赤が迫る。
 黒が迫る。
 死路が迫る。
 吸血鬼アーカードの最大の攻撃、『死の河』が今、少女たちの一行に向けて猛然と迫っていた。
 しかし氾濫する死の河を前にしてそこに、豁然と響きわたった声がある。


「まだ落胆なんて不要(ニードレス)よ!!」


 それは怒号にも似た、佐天涙子の決意表明だ。
 それは目映い火花のように、一行の心の導火線に火をつけていた。

 腕に抱えるクリストファー・ロビンの体が、佐天の声に震えたような気がした。
 まず触発されたのは、唯一この事態の詳細を知る少女、黒木智子だった。


 ――そうだ。まだ死なんて要らない。
 私は妃だ。
 このどうしようもなく強くてかよわかった少年の王国を引き継げるのは、私をおいて他にいないのだ。
 この子の存在を、信念を住まわせてやれるのは、私の心しかないのだ!


「そうだ、今しかない!!
 アーカードが拘束制御を全開放した今、今がその時だ! あれは奴の持つ全ての命を全て開放して全てを攻撃に叩き込む術式だ!
 城から全ての兵士を出撃させた総掛かりだ。城の中に立つは領主(ロード)ただ一人!!」
「この対応策がわかるのよね、智子さん!? 扶桑、上がって!」
「は、はい!!」

 バスの座席から身を乗り出して、智子は迫り来る死の河を食い入るように睨む。
 記憶の中の漫画の言葉をなぞり口を突いたセリフは、己の心を否応なく奮い立たせた。
 彼女の叫びに、超高校級の軍人として活路を求めていた戦刃むくろが真っ先に反応する。
 むくろのハンドサインを受けて、バスを固定している氷を取り除こうとしていた扶桑が動く。


「あいつは一人だ、ただ一人! 今やただ一人の吸血鬼、ただ一人のドラキュラだ!!
 あいつはきっと最初からこれだけが目的だったんだ!!
 神父もロビンも、この血の中に蠢いている誰も彼も、アーカードが自分の全力をぶつけて戦える相手を見つけるための生贄だ!!
 ああクソクソクソ畜生めが!! この河を渡るしかない!!
 この河を渡って、あいつの心臓を抉れ! それしかないんだ!!」
「そう来なくっちゃねぇ!! 『灰熊飯店(グリズリー・ファンディエン)』!!」


 智子は叫ぶごとに、自分の奥底から力が沸き上がってくるのを感じた。
 そんなマスターの意気に応えて、運転席のグリズリーマザーもまた唸った。
 料理も作っていないのに、あたりにはスパイシーな香りが立ち上る。
 鼻腔を満たす空気を呼吸するごとに、体には活力がみなぎってゆく。

 それはグリズリーマザーの宝具、『灰熊飯店(グリズリー・ファンディエン)』の能力の真骨頂。
 彼女の巣穴でもあるこの屋台は、その領域内のこどもたちを守り育む結界の役割を果たす。
 各人に力を与える、まさにそれぞれの『おふくろの味』の香気が、彼女たちの体を満たすのだった。


「マスターの魔力が高ぶってるのがわかるよ。今までで最高のコンディションだ!
 このお母さんが支えてやる! 存分に暴れな!!」
「もう氷取り除いてる時間無い! それよりもこの軍勢を捌くよ!!
 聞いたでしょう!? この奥の大将を落とせば、私たちの勝ち!!」


 バスの外に駆け出した戦刃むくろが、鉄フライパンを振りかざして河の彼方を示す。
 恐怖も逡巡もしている暇はない。勝つことだけが、この一行に残された道だった。


「あの血の色の果てへ――! 私が道を造ります!!」


 臨界値の森に、開戦のトリガーの雨が響く。扶桑の連弾だ。

 灰熊飯店の屋台バスの上に登っていた扶桑が、その8門の大口径主砲を一斉に放っていたのだ。
 血の河が弾け飛び、彼方のそこかしこで赤黒い水柱が上がっては消え去ってゆく。
 そこを越えて迫ってくる死者たちの量は一気にまばらとなる。
 軽巡洋艦天龍が、好転しつつ開幕した戦況に、グッと笑顔に力を籠める。


「わかってんだろ涙子! お前は一人じゃない! 俺が、俺たちが、必ず力になる!
 だからお前の言うとおり――! 落胆なんか必要ねぇ!!」


 彼方を睨む佐天の隣りに就き、天龍は二本の刀を構えて彼女の意気を後押しした。
 一人じゃない。というその言葉に、佐天涙子は思い出す。

 ――雨降る朝に、風の夜更けに、わしらはいつも祈っていよう。
 ――キミたちに眠るパワーアニマルが、常にブレイブを導くよう――。

 あの絶望の百貨店で、命尽きようとしながらそれでも佐天涙子に望みを託し道を示してきた人々が、彼女の傍らにはいる。
 ウィルソン・フィリップスの眠るデイパックから佐天が取り出したのは、彼の勇気が籠もった一振りのナイフ。ガブリカリバーだった。


「皇さん、ウィルソンさん、北岡さん……! 天龍さん、みんな、力を貸して!」
「そう来なくっちゃなぁ、抜錨だっ!!」


 二人の振るう刃が、走りくる死者たちの先陣を切り裂いた。
 そんな二人の少女を先頭にして、バスからはさらに続々と戦闘要員が降りてくる。
 正確には、逃げ腰の司波深雪の両脇を、百合城銀子とヤスミンが抱えて連れてきていると言った方が正しいが。

「帝国のためにも、ここで退くわけにはいきませんね、シロクマさん!」
「ほら、私たちも出るぞ深雪」
「はぁ!? 何してくれるんですか!? 正気ですかこんな軍勢目の前にして!」

 死の河が迫り来る地上に放り出されて、魔法演算領域の壊れている深雪は恐れおののくばかりだ。
 そんな彼女たちの元にもついに、扶桑の砲撃と天龍たちの白刃をかいくぐってきた死者たちが襲い掛かってくる。


「がう」
「アンプターティオ(切断)!!」
「ひいっ!?」

 両脇で揮われた爪に司波深雪は頭を抱え、震える彼女の上で死者たちは、血煙となって消え去る。

「私たちは狩る側だろう? じゅるり」
「災害時こそ、私たち医療者は奮闘しなければならないのです!」

 片やほくそ笑みながら、片や使命感に燃えて語られる言葉に、深雪は辟易とするばかりだ。
 死者を切り立てながら駆ける天龍が、そんな彼女に発破を掛ける。


「怖くて声も出ねぇかァ? オラオラァ!!」
「はぁ!? 無駄な声を張る必要がないだけです!!」

 その挑発に、深雪のプライドは容易く逆撫でされた。
 そうして彼女もまた、覚悟を決めて腕を振り被る。


「STUDY事務長、司波深雪の名において、穴持たず39ミズクマに仕事を依頼します!
 『この死の河を喰らい尽くしなさい』!!」


 放り投げられたミズクマの娘が死者の河の中に着水する。
 そして暫くすると、そこから爆発のように節足動物の水柱が上がる。
 ミズクマの孫娘、曾孫娘、夜叉孫娘たちによる乱舞が、死の河を遡上する。


「ふふふふふふふふふっ! 深雪はいつでもお兄様の勝利の女神ですから!
 お兄様を、復活させるまで、この私が負けるわけないんですよ!!」
「……ある種、盾子ちゃんと似てる、かも」
「流石だ深雪。やっぱりキミはクマだな」


 両手を広げた司波深雪は、吹っ切れて叫びを上げる。
 その様子を横目に、死者をフライパンで叩き潰しながら戦刃むくろは苦笑し、百合城銀子は舌なめずりをした。


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 そうして、河を下ってくる死者と、少女たちの戦いとは、一時拮抗しているようにも見えた。

「直接、奥の本体を狙い打てないの、扶桑!?」
「迫ってくる物量に対して角度が浅すぎて、遠方は視認しきれません!
 でも大丈夫です! このまま撃ち続ければ――!!」

 むしろ、司波深雪の指揮の元、死者を喰らってネズミ算式に増殖してゆくミズクマの奔流や、遠方から敵勢の多くを爆砕する扶桑の砲撃によって、一行はアーカードに向けて少しずつ進攻してさえいた。
 前衛に佐天涙子と天龍の白刃が煌めいて、攻め込んでくる死者の第一波を切りはふる。
 中衛にヤスミンと百合城銀子が飛び交い、回りこんで来た死者を遊撃しつつ、ミズクマの指揮を執る司波深雪を守っている。
 最後尾のバスでは、黒木智子とグリズリーマザーが魔力を振り絞って、一行の士気を上げている。
 その防衛拠点の上では扶桑が惜しみない砲撃を繰り返し、下では戦刃むくろが鉄壁の最終防衛線として、一人の討ち漏らしも無く死者を叩き潰している。

 2-3-1-3の強力なディフェンスフォーメーションを構築したままじりじりとラインを上げていくことで、彼女たちはこの死の河を攻略できるかも知れないとさえ思った。
 しかし問題は、最後尾のバスが、氷漬けで動けないことだった。
 フォーメーションが間延びして、ふと、死者たちの動きに目が配り切れなくなったその時だった。


「――え?」


 扶桑の砲撃に紛れて、佐天涙子たちの耳に、風切り音が響いた。
 それは微かで、それでいて確かな衝撃だった。
 バスの下の戦刃むくろの頬に、にわか雨のように温かい雫が降りかかった。
 見上げた彼女と目が合ってから、扶桑は自分の身に起きている異常に気付く。


