パラダイムパラダイス――――たったひとつの冴えないやりかた

男は立っていた。
名を、佐々木竜也という。

前回のバトルロワイアル……「DOLバトルロワイアル」において、裏方に回っていた、所謂主催と呼べるもの。
今ロワでは紆余曲折ありながらも、こうして参加者として役回ってきた。
そんな彼は、笑っていた。凄惨に、それはもう楽しそうに、愉快そうに。
さながら今の地球は彼を中心に回ってるのではないのか、と思われるほど現状に満足した様子で、

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

叫ぶ。笑う。
あらん限りに。できる限りに。
危険人物が来るかもしれないという可能性すら危惧ではなくむしろ期待してそうな瞳で。
実に楽しそうに。実に愉快に。実に痛快に。
内から湧き出る、隠すにも隠せない純粋な悦楽を余すことなく享受して、
叫び続ける。
衝動を抑えることなく、本能のままに。


さて、ここで物語が進むまで、この男の紹介と行こう。
どうせそれまでは彼は笑っているだけなのだから。

というわけで、この男の名前は改めて佐々木竜也。
性別は男で、年齢は25であり、185cmと中々に長身で大抵の人間を見下すことが可能だろう。
経歴を辿るとそれはあまりに常人離れしたもので、
四歳の時に父母を殺したことを始めとして、そこからなし崩し的に始まった犯罪者生活。
今となっては、世界を股にかける有名な犯罪者。この世に知らぬ者をいないとまで言わしめる者。
生前のジャック・ザ・リッパーと肩を並べることも叶うのかもしれないほどの経歴だ。

ただ、彼の本質はそこではない。
ここで紹介すべきは――――触れるべきは、二重人格についてであろう。
ある時は、理性的な計画的犯罪者。
ある時は、猟奇的な嗜虐的極悪人。
二つに一つ。表裏一体。
主に、主催に回っていた時は……便宜的に人格Aと形容させてもらうが、その理性的な一面が表立っていた。
――――主催に収まる人間では、本来的にはなかったのだ。

そして今も、人格A。
主に精神を抉る、人格。
なら、人格B――――つまりは主に肉体を抉る人格が顕現。
つまるところ、人を殺した時は訪れるのか、訪れないのか。
それを知るものは、やはりどこにもいなく、今ここで咆哮する彼とて知る由は無いだろう。


ウズウズした、悶々とさせた光悦の笑みを惜しげもなく周囲に晒し、
彼という人間の内側を深々と印象付ける。
「あぁ、そう言う人間なんだな」と思わせることなんて、いとも簡単に出来てしまう。
実際にそう言う人間だから救いようもないのだけれど。
さながら絶望というものを軽く踏みにじりそうな、その冷血な瞳には、何が宿っているのか。
それを理解出来るのは、それこそ本人しかいないだろう。


さて、物語を戻す。
今、たった今。一つの駒が動いたから。
物語という盤上に立った、一つの駒が、動いたから。


青髪の少年――――相川友が、動き出したから。






「なんだってんだよ……っ」

この狭き箱庭の一角、野原には二人の人間が立っていた。
一人は、片目が髪の房によって見えなくなってる長身の青年、佐々木竜也。
一人は、中学生相応の体格を有する不幸なる青髪の少年、相川友。

一方は、面白そうな、目尻の上がった明るい瞳で。
一方は、憤慨さえ起こる、鋭くなった睨みつける瞳で。

片や、奇襲を受け、なんとか受け止めきったダーツの矢を一本。
片や、一本失い、ダーツの矢を五本身に携え。

対面する。
青髪の少年は、攻撃の手も、思わず止めてしまう。

『殺し合いに乗ったものを殺す』と心に決めたはずなのに。

明らかに「敵」だとは脳内では理解している。だって前、こうして対面した時は、れっきとした「敵同士」だったのだから。
参加者と――――主催。
ここの間には、乗り越えきれない、分厚く、高く、堅牢な壁が立ち憚っているのだから。

