パラダイムパラダイス――――たったひとつの冴えたやりかた

改めてこんにちは。ボクは人無結です。意外と活躍の多い主催者であります。
皆様が健全に殺し合いが出来ているのはこういう優秀な裏方がいるからでしょう。健全な殺し合いがなにかはおいといて。

とりあえず、今ボクはこの殺し合いに置いて起こっている出来事の要所要所を綴っているところです。
例えば、開始早々起こった三瀬笑子くんを始めとする病院での交錯などを、まあレポート方式で書いています。

とは言っても、今から、その病院のことを書くのであって、今までは、ジョーカーに関することなどを綴ってはいたんですけど。
まったく、銀丘白影くんもとんだ人物だったよ。……つなぎも一体全体なにで決めたんだろうね。
ある程度はボクが範囲を決めていたとはいえ、面倒な人材ばっか指名しちゃって。近くにあった白い紙に描かれていたアミダは思い過ごしだと信じよう。
そう思うと被験体01号くん? 被験体00号くんだったかな? なんか数人いて色々面倒だったんだけれど、たしか被験体01号くんは簡単に終わった。
うん、わざわざボクが赴きに行ったんだから感謝されても足りないよね。そのなんか非人道的実験かっこわらいから助けてあげたんだから。
いやいや全く妹のお願いとはいえ骨が折れる二人であったのには変わりはなかったのでけれど。それこそ青木百合さんとかであれば兄で釣ることが簡単に出来たんだけど。

ああ、ジョーカーと言えばこんなこともあったっけ。
そうそう、教室で、参加者たちと教室で二者面談を行っていた時のこと。
……あれ。そういえばそのこと書いてないや。うっかりしてたな。
えーと……。思い出せボク。そう『想起行使』だ、ボク。……うん、だんだん思い出してきたぞ。
あれは確か――――。


 ◎


えーと、回想場面です。
喜ばしいことに割と鮮明に思い出してきました。『時間』に対することが苦手なボクにとってはあり難い限りです。

教室内にて……んと、古川正人くんの二者面談を行っていた時だったかな。
そろそろ飽きてきた頃、しかしみんな揃いも揃って中々面白い答えを出してくれるため止めるに止めれない状態の最中。
その時は唐突に訪れました。

「ぁあ、いたいた。古川君」

ガラガラ、と教室の扉が開いたかと思うと聞こえてきた、一つの声。
つなぎは待合室にいて、入ってくるなと言ってるし、皆さんの催眠を解くこともやってない。
それに聞き覚えのない声ですし、まったくもって意味が分からないね。

何て思いつつ、出入り口である扉に振り向く。
……予想外の人がそこにはいた。……ああ、面倒な。

「小河英準くん……ですね」
「まあ似たようなもんだ。そんなのどちらでも同じことってな」

はん、と偉そうな態度で見下した口調でそう言った。パクリ台詞の癖に。
腹立たしいことこの上ない。いやなんていうか部外者なんてそんなイベント用意なんかしなくていいのに。
だれだよ、この物語のシナリオライターは。よっぽど使えないやつらしい。……ああ、ボクのことだったじゃん。はあ。
ため息をするのもだるい。いやはやいい気分をぶち壊された。中々面白い質疑応答が繰り広げられていたのに。
空気読めない奴って辛いよね。そんな奴らがつなぎを貶めていくんだから世の中不平等なもんである。
……さて。

「せっかくの来客のところ悪いんですが、ここは立ち入り禁止ですよ。退室お願いしたいんですけど」
「せっかくの忠告のところ悪いんだがな、俺はそいつ、古川君を連れ戻さなくてはならないんでね、返してもらおうか」
「「――いやいやいや」」

疲れたように、ボクと小河英準くんは首を振りながら答え合う。
まとめますと、彼、小河英準くんは新たなロワイアル(あとから調べたらボク以外にも似たような思考回路のお方はいっぱいいたらしい)、
つまるところ、あの青髪の少年風に言うなれば『DEAD OR LIVE』を始めるつもりなんでしょう。その為に古川正人くんが必要だ、と。
はいはい。事情は分かりました。

「けど、渡すつもりはありません。落し物は拾ったもん勝ちでしょう。それになんでしたら平行世界からでもあなたの為に拾って来ましょうか?」

大体この古川正人くんは某孤島で三人虚しく共倒れかで死んでいたのを、拾っただけなんですから。
そういや、近くにいたのも拾いましたね。たしか三瀬笑子くんでしたか。
しかしボクは優しいね。こんな提案はそうそうできたもんじゃありませんよ。……まあただこの人相手にすんのは面倒ってだけですが。