「うそ……?」
「扶桑!?」


 扶桑の胸には銃弾で穴が開けられていた。
 唇から血が零れる。
 風切り音が、まだ空に響いていた。


「マスター!!」


 咄嗟に、異常を察知したグリズリーマザーの体が翻った。
 バスのガラスが砕ける。座席を弾痕が貫く。
 黒木智子をかばったグリズリーマザーの胸を銃弾が破る。
 フロントから飛び出したその銃弾はさらに方向を転換して佐天涙子に迫った。


「――『疲労破壊(ファティーグ・フェィラァ)』!」


 瞬間、咄嗟に彼女が翳した腕に当たり、弾丸は砕けて砂と化す。
 すさまじい速度で二人もの心臓を貫いた弾丸に、ほとんどの者は驚くこともできなかった。
 ただ一人、冷たくなってゆくグリズリーマザーの下で黒木智子だけは、その正体を恐怖とともに理解する。


「ま、魔弾の射手、リップヴァーン・ウィンクルだ!! 弾丸が高速で追尾してくるぞォ――!!」
「扶桑! 扶桑!? 大丈夫!?」
「畜生! 砲撃手はどこだ!? どこから撃ってるッ!?」
「私が矢面に立つわ! 真っ先に破壊する!」


 扶桑の砲撃が止み、グリズリーマザーの魔力が失われた一瞬で、均衡は一気に崩れた。
 勢いを取り戻した死者たちの河が、文字通り津波のように迫ってくる。
 佐天が焦って手に『疲労破壊(ファティーグ・フェィラァ)』を構えた刹那、遠くで銃声が響く。
 天龍が眼を見開く。
 見開いたまま、彼女は佐天涙子の手を取った。


「天龍さん!?」
「『烱烱の潭』!!」


 天龍はそのまま、掴んだ佐天涙子の手を勢いよく空間に動かした。
 その最後で、バシッという手応えと共に打ち落された弾丸が砂塵となって地に落ちる。
 ただ直進してくるだけではないその銃弾の軌道は、佐天涙子だけの力では追いきれなかった。

「蛇みたいに自在に動いてきやがる……!! 並みの動体視力じゃ追えねぇ!!」
「た、助かったわ!」

 天龍峡十勝・烱烱潭は、その崖下に巨龍が棲み、水面からでもその炯々たる眼光が覗けたということに由来する。
 しかし次に放たれた弾丸は、天龍や佐天を相手にせず、再び一気に後方へと飛んでいく。
 そしてそれに乗じて、かろうじて残っていたミズクマの防衛線を突破した死者たちが、一気に中衛以降へ雪崩れ込む。


「しまった――」
「ひいぃ!?」
「深雪!」
「シロクマさん!」
「『活締めする母の爪(キリング・フレッシュ・フレッシュリィ)』――!!」


 ミズクマを指揮する司波深雪が、その凶弾と死者たちに屠られそうになったその瞬間だった。
 突如空間に刻まれた数多の爪の軌跡が、それに触れた物質の一切を死滅させる。
 銃弾も死者たちも、その『動き』を殺されて土に還った。
 バスの中から、黒木智子が右手の令呪を掲げながら叫ぶ。


「令呪を以て命ずる! 『閼伽を募る我が死(アクア・リクルート)』だよマザー!! こんなとこで死んでられるかよ!!」
「ああ、死んでる場合じゃないよ!! 一家を送り届けるまで、お母さんはまだへばっちゃいられないんだ!!
 あんただってそうだろう! なぁ!!」


 惜しげもない宝具の開帳で自己を復活させたグリズリーマザーが、『灰熊飯店(グリズリー・ファンディエン)』の士気高揚効果を再起動させながら発破を掛ける。
 扶桑はバスの上で崩れ落ちそうになって、そして踏みとどまっていた。

「……ええ」

 胸のど真ん中を射抜かれてなお、彼女の機関部は止まっていなかった。
 真っ赤な燃料を吹きこぼしながらも、彼女の心はまだ熱くたぎっていた。


「……そう、私はヒグマだから……。艦娘だから……」


 扶桑はその感覚に、慄然と理解した。
 自分はもう、逃げ惑い諦める方向には進まないのだと。
 自分自身の心と体が求めているのは、絶望ではなく希望なのだと。
 目に映るのは、この血の色の向こうに道を指し示す少女たちだ。
 そう、自分はこの少女たちに、はっきりと触発されたのだ――。


「まだ死なない! まだ沈まない! まだ絶望なんて要らない!」

 胸の穴に、扶桑は自身の人差し指を突き込んで血を止めた。


「まだ私の燃料は燃え続けているわ!! まだ私は沈没していないわ!!
 ああそうよ、私は絶対の意志を以て望む!!
 望みを絶たれるのは、私の弾丸を受ける、あなたたちの方だわ!!」

 口の端から血の筋を垂らしながら、扶桑は吠えた。
 同時に彼女の8門の主砲が、その威力と速度をいや増しに増して轟く。


「私は沈みきってしまうその時まで、スクリューを、回し続けたんだからぁぁぁ――!!」


 機関が止まってしまうその時まで、自分は艦娘としてありたいのだ。
 その一念が、扶桑の全生命を燃やして死の河を穿っていく。
 彼女の様子を見上げながら、戦刃むくろは感動に打ち震えていた。


「扶桑……、見つけたのね……!」
「居ました! 2時方向50メートル!! 私の砲撃を避けて退避中!!」

 蠢く群れとは反対に動く、マスケット銃を構えた女の死体の姿を、扶桑はバスの上から捕捉した。

「させません!! ファスキア(包帯)!」
「逃がさないよ」

 その地点の最も近くにいたヤスミンと百合城銀子が走る。
 包帯が蛇のように伸びた。


「ヴィンキオ(拘束)!!」


 ヤスミンの持つヒグマの体毛包帯が、魔弾の射手をその銃ごと縛り上げる。
 リップヴァーン・ウィンクルは苦し紛れに発砲し、その自在な弾丸でヤスミンたちを射抜こうとした。


「私は隙を明らめない」


 そこに割り込んできたのが、百合城銀子である。
 当然、放たれていた弾丸は彼女の心臓を貫こうとした。
 しかしその弾は、まるで鏡に映った虚像を砕いたかのようにすり抜ける。

 そしてその弾丸は側面から、突き出された百合城銀子の爪によって破壊された。
 クマモードとウイニングモードとを間髪入れず入れ替えられる彼女にとっては、体の存在座標を一瞬にしてずらすこともまた容易いことだった。


「今だ! 月の娘!」
「はああああああ!」


 ――皇さん!

 その戦いの局面に、佐天涙子が追いついていた。
 死者たちの頭上を掻い潜り、風に乗って少女の脚が翻る。
 繰り出された前方宙返りからの踵落としは、かの独覚兵が見せた死神(ユム・キミル)の鎌の、美しくも冷ややかな動きに酷似していた。
 脚での『疲労破壊(ファティーグ・フェィラァ)』。
 三日月の鎌は魔弾の射手を、その魔弾ごと砂塵に変え、脳天から蹴り砕いていた。


「やったな涙子!」
「ふふふふふっ! 所詮、死の河とやらもこんなものですか!
 結局、少々強い死人でも単発銃しか撃てないなら、ミズクマさんのエサが増えただけですね!」
「深雪は、狙い撃たれなかった幸運に感謝したほうがいいと思うぞ」


 天龍が快哉を上げ、司波深雪が調子に乗る。
 一瞬危うい状況にはなったが、依然として彼女たちの一行は善戦ができていた。

 その大部分は、深雪の操るミズクマの群れが、かつ増え、かつ潰されしながらも、ついに百万近い頭数に増殖していたからだ。
 ミズクマの娘たちは、一匹一匹は小さいものの、それだけの数がいれば、押し迫る死の河と真っ向からぶつかり合ってもほぼ押し合える程度の物量になっている。


「もう、骨のある者はいないようですね! ふふふっ、あとは好きに攻め放題です!
 さあ行ってくださいヤスミンさん、百合城さん、天龍さん、佐天さん! さあほら早く!!」
「なんで私たちを誘拐した一味が上から目線で命令してくるかなぁ……?」
「確かに無性に腹立つが、そこは目をつぶろうぜ涙子……」
「深雪、油断するなよ」
「いずれにせよ、シロクマさんの言う通り、今が好機です! 一気に原発巣を切除に向かいましょう!」


 一人うしろに下がりながら声高に命令してくる司波深雪の態度に思うところは様々だったが、死の河とミズクマが拮抗している今は、確かにチャンスだった。
 そこでヒグマ帝国の要職として、ヤスミンが真っ先に死の河の中に切り込もうとした。
 その時だった。

 突如何かが風を切って飛来し、ヤスミンの前脚を跳ね飛ばす。


「グァ――!?」
「え?」


 呆然とした司波深雪の前で、押し合っていたミズクマたちが、一斉に何かに貫かれて細切れになる。

「くぅ!?」
「がう!?」

 紙吹雪のように舞い散りながら何かが迫る。
 咄嗟に佐天はガブリカリバーを構え、百合城銀子は小さな熊の姿になってその吹雪を躱す。
 受け止めたガブリカリバーにトランプが突き刺さる。
 トランプの刺さった傷が交差してT字のように見えた。