「なんで、おまえが……! 生きてんだ!」

けれどそれでも、彼は攻撃できない。
代わりに、青髪の少年は言葉を漏らす。
吐き捨てるかのように。乱暴なそれを、投げかける。
震える声は、今の彼の心情を表すのにはうってつけだった。

対し長身の青年は冷静だった。
淡々とした、あるいは耽々とした口調で、肩をすくめながら適当に返す。

「さあ?」

その一挙一動が。
その言動、言葉の端々から、青髪の少年は怒りを募らせていく。
あったのは、綺麗なほど真っ赤に染まる純粋な苛立ち。

殺したと思ったら生きている。
名簿にいないと思ったら存在している。
明らかに人を小馬鹿にした態度で接してくる。

ラスボスだと思っていた奴が――――ここにいる。

そんな話あってたまるか。
ラスボスが序盤の草原で登場するなんて、この物語のシナリオライターもさることながら、監督も中々のクズっぷりを発揮している模様だ。
青髪の少年はその理解に遠い今のこの現状に、困惑を隠し切れず、結果として、負の感情を抑えきれなくなる。

「『さあ?』っておまえ……っ! 俺達がどんな思いをしたか知ってんのかよ!」

声を荒げて、責め立てる。
さっさと殺せばいいものを。とっとと終わらせればいいものを。
単純な疑心と、苛立ち。そして何より男の態度が――――青髪の少年の意識を今はそっちに向かわずじまいにさせる。
一人称が変わってるあたり、その感情の高まりも、すでに目一杯であろう。

しかし、それでも。
青髪の少年の気持ちなんて知ったこっちゃないのか、長身の青年の答えは呆気らかんのままで。

「知るか」

短く、それでいて事実を的確にとらえた物言いをする。
先の通り、参加者と主催者では明確な差異がある故に。
現に参加させられたところで破綻しきった彼の人格では、青髪の少年ほどは、心揺さぶられない。
心の―――芯の太さが、違うのだ。
「普通」であるところの青髪の少年と。
「異常」――――いや、彼らの世界観からしたら、「過負荷」でもいいのかもしれない。どちらにせよ長身の青年との間には、くっきりとした境界線が張られており。
長身の青年は動じない。むしろ、この上なくこの状況を楽しんでいる。
笑みを浮かべる表情に青髪の少年は、気味悪がる。気持ちが悪い、と素直に感じ取り、敵対意識は増していく一方だった。
だからこそ、言葉を吐き続ける。

「知るかってなんだよ! おまえらの所為でみんな死んだんだよ! 青木も! 先生も! おまえらの所為で全て変わったんだよ!」

怒号を浴びせる。
思ったことをありのままに。
心に決めた決意を一度だけ脱ぎ捨てて、素直な感情を露わにさせる。

だが。……という語り口も飽き飽きするほど、一貫して。
長身の青年の口調は、冷たく。されど、青髪の少年に対する興味が沸々と湧きだっているような素振りを見せる。
その怒号すらも、冷たくあしらう。

「だからなんだ。正義のつもりか」
「……違うよ、俺は正義なんかじゃない。……けど、あんたが悪だってことぐらい知ってるよ」
「ああ、そうだな。俺は悪だ。そしておまえも、悪だよ。『正義感の強“かった”』相川友くん」
「……なにを」
「人を殺している時点で、おまえも既に殺人犯だ。程度はあれど、俺と同種だよ。わかってんのか」
「――わかってるよ、わかったうえで俺は決めたんだ。殺人犯を殺すって。
 いくら悪だと蔑まれようが、いくら間違いだと指摘されようが、俺はそうでいいんだよ」

青髪の少年は、語る。
自分の立ち位置を。これからの行動指針を。
覚悟に満ちたその返答は、彼の身形を知ってると不思議と説得力を帯びてくる。
ただそれでも、説得力があったからといって、彼にとっては何という話ではない。