ただ――相手はそれに乗ってくれませんでしたが。残念無念と行ったところでしょう。

「生憎ながら、俺は『その』古川君が欲しいんでね」

と。
言うところで、小河英準さんは今まで教室の扉を背もたれにしてましたが、一歩踏み込んだ。
途端放たれた、明確な殺意。……はあ、こう言う展開ボクは望んでなかったのにな。
このお方ってしかもすごい力もってらっしゃるんですよね。《幻想創造(イメージクリエイター)》とかなんとか。
能力としては、大抵何でもアリ。ジャック・ザ・リッパーを銀丘白影くんの勧誘の時にあげましたが、そんなの目じゃないくらいの。
いやはや、いくらボクとて、こんなお方の相手は骨が折れるどころじゃない。

「この数分、俺はおまえのことを、いわゆる『観察眼』で見ていた訳だけれど、
 なかなか同情を誘う人生を送っているようだな。なるほど、出会う機会が違っていれば、俺はおまえをロワに参加させていたのかもな」
「傍迷惑この上ないです」
「まあそう言うなよ」

あはは、と軽快な笑いがボクの鼓膜を叩く。なんと気味の悪いこと。
今となって古川正人くん達の苦悩とかが身にしみてわかった気がするね。……そして、やってみる価値はあるってことも、再認識できた。

「ただ、なんであろうが、俺には関係ないが、なっ!!」

瞬間。
ボクが見たのは、鬼気迫る、顔でした。……はあ。
大分ボクもため息キャラとして浸透しそうですよね。笑えない。


 ◎


よければ、あわよくば取引をして、小河英準くんとは先輩として一緒にロワイアル進行を頼んでも良さそうだったんですが、
どうにも空気が剣呑である以上、それは妥協せざるを得ませんという感じになりました。

コツ、コツ。
と、ゆったりとした歩調で、歩く。
言うなればそれは、王者の風格で。支配者のオーラ。
油断してると、一瞬で存在ごとなかったことにされそうな、意識がねじ曲がるような錯覚。

「なるほどな、この教室ではどうにも能力の使い勝手がわりぃ。結界の類か」
「……それでいてそこまで自由にさせられちゃあ、ボクの立場も危ういんですがね」

『弱体行使』。
この教室に張ったボクの《超能力》の結界。
まあむろんその弱体の範囲にはボクも含まれている訳で。
奇襲などの心配はなくなる代わりに、こう言った場面になるとボクとしても辛いものがある。
とはいえ、開幕一秒で小河英準くんの使う『存在抹消』を使われなかったのは、きっとこれのおかげであろうから、後悔はしていないわけだが。
諸刃の剣である。……いや、盾かな? なら諸刃の代替のなる言葉はなんでしょうかね。よければだれか辞書で調べてください。

なんて冗談を言っている場合じゃない。
……何だこの人、化物か。

「なんで、そこまで自由度が高いんでしょうか」
「格がちげえんだよ、格がよ」

やばいな、古川正人くんを庇っている暇はなくなったぞ。
ただやはり、はいどうぞ、と彼を渡すわけにもいかない訳だから、ボクは悪の使者の如く、彼を正義の味方であろう小河英準くんから守らなきゃならない訳だが。

さて、実況をしましょうか。
二人の位置は対角線上。
現在ボクは、なにも持っていません。手ぶらです。
対し小河英準くんは、片手に剣を携えて、ボクに迫ってくる。
……恐ろしいたらありゃしない。

『催眠行使、貴殿は我の手駒となれ』

と、試しにボクは言う。
確かに瞬間的に小河英準くんは身体をだらりと、脱力して、放心してしまったが、
十秒もしない内に、瞳に活力を再び宿し。

「っとと、あぶねえあぶねえ。危うく死んじまうとこだったぜ」

なにもんですか、この人。
いくら弱体化の催眠とはいえ、得意分野をこうも簡単に解かれるとやる気が殺がれるね。
――――単純な実力差。そういうことでしょうね。

まあ、それでも。相性の問題でしょう。
彼自身を、直接的対象とする精神攻撃だからこそ、破られたのであって、
物理攻撃であれば、それなりにもっていけるはず。
だからボクは引き続いて、唱える。