「あ、『暴れ天龍』!!」

 天龍が高速で両手のナイフと日本刀を振り回し、一帯に舞い散るトランプを断ち落とすも、息つく暇もなく、次なるトランプの吹雪が死の河の奥から巻き上がって一行に迫っていた。
 単純な命令に従って死の河と押し合っていたミズクマたちは、逃げることもなく切り刻まれるままとなり、瞬く間にその数を減らしてゆく。


「ひぇ!? ミ、ミズクマさんが総崩れに!? あ、ああ!? どうすれば!?」
「伊達男、トバルカイン・アルハンブラ! 宙に舞ってるトランプは全部刃物だ!
 突っ込んだら全身なますになるぞ!!」


 対処法のわからない司波深雪が一瞬にして顔を青褪めさせる中、バスの割れたフロントガラスから身を乗り出して、黒木智子が前方の者たちに情報を叫ぶ。
 しかしながら、舞っているトランプの正体がわかったところで根本的解決にはならない。
 バスの上から、扶桑が血を吹きながらその発生源と思しき場所に砲撃を打ち込み続けているが、銃撃ほど明確な発射点がわからない上に、相手は奇術師のように巧妙に死の河の中に身を潜めているようだった。
 まごついている間にも、少女たちの上には空を埋め尽くしそうな勢いでトランプが舞い始めていた。


「まだ諦められません……! そうでしょう!? 私は医療者なのですから!!」


 その時、左腕を切り落とされうずくまっていたヤスミンが、歯噛みして立ち上がった。
 手骨がごりごりと音を立てて軋む。
 摩擦で熱を発生させているのだ。
 肉が焼けるほどの高温になったその掌で、彼女は自分の肩を焼いて無理矢理に止血する。
 そしてそのまま包帯を掴み、飛来するトランプの群れに向けて振り抜く。

「ウスティオ(焼灼)!」

 引火した包帯が炎の鞭となり、迫っていたトランプを燃やし落とす。
 ヤスミンは叫んだ。


「やはり紙! 可燃性が高いです! 一気に焼いて下さい!!」
「そうだ、焼き落とすぞ涙子!」
「うん!」


 天龍と佐天は、ヤスミンの指摘にハッと顔を見合わせて頷き合った。
 強化型艦本式缶が赤熱する。
 足元の地面が凍ってゆく。
 ガブリカリバーに炎が灯る。


 ――ウィルソンさん!

 それは『狂喜と勇気(レイブ&ブレイブ)の剣』だ。
 明け方に受け継いだ左天のガントレット程ではなくとも、その刃の内部に、佐天は熱量を溜めることができた。
 その勇気のような熱さに、佐天と天龍は、その威力を確信した。


「『紅葉の錦』!!」
「『気流歪曲(ストリームディストーション)』!!」


 天龍の放った重油と炎の塊が、佐天の巻き起こす猛烈な竜巻に乗って火災旋風と化した。
 数多の死者たちとともに、空間を埋めていたトランプも一斉に燃え上がり灰と化す。
 死の河を舐めるように火炎は燃え広がる。
 そのトランプ群の中心にいたトバルカイン・アルハンブラの体もまた、燃え上がり蒸発してしまった。


「ヤスミンさんは下がって! 私達で道を切り拓く!」
「百合城! お前に任せるぞ、下がりつつ防衛してくれ!」
「すみません……、後ろはどうにかします……」
「任せておけ。深雪もだ、下がれ」
「あ、あわわ……。ミズクマさんも全部蒸し焼きに……」


 佐天の放った旋風が残っている間は、炎は燃え続けた。
 迫っている死の河もその炎に阻まれて押し寄せられない。
 しかし、ミズクマの大群も焼き尽くされてしまったこの状況で、次の衝突がどうなるかの予測はつかなかった。

 手負いのヤスミンと、攻撃手段のなくなった司波深雪を百合城銀子に任せて、天龍と佐天が、炎に顔を照らされながら、最前線でその奥を見つめる。
 そして、炎の幕が切れる。
 その瞬間、彼方から地鳴りを立てて迫ってきたのは、膨大な数の騎兵の軍団だった。


「イェニチェリ軍団! ワラキア公国軍! 中世騎兵の火砕流だ!!
 飲まれるな! 踏まれるな! 切り抜けろォォォ――!!」


 バスの中で固唾を飲んで様子を見ていた智子が、絶叫した。
 ただの死者たちのようには切り裂けぬ歴戦の兵たちだ。
 しかし佐天も、天龍も、その目に諦めなど浮かべてはいなかった。


 ――北岡さん!

 ナイフを握り締め、佐天は構える。
 あの絶望の百貨店で、遥か遠くから届いた弁護を思い出す。
 あの的確で大威力の、思いと決意を込めた爆炎を思い描く。


「私の友達にぃぃぃぃ――ッ!!」
「強化型艦本式――ッ!!」


 迫り来る軍団の波頭が、佐天涙子の気迫と共に一斉に凍りついてゆく。
 膨大な熱量が吸収され、彼女の手元のガブリカリバーを赤熱させて輝く。
 同時に天龍の背負う内燃機関が、割れんばかりにそのボイラーを沸かして滾る。


「手を、出すなぁぁぁぁ――!!」
「『諏訪の』、『水絹』――!!」


 これぞ『第四波動』。
 これぞ信濃の誇る暴れ川の氾濫。
 噴射される爆炎と蒸気圧の大砲が、幾千、幾万の軍勢を薙ぎ払い焼き尽す。
 少女たちの気焔が、絶叫する夜に、在るはずのない野火を誇り燃える。


「ウッシャァッ!! 敵陣突入! ビビってんじゃねぇぞ!!」
「ええ、怖くない! そんな感情、不要(ニードレス)よ!!」

 死の河が誇る軍団のど真ん中に風穴を開けた佐天と天龍は、そこへ脇目も振らずに踏み込む。
 走る一歩ごとに、紅葉のような爆炎が咲き、閃く白刃が血飛沫を裂く。
 赤熱する刀を振るい斬り込む少女たちの姿が、後方の者たちにも眩しく映っていた。


    ℃℃℃℃℃℃℃℃℃℃


「そうです……、行ってください天龍さん……! この命尽きるまで……、私も全力で援護します……!」


 バスの上で、徐々に体から力が消えてゆくのを感じながら、その衣装を血で真っ赤にした扶桑は呟く。
 ミズクマが燃え尽きてしまった今、天龍と佐天の攻勢を抜けて迫る死の河の残りを削れるのは、彼女の砲撃しかなかった。
 バスのもとに戻った百合城銀子、ヤスミン、司波深雪は、戦刃むくろと合流してバスの四方に散り、砲撃を抜けてくる死者たちを必死に捌いていた。

「うう……、まさに死の集合体……!! 汲めども尽きぬ死線の津波……!
 お兄様、お兄様、どうか深雪を助けて……!!」
「甘ったれないで! 涙子さんたちの奮戦がわからないの!? 私達も戦い抜くよ!!」
「あなたのような超高校級の絶望に言われずとも分かっています!!」

 そんな中で、手当たり次第に地面の石や死体の骨を『弾き玉』の要領で急所に打ち込んでゆくしかない司波深雪が、あまりに困難なその戦法に泣き言を漏らす。
 しかしながら、ヤスミンも戦刃むくろも手負いなうえ、百合城銀子も含めて、彼女たちはフライパンや爪で死者たちと戦っているのだ。
 戦刃むくろがフライパンで死者の頭を叩き潰しながら苛立って叫ぶが、既に司波深雪の息はあがりに上がっている。
 見かねたむくろは、気に食わないながらも、温存していた拳銃を貸し出してやろうかとさえ考えて、死者が切れた合間に背中をまさぐる。

「アタシが捌いてやるよシロクマさん!!」
「グリズリーマザーさん!?」
「マスターの命令でね! 相手しきれないならスルーしな! アタシが残りは全部3枚おろしにしてやるよ!!」

 だがむくろが動くまでもなく、そこにはグリズリーマザーの大きな青い爪が加勢していた。
 屋台バスの運転席に戻らず、グリズリーマザーは、その結界宝具を全力で稼働させながら、さらに『活締めする母の爪(キリング・フレッシュ・フレッシュリィ)』を大盤振る舞いする構えだった。
 魔力を振り絞り尽くすその行為は、当然ながらマスターである黒木智子の絶大な覚悟の上に成り立っていた。


 智子は、バスのタラップを降りてすぐのところで、全身を襲う激しい痛みに嘔吐している。
 開いたばかりで、碌な本数もない魔術回路を、限界を超えて稼働させているのだ。
 キャスタークラスで魔力が多く、かつヒグマであるグリズリーマザーがサーヴァントであっても、宝具2つを全力で行使することによる魔力消費の反動は並々ならぬものだった。
 それでも彼女は、胸にロビンの遺体を抱きしめ、気を失いそうになる意識を必死に保った。

「これくらい……、屁でもねぇよな……。お前は、もっと痛くても、傷だらけでも、試合をやり通して、勝ったんだもんな……。
 お妃さまだって、これくらいでへこたれてちゃ、ダメだよな……!」

 ――私は、お前に、追いつきたいんだ……!