「はん、大層なこったなあ」

嘆息まじりに、疲れた表情を浮かべ、ただ論ずる。

「けど、対しおまえは役立たずだよな。その手に握っているダーツで人を殺すことがどんだけ難しいか分かるのか。
 大体、以前こうやって対面したときだっておまえの役目は、撃たれただけだ。俺にな。結果的に足を引っ張ってるおまえに何が出来る」

現に。
あの時青髪の少年はなにもやっていない。開幕早々電磁砲に撃たれた。
次いで、『幻想殺し』の動きを止めて、最終的には『射撃が得意なダメ少年』の力で打倒したのだから。
実際彼が出来たことは何一つとしてない。けれど彼はこう返す。

「……否定はしないよ。俺が足手まといだってことぐらい、理解してるよ。
 だからこそ――――俺は強くなるんだ。覚悟だって決めたんだ。おまえの言葉なんて聞くかよ」
「弱くなってんな、おまえも。まあそれは自己責任であって、俺は知らねえがな」
「……確かに俺がこうして堕落したのは俺の責任だよ。――――けど」
「けど、俺たちがあんなことしなければ、ってか。笑わせるな。俺はちゃんと普段から人殺しに慣れているような奴は呼んだ覚えはねえよ。
 おまえらが勝手に暴走して、狂乱して、殺し合っただけだろう。俺たちに責任があるとすれば、最初に殺したあの着物服のあの男だけだ。
 まあ、言っちまえばあれを殺したのだって俺じゃあないんだがなあ。……それにおまえらの価値観はおまえらのものだろう。俺に責任転嫁を勝手にすんなよ。偽悪者が」
「……とことん悪のおまえに言われたくないな。僕は、自己中心的ダークヒーローだってごとぐらい」
「敵意もって人殺しをしている時点で。それはダークヒーローですらなれない。それはただの人殺しだ。
 悪人を救えない時点で、それは俺たちとミリ単位で違わず俺たちと同じだ。たとえば俺がおまえのスタンスを取ってたら真っ先におまえを殺すぜ」
「……なんで、悪人を救わなきゃならないんだよ。悪に染まった奴は、それは十分な害悪だ」
「やっぱおまえは十分欠落しちまったね」

クックック、と嘲笑を浮かべ、嘲る。
有名犯罪者は、普通の少年を、嗤う。

「なら、今の害悪は、俺よりおまえだ。明確な敵意を抱いているおまえの方が、十分に害悪だよ。死んだ方がいい」
「……前科がある奴が言うなよ」
「前科はおまえにもあるだろう。それも三人もな」
「……」

返せない。確かに既に彼はその身を血に染めたから。
返せるわけがなかった。事実だから。否定する気はないから。――長身の青年は続ける。

「それも一人は友人の妹なんだってな。ありゃなんだ? 救ってやったつもりなのか?
 だとしたら畑違いも甚だしい。あれを救済だというんだったら、それこそおまえの相方の言葉を借りて『その幻想をぶち殺して』やんよ」
「……それは」
「それは正当防衛だから仕方がない。だとかほざくなよ。それを世の中では過剰防衛と言い、一応は罪に分類されるんだぜ?
 おまえは知ってんのかよ、殺人の重さを。三人も殺したおまえに乗せられた重しの重さを」
「知ってるよ、だからこそ」
「だからこそ」

オウム返しのように。青髪の少年が放つであろう言葉を先読みして。
長身の青年は、面白そうに、興味深そうに返す。

「ここで自分が重荷を背負って善人には生きていてほしい。――馬鹿らしい。プロからしたら何とも馬鹿らしい」

プロ、の定義がいまいちよくわからないが、それでもやはり、犯罪者でも程度というものがあるであろう。
なにも裁判は無罪か有罪かだけを決めるものではない以上、プロフェッショナルだとかアマチュアだとか、あるのかもしれない。
そして、それは、全然正義と反するものだとも、知っている。諦観しきった長身の青年――――佐々木竜也は知っている。