『凝縮行使。空気、数多の剣の体に凝縮せよ』

一瞬、酸素が薄くなるのを、ボクは感じる。
次の瞬間には、新たな空気が、周辺を纏ったのも、理解できる。成功したようだ。
そしてそのままボクは命令する。

『――――刺せ』

数多――とはいえ制限下に置かれているので、精々十本程度なんですけれど、
その剣は、重力だとか、小難しい話を無視した、鋭き動きで教室を蹂躙する。

その間にボクは、『転送行使、古川正人、貴殿は待合室にて待機していろ』と命令を下し、さっさと彼の安全を確保しておく。
どうせだったらボクも背中を見せて逃げたいところではあったのだけれど、どーせすぐに追いつくであろうから、無理はしない。

その間、小河英準くんはというと、壮絶だった。
ほとんど見えないはずである、空気の剣を鉄の剣で、全て払い除けていた。
カァン、と派手な音がボクの耳をつんざく。なるほど、一筋縄にはやはり行かないね。
と。
まあ、なんとなく空気の剣にはホーミング機能を付けておいたみたいだが、ほぼ無意味の様だ。
なんども訪れる無限の刃はさながら蚊のように無下に扱われ、流石のボクとしても自信をなくす。
何だこのチート。

「おいおい、どうした? この程度かよ」
『――――。……幽閉行使、教室にて幽閉完了』

確実に馬鹿にされてる。が、まあ無視してボクは教室に新たな結界を上乗せしておく。
これで彼も、まあボクもだがこの教室からいかなる手段を用いても出れない様になった。
……もう疲れたよ、パトラッシュ。

『……凝縮解放』

空気の剣を、解く。流石の無意味さにボクは呆れ果ててるよ。正直言って実況を止めたい気分だ。
げんなりするボクとは対照的に、彼は意気揚々と、高圧的にて攻撃的な鋭き瞳には意思が灯ってあり、

「ん? 今度はどうするつもりなんだ」

余裕綽々は相も変わらず変わらない。
残念ながら、悔しき事かな、実力が互角でない以上はそれも仕方のないことなのかもしれない。
だからボクは、とっとと片を付ける、短期決戦に持ってくこととする。
どのみち、時間は迫ってるしね。

『上昇行使。ボクの能力を上昇させよ』
『創造行使。エクスカリバーとその鞘。現世に再臨せよ』

二つの言葉を連ねて重ねる。
一気に解き放つ、二つの《超能力》。

身体に羽が生えたかのように、軽くなる。
全身のありとあらゆる筋力、神経の細部に至るまで、強化される。
先ほどまで感じていた、身体の重さが、消えてなくなる。

そして手には、鞘に収まったかの有名なエクスカリバーが構成され、握られていた。
ボクは鞘から剣を抜き、如何にもといった西洋風の剣を軽く振って、最後には狙いを小河英準くんに向ける。
ふむ、使い心地は悪くはない。
上がった身体能力とあわせると、かなりボクは強化されたとみていいだろう。

……さて正直言うと、『弱体中』であるところのボクからしたら、辛いものがそこにはある。
きっと十分もしたら、集中力は愚か、意識も強制的にシャットダウンさせられて、ボクの負けは確実であろう。

「ほう」

故に、短期決戦。
感嘆の声を漏らす、小河英準くんを無視して、ボクは彼の懐に突貫する。
爆発的な脚力を得たボクの身体にとって、その動作はなんら不自由なく、
常人離れの、逸脱した筋力などを使役すれば、そんなことはいとも容易く。
刹那には、ボクは辿りついていた。

そして、左手に握った剣で勢いのまま簡素な最小限の力で小河英準くんの胴体に裂こうとする。

「うおっ!?」

とはいえ流石といったところであろうか。驚愕の声を挙げたとはいえ、彼は反射神経にも似た回路で、
その斬撃を小河英準くんは剣で受け流す。しかしボクもそこで終わる程落ちぶれてはいない。
俗に言う、魔法の鞘を、右手に握り、顔に向けて打撃を繰り出す。
が、それを軽快なバックステップで避ける。……この化物。なんていうかボクは失望しました。そのチートさに。

「おまえが言うかよ」

ぱっぱ、と服に付いた埃を払いのけながら、
さながら心でも読んだかのような言動を放つ。まあ今更驚きもしませんが。
しかしどうすればいいのでしょうか。アーサー王さん教えてくれると助かります。

何て思いつつ、ボクは再度距離を詰める。
なんであれ、ボクには時間がありませんから、攻めないことには始まりません。

下から上への切り上げ行為。ただ単純な暴力による卓越した直線的なモノ。
当然のようにそれに同じく異常な神経を以て反応した小河英準くんはそれを身体ごとを横にずらして避ける。
そして一秒にも満たないわざかな時間に置いて、本能的にボクは感じ取る。――――今のボクは、隙だらけ。
幾らそれが瞬間的な隙であれど、彼にとっては何ら問題ではないだろう。