 恋心と意地と悔しさと。智子は持てる全ての感情を振り絞って、この死地から生き残る決心をしている。
 そんな彼女の元に、何者かがひっそりと歩み寄ってきた。
 顔を上げた智子の前には、テニスラケットを携えた、背の高いクールな青年が立っていた。

「な!? ひっ!?」

 智子はおののいて尻餅をついた。
 血の色をしたその青年は、まず間違いなく死の河に召喚された死者の一人だ。
 しかし彼は、四方に展開している百合城銀子たちに気づかれず、死角をついて接近する理性と技術を持っているということだ。
 先のリップヴァーンやトバルカインに匹敵する、名のある敵であることは間違いない。

 智子は咄嗟に、こちらに背を向けて死者たちと戦っているグリズリーマザーたちを呼び寄せようとした。
 だが青年は、すぐに智子に襲い掛かっては来なかった。
 彼は智子の胸のクリストファー・ロビンを見つめて鼻を鳴らした後、ゆっくりとテニスラケットを両手で構えていた。


「お、お前、ロビンの知り合いか……!? どういうことだよ、テニスラケットで野球するつもりか!? バカか!?」


 智子はその青年の行動を理解できず、狼狽した。
 しかし同時に、その青年が確かに凄腕のテニスプレイヤーであり、ロビンに敬意を払っているのだということは、なぜかわかった。
 彼は『いいから投げろ』と言わんばかりに、智子を手招きする。

 それに従って、智子は震えながら、デイパックの中のボールを探る。
 もし逆らって智子がグリズリーマザーたちに向けて叫べば、おそらくこの青年はその瞬間に智子を襲って殺してしまうだろう。

 この青年がしたいことはつまり、先のロビンが行なっていた、ホームランダービーによるデスマッチと同じことだった。
 智子が投げたボールで青年をアウトにすれば勝ち、ボールを打ち返されて智子が死ねば負けだ。
 しかしながら今回は、それは一球でカタがついてしまうだろう。
 非力な智子が、果たしてどうやれば一流のアスリートに勝てるというのか――。
 智子は恐怖でカチカチと歯を鳴らした。
 脳裏に、ロビンの笑顔と、彼が教えてくれたコールがよぎる。

 ――When it comes to makin' music I'm the ruler(この道では 僕が王者だ)。
 ――You wish you could be twenty percent cooler(進歩しな あと20%くらい)。

 智子はその手に、ロビンが残してくれていたボールを、しっかりと掴んでいた。


「ロビン……、私に、力を――!!」


 そして智子は、全力でそのボールを投げた。
 放り投げたボールは、青年が撃ち返すまでも無く、ほとんど飛ばずに力なく地面に落ちていた。
 身構えていた彼も、投げた智子自身も、拍子抜けに呆然とするしかなかった。


 だがそのボールは、手榴弾だった。


 ロビンが最後にとっておいていた手榴弾は、そのまま地面を転がり、爆発していた。

 爆風とともに飛んだ破片が、青年の全身を穿った。
 当然彼はその全てをラケットで打ち返そうとした。
 しかしガットは切れ、ラケットは砕けた。
 ラケットは、鉄球や爆弾を打ち返すための道具ではない。
 地面にぶつけただけで折れたり砕けたりしてしまう繊細な消耗品だ。
 況や、テニスはネットやコートも敷かれていない場所で試合ができるスポーツでもない。

 ヒグマに食われ、彼――跡部景吾の選手生命は、文字通り終わっていた。
 ただ彼が託した王国の、『お前だけの氷帝コール』は、確かに彼に届いた。
 王国の行く末を任された王妃の雄姿を、彼は確かにその目に焼き付けた。
 門出を祝うように左手を上げると、そのまま跡部景吾の肉体は、砕けて血に返っていった。

 智子はその様子を見て、へたへたと地に座り込んでいた。


「ふ……へ……、見たか。見てたか、ロビン……。お前だったら、きっと、こうするだろ……?」
「何やってんだいマスター……!? ア、アタシが間に合わなかったら、どうする気だったのさ……」
「きっと守ってくれるって、信じてたから……」


 智子の前には、グリズリーマザーの青く広い胸があった。
 智子は声ではなく、マスターとサーヴァントとしての魔力の繋がりを震わせることで、己の危機を伝えていた。

 爆風から守ってくれたグリズリーマザーの声を耳にしながら、黒木智子は悟った。
 投手とはボールをストライクゾーンに投げる存在ではない。
 ボールを投げて勝利を導く存在。 
 王であり、英雄である――それが、クリストファー・ロビンという男だった。

 彼は自分の王国を、王妃が必ずや守ってくれると信じていた。
 だから戦えたのだ。
 何をしようとも、帰れる信念がそこにあったのだ。
 王の姿に追いつこうとした王妃は、やっとほんの少し、彼の背中に近づけたような気がした。


「あ、グ、グリズリーマザーさん、行かないでください! ちょっと、私もう弾ける玉がないんですよ!?」

 その時、黒木智子のいるバスの近くに慌てて走って行ってしまったグリズリーマザーに慌てたのは、司波深雪だった。
 智子とは対照的に、わらわらと寄ってくる死者たちに対抗する術がなくなった司波深雪は、一瞬にして絶望感に包まれる。
 しかしその責任の大半は、グリズリーマザーに守られ始めるや否や、安心しきって弾丸の補充を怠っていた深雪自身にある。
 致し方ない。


「ひぃ!?」

 しかし、そうして恐怖に身をすくませた彼女の目の前で、死者たちが一気に袈裟懸けに薙ぎ払われる。
 それをしていたのは、銀髪の天然パーマに、死んだ魚のような目の、着流しを纏った侍と思しき男性だった。


「お、襲ってこない……!?」


 その男性は、明らかに死者でありながら、着流しの懐に手を突っ込んでぼりぼりと胸を掻き、手に持った木刀で何やら地面に言葉を書きつけていた。

「『女に手は出さねぇ。さっさと行きな』……!?」

 着流しの男はそのまま、司波深雪に近づいてくる死者たちをバッサバッサと木刀で薙ぎ倒してゆく。
 あたかもプリンセスを守るナイトのような紳士的な振る舞いに、兄の面影さえ重なって、深雪は少しばかりでなくときめいた。


「まさか、理性を保ってるの!? あ、ありがとう、助かりましたわ!
 この美しい私を真っ先に助けるとは、見る目がありますね、生前はさぞ立派な方だったんでしょう……」


 感嘆する深雪の言葉に、その男――坂田銀時はニヤリと微笑む。
 彼はチッチッと指を打ち振って、地面に文字を書き加えていた。


「なんですって……?
 『女に美も醜もねェ。ブスも美女も差別なく平等にただの穴として口説くのが俺の作法だ』……?
 『やらせてくれそうな穴がいたから寝返ってきたのさ。これが終わったらシッポリしようや』……」


 深雪は地面に刻まれた文言を読み上げた後、しばし絶句した。
 そして、にこにこと見つめてくる坂田銀時に向き合うと、思いっきりその拳を振り上げた。

「死ね!!」

 HIGUMA細胞移植手術で増強された筋力が、九重八雲に鍛えられた体術でもって揮われる。
 深雪の渾身の打ち下ろしは、過たず坂田銀時のこめかみを捉え、その頭蓋をスイカのように粉砕していた。


「死んで当然のクズでしたね。そりゃあそうでしょう。こんなヘドロの河になんか、私の鉄拳で砕けるようなクズしかいません!!」
「深雪はどんどんクマらしくなっていくなぁ。流石だ」

 ヒステリックに叫びながら、さらに吹っ切れた司波深雪は、迫りくる死者たちを次々と殴りつけて消滅させてゆく。
 その様子を横目に、百合城銀子が死者を食らいつつ、じゅるりと舌なめずりをしていた。


「――よし、凌げる! 凌げるよ! 智子さんや扶桑がやられないように! 涙子さんたちを信じて、この拠点を守り抜こう!!」


 そして戦刃むくろもまた、フライパンを振り抜いては高らかに叫ぶ。
 一行はこの死の河と、再び互角に渡り合っているように見えた。
 心が沸き立っていた。

 友のために戦えていること。
 そしてその友を確かに守れていること。
 その事実に、達成感ばかりが心を満たした。

 戦刃むくろは、今まで彼女が彼女として感じたことのない喜びと希望で溢れていた。


    ℃℃℃℃℃℃℃℃℃℃


「……なるほど。少しはやるようだ、人間(ヒューマン)。
 だがその程度では足りない! 絶対的に足りない!
 身も心も魂も、最後の一滴まで振り絞り、さらにあるはずのない力の全てを出し尽くし犠牲としなければ――。
 この河を渡り、境を越え、この壁を破り私を討つことなど到底できはしない」

 その頃、この死の河の主――アーカードは、ぽつりとそう呟いていた。

 アーカードは血の河の最奥で、血の色の玉座に深々と腰掛け、戦況を悠然と見下ろしている。
 彼が座っているのは、血のヒグマの上だった。
 彼がこの島で食らってきた数多のヒグマたちが溶け合い煮凝りひしめき合った、異形のヒグマの曼荼羅が、アーカードを守る玉座となり壁となり垣根となり、爪と牙を奮い立たせて、めろめろとした瘴気を吐きながら呻き声を上げている。


 最後尾のバスからは、あたかもこの一行は死の河と互角に戦えているように見えただろう。
 しかし実際のところ、彼女たちの最前衛は、このアーカードが待つ玉座までの距離の、半分までさえも届いてはいなかった。


「――油が切れた!? クソッ、もう撒けねぇ!!」
「天龍さん!?」

 軽巡洋艦天龍が、紅葉のように吹き散らしてきたその火炎を、ついに放てなくなる。
 佐天が、彼女と離れた位置に分断されたまま安否を尋ねて叫ぶ。

 戦刃むくろたちが死者を捌けていたのは、扶桑が砲撃で攻勢の大半を打ち砕いていること以外に、最前線で佐天と天龍の二人が、後先を鑑みぬ全力で死の河の勢いを崩していたからに他ならない。
 しかし、死の河のただ中に切り込んでしまった両者は、すぐに取り囲まれて、お互いが孤立無援の戦場に取り残されてしまう。
 いわば、河の真ん中にぽつんと残された中州だ。
 少しでも河が増水すれば、すぐにでも水没してしまう。