「人を救うライセンスって知ってるか? 教えてやる。人を信じ続けることだ。それをもたない無能のやる殺戮はただの犯罪者。
 つまりは俺たちのことだ。理解もできずに、ダークヒーローを気取ってるというのなら、それはすぐに取り下げたほうがいい。うざったらしい」

この場には、奇遇なことに正義の味方を志そうとしている者が数名いる。
たとえば「勇気凛々」《四字熟語》。彼女はとある小学生と出会い、彼女を信じることにした。故に正義の味方として歩いていけるのだろう。
たとえば「佐原裕二」《サイキッカー》。彼はとある一連の殺害現場に出くわし、そして守るべき小学生を確かに信じた。故に彼もまた正義の味方なのだろう。
他にも、『人を救うため』に動く人物は多数いる。
その中で、人を信じていない、救済者など多くはないだろう。

青髪の少年――――相川友は、人を信じきれていない。
それこそ勇気凛々のように、人は皆本質的には善人である、という生き方をしていれば、違ったのかもしれない、が。
結果的に彼は、『悪人であれば殺す』という、人間というものへの信頼もなにもない、上っ面の正義で動く。
経験論と聞けば響きはいいのだろうが、しかし裏を返せば、その程度で折れてしまうような、そんな程度の『正義』ということなのかもしれない。
どのみち、彼の言うライセンスには、相川友は合格できない――――不合格である、と。

「別におまえは、主人公でも何でもないんだ。脇役だよ脇役。多くの観衆に擁護されることもない、ネタキャラと行っても過言じゃない」
「…………おまえは」
「おまえは何が言いたいんだ。ねえ。つまんねえこと聞くなよ。この前代未聞空前絶後超特大最大級未曾有で稀代の破天荒犯罪者である俺様にそんな事を聞くのは野暮ってもんだぜ。
 俺は知ってるよ。おまえのその腐りきった瞳を。淀みまくった意思を。――――同志の眼だ。だからこそ俺はおまえを『正している』」
「正す……? なに」
「なにいってんだ。僕は考えを変える気はないし、おまえに正してもらうようなことはない、か」
「……」

いい加減この割り込みもうんざりしてきた相川友。
真意の見えない遠回しな言いぶりに、苛立ちと憤怒ばかりが募っていく。
本来の目的も忘れ、眼光を光らせるにとどまる。――――きっとこれが、人格Bであればまた別だったのかもしれないけれど。

「いいや、おまえはとんでもなく間違ってるよ。大体それはおまえのやりたいことではないだろう。
 役目であって役割じゃないだろう。そんなことおまえ以外にも適任がいる。さきあたっていうなら、青木林がいるだろう。
 今のおまえなんかよりも、よっぽど役に立つ。おまえの覚悟は、本心を上回らない。――――現に俺に追撃を仕掛けない辺りが、殺す覚悟を得てないんだよ」

直後。
軽く舌打ちをしたのちに、相川友は手に握ったダーツの矢をそのまま喉元目掛けて投げかけた。
――――が、まるでその動作を予想していたかのようにその矢の腹の部分を人差し指と中指で、さながら煙草を吸うかのように掴みとる。
そして呆れた口調で物申す。

「……!」
「ほら見ろ、おまえはまだまだ未熟なんだよ。直ぐ煽った程度でムキになる。そんな見え見えの攻撃程度俺だって直ぐに避けれるよ。
 覚悟? 決意? んなこと知るか。おまえが何であろうとしたところで人ってもんは変わらねえんだよ。
 ところで俺は何気におまえに期待してんだよ。しょっぱなから人を殺せるほどの内に秘めた、『害悪根性』を」
「僕は、違う! 何で僕が責められる立場なんだよ! おかしいだろっ! 反省の色も見せないおまえらなんかにとやかく言われる気はない!」