「ふっ、お終いだ」

そう呟いて、その鉄の剣は、意識虚しく露見したボクの首を薙いだ。
――かと、思うだろう。しかしよかった。保険を掛けといてよかった。

魔法の鞘。
エクスカリバーに対なる鞘が魔法の鞘だったと言わしめる理由。

「あっちゃぁ、忘れてたよ。傷つかねえんだったな」

ご解説ありがとうございます。小河英準くん。
ということで、魔法の鞘の効力により、ボクの首は、薙ぎ払うには至らない。
……なんていいつつも、やはりエネルギー的な問題で、ボクの身体はそりゃあ面白いぐらいに吹っ飛んでった。
隅っこの方に固めて積んであった、机の山にそのまま無造作にボクの身体は投げ出された。
身体に走るぶつかった感触。遅れて聞こえてくるド派手な落下音が鼓膜をつく。あぁ、くそう。

むくりと立ち上がる。うーん。目算では残り五分といったところか。
しかしこのままやっても、確実に勝てはしないだろう。負けもしないだろうが。
……ならここはいっちょ賭けにでも出るか。

「さて、そろそろお終い(おひらき)としようぜ。おまえさん」
「……そうですね」

ボクも呼応する。
疲れなど知らぬ底しれぬバケモノのようなその相手を、見つめる。

「そいや、名前を聞いてなかったな。俺はまあじゃあ小河英準で構わねえよ」
「……ボクは人無結です」
「人で無し。……はっ、ぴったしじゃねえの」

皮肉めいた口調で、愉悦そうな笑みを浮かべながら、
ひたすら見下した態度で、ボクに対面する。
……さて、と。

『上昇解放』『創造解放』。

呟く。
パァァと、手に握った剣に鞘は、光の粒子になって消えていく。
同時に訪れる、鉛の枷でも付けたかのような、怠惰感に、疲労感に、衰えを身に感じる。
だからあまりこれは使いたくないんだ。

ふと見ると、小河英準くんは一瞬目を真ん丸にさせ、数秒後、凄惨な笑い声と共に、ボクに問いた。

「ふふっ……なんだ、諦めたのか」
「まさか」

肩をすくめ僕は返す。
諦めたわけではないのは確かだし。
だからボクは、こう言うのだ。

『創造行使、ボクの言いなりとす小河英準くんを作成する』

光と共に現れたのは、小河英準くんと瓜二つの、人形。
ボクの言いなりになる、小河英準くんの幻影である。

「ほほう」

口角をあげる小河英準くん。
お楽しみなようでなによりである。
――――では、遠慮なく。

『やっつけろ』

命令すると、無言のまま人形は身を低くし、駆けだした。

「おもしれえ」

言うと、小河英準くんは剣を構え、右手で乱暴な力任せの一閃を煌かす。
上から下へ。
先ほどのボクとは正反対のその動きを人形は、さらりと避け、腹に渾身の蹴りを入れる。
――――が、さすがは一心同体といったところか。
動きを先読みしてたのか、その蹴りを、もう片方の手、つまり左手で足底を握って、攻撃を受け止めていた。
……はは、まあいいや。さて――――ボクも。

「流石は俺ってなぁ!」

本物の小河英準くんはその掴んだ足を、やはりこれも力任せなのか、それとも何かコツがあるのか。
よくわからないけれど、足首を掴んだまま、マリオよろしくジャイアントスイングでグルグル回ったあと、ボクの方に投げ飛ばした。
まあこの程度なら避けること自体は難しくはない。適当に受け流し、その図体を見送る。

そして人形もほうも大概の化物だった。
痛みを知らないのか、直ぐ様立ち上がり再び、本物である小河英準くんの元へ駆ける。手に落ちていた椅子を握り。
振り回す。右から左へ。左から上へ。上から下へ。下から右へ。
何度も何度も反撃させる隙も暇もないほど連続して振り回す。一々響くブォォンといった風を切る音が素晴らしく豪快で、
威力の高さを物語っている。さも振り回してるだけで、椅子までも壊してしまいそうなその勢いは、さすがの小河英準くんでも冷や汗をかくほどである。
……最初っからこうすればよかったかな。
とはいえども。