 物量があまりにも違いすぎる。今まで天龍たちが消滅させた死者たちは、多く見積もっても死の河全体の二割にも満たない。
 疲労が募る。
 力が枯れる。
 アーカードに至る最短距離を切り込んでいっても、次々と押し寄せてくる死者は天龍と佐天が捌ける数を超えてきている。
 なおかつ、天龍に残っていた燃料は、間違いなく有限だ。
 押し切られるのは時間の問題だったのだ。


「あと少し……! あと少しなのによぉ!」
「『凍結海岸(フローズン・ビーチ)』!! 天龍さん、今行く!!」


 途端に劣勢に追い込まれる天龍の様子に、佐天は一帯の死者たちを氷漬けにして時間を稼ごうとした。
 だがその瞬間、凍って足止めされる死者たちの垣根を超えて、何かがヒュッと音を立てて佐天に迫っていた。

「はっ!?」

 咄嗟に斜めに受けたガブリカリバーに、風圧だけでU字のような湾曲した傷が入る。
 それは佐天の目元を狙って放たれた、猛烈な勢いの呼気――、言わば『見えない目潰し』とでもいうようなものだった。
 天龍の元へ走り出そうとしていた彼女の前に立ちはだかったその死者は、半分熊、半分人間のような男だった。

「る、涙子――!? そ、そいつは、津波の上を走る足をもってやがったヤツだ!!」
「なっ――!?」

 弁髪をたなびかせたその偉丈夫――烈海王は、中国拳法のキレで拳打と蹴撃を繰り出し、死者の氷でできたリングの上で、瞬く間に佐天涙子を追い立ててゆく。
 今までの死者たちとは格が違う。格闘家のそれだ。
 津波に沈んだ烈海王らの死体も、水が引いた後にアーカードによって取り込まれていたのである。

 彼は、佐天涙子の能力によって地面が凍る前に右足を浮かせて前に出し、同じく左足が凍る前に浮かせて前に出し……、それを繰り返して、氷の上を歩いてきていた。
 ヒグマとなっている彼は、15メートルまでならばこの凍結領域を駆け抜け、凍り付くことなく戦うことができた。
 その拳に、蹴りに、佐天涙子は否応なく思い出す。


 ――工藤さん!!


「私は!」


 佐天が手を打ち払う。
 その華奢な手ごと、彼女を叩き潰すかと見えた烈海王の正拳突きは、何時の間にか肘からごっそりと消えてなくなっていた。
 佐天は慟哭した。叫びながら、むしろ体当たりのようにして、烈海王の胴体に組み付いていた。


「能力者に!」


 力を。圧倒的な力を。
 羆になってまで強くなろうとした工藤健介の気持ちが、今なら少しわかるような気がした。
 強くなければ、強くならなければ、生き残れない。
 守れない。
 会えない。
 愛せない。
 大好きなあの人の笑顔をもう一度見るためには、あらゆる力を使うしかない――!


「なったんだぁっ!!」


 殺意が吹き上がる。
 『蒼黒色の波紋疾走(ダークリヴィッド・オーバードライブ)』の昏い光が、巨大な蛇のように烈海王の全身を飲み込み、一瞬にして砂塵のように砕き尽した。
 蒼黒い光は、そのまま血の色の河を伝わって、死者たちを砂嵐に噛み砕いてゆく。
 その光は、天龍だけをよけて、あの百貨店の屋上を再現するかのように、半径数十メートル圏内の死の河を蒸発させ一気に砂地へと変えた。

「る、涙子……、助かった! だが、今度は……」

 駆け寄る佐天に助け起こされ、天龍は喘ぐ。
 その隻眼に映ったのはしかし、砂地になおも踏み込んでくる死の河と、その先頭にいる死んだヒグマたちの猛りだった。


「クッソ、ヒグマが来やがる――!」
「忘れない! 怯えない! 流されない! 負けない!
 挫けない! 逸らさない! 諦めない! 逃げない!
 まだだよ天龍さん! まだ落胆なんていらない!! ほら!」


 だが荒い息をつきながら、未だはだかる死者の壁の向こうに、佐天は檄を投げる。
 その言葉に見上げた天龍の眼に、夜を飛ぶ銀の閃光が映る。
 死者の赤の中にひと際まばゆいその色彩に、天龍は確かに見覚えがあった。


「銀!」


 それは、かつて彼女と共にいた秋田犬、『流れ星』と異名をとった熊犬の銀であった。
 津波に飲み込まれた烈海王とともに、彼の遺体もまた、アーカードの中に取り込まれていたのだ。

 死してなお、熊狩りの猟犬たる彼の本能は変わっていなかった。
 彼は天龍の脇を通り過ぎながら、にやりと口角を上げたように見えた。
 絶・天狼抜刀牙の旋風が、天龍を襲おうとしていた死んだヒグマたちを薙ぎ払い、彼方へと過ぎ去っていった。
 血の色の中に眩い銀光が、次々と河を切り裂いている。

 そして更に、残った死者たちは突如、佐天や天龍のものとは違う炎に焼かれ、そして生きたヒグマに薙ぎ払われていた。
 天龍はいつの間にか、自分のデイパックから一つのボールが零れ落ちていることに気づく。
 炎の馬を伴った禿頭の男性と、そしてサーフボードを携えた一頭のヒグマが、天龍の前に歩み来る。
 両者とも、天龍の見知った顔だった。


カツラ!? それに、サーファー!?」
「こんなビッグウェーブ見たら……、乗らねぇわけにいかねぇのが波乗りの性さ……。
 ありがとよ人間の姉さん……。束の間の休息だったが、快適だったぜ」
「……」

 ヒグマサーファーの声に合わせ、死の河から蘇ったカツラは天龍に向けて親指を立てる。
 彼は友たるポケモンとともに、ヒグマをも守りたいと――、そう考えて生きていたはずだった。
 しかし今は、彼の心にもサーファーの心にも、それよりもさらに守りたいものがあったのだ。

 そしてサーファーは、カツラは、死の河の波に飛び込んでいった。
 潮に湯浴みした海の子ならば、千尋の底に帰ることこそ本望だというように。
 赤銅の血潮を切り立て切り立て、天龍のために道を拓き切って、斃れていった。


「何だよ、何なんだよ、どうしてお前たちはそうまで思い切ってんだ!」


 天龍は、ボロボロと涙を流して慟哭した。
 そして泣きながら気づくのだった。

 ――そりゃそうだ。そうだよな。

 今も天龍の手を握る温もりが、その思いの原動力なのだと、わからないはずがなかった。
 傷だらけの制服で・傷つき倒れながら・もがきながら・苦しみながら・それでも生き抜こうと・生きて友に会おうと進み続けているこの少女――。
 佐天涙子の姿が、そこにあるからだった。


「こんな信念を見せられて、思いきらねぇほうがどうかしてる……。もう迷いなんていらねぇ!!」


 こんな少年少女たちの未来を、奪いたくない。奪わせたくない。
 彼女たちの展望を、閉ざしたくない。
 人を。彼女たちを守りたい――。
 艦船としてのその初心の一念を思い出し、天龍は奮起した。


「お前たちの思いは、届ける! 俺たちが必ず届ける!!」


 ――狙うは、司令塔だ。
 忘れもするまい、あの大戦にて、日本は本土への新型爆弾の投下にて一瞬にして米英に敗北を喫した。
 広がりに広がった末端の島嶼では、まだ兵士たちが戦いを続けていたのにも関わらずだ。

 この戦いに勝つには、はじめに黒木智子が指摘したとおり、敵の本拠地を、司令塔を、一気に襲撃して陥落させるしかない。
 こちらがどれほどの犠牲を払おうと、それさえできれば、勝ちなのだ。
 我が身一つが砕けようと、それだけで、守りたかった未来は救えるのだ。


「乗れ、涙子!! 俺が命に代えても、お前を送り届ける!
 あそこのクソオヤジに、お前の全てを、俺たちの全てをブッ刺せ!!」
「……うん!」


 燃えるような天龍の言葉に、佐天涙子もまた、ただ震えながら頷く。
 天龍たちにとっての切り札は、この佐天涙子をおいて他になかった。
 必ずや投下してみせる――。

 天龍は、機関の内部に残る最後の燃料全てを燃やし、銀と穴持たずサーファーが切り拓いた道を滑走路として、助走をつけて飛び上がった。


「『藐姑射(ハコヤ)の橋』!!」


 中国の奥地の藐(はるか)には、不老不死の神仙たちが棲んでいる、姑射という山があるという。
 争いや俗世を超越した、理想の場所があるという。
 数多の者が憧れ訪ねたその空想上の場所を、天龍もまた追い求めていた。
 もうこんな争いは御免だ。もうこんな争いには、終止符が必要なのだ――。

 天龍峡十勝・姑射橋は、その地へと繋がる橋のような巌だった。


「行っけぇ涙子ぉぉぉ――!!」
「はああぁぁぁぁぁぁ――!!」


 高く高く飛び上がった二人が風に乗る。
 天龍はそこから佐天涙子を掲げあげて、さらにエンジンを吹かせた。
 空中で天龍は佐天の体を放り投げる。
 佐天は天龍の手を蹴って、その反動を受けてさらに高くへと、遠くへと、眼下に犇めく死者の河を越えて、500メートルを越える飛距離の軌跡を描いて、はるか先にそびえ立つアーカードの牙城に襲いかかっていた。


「――来るのか。届くのか。何という女だ。人の身でよくぞここまで練り上げた……!
 敵よ!! 殺してみせろ!! この心臓にその剣を突き立ててみせろ!!
 500年前のように!! 100年前のように!! この私の夢のはざまを閉じる封をくれ!! 愛しき御敵よ!!
 私の贈ったその言葉に、意味をつけてくれ!!
 黒化(ニグレド)無く白化(アルベド)無く、堕ちた私の赤化(ルベド)に!
 色をつけてくれ――!!」


 アーカードは感嘆していた。


 ――rave<レイブ>(狂喜を)


 彼はウィルソン・フィリップス上院議員のガブリカリバーに、そんな言葉を刻んだ。
 再戦時に、もっと私を楽しませてほしい。
 そんな願いを捧げていた。

 そして、そこに更に一文字。
 ここに辿り着くまでの道中のために、この言葉を贈った。


 ――Brave<ブレイブ>(勇気をッ!)