指を突き立て、相川友は佐々木竜也を非難する。
自分というものを正当化しようと……いや、自分の行動に矛盾があること自体はわかっていた。
けれど、それをよりにもよってこの卑劣なる最悪の男に責め立てるのが耐えきれなくて、非難する。
……まあ、やはりというかなんというか。佐々木竜也にその言葉は通らない。平坦に答える。

「面倒だが一つずつ答えて応えていくか。

 僕は違う――――本気で言ってるのか? 人の命は千差万別と言えど、価値は平等だ。屑でも天才でも殺せば同じ罪だ。
 その中でおまえは三人も殺した。この事実をどう覆す気でいる。ちなみに教えてやろう。キルスコアはおまえはあの時同率二位だったぜ。
 一位じゃなくってよかったと安心しているのなら、おまえは十分に既に終わってんよ。よかったじゃねえか。

 何で俺に責められるのか。言っただろう。おまえはその今の立場を理解していない。その罪深き身体でなにをしたところで、それは何の足しにもならない。
 殺人者には変わりない。教えてやってるんじゃないか。現実を。それにおまえの意思はどちらにしても薄弱すぎるから正してやってるんだろう。
 贖罪何てやったところで意味なんてなさない。それは無為なる行為だぜ。無駄ともいえるな。

 おかしいだろ、おかしくないな。

 反省の色を見せない俺ら。当たり前だろう。反省してたら恐ろしくてそんな有名になるまで犯罪を繰り返してたりするか。
 おまえは一々親に怒られたことを反省をするほど律義なのか? 違うだろう。つかその年ならうぜえの一言で終わらせたって違和感なんて欠片もない。
 自分のやったことに誇り、プライドも、れっきとした自意識ももてない奴は、それはやはり殺害を犯すに値しない。
 そんなのむしろ俺が殺してやるよ。そんな誇りなき犯罪者だなんて。同族として受け入れられねえ」

長々と。
大変長い演説にも似た科白を終える。
そこに意味があるのだとすれば、やはり人をおちょくって面白がっているという具合だろう。
もしくは――――。

「違うだろ! 人が前を見て何が悪い! 善人の為に生きて何が悪いんだ!」
「悪くはない。ただおまえにその資格がないだけだ」
「僕は人を信じている! だけどそれだけじゃ救われないぐらい僕は知ってるんだ! おまえらに叩きこまれたよ!
 おまえらだけには何も言われたくない。おまえら如きに僕たちは理解できないよ。おまえらとは僕は違うんだ」
「嘘こけ。おまえはさっき俺に躊躇いもなくダーツを向けただろうが。前科がある。そうだな。
 ――――でも、こんな俺でも改心していた可能性だってあっただろう? おまえがいうおまえみたいにな。
 おまえが前を向いたように。俺が前を向いたという可能性をおまえはバッサリ切り捨てた。どこに信頼があった。ふざけんな。
 おまえは俺たちと同類なんだよ。何度も言わすな。そこまで無能じゃないだろう。そして、おまえを理解出来るのも、また俺たちだ」

手に入れた二本のダーツの矢の内一本は胸ポケットに仕舞いこんで、一本はペン回しの要領でくるくると回す。
対面する相手とは対照的に、余裕の笑みは未だ消えず。彼の瞳は嗤い続ける。

蛇足。
余談でこそであれど明かしておこう。
これが彼の言う、拷問。人格Aの齎す拷問。
正論のようで正論でない正論。肉体的拷問は、人格Bの専売特許。
故に人格Aはこちらを目一杯に愉しむ。悦びの波紋を立てに立てて立てまくる。

「……なに……いってんだ、おまえは」
「実際そうだろう。俺とおまえが同じ穴の狢である以上は、理解できる余地はある。
 いや、同じ穴にすらいない他人では、おまえの背負う十字架の重さなど理解に遠いだろう。むしろおまえは拒絶されるに決まっている。
 世の中とはそういうものだ。頑張ったところで無下にされることなんて多々ある。落ち込まなくたっていい」
「おまえに慰めてもらう必要なんて」
「あるな」

