新しい誕生
永沢君(※)の家が燃えていた。
※永沢君のフルネームは
永沢君男(ながさわきみお)という。
ながさわくんおとこと読むとまるで永沢君の皮を被った気持ち悪い(おそらくは玉葱頭の)怪人がいるようだがそんなことはないし、こんな読み方もしない。
繰り返すが、――永沢君の家が燃えていた。彼の目の前で、めらめらと炎を上げ黒煙を夜空へと広げながら燃えていた。
永沢君はその光景を呆然としながら見つめている。ただ立ち尽くし、その家が燃え落ちようとしているのを見つめていた。
今更消火を始めてもとうてい火事は収まりそうにない。
消防車が何台あったとしても家が無事にすむということはないだろう。その場合は水浸しになった燃えカスが残る――ただそれだけのことだ。
しかし、この燃え上がり今にも焼け落ちそうな家は、実は正確に言うと彼の家ではなかった。
ただの廃屋。そう、この建物はただの廃屋でしかなくまた誰のものでもなく、“だからこそ”彼が自分のものにしようとした家であった。
つまり、殺しあいに巻き込まれた彼はここでこの廃屋を発見し、ここに隠れることで戦いをやりすごそうと考えたのだ。
彼の行動を“卑怯”だと言われるだろうか?
だが、彼はただの頭の形が少し変わっているだけの小学生男子でしかない。隠れるのは卑怯ではないし、彼自身もその行為を卑怯だとは思っていない。
けれど、彼のそんな戦略は早くも破綻していた。そして、明かしてしまうとこの家に火を放ったのは彼自身であった!
「フフフ……」
永沢君の口がゆがみ、薄気味悪い笑い声がもれる。彼は燃え落ちる寸前の廃屋を前に恐怖と高揚感が混然とした笑みを浮かべていた。
その理由はどちらも彼がこの家に火を放った理由とつながっている。更には彼の戦略が破綻したというところからも。
彼は廃屋に潜むことで戦いを避けようとした。だがそれは破綻した。理由は簡単だ。潜んでいても敵は現れたのだ。しかも、“ヒグマ”が!
床板を軋ませながら近づいてくるヒグマに彼は戦慄した。恐怖で頭がおかしくなりそうになり、死を覚悟した。
だが、間一髪のところで彼はその窮地から抜け出す方法を見出した。つまり、廃屋に自ら火を放つ。
道具は手元に子供でも簡単にできる放火セットがあった。覚悟を決めてしまえば彼の行動は素早く的確だった。
「ははははは! なぁんだ、たいしたことないなぁ。ヒグマだなんて言っても所詮ただの動物じゃないか」
彼の目の前で家が燃えている。彼自身が火をつけた家がごうごうと燃えている。その中にヒグマを閉じ込めて。
たとえヒグマがどれだけ強くても獣は獣だ。火を見れば恐れるし、煙に巻かれれば呼吸ができなくなり、焼かれればいずれ死ぬ。
どれだけ人間より力が強くても、その身体が頑丈で、爪が鋭かったとしても、そんなのは関係ない。生物は焼かれれば死ぬ。それは厳然たる事実。
「ははははははは! はは……は、…………は?」
しかし、それは所詮小学生の、しかも成績の特に悪い小学生の頭の中の常識でしかない。世の中はそれを遥かに超越する非常識が存在する。
バタンと、燃える扉が内側から外へと倒れた。空気を吸ってその入り口が炎を吹く。その後から出てきたのは炎をまとった人型だった。
燃えながら、その人の形をしたものは外へと出てくる。その体躯は熊というにはスマートだし、クマよりかは小さくも見える。
なので永沢君はそれをヒグマではなく、別の何者かが廃屋の中にいたのかと思った。
だがそれは“ヒグマ”だった。この世界にいるヒグマのうちの一体。
「な、な……なんだ?」
炎がおさまると少しずつその姿が明らかになっていく。背後からの炎の明かりに照らされるその姿は、なんと意外にも鎧を着込んだかのような姿だった。
だが奇妙だ。永沢君はその姿を見て思った。自分の知っているどんな鎧姿ともそれは違う。
むしろ、鎧というよりも生物的で、そう、強いて言えばまるで蟹の甲羅のような――。
「あッ!?」
その甲羅がバラバラとはがれ、中から人間の男の姿が現れた。