 前へ、前へ、前へ、前へ、前へ、前へ、前へ、前へ!!

 敵が幾千ありとても突き破れと!
 突き崩せと!
 戦列を散らせて、命を散らせて、その後方へその後方へ、私の眼前に立ってみせろと!
 あの叫びを、人間の意気が詰まったあの叫びを、もう一度聞かせてくれと!
 ――そう、願っていた!!


「私は生きて、初春に会うと誓ったんだ!! 必ず、会うと――!!」


 人体には、7つの結節点があるという。
 インドのヨーガの言い方では、それを『チャクラ』と呼称し、仙道にも同様の考え方が存在する。

 根のチャクラ、尾閭(ムーラダーラ)。
 脾臓のチャクラ、丹田(スワディスターナ)。
 臍のチャクラ、夾脊(マニプーラ)。
 心臓のチャクラ、膻中(アナハタ)。
 咽喉のチャクラ、玉沈(ヴィシュッダ)。
 眉間のチャクラ、印堂(アジナー)。
 王冠のチャクラ、泥丸(サハスラーラ)。

 これらは炎の輪、または華のようにイメージされ、脊柱の中のスシュムナー管という経路に仮想配置されている。
 だが人体のチャクラは、この7つ意外にも、存在を疑問視されていながら、あと2つあるのではないかということが示唆されている。

 その一つが、頭頂よりさらに上、虚空に存在するチャクラ。月のチャクラ『ソーマ』。
 それは人の体に頭より上の部位がない以上、存在しないはずの円環だった。

 だが今、佐天涙子の頭上には、それがあった。
 尾閭(ムーラダーラ)から脊柱を駆け上り、7つの大輪を回した進化力(クンダリニー)が辿り着くその先が。

 ウィルソン・フィリップス上院議員から託された、ガブリカリバーの刃先が、佐天の頭上に煌めく。
 彼女が掲げたその柄本に円い月が、月の輪(ソーマ・チャクラ)が渦巻く。


 確かに聞こえた。
 アーカードは確かに聞いた。
 人間の意気が詰まったあの叫びを、確かにアーカードは目の当たりにした。


 ――OUTBrave<アウトブレイブ>(凌駕するッ!!)


 傷だらけのその刀身は、今やこんな文字が、書かれているように見えた。


    ℃℃℃℃℃℃℃℃℃℃


 佐天涙子を放り投げ、落下する天龍は、死を覚悟した。
 もはや全ての燃料を使い果たした状態で、死の河のど真ん中に落ちてしまうのだ。
 だが彼女は満足だった。
 彼女が送り出した佐天涙子の全身は、空を飛ぶ星のように輝いていた。


 その時、自由落下していた彼女の体が、急に襟元で咥え上げられる。
 そのまま死の河のほとりにしっかと着地して、天龍は地面に降ろされる。

「銀……!」

 彼女を助けていたのは、にっこりと笑う熊犬だった。
 死した彼の体は、そのままなぜか光となって空に溶けてしまう。
 驚く天龍の目の前で、その『異常現象』は次々と発生した。
 死の河のそこここが、虹色の光に食いつぶされてゆくのだ。


「何だ!? 死人どもが、消えて……!?」


 『向こう側』の扉が開く。
 虹色の粒子が、辺りの死者を侵食して消し去らせる。
 氾濫した死の河の全てが、ランタンも要らぬほど眩い、真昼のような虹色の光に溶けて消えてゆく。
 その光たちは、そのまま佐天涙子の元へと集っていった。

 デイパックと共に、ウィルソン・フィリップス上院議員が、皇魁が、光に溶けてゆく。
 佐天涙子の纏う一切が、分解されて光となる。

 バスが溶ける。
 枯れ木が溶ける。
 天龍の周りで、黒木智子たち一行の周りで、死んでいった者たちが光となって溶けてゆく。
 死者の全てが、枯死した木々の全てが消え去り、森は更地となってゆく。
 その光景に、森のただ中で、バスの横で、彼女たちはハッと顔を上げた。


「島風――! 行ってくれ! 涙子に力を貸してくれ!!」
「ロビン――! 私たちを、助けてくれ!!」


 天龍の掲げたデイパックごと、島風の如き少女が風に変わってゆく。
 智子の抱き上げた少年の体が、彼の投げてきた数々のボールとともに天へ昇ってゆく。
 その幻想的な光景を、グリズリーマザーもヤスミンも、百合城銀子も司波深雪も、扶桑も戦刃むくろも、そしてアーカードも、ただ嘆息して見上げていた。


「……なんという輝きだ。おお、なんという色彩だ……!」


 アーカードを取り巻いていた異形のヒグマの曼荼羅も、悉く光に食い尽くされて消えてゆく。
 アルター粒子の虹色に混ざった膨大な思いとエネルギーが、空を駆ける佐天涙子の背に翼のように渦巻いた。


 越境したエネルギーの嵐が、彼女の最奥に、音もなく最後の雫を落とす。

 世界各地に同様の概念が存在し、人体の7つのチャクラを合わせた全てのエネルギーよりもさらに大きなエネルギーを秘めているとされる、尾骶骨の下位のチャクラ。

 六随眠。
 八十八見惑。
 十修惑。
 十纏。
 そこは108あるとされる、発狂と我執に塗れた欲動のさらに奥の、109番目の区画だ。

 中南米においては『キッシン』。
 中国においては『鬼骨』。
 インドにおいては『アグニ』。
 生命進化の根源であり、クンダリニーが発生する根源なのではないかと考えられているチャクラが氾濫する。
 109区が決壊する。
 堰を切ったエントロピーが、佐天涙子を溢れて水の青に燃える。
 月のナイフを掲げた彼女の全身が、真っ青な炎に包まれる。

 彼女は悟った。
 これこそが、自分が秘めていた思いの根源なのだと。
 これこそが、あらゆる人々が望む願いの源泉なのだと。

 『幻想御手(レベルアッパー)』で繋がった脳の波の中にも見たその感情。

 それは憧れにも似た渇望。
 眩い光を見るばかりで、自分では輝けなかった全ての人々が眠らせる万感。
 その全ての感情が炎となって、佐天涙子から溢れるのだ。
 佐天涙子は自分の背に、皇魁が、ウィルソン・フィリップスが、島風が、そして今まで戦い、出会い、袖振り合って来た全ての者たちが燃えているのを感じる。

 阿頼耶識。
 幻想猛獣(AIMバースト)。
 世界各地にこの感覚を表現する言葉はあるだろう。
 だが彼女はもう、その感情を知っていた。


「これが月の炎――! 月の心――!! 月の『恋』――!!」
「ああ、そうだ! 来い! 来てくれ、人間(ヒューマン)――!!」


 もう千年もキミを待った――。


 人として、人類進化の到達点として、佐天涙子はそのエネルギーを振り降ろす。


 まるで待ちわびた思い人を出迎えるように、たった一人となった血塗れの城主は両手を広げていた。
 刃を突き立てられるアーカードの表情は、歓喜に満ちていた。
 身も心も溶けるような高熱が、彼の全てを包み込んでいた。
 佐天涙子の身に集まった数多の死者たちを弔う荼毘のような、それは彼と彼女たちが恋い焦がれた炎だった。


【ヒグマード(アーカード・ヒグマ6・穴持たず9・穴持たず71~80・穴持たずサーファーほか三百数十万あまりの命) 消滅】


    ℃℃℃℃℃℃℃℃℃℃


「ああ――、なんて、青い……」


 その光景を見ていたものは、覚えず、そんな言葉を呟かずにはいられなかった。

 それはまるで、地上に落ちた流星のようだった。
 天を焼くほどの真っ青な火柱がそこに燃え上がり、登りゆく月に向けて、むしろ冴え冴えと冷え渡るような光を放っている。
 遅れて、身を焦がすような熱風が全身を叩くまで、天龍たちはしばし呆然とその光景を見つめていた。
 星を熔かすような蒼い光は、その炎が50000ケルビンを超える猛烈な温度を持っていることを示している。
 中心部の温度は優に数百億度を超えるかと思われた。

 アルター粒子に侵食された更地の中心部でそれは、暫くの間燦然と輝き、そして急速に燃え尽きた。
 焼き尽されたその場所はクレーターのように窪み、熔け落ちたあらゆる元素が溶融し蒸発し変質し、銀色の器のようになって溜まっていた。