やはりそれはきっぱりと。
相手が言いきる前に、きっぱりと可能性を断つ。
伴い相川友の言葉はつまる。

「だいたい、俺には何故おまえが、自分の行動に矛盾を感じながらもそれに従っているのか、理解できねえ」
「そんなの、殺し合いを終わらせるために決」

相川友には、何度も言うようにわかっている。
念を押されなくとも、それが自らの道はどうしようもなく破綻していて、
そもそも前提が成り立っていない狂ったロジックの上にとんだ欠陥品として成り立っているだけの話だということは理解している。
故に何を言われたところで、彼にとってはすでにどうでもいい話なのだ。しかし、それを身で感じた佐々木竜也は、なお加速し止まらない。

「決まってないな。そんな取って付けたような理由では俺は納得できん。そもそもおまえは二度目だろ。
 よく言うじゃねえか。二度あることは三度ある。――――仮におまえが生き残ったところで、優勝したところで、まち構えているのは、またこれかもしれねえぜ?」
「どちらにしたって……生き残んなきゃ」
「生き残る必要だってないかもしれねえぜ。だってよ、見てみろよ、名簿を。
 青木林、青木百合。この二人は死んだはずだ。俺が名前を読み上げた以上死んでるはずだし、間違いねえよ。
 それに一人に限って言うなら、おまえの目の前で死んだはずだろう? なのになんでまた名前がある? ……そう、生き返ってるからだ、俺みたいにな」
「そ、それは……」
「実際に俺がこうして生きている以上。生き返ってる以上、死者の復活など相手にとっては容易いことなんだろう。
 ……仮に今おまえが死んだところで、待っているのはまたこれかもしれねえぞ。仮におまえが悪人を殺したところで、また復活するかもしれない。
 殺し合いは――――終わらねえぜ。何時までも、何処までも。彼方にまで続く最果てまで。延々となぁ」

一見、いや、聞く対象の大半は、これを地獄だと感じるだろう――――相川友もまたその一人。
けれどそれでも、それを実感してなお、そりゃあもう極楽浄土にでもいるのではないかと思わせるほどに綻ぶ佐々木竜也。
……気味が悪いを通り越して、それはすんなりと相川友の心に受け入れられた。もう常人ではないと、理解しきったために。
でも、話を受け入れるのとは、また話が違うというものだ。

「だからって! 現実逃避するとは!」
「現実逃避してんのはどっちだ。俺はすでにこの現実を受け入れてなお、修羅の道を歩くぜ。――――犯罪者らしくなあ。
 理由なんてない。強いて言うなら快楽のため、私欲のため、今を生きるために。
 けれどおまえのその理論には支柱が立っていない。なにが得たくて行動している。なにをしたくて戦っている」

佐々木竜也は問う。興味深そうに。
しかし相川友の返事を待たず、簡単に切り捨てる。

「ないだろ、んなもん。おまえは所詮逃げてるだけのガキだよ。だいたいダーツの矢でできることは確かに多いのかもしれないが、
 それは決して殺人用の話ではないだろう。なら、危険人物に見えたであろうその瞳に俺を捕らえたならばとっとと逃げるべきだったんだよ。
 またあとで再戦すりゃよかったじゃねえか。何で今来た? 何故今俺を襲った? その軟弱な武器で。仮に俺の瞳を潰したところでなんになった?
 むしろ俺が逆上して、なりふり構わず無差別に人を殺しまくってかもしれないぞ? 言っとくが俺は強いぞ? 少なくとも高々中学生のおまえよりは。
 返り討ちにあって死んでいたのはおまえだったのかもなあ? おまえはそれを望んだか? 願ったのか?」
「……っ」

