もう、自分の思考回路では処理できそうになかった。
何もかも、分からない。
全てがおかしい。
全てが狂っている。
死にたくない。ただ、死にたくない。
気がつけば、外に走り出ていた。
外に出ても、何が代わる訳でもなかった。
でも、あそこには、1秒たりともいたくなかった。
逃げたい。ここから逃げ出したい。
自分が死なないのなら、どこでもいい。
誰か、誰か自分を助けて!
(どうして、どうして私が、こんな目に……!)
何もかもが、自分に敵意を向けているようにさえ思えて来た。
全てが、自分を、狙っている。
全てが、私を殺そうと――――――!
そう思うと、足が動いてくれない。
今すぐ、ここから逃げ出したいのに。
その思いとは反対に、足は、まるで自分の物ではないかの様に動いてくれない。
何故?
何故、こうも邪魔をされなければならないのか?
自分は、ただ……ただ、死にたくないだけなのに。
死にたくないと願うことが、そんなに罪深いことなのだろうか?
「ああ…………!」
気がつけば、頭を抱えて地面に蹲っていた。
体が、ガクガクと震える。
暑い訳でも無いのに、汗がダラダラたれて来る。
そして、自分の目からは、大粒の涙が。
…………もう限界だった。心が、崩れて行く。
耐えられない。
心が、恐怖に押しつぶされていく……音を立てて……。
――――いや。音を立てているのは、心じゃない。
私の…………足、だ。
「え――――――――!」
「何か」が、自分の足に。
その「何か」は……完全に、自分の足を、砕いていた。
「――――――――――――っ!」
叫び声も、悲鳴も上げられない。
気の狂いそうな痛みが、途切れることなく自分を襲う。
「殺さないで!お願い!」
――――反射的にスタンガンを投げつけるも、当然効果は無く。
「嫌――――――!」
――――最期に見たのは、自分の頭を潰さんとして向かって来る足だった。
【中村アヤ@個人趣味ロワ 死亡】
◆
「…………殺した…………殺した…………」
虚ろな表情で、壊れたラジオのように同じ言葉を呟く。
一体、彼は何故、人を殺すのか?
それが、彼の思考にすり込まれた使命であるからだ。
とはいえ、彼にそれを知る術は無い。
もはや人並みの思考すらままならないほど、思考力は落ちている。
今の彼を動かすのは、人を殺せと言う命令。
ただ、ただ機械の様に殺してゆく。
「……………………」
足元には、肉の塊と成すまで潰された生き物――であったものが。
思わず、目を背けたくなるほど、酷い有様であった。
時間が経つにつれ、辺りに広がる血の臭い。
無残にも殺害された者の死体。
これほど、人に「死」への恐怖を感じさせる物があろうか。
大部分の人間には、おそらく程遠い物であろう死を、一気に身近に引き寄せる。
間違い無く、平和ボケしている人間には効果的だろう。
――――この殺し合いを、夢や幻想ではなく現実だと実感させるには。
「………………」
静寂。
「……………………ううぅぉぉぉぉぉぉ」
咆哮。
その声は、辺りに響き渡る。
まるで、虚しさを表現しているような。
それとも、哀しみを表現しているような。
複雑な、声だった。
「…………うぉぅ」
そして、少しの沈黙の後、彼は歩き出した。
果たして、何処に向かうつもりなのか。
それは、誰にも分からない。
【E-1/平地/一日目/朝】
【被験体00号@新・需要無しロワ】
[状態]:健康
[服装]:特筆事項なし
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本:…………
1:………………
[備考]
※ロワ参加前からの参戦です
※搭付近に中村アヤの死体が放置されています
※被験体00号の支給品(基本支給品、不明支給品×1~3)が中村アヤの死体の近くに放置されています
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最終更新:2013年01月05日 12:47