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TALKING!!

湯気が立ち上っている。
やけに小奇麗な浴室に、二人の人間が居た。
だが、一人はやけに上機嫌な風に、一人はぶすっ、と不機嫌そうな様子を示している。
一見すれば仲睦まじい光景であるが、彼女たち二人はどちらも、普通でない。
一人――――守谷彩子は、妖刀に支配されていたとはいえ四人もの人間を斬り殺し。
もう一人――――柄部霊歌は、自らの意思で殺人を行う殺人鬼『辻斬りハロー』、殺めてきた人間の数は既に両腕の指の数を超えている。目的は復讐だった。
妖刀の呪縛から脱した彩子と、皆殺しの思想を掲げた殺人鬼、霊歌。
今では対極の位置にある二人がこうして入浴なんて行為をしているのは非常におかしな話であったが、どちらも自分たちの間に生じている勘違いに気付いていない。
結論から言おう。
この勘違いは程なく、後一時間もしない内に砕け散ることになる。
呆気なく、本当にあっさりと下らない勘違いは終わり、バトルロワイアルの狂気が二人の間に立ち込める。
では、彼女たち二人はどうなるのか。
これは、その時に辿り着く過程と、一つの勘違いの結末の記録である――――。



「…………何でわたしたちは呑気にお風呂なんかに入ってるんでしょうね」
「え?情報を交換するためでしょ?」
「だったら何で服を脱いでお湯に浸かる必要があるんでしょうかねえ!」

冷静さの欠片も見当たらない大声でわたし――柄部霊歌は捲し立てる。
正直なところ、この展開は余りに予想外すぎてわたしとしては困惑の極みにいる。
大体何なんだろうこの人。わたしが『あなたを殺します』と言えば『じゃあ手伝う』とか言い始めるし、死にたがりかと思えば『まずは情報交換しにお風呂』とか……今までにわたしの物語には登場しなかったような人間だ。
大体これから死ぬ人間が入浴して何か意味はあるのでしょうか、いやない。
そういえばこういう……ラブホテルという場所でいかがわしい行為に耽る男女は行為の前に入浴を済ませると言うけれど……それとこれとは話が違う。
それに何だかこの人の……起伏のある裸体を見ていると負けた気がして仕方ない。
いいよいいよ。
人斬りの時に胸なんてあったって邪魔なだけだし、わたしには必要ない。
――――でも、兄さんはどっちが……って、こんなこと考えてる場合じゃありません。
せめて情報交換を、本来の目的くらいは果たさないと本当にただ時間を浪費しただけになってしまうじゃあないですか。

「………私のおっぱい見てもおっきくはなんないよ?」
「余計なお世話です! そんなのあったからって邪魔でしょうが!」
「えー? 霊歌ちゃんの『兄さん』も大きい方が好きなんじゃないかな~」
「っっっっっ……兄さんは関係ないです! 大体わたしたちがやるべきことは一つでしょ、情報交換です! ちなみに兄さんは体で判断するような小さい男じゃありません」

この人疲れる。
まだバトルロワイアルが開始してから一時間程度しか経過していないのに、これじゃあ精神面が保たない。早く目的を果たしたいんですけど。

わたしの言葉を聞いて、彩子さんはやっとその気になってくれたらしい。
そうだったね、と言うその顔は笑顔で――――でも、瞳は何処か悲しそうでもある。
ふうん。自殺志願者だからどんな理由があって命をわざわざ擲とうとするのかは気になってたけど、この分だと相当な『何か』があったみたいだ。
血塗れの衣服と身体から想像するに、この人もわたしと同類の殺人鬼なのか?
しかし今は殺気の欠片も見当たらない、本当の意味での一般人に戻っているようだけど。

「じゃあまず『妖刀』のことね」

彩子さんの雰囲気が、そのワードを口にした瞬間に少しだけ、濁る。
さっきまでの『天真爛漫』とした雰囲気が消えて、最初にうなされていた時のように『不安定』な様子を示し始める――重い、空気。
しかしわたしとてそんなことに一々臆していては辻斬りなんてやってられない。
妖刀――恐らくわたしの想像するような、『人の自我を奪う』刀のことでしょう。
非現実的ではあるけれど、この人のあの様子は尋常ではなかった。
誤解でも錯覚でも何でもなく、彩子さんは『妖刀』について何らかの情報を持っている。
でも――わたしはどうしてそんなことを気にしているのだろう?