相川友は顔を歪ませる。
そうだったのかもしれない。――――この男なら、やりかねない。
自分自身がとっと行動は、考えなし過ぎたのかもしれない。と。

「だとしたらおまえはとんだ優秀な殺人鬼だ。俺以上のなあ。結局おまえは、自分を分からずに、逃げてるだけだ。現実から逃げようとしているだけだ。
 おまえが心の中で、それを認めず、許さなかろうが、傍からみたら、それはもうみすぼらしいぐらい子供の駄々だ。
 さっき言ったように、死人が生きているという状況は、名簿を見れば可能性としてぐらいなら上がったはずだ。
 青木兄妹がこぞって同姓同名の別人という可能性の方がよっぽど低い。すでにおまえらはそれこそ俺らのよって常識をぶち殺されてやがるんだから、何ら不思議ではないよなあ」
「そ、それは……名簿に偽装があって、僕たちの混乱を誘うだけなのかもしれないだろう」
「名簿に偽装が入ってた可能性ぃ? はっ、アホか。それをやってどうするんだよ。向こうがなにを得る。おなじ死んだ青木兄妹の名前とかも伏せるならまだしも、
 俺だけを隠す必要性が何処にある。もしくはその逆も然り。――ホワイ? ワット? わかんねえだろ。わかんねえのに要らん可能性に口出しすんな、本当にアホだったのか?」
「……」

敢えて、目を逸らしていたことだった。
考えない様に、留めておいたことだった。考えたくもなかったから。
……もしかするとまた、あの青木百合を殺さないといけない現実に立たなきゃいけないと思うと、目を逸らしたくなったから。
相川友は――――普通の少年なのだ。ある点を除いては。
佐々木竜也と比べるまでもなく、だ。

「おまえは何を理由にしてる? 盾にしている? そんな歪み切った欠陥理論で正当化できてるとでも、擁護されるとでも思ったか?
 人を殺す時点で人は人を擁護できない。そんなの小学生でも知っている。だからこそ日本にもアメリカにも法律なんつーもんがある。
 法律をたとえ、法外領域で犯したところで、犯罪行為には変わりはない。罰がないだけで、罪はある。道徳なんてとうの昔にネジ伏せてるだろ。
 おまえは結局のところヒーローになりたいだけのヒーロー気取りなだけだ。浮かれてんじゃねえのか? 一回生還したから、どこか心の中で浮かれてんじゃねえのか?
 おまえにはあの頃のような必死さがねえ。どこか余裕かましてるんだよ。本心とは時に思考を上回る。野獣みたいにな。
 なにを得たいわけでも、なにをしたいわけでもない、ヒーロー気取り。もしかしたら名声でも、喝采でも欲しかったか? 讃えられたかったか?
 『僕は二回もバトルロワイアルに参加させられてとても辛かったです』というのを売り文句にして苦労噺、不幸自慢をしたくて本に出すつもりだったか?
 そりゃ失敬したな。確かにおまえの得たいものや、したいことはそこにあったな。いやはや、これはこれは失礼なことをした。
 確かに現実逃避はしてないなあ、クックック、アーハッハッハ! フフッ、いやはや、実にすまなかった。俺が悪かった」

大して謝罪の念の込められない形だけの謝罪。
否、これを謝罪というのもそもそもおかしいであろう。こんな皮肉めいた謝りがあってたまるか。

……一方の、相川友はというと。
すでに疲弊は限度を達し、聞き流すのすら重労働。
殺意が殺がれる。殺がれ殺がれ殺がれ朽ちていく。折れていく。

これがてんで見当違いの的外れなものばっかりなら、全然違った。
けれど、妙に自分の心に突き刺さり、それでいて破壊しない。麻酔のような言葉の針ばかりを突き立てて。
それら全てを、覚悟して、受け入れたはずの心を、犯していく。穢していく。

言葉もさることながら。
この最悪の男に、その矛盾を指摘されるのが、どうしようもなく悔しくて。
全ての根源であるこの男にそれをいわれるのが、いやだったから。
ただそれだけの、幼稚でいて、明確な、一つの思いが、彼を揺さぶる。

ただでさせ脆弱であった欠陥理論が揺れる。
彼の意志でのみで固められた欠陥理論