「ふっ、舐められたもんだな! この俺も!」

小河英準くんは止まる。
もう既に真横から迫ってくるであろう椅子をものともせず。
そして剣を構えて、叫ぶ。――――そしてボクも動く。

「偽物なんかに負けっかよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

左手で、椅子を裏拳打ちで粉砕し、右手で、剣を人形の胸に突き刺す。
最後まで、彼は暴力任せにて、破壊的破滅的破綻的な実力を以て、暴れ回った。
なるほど、これが『主催』というものか。参考になったよ、小河英準くん。

そして。
いや、だから、ボクは。


「お疲れ様、さようなら」


懐からずっと仕舞いこんでいた、拳銃を、向ける。
コンマ零秒。
乾いた、軽快な音が、教室に響いた。


「ぁあ?」


小河英準くんの、脳天を貫く。
次の瞬間、質量を伴った大きな物体の崩れ落ちる音が、鳴った。



 ◎


まあ、あのタイミングで発砲した理由は簡単である。
まず一つ。
小河英準くんの気を他に留めていいて且つ、気を少し抜けているときであること。

拳銃は正直言って普通に放ったところであの小河英準くんには通じなかっただろう。
それに聞いた話だと『痛み分け』なる能力もあるらしいから、それを行使されたら最悪だったのだ。
全てはここに持っていくために、あの人形を出していたということ。
気を逸らすのにはもってこいだった。実にセオリー。マニュアル通りの戦法術である。

そして二つ。
あまりこの拳銃というものを使いたくなかったというのもある。

なにせボクの目的は、あくまで人殺しをさせるのではなく、
妹に自信をつかせるためであり、拳銃を使うことの「容易さ」をつなぎに知られたくはなかったから。
止むを得ないとはいえ、正直得策とは言い難いのが現状である。うーん、待合室にまで音届いてないといいけどなあ。

なんて感じで、脳天から血を垂れ流し続ける小河英準くんを何時までも見ておくというのも気分が悪いので、
別室に移動することにしよう。どの道、古川正人くんまで面接は終わっているからあと少しだ。


そんなわけで、『幽閉解放』と呟いてから、ガラガラと、教室のドアを開ける。
するとそこには――――佐々木竜也くん……だったかな、その人が、眠っていた。


……。
考察するときっとこうだ、小河英準くんは新たなロワをしようとしていたから、きっとその為に連れてきたんだろう。
ボクはこの人を呼んだ覚えはない。まあぶっちゃければ脇役もいいところだし。なんていったら永久修康くんなんかもそうだけど。
まあ一人ぐらいいいかなってことで実験的に入れてみたのだ。

しかしどうしようか。このまま捨ててもいい気はするけれど。
もったいない気がするし……。うーん。どうせだからロワイアルにぶっ込んでみるのもいいかもしれない。
とはいえ、今のところキリがいい数字で収まってるし、一人抜きたいよなあ、そうすると。
座りが悪いのは気持ち悪いしね。
じゃあどうしようかな、何て思いつつ、それはつなぎに聞いてみるか。
古川正人くんをついでに拾うこともできるしね。

といった具合に。


『睡眠行使。佐々木竜也、貴殿は我の支配下となれ』


駒を手に入れる経緯に至る。
長かった回想場面である。



 ◎


長かった。文にすると思いのほか長い回想でありレポートである。
いやはや。
まあ、なんて感じでようやく病院のパートをまとめるとしよう。
時間にルーズなボクはここでも相変わらずである。時、戻ってこないかなあ。

ん?
ああ、引き抜いた奴は今はつなぎの抱き枕に、まあ友達になってるよ。
女の子同士弾む会話があるのかもしれない。
催眠は解いてある。
まあ手錠とかで身動きはとれないし、そういう変わった能力というものもない人だったから別にいいかなって。
それに基本的に、つなぎ一人だけで見させるのも可哀相かな、とも思っていたので案外都合はいい。
ボクはこの通り諸事情で書類に移さなきゃならないし。万が一傷つけるようなことがあったら、即どうにかするし。心配は……。
……けどやっぱり後で会いに行こう。やっぱね、ほら? 仕事って後でも出来るし? そん時はイチゴ牛乳でももっていこう。

なんてわけで、そういうことで。
そういや、その佐々木竜也くんは今は何処で何やってんのやら。
視線を、モニターに移した――。
……ははっ、なるほどねえ。運命ってのは残酷なものだね。
さて、ではボクはお仕事の時間だ。


皆さま、これからもどうか狂い乱れてくれますように。




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最終更新:2012年03月30日 07:29