「信じてもらえるか分からないけど―――私はね、一回死んでるの。ここと同じような殺し合いのゲームに連れて行かれて、…………四人、斬ったわ」
「…………あなたも、だったんですか」

他ならぬわたし、柄部霊歌もまた――――そうだ。


こことは違う、『異常能力者』達の集められた殺し合いに呼ばれて、そこで兄さんとの再会を果たした。これから優勝目指して皆殺しにしようと思ったところで、このバトルロワイアルに呼ばれた。
折角会えたのに。
折角、兄さんと会えたのに、引き離された。
許せない。人無結と人無つなぎ、あの二人を殺さなければきっとこの怒りは収まってくれない。
だからわたしは、人数を減らす為に刃物を探しながら兄さんを(でも、ここにいるかどうかも分からないのだ)探そうとしていて――――こうして彩子さんと出会った。

「霊歌ちゃんも、なのね……でも、私は結局死んだ。銃で撃たれて呆気なくね。
そして前の殺し合いで、私を操ったのが――妖刀村正。持った者の心を操るんだと思う」

…………それは、災難な。
支給品の段階でそんな『大ハズレ』を引いてしまっては、最初から詰んでいるようなものだ。
もしも銃だとか、そういうまともな物を引いていれば彩子さんは罪を犯さずに生還して、こんなところには居なかったかもしれない。
そう考えると流石に可哀想だ。
そんなことがあっては、罪滅ぼしに死にたくなっても何ら不思議はない。

「……でも、言い訳するつもりはないわ。私がこの手で人を斬り殺したのはどうやっても動かない事実だもの。私に出来ることは、逃げないで自分らしく生きて―――罪を償いつづけること」


強いなあ、とわたしは思う。
わたしのように自らの意思でやったんじゃなくて、余りにも理不尽なものに操られて犯した罪。
しかもそれがきっかけで一度は命まで奪われて――――自暴自棄になったっておかしくないのに、彩子さんは罪を償おうとしている。
わたしは、どうだろう。
わたしは――――もし兄さんと暮らしていく上で、今までの罪を償えと言われたら、出来るだろうか?

…………あれ。

今の会話、何かがおかしかった。

罪を償いつづけること――――その前。

自分らしく――――――――――――生き、て?



生きる?





「…………あなた、死にたいんじゃ、ないんですか?」
「――――――――え?」



ポカーン、という風に暫く呆然とする彩子さん。
でもきっと、彩子さんから見たらわたしも同じように呆然としていたんだろう。


カレーの材料。
鍋。
ピーラー。
調味料各種。
刃物――――包丁。





―――――――『わたしは、刃物が無いと話になりませんから。なくても別に気にしませんが、力を使いますし。
        だったら情報を収集してから『や』ってもいいかなと思ったんです』



―――――――『そっか。ありがとう。じゃあ、それは後のお楽しみにしときましょう。私も手伝うわ』


―――――――『『や』るんでしょ? だったら一人でやるより二人でやったほうが早いわよ』


あ。

これなら――――有り得るか。



「わたしは――――辻斬りハロー、柄部霊歌」


勘違いに終止符を打とう。
馬鹿らしいけれど、この人の強さは十分に分かった。
暖かい人だった。
けど――――おしまいだ。


「わたしは殺し合いに乗っている、平たく言えば殺人鬼です」



…………そん、な。
そんなことって、あるの?
霊歌ちゃんが辻斬りハロー?殺人鬼?
わたしを死にたがりの自殺志願者だと思っていて、殺し合いに乗っている?
だから、その為に刃物を探している?

