巨人の目覚める時

もう、自分の思考回路では処理できそうになかった。
何もかも、分からない。
全てがおかしい。
全てが狂っている。
死にたくない。ただ、死にたくない。
気がつけば、外に走り出ていた。
外に出ても、何が代わる訳でもなかった。
でも、あそこには、1秒たりともいたくなかった。
逃げたい。ここから逃げ出したい。
自分が死なないのなら、どこでもいい。
誰か、誰か自分を助けて!

(どうして、どうして私が、こんな目に……!)

何もかもが、自分に敵意を向けているようにさえ思えて来た。
全てが、自分を、狙っている。
全てが、私を殺そうと――――――!
そう思うと、足が動いてくれない。
今すぐ、ここから逃げ出したいのに。
その思いとは反対に、足は、まるで自分の物ではないかの様に動いてくれない。
何故?
何故、こうも邪魔をされなければならないのか?
自分は、ただ……ただ、死にたくないだけなのに。
死にたくないと願うことが、そんなに罪深いことなのだろうか?

「ああ…………!」

気がつけば、頭を抱えて地面に蹲っていた。
体が、ガクガクと震える。
暑い訳でも無いのに、汗がダラダラたれて来る。
そして、自分の目からは、大粒の涙が。
…………もう限界だった。心が、崩れて行く。
耐えられない。
心が、恐怖に押しつぶされていく……音を立てて……。



――――いや。音を立てているのは、心じゃない。
私の…………足、だ。

「え――――――――!」

「何か」が、自分の足に。
その「何か」は……完全に、自分の足を、砕いていた。

「――――――――――――っ!」

叫び声も、悲鳴も上げられない。
気の狂いそうな痛みが、途切れることなく自分を襲う。




「殺さないで!お願い!」




――――反射的にスタンガンを投げつけるも、当然効果は無く。




「嫌――――――!」





――――最期に見たのは、自分の頭を潰さんとして向かって来る足だった。





【中村アヤ@個人趣味ロワ 死亡】








「…………殺した…………殺した…………」

虚ろな表情で、壊れたラジオのように同じ言葉を呟く。
一体、彼は何故、人を殺すのか?
それが、彼の思考にすり込まれた使命であるからだ。
とはいえ、彼にそれを知る術は無い。
もはや人並みの思考すらままならないほど、思考力は落ちている。
今の彼を動かすのは、人を殺せと言う命令。
ただ、ただ機械の様に殺してゆく。

「……………………」

足元には、肉の塊と成すまで潰された生き物――であったものが。
思わず、目を背けたくなるほど、酷い有様であった。
時間が経つにつれ、辺りに広がる血の臭い。
無残にも殺害された者の死体。
これほど、人に「死」への恐怖を感じさせる物があろうか。
大部分の人間には、おそらく程遠い物であろう死を、一気に身近に引き寄せる。
間違い無く、平和ボケしている人間には効果的だろう。
――――この殺し合いを、夢や幻想ではなく現実だと実感させるには。

「………………」

静寂。

「……………………ううぅぉぉぉぉぉぉ」

咆哮。
その声は、辺りに響き渡る。
まるで、虚しさを表現しているような。
それとも、哀しみを表現しているような。
複雑な、声だった。

「…………うぉぅ」

そして、少しの沈黙の後、彼は歩き出した。
果たして、何処に向かうつもりなのか。
それは、誰にも分からない。



【E-1/平地/一日目/朝】

【被験体00号@新・需要無しロワ】
[状態]:健康
[服装]:特筆事項なし
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:…………
1:………………
[備考]
※ロワ参加前からの参戦です
※搭付近に中村アヤの死体が放置されています
※被験体00号の支給品(基本支給品、不明支給品×1~3)が中村アヤの死体の近くに放置されています


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023:咲物語-このSSは100%の悪意のみで書かれたSSです- 中村アヤ GAME OVER
GAME START 被験体00号 076:パラべラム・アライヴ『Down to Zero we go』

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最終更新:2013年01月05日 12:47