンが割れて鎧となり、仮面ライダーバロンの身体に緑色のアーマーが装着される。

ここで問題なのが、バロンはバナナ以外のアーマーを装着できるのか、ということである。
しかし安心してほしい。
アームズチェンジシリーズと銘打たれた可動フィギュア(3150円)で、どのライダーの鎧も共用であることが明示されているのだ。
このシリーズ、劇中のこの「上から降ってきたフルーツが展開して鎧になる」というギミックを完全再現していることがウリで、
1話の鎧武や3話のバロンのような、頭にでかいフルーツつけて突っ立っているシュールな画を再現でき、非常に面白い。
ロックシード(500円)よりは値が張るが、いろいろなフィギュアと絡ませる遊び方で無限大の可能性を秘めているため、これもマストバイと言える。
また、このアームズチェンジシリーズ(3150円)が搭乗できるバイク、このバロンであればローズアタッカー(2625円)の発売も間もなくだ。あわせてチェックしたい。

「む……」
無事変身を終えたバロンこと駆紋戒斗だったが、視界が確保されたことでようやく先ほどの違和感の正体に気づくことができた。
フルーツの鎧であるはずのそこに、異物が混じっている。
「ヒグマ……だと」
そう、彼の元に召喚されたのはただのメロンアームズではなかった。
フィリップス上院議員を襲わんとしていたメロン熊、その人(ヒグマ)だったのである!!
異世界と思われるこの世界のメロンを食べ、メロン熊となった彼はそのままロックシードの性質を取り込み、メロンロックシード(500円)が戦極ドライバー(7000円)に装着された時には
強制的に鎧となるべく呼び出され、メロンベアームズとして装着者に着られてしまう運命をも食べてしまったのだ!!

そうそう、補足だが、このメロンロックシード(500円)は食玩が発売されていない今、手に入れる方法はDX無双セイバー(5460円)に付属しているものを手に入れるしかない。
鎧武と斬月に共通の装備であるこの無双セイバー(5460円)だが、これもまたプレイバリューが高い。ガンモードとセイバーモードはまあ基本として、戦極ドライバー(7000円)同様に
ロックシード(500円)を装着(ロック・オン)することが可能で、音声もきちんと個々に認識したものが出るのだ。
また、無双セイバー(5460円)に付属のホルスターは戦極ドライバー(7000円)につけることで、ベルトと一体に装備することができる。
左に無双セイバー(5460円)、真ん中に戦極ドライバー(7000円)、右にロックシードホルダー(1500円)をつけたときのずっしり感、なりきり感はここ数年のライダー玩具の中でも
特筆すべきクオリティである。しかも今ならここに上げたDX商品購入の際に戦極ドライバー(7000円)に装着し、独自音声が出る斬月のフェイスプレートプレゼントキャンペーンも
予定されており、これからの展開には夢が膨らむばかりなのだ。

「まあいい、この力、振るわせてもらおう!!」
仮面ライダーバロン・メロンベアームズ駆紋戒斗は崖から跳ぶ。
向かう先は島の外ではない。鬱蒼と繁る眼前の森だ。ロックシード(500円)と戦極ドライバー(7000円)、そして本来の武器であるバナスピアー(2940円)を無双セイバー(5460円)
に持ち替えた彼は、ヒグマの力をも手に入れて奔り出した。
彼の見据える先にあるのは、本当に力がすべての世界なのか、それとも、クリスマス商戦なのか……それは神のみぞ知る。
ちなみに無双セイバー(5460円)は大橙丸(2940円)と合体させてナギナタモードにすることでさらに遊びの幅が広がることを追記しておく。

【I-1 崖上からH-2森方向へ】
【駆紋戒斗@仮面ライダー鎧武】
状態:仮面ライダーバロン・メロンベアームズ
装備:戦極ドライバー(7000円)、メロン(熊)ロックシード(500円)、無双セイバー(5460円)、メロンアームズの盾
道具:基本支給品一式。ランダム支給品なし。
基本思考:力無き者は消え去れ

【メロン熊@ゆるキャラ】
状態:メロンベアームズ

補足:変身解除されると、元いたE-8に戻ります。解除されない限り思考等すべてできないただの鎧状態。また、メロンロックシードによってどこからでも召喚が可能です。

No.046:Monster A Go Go 本編SS目次・投下順 No.048:ウルトラファイト ヒグマロワイアル編
本編SS目次・時系列順
No.017:新しい誕生祝い ウィルソン・フィリップス上院議員 No.063:勇者降臨
駆紋戒斗 No.073スーパーヒーロー大戦H

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2015年01月02日 23:48