「涙子! 涙子!!」


 肺が焼けそうに灼熱した空気の中を、溶岩に侵されたかのような焦土を蹴って天龍は駆け寄った。

 佐天涙子の全身は、焼けただれていた。
 衣服は燃え尽き、その皮膚も焼け焦げている。暴走し氾濫した能力から、彼女は自分を守り切れなかったのだ。
 むしろ自分の身を省みずに能力を揮わなければ、アーカードを倒すことなどできなかったのかも知れない。


「死ぬな! 死ぬなよ涙子!! ここで死んだら元も子もねぇ!!」
「――ったく、このじゃじゃ馬が。派手にやったもんじゃねぇか」


 その時、佐天を抱え上げて咽ぶ天龍の隣に、聞き覚えのない男の声が屈みこんでいた。
 バッと警戒して顔を上げた彼女の目に映ったのは、全身に包帯を巻いて屈託なく笑う、白髪の偉丈夫だった。


「――誰だ!?」
「俺も左天っていうのさ。この嬢ちゃんの味方だ」


 彼がそう答えるや否や、焼け付いていた空気が、一瞬にして凛とした冬の風に置き換わる。
 ただれて熱を帯びていた佐天涙子の皮膚が、瞬く間に薄い氷に包まれる。
 肉体の表面を保護し冷却しながら、体液の損耗を防ぐための処置だった。

 ――涙子と同じ能力。

 驚愕する天龍に向けて、左天と名乗る男は平然と指示を出す。


「おい、ボサッとしてんな。助けるんだろ!? 心臓マッサージするぞ」
「――あ、ああ! みんな来てくれ! 涙子に、涙子に手当てを!!」


 全身に火傷を負った佐天涙子からは、呼吸も心拍もほとんど聞こえなかった。
 それでも、人を呼びに叫ぶ天龍の声の下で、左天は力強く彼女の胸骨を押しながら笑うのだった。


「異空間にいる間、俺も方々に渡りをつけてきた! 諦めんじゃねぇぞ嬢ちゃん!」


 彼は誰よりも近くて遠い場所から、その少女の戦いを見続けてきた。
 その経験から言わせれば、まだ落胆など、不要(ニードレス)だった。


【F―2 焦土 夕方】


【佐天涙子@とある科学の超電磁砲】
状態:全身熱傷、心肺停止、深仙脈疾走受領、アニラの脳漿を目に受けている、右手示指・中指が変形し激しい鱗屑が生じている、溢れ出す魂
装備:焼失
道具:焼失
[思考・状況]
基本思考:対ヒグマ、会場から脱出する
0:――――――――――
1:初春を守る。そのためには、なんだってできる――!!
2:もらい物の能力じゃなくて、きちんと自分自身の能力として『第四波動』を身に着ける。
3:その一環として自分の能力の名前を考える。
4:『下着御手(スカートアッパー)』……。
5:本当の独覚だったのは、私……?
6:ごめんなさい皇さん、ごめんなさいウィルソンさん、ごめんなさい北岡さん、ごめんなさい黒木さん……。ごめんなさい……。
7:思い詰めるなって? ありがたいけど、思い詰めるのが私の力よ。
[備考]
※第四波動とかアルターとか取得しました。
※異空間にエカテリーナ2世号改の上半身と左天@NEEDLESSが放置されています。
※初春と協力することで、本家・左天なみの第四波動を撃つことができるようになりました。
※熱量を収束させることで、僅かな熱でも炎を起こせるようになりました。
※波紋が練れるようになってしまいました。
※あらゆる素材を一瞬で疲労破壊させるコツを、覚えてしまいました。
※アニラのファンデルワールス力による走法を、模倣できるようになりました。
※“辰”の独覚兵アニラの脳漿などが体内に入り、独覚ウイルスに感染しました。
※殺意を帯びた波紋は非常に高い周波数を有し、蒼黒く発光しながらあらゆる物体の結合を破壊してしまいます。
※高速で熱量の発散方向を変えることで、現状でも本家なみの広範囲冷却を可能としました。
※ヒグマードの血文字の刻まれたガブリカリバーに、なにかアーカードの特性が加わったのかは、後続の方にお任せします。
※『月(ソーマ・チャクラ)』を回しました。
※『鬼骨(アグニ・チャクラ)』を回してしまいました。


【左天@NEEDLESS】
状態:健康
装備:自分のガントレット
道具:エカテリーナ2世号改の上半身@とある科学の超電磁砲、多数のクッキー@クッキークリッカー、ヒグマの肉
[思考・状況]
基本思考:全能者になる。嬢ちゃんの成長にも興味がある。
0:まだ諦めんなよ嬢ちゃん! じゃねぇと折角出て来れた甲斐がねぇ!!
1:このじゃじゃ馬には、まだまだ先があるんだぜ!?
[備考]
※佐天涙子の支給品です。
※異空間に閉じ込められている間、空間が開く度に顔を覗かせていたため、いくつかの異なる場所に何らかの話をつけているようです。


【穴持たず46(シロクマさん)@魔法科高校の劣等生】
状態:ヒグマ化、魔法演算領域破壊、疲労(中)、全身打撲、ヒグマの血がついている、溢れ出す魂
装備:なし
道具:なし
[思考・状況]
基本思考:兄を復活させる
0:諦めない。
1:やった! 助かった! やはり私はお兄様に導かれています!
2:江ノ島盾子には屈しない。
3:私はヒグマたちに対して、どう接すれば良かったのでしょうか……。
4:残念ですが、私はまだ、あなたが思うほど一人ぼっちではないようです。有り難いことに……。
5:私はイソマさんに、何と答えれば、良かったのでしょうか……。
6:何なんですか低能クソビッチって!?
[備考]
※ヒグマ帝国で喫茶店を経営していました
※突然変異と思われたシロクマさんの正体はヒグマ化した司波深雪でした
※オーバーボディは筋力強化機能と魔法無効化コーティングが施された特注品でしたが、剥がれ落ちました。
※「不明領域」で司馬達也を殺しかけた気がしますが、あれは兄である司波達也
 絶対的な実力を信頼した上で行われた激しい愛情表現の一種です
※シロクマの手によって、しろくまカフェを襲撃していた約50体の艦これ勢が殺害されました。
モノクマは本当に魔法演算領域を破壊する技術を有していました。


【天龍@艦隊これくしょん】
状態:小破、燃料切れ、キラキラ、左眼から頬にかけて焼けた切創、溢れ出す魂
装備:日本刀型固定兵装、投擲ボウイナイフ『クッカバラ』、61cm四連装魚雷、島風の強化型艦本式缶、13号対空電探
道具:基本支給品×2、ポイントアップ、ピーピーリカバー
基本思考:殺し合いを止め、命あるもの全てを救う。
0:涙子を、必ず助ける!
1:扶桑、お前たちも難儀してたみてぇだな……。
2:迅速に那珂や龍田、他の艦娘と合流し人を集める。
3:金剛、後は任せてくれ。俺が、旗艦になる。
4:ありがとう……銀……、島風、大和、天津風、北岡、カツラ、サーファー……。
5:あのヒグマたちには、一体、何があったんだ……。
[備考]
※艦娘なので地上だとさすがに機動力は落ちてるかも
※ヒグマードは死んだと思っています
※ヒグマ製ではないため、ヒグマ製強化型艦本式缶の性能を使いこなしきれてはいません。


【黒木智子@私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!】
状態:血塗れ、ネクタイで上げたポニーテール、膝に擦り傷、溢れ出す魂、疲労(中)
装備:令呪(残り1画/ウェイバー、綺礼から委託)、製材工場のツナギ
道具:基本支給品、制服の上着、パンツとスカート(タオルに挟んである)、グリズリーマザーのカード@遊戯王、レインボーロックス・オリジナルサウンドトラック@マイリトルポニー、ロビンのデイパック(砲丸、野球ボール×1、石ころ×69@モンスターハンター、基本支給品×2、ベア・クロー@キン肉マン )
[思考・状況]
基本思考:モテないし、生きる
0:おい、生きろよ!? 生きてろよパンツマイスター佐天!!
1:ロビン……、少しはお前に、近づけたか?
2:グリズリーマザーと共に戦い、モテない私から成長する。
3:グリズリーマザー、ヤスミンに同行。
4:アーカードは……、あんな攻撃じゃ、死なない……。
5:ダメだこの低能クソビッチ……。顔だけ良くて頭と股はユルユルじゃねぇか。
6:即堕ちナチュラルボーンくっ殺とか……、本当にいるんだなそういう残念な奴……。
※魔術回路が開きました。
※グリズリーマザーのマスターです。


【扶桑改(ヒグマ帝国医療班式)@艦隊これくしょん】
状態:心臓を撃ち抜かれている(人差し指を突っ込んでいる)、ところどころに包帯巻き、キラキラ、溢れ出す魂
装備:35.6cm連装砲
道具:なし
基本思考:『絶望』。
0:まだ……、沈まない。
1:天龍さん、あなたを強くさせたもの、わかった気がします。
2:ああ、何か……、絶望から浮上してくるのって、気持ちいいですね……!
3:他の艦むすと出会ったら絶望させる。
4:絶望したら、引き上げてあげる。