「…………あ」

辻褄が、合った。
辻褄が『合ってしまった』。
思えば、どこかおかしかった、会話が微妙に噛みあっていなくて、ずれていた。
狂い始めた歯車ががちりと噛み合っていく。考えない方がいいとは分かっているけれど、答えを導き出してしまう。
なんて、因果な話だろう。
四人を斬った辻斬りが、二度目の生を受けて甦ったというのに――引導を渡すのは、辻斬りだなんて。
でも、きっと私に文句を言う権利はない。
いくら刀に操られて正気を失っていたからって、四人を斬った罪が消えるわけじゃない。
これは、罰。
人殺しの私への、神様からの罰なのか。


「丁度、此所になら剃刀もありますね――――でも、あなたは死にたがりじゃなかった」


霊歌ちゃんは浴槽から体を乗り出して、剃刀を右手に持った。


「あなたみたいな人もいるんでしたね、久しく忘れていました」

儚げな、今にも消えてしまいそうな笑顔で彼女は剃刀を握る。
そして取り繕ったような不完全な冷静さで、霊歌ちゃんはそれを私に向ける。
痛くないように、一撃で殺せるように、選んでくれているのだろうか。
不思議と、二度目にもなれば恐怖というものは薄れて、もっと別の感情が沸き起こってくる。
やりきれないような、空しさ―――悲しさが、込み上げてくる。
柄部霊歌ちゃん。
私よりも幼くして手を血に染めた彼女。
彼女がもしも自分の罪に気付き、購おうとした時、どれほどの苦しみがあるのだろうか。
そうだな、知ったこっちゃないや。
私は運が悪かったんだ、だから折角手に入れた二度目の生をこんな風に無駄に消費してしまった。
これから私を殺す相手の心配なんてしてやる義理はない、勝手に破滅しちゃえばいいだけの話だもんね。


霊歌ちゃんはしばらく狙いを定めていたようだったが、溜め息を一つ吐くと剃刀を浴槽に沈めた。
諦めたような微笑を浮かべて、静かに湯船から立ち上がる。


「……幾ら私でも剃刀じゃ『や』れませんね」


あれ。
私は、助かったのかな?
霊歌ちゃんは刃物を捨てた。
それどころか、ここで剃刀を拾い上げてあの細い首に突き立てれば……って、私は何考えてるんだ。
私はもう二度と『辻斬り』になんて戻らない。
私が滅茶苦茶にしてしまった全てのモノへの贖罪として、償いながら生きていくことが私に課された『罰』だから。
霊歌ちゃんの小柄な肉体がドアの向こうに消えていく。
ドアが閉まる前に、彼女は言った。
それは、辻斬りハローこと柄部霊歌に残された僅かな、ほんの僅かな――――善意だったのかもしれない。


「わたしの大好きな、この世で一番大切な兄さん――――運よく兄さんに出会えたなら、『妹』にしてくれとでも頼むといいでしょう――――きっと、長生きできますよ?」


私は決めなくちゃいけない。





…………らしくない。
わたしは、バスタオルで体についた水滴を拭いながらそんなことを考える。
剃刀では『や』れない?ははは――――嘘を吐け。
柄部霊歌が辻斬りと呼ばれる所以は、『如何なる刃物でさえも刀のような切れ味で扱う』ところにだってある。
それがカッターナイフであっても、極端な話子供用の鋏でさえわたしが握れば包丁レベルの切れ味にはなるだろう。
無論剃刀でも、はっきり言って『や』り辛くはあるが無抵抗な相手くらいなら痛みも与えずに首を刎ねられる。

なのにわたしは守谷彩子を殺さなかった。
あんな甘さを残していては仇敵・沖崎翔を殺害するなんて夢のまた夢だというのに、確実に殺せる機会を逃してしまった。
辻斬りハローの名が泣くってもんだろう。
おまけに彩子さんに『兄さんに会えばいい』とか助言(?)めいたものまでしてしまって、下手をすればもっと人数が減らしにくくなった。
兄さんはきっとわたしのために動くのだろうけど……と考えて、我ながら自惚れているな、と苦笑した。
柄部霊貴。
わたしにとって最高の、そしてわたしにとっての人生そのものでもある存在。
兄さんはどう動くのだろうか。
…………分からないや。
あの人に限っては、わたしでも次の行動が予測できない。
殺し合いに乗ってわたしを生き残らせようとしてくるかもしれないし、もしかするとわたしを改心させようとしてくるかもしれない。
まぁ正面から万一殺し合っても――――兄さんに勝てるかどうかなんて五分五分、結構厳しい賭けになるだろうけど。


兄さん――――今、どこに居るの?