外人だと永沢くんは真っ先に思った。そして、その男は男だというのにとても美しいと次に思った。
甲羅がはがれ落ちた男の姿はほとんど全裸で、その裸体はまるでギリシャの彫刻のように力強くかつ整っていて美しい。
波打った黒髪を背中に流し、彫りの深い顔をしていて目は切れ長で睫毛が長い。瞳は不思議な色の虹彩を持っていた。
「……………………うぅッ!」
その美しさに永沢君は恐怖し、歓喜し、ヒグマのことも燃える家のことも忘れ、そして最後になにか輝くものを見て――そして死んだ。
@
「フン!」
腕から伸びた刃(ブレード)から少年の血を掃うと、ヒグマだった男――
カーズは死体を見下ろしながら鼻を鳴らした。
「下等生物が」
人間、その子供。大人でもなく、戦士でもなく、ましてや吸血鬼でもなければ柱の一族でもないその子供は彼からすれば一番の下等な生き物だ。
だがしかし、彼も下等な時代はあった。柱の一族は強力な種族ではあったが完璧でも究極の存在でもなかった。
ゆえに彼は欲し求めた。究極生命体(アルティミット・シィング)を。
そして、それは実現した。彼が一族を裏切って探求の旅を始めてから一万と二千年後のことだった。
彼の発明した究極の石仮面。その動力となるスーパーエイジャという赤石を、宿敵である波紋の一族との戦いの中で勝ち取り、使用したのだ。
理論は間違っていなかった。その瞬間に長年の悲願は叶い、彼は究極生命体へと進化した。もうどんな天敵も恐怖もない。そのはずだった。
だが、彼は敗北した。ジョセフ・ジョースターという波紋の一族と呼ぶのもおこがましいちんけなイカサマ師に。
能力は圧倒していた。だが、罠にはまって地球の外――宇宙へと放り出された。
宇宙空間へと放り出された彼はなにもすることができず、結果としてただそのまま地球から離れ続け、それまでよりも長い眠りの時を強いられることとなった。
思えば、あの時はまだ究極生命体ではなかったのだとカーズは自省する。
カーズは頭がよくて謙虚だから反省できる。考える時間も充分にあった。そして、やはりどんな形であれ敗北したということは“足りなかった”のだと思い至る。
真に究極ならば、敗北などあるはずがない。敗北したのだとすれば、それは真の究極ではなかったということだ。
そして、彼は悠久の時を経て辿りついたこの場所で、真の究極生命体に必要なエッセンスを発見した!
「“ヒグマ”ッ! それがこのカーズをより完璧な究極生命体へと押し上げるッ!」
エイジャによって(今となっては究極というのはおかしいが)究極生命体となった彼の体内にはあらゆる遺伝子情報が内包されていた。
それにより彼はあらゆる生命体の特徴を備え、あらゆる状況に対応し、地球上のどんな生命体よりも優位に立てるはずだった。
だがッ! そこに“ヒグマ”の遺伝子はなかった。ゆえに真の究極ではなく、だからこそ敗北したッ!
簡単なことだった。そしてカーズは足りなかった“ヒグマ”の遺伝子を取り込むことに成功した。
そこにはこれまで以上に過酷な試練があったが、カーズはがんばるのも努力するのも大好きだったので、問題なくクリアすることができたのだ!
カーズの肉体が変化を始める。メキメキと筋肉が膨れ上がり、その表皮が硬く黒い毛で覆われていく。つまり――
『究極“羆”生命体(アルティミット・“ヒグマ”・シィング)カーズの誕生だッ――っ!』
【永沢君男@ちびまる子ちゃん 死亡】
【F-7/深夜】
【究極生命体カーズ@ジョジョの奇妙な冒険(ヒグマ)】
状態:究極“羆”生命体(アツティミット・“ヒグマ”・シィング)
装備:必要なし。(※)
道具:必要なし。(※)
基本思考:頂点は常にひとり。
1:他の下等な生命体を皆殺しにする。
※下等なロワ参加者ほど、
支給品の数は多い。死の危険が大きいからだ。
したがって、完全なるヒグマには強化アイテムや意思持ち支給品はいらない。頂点は常にひとり。
最終更新:2014年11月30日 23:50