【グリズリーマザー@遊戯王】
状態:背中に手榴弾の破片がいくつも突き刺さっている、溢れ出す魂
装備:『灰熊飯店』
道具:『活締めする母の爪』、『閼伽を募る我が死』
[思考・状況]
基本思考:旦那(灰色熊)や田所さんとの生活と、マスター(黒木智子)の事を守る
0:涙子ちゃん! 大丈夫かい!?
1:マスター! アタシはあんたを守り抜いてみせるよ!
2:灰色熊……、アンタの分も、アタシが戦ってやるさ。見ときな!
3:とりあえずは地上に残ってる人やヒグマを探すことになるかしら。
4:むくろちゃんも扶桑ちゃんも難儀だねぇ……。
5:実の姉を捨て駒にするとか、黒幕の子はどんだけ性格が歪んでるんだい……?
[備考]
※黒木智子の召喚により現界したキャスタークラスのサーヴァントです。
※宝具『灰熊飯店(グリズリー・ファンディエン)』
 ランク:B 種別:結界宝具 レンジ:4~20 最大捕捉:200人
 グリズリーマザーの作成した魔術工房でもある、小型バスとして設えられた屋台。調理環境と最低限の食材を整えている。
 移動力もあり、“テラス”としてその店の領域を外部に拡大することもできる。
 料理に魔術効果を付加することや、調理時に発生する香気などで拠点防衛・士気上昇を行なうことが可能。
※宝具『活締めする母の爪(キリング・フレッシュ・フレッシュリィ)』
 ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~2 最大捕捉:1~2人
 爪による攻撃が対象に傷を与えた場合、与えた損傷の大きさに関わらず、対象を即死させる呪い。
 対象はグリズリーマザーが認識できるものであれば、生物に限らず、機械や概念にまで拡大される。
※宝具『閼伽を募る我が死(アクア・リクルート)』
 ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大捕捉:1人
 自身が攻撃を受けて死亡した場合、マスターが令呪一画を消費することで、自身を即座に再召喚できる。
 または、自身が攻撃を受けて死亡した場合、マスターが令呪一画を消費することで、Bランク以下の水属性のサーヴァント1体を即座に召喚できる。


【穴持たず84(ヤスミン)@ヒグマ帝国】
状態:左腕が斬り落とされている(焼灼止血済み)、溢れ出す魂
装備:ヒグマ体毛包帯(10m×8巻)
道具:乾燥ミズゴケ、サージカルテープ、カラーテープ、ヒグマのカットグット縫合糸、ヒグマッキー(穴持たずドリーマー・残り1/3)、基本支給品×3(浅倉威夢原のぞみ呉キリカ
[思考・状況]
基本思考:ヒグマ帝国と同胞の安寧のため傷病者を治療し、危険分子がいれば排除する。
0:医療班として……、必ず佐天涙子さんを救って見せます……。
1:帝国の臣民を煽動する『盾子』なる者の正体を突き止めなければ……。
2:エビデンスに基づいた戦略を立てなければ……。
3:シーナーさん、帝国の皆さん、どうかご無事で……。
4:ヒグマも人間も、無能な者は無能なのですし、有能な者は有能なのです。信賞必罰。
※『自分の骨格を変形させる能力』を持ち、人間の女性とほとんど同じ体型となっています。


    ℃℃℃℃℃℃℃℃℃℃


「やったのね、佐天さん……! 私も行かなきゃ……!」

 天龍の呼び声に、戦刃むくろは息を吐いた。
 全身を満たしていた達成感に、彼女はバスを守っていた誰よりも遠くまで、フライパン一本で死の河の亡者たちを叩き潰しに走っていたところだった。
 本当に、彼女たちは数百万の亡者たちの河を、その元凶たる吸血鬼ごと消滅させたのだ。
 それは、この半径1キロメートル近くが丸ごと更地になってしまった森を見れば明らかだ。

 視界の先で、クレーターのようになっている爆心地へと、グリズリーマザーやヤスミンたちが駆け寄っていくのが見える。
 彼女たちの後に続いて、佐天涙子を助けに行こうと、むくろが走り出そうとしたその時だった。
 突然、彼女の背中で通信機から音が鳴ったのだ。
 聞き間違うはずもなく、それは彼女の妹の、江ノ島盾子だった。


「も、もしもし盾子ちゃん!? どうしたの!? 大丈夫!? 連絡取れなかったから心配して……」
「何やってんだ、カスが。なんで今まで通信機の電源を切ってた」

 慌てて通話を取ったむくろの耳に、低い声で刺々しい言葉が突き刺さってくる。
 妹の冷たい口調に、背筋が粟立った。
 今まで電源を切っていた通信機が、拳銃を取ろうと背中を探った時にオンになったものらしい。


「ご、ごめん盾子ちゃん。ちょっと隠れてたタイミングがあって……」
「まあいいや。佐天涙子を始め、そこにいる人間とヒグマを、皆殺しにしろ」
「え……?」


 なぜ、盾子ちゃんはこの場にいる人々を知っているのか――。
 そんな疑問が浮かぶ以前に、むくろは妹の言葉の趣旨を理解できなかった。

「ちょ、ちょっと待って。今私達は、みんな必死で戦い抜いて、生き残ったところで……」
「そうだな。だからこんなチャンス、オマエラ全員が弱ってる今しかねぇだろ? 殺ってこい」


 暫く、むくろは絶句した。
 うまく言葉が見つからず、ようやく口を突いた声は、夕闇に消え入りそうなほどだった。


「……涙子ちゃんは……。お姉ちゃんの友達なの……」


 その言葉に返って来たのは、溜息一つだった。


「……本物よりも絶望的に残念だな、劣化コピー」


 体の芯から凍ってしまいそうな、絶望的な声が、むくろの耳を抉った。


「お前の価値は、もはや殺し以外にねぇんだよ。己惚れるな。
 あとな、お前はただの駒だ。ただの模造品だ。選択肢なんてない」


 彼女の存在の全てを否定するようなどす黒い泥が、通信機から溢れてくるようだった。
 妹からの言葉はたったそれっきりで、あとはもう、通信機が鳴ることは二度と無かった。

 戦刃むくろは震えた。
 震えすぎて、通信機を取り落とした。
 通信機は壊れて、バネやネジをあたりに撒き散らした。


「どうして……。私は、私は……、どうしたら……」
「――キミのスキは本物か?」


 頭を抱え慄く彼女の元にふと、凛とした呼び掛けが届く。
 驚愕に振り向いたむくろの前には、一頭のクマが立っていた。


「あなた……、今の話を聞いて……!?」
「これは、断絶の壁からの挑戦だ、戦刃むくろ」


 熊耳のドレスを纏った百合城銀子が、身構える戦刃むくろの前に立ちはだかっている。
 意図の読めない薄ら笑いを浮かべながら歩み寄りつつ、銀子は彼女に意味深な言葉を投げかけてくる。


「キミのスキが本物なら、行動で示すがいい。クマがキミを待っている」
「どういう……、こと……!?」


 むくろは、背中で拳を握った。
 警戒心を越え、むくろが敵意に近い感情をその視線に込めてなお、百合城銀子の謎めいた眼差しは変わらない。


「その身をクマに委ねれば、キミのスキは承認される」


 百合城銀子は、戦刃むくろから10歩ほどの距離を開けて立ち止まる。
 そして白々とした牙を覗かせながら、彼女は改めて問うのだった。


「――さあ、戦刃むくろ。キミのスキは本物か?」
「わた、しは……」


 夢が偏在している。
 どこにも正解のない、為るはずのない難問を自分が解けるのか、穴持たず696にはわからなかった。
 彼女が背中に握る拳銃には、未だ3発の弾丸が、残っている。


【F―2 焦土 夕方】


【百合城銀子@ユリ熊嵐】
状態:溢れ出す魂
装備:自分の身体
道具:自分の身体
[思考・状況]
基本思考:女の子を食べる
0:さあ、戦刃むくろ。キミのスキは本物か?
1:さすがは月の娘。こんな嵐の中でも曇りなきデリシャスメルだ。
2:ピンチの女の子を助け、食べる
3:数々の女の子と信頼関係を築き、食べる
4:ゆくゆくはユリの園を築き、女の子を食べる
5:『私はあらゆる透明な人間の敵として存在する』
6:深雪は堪能させてもらったよ。本格的に食べるのはまたの機会にな。
[備考]
※シバに異世界から召還されていた人物です。
※ベアマックスはベイマックスの偽物のようなロボットでシバさんが趣味で造っていました
※ベアマックスはオーバーボディでした。
※性格・設定などはコミック版メインにアニメ版が混ざった程度のようですが、クロスゲート・パラダイム・システムに召還されたキャラクターであるため、大きく原作世界からぶれる・ぶれている可能性があります。


【穴持たず696】
状態:左腕切断(処置済み)、波紋注入、溢れ出す魂
装備:フライパン、コルトM1911拳銃(残弾3/8)
道具:なし
基本思考:盾子ちゃんの為に動く。
0:私は、どうすればいいの……!?
1:こんな苗木くんみたいに強くて優しい涙子さんと仲間になれたなんて……。
2:智子さんは、すごく良い友達なんだから……! 絶対に守ってあげる……!
3:言峰さんとロビンくんの殉職は、無駄にしてはいけない……!
4:良かった……。扶桑は奮起してくれた!
5:盾子ちゃん、大丈夫かな……。
6:盾子ちゃん……。もしかして私は、盾子ちゃんを裏切ったりした方が盾子ちゃんの為になる?
※戦刃むくろ@ダンガンロンパを模した穴持たずです。あくまで模倣であり、本人ではありません。
※超高校級の軍人としての能力を全て持っています。

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最終更新:2017年05月29日 19:16