「…………わたしはどうすればいいんですか、兄さん」



「…………止めればいいと思うよ、辻斬りなんて、復讐なんて虚しいものだと思うよ」


――――――――はい?

思わず背後に感じる気配に向かい振り向いた。
と言ってもこの状況でわたしの背後に立てる人物なんてどう考えても一人しかいないわけなんだけど……何で?
守谷彩子さんは、バスタオルでわたしの頭をわしゃわしゃと拭きながら、ついさっき殺されかけた相手に向けるには余りにも不釣合いな笑顔を見せた。


「ちょ、ちょっと。あなた本当に死にたいんですか。わたしはこれから参加者を減らしに行くんですよ」
「うーん、最初はもうどうでもいいかって思ったんだけどね……霊歌ちゃんって、強いみたいだけど、危なげなんだよ」


わたしが危なげ?異常能力者同士の殺し合いにまで呼ばれたわたしの何処にそんな要素が?
クエスチョンマークが頭の中で躍るわたしに向けて、彩子さんは更に言葉を重ねる。


「だってさあ――見たところ霊歌ちゃんって、『兄さん』の為に殺し合いに乗るんでしょ? 二人で生き残る為に」
「う……その言い方だとまるでわたしがブラコンみたいじゃないですかっ」
「え? 違うの?」


可愛らしく小首を傾げて見せる彩子さんに、私は深いため息を一つ吐く。
確かにわたしはブラザー・コンプレックスを抱えているのかもしれない、そこは認めてもいい。
だけど――――今の私には、分からない。
何故自分が殺戮をしていたのかも、沖崎翔という男を何故こうまでして殺そうと躍起になっているのかも。
別にあいつに何かされた訳でもないのに、どうしてそこまで首を突っ込んでまで殺そうとしているのだろうか。


「まあそれはいいとして――――殺し合いなんてするかどうかは、『兄さん』に会ってから決めても遅くないんじゃない?」
「兄さんが呼ばれているかなんて分かりません」
「でも、さっき私には『兄さんに会うといい』なんて言った。信じてるんでしょ、『兄さん』はこの殺し合いに呼ばれているって」


何なんだろう。
どうしてこの人はこうやって、わたしの心を見透かしてくるのか。


「だから、さ」


彩子さんは手を伸ばす。


「まずは探してみよう? 『兄さん』に会っても殺し合いに乗るんだったら、私はもう止めないからさ」


――――――――まあ。悪い話じゃない、か。

沖崎翔は出会ったら即殺するけど、確かに兄さんの意志を捻じ曲げてまで辻斬りを続けたいとは思わない。
兄さんが『殺し合いなんてやめろ』と言ったら、わたしのやってきたことは兄さんに背く行為になる。

だから静かに、差しのべられた手を取る。


「…………変わった人ですね」
「あはは、よく言われるよ」


パラレルな物語。
わたしを待ち受ける結末は一体、如何なものだろう。




【F-1/ラブホテル城2Fの一室/一日目/朝】  



【柄部霊歌@サイキッカーバトルロワイアル】
[状態]:健康
[服装]:衣服を着ていない、湯上り
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、カレーの材料セット
[思考]
基本:全員殺す
1:守谷彩子の話に乗ってまずは兄さん(福沢正也)を探す
2:沖崎翔を殺す
3:刃物を手に入れ、ひとまず戦えるように準備をしておく
[備考]
※登場時期はサイキッカーバトルロワイアル開始後、福沢正也と出会ってから
※守谷彩子への勘違いは解けました


【守谷彩子@需要なし1st】
[状態]:健康
[服装]:衣服を着ていない、湯上り
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、鍋、皮むき器、調味料一式
[思考]
基本:自分らしくお気楽に生きよう
1:霊歌ちゃんの『兄さん』を探す
2:なにか罪滅ぼし的なことは出来ないだろうか
3:あのAV衝撃的すぎたわ……
[備考]
※需要なし1st死亡後から登場
※柄部霊歌への勘違いは解けました
稲垣葉月レックスのAVを見てしまいました

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009:戯言スピーカー 守谷彩子 049:二人で行く未来は、穢れのない強さで(前編)
009:戯言スピーカー 柄部霊歌 049:二人で行く未来は、穢れのない強さで(前編)

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最終更新:2012年05月05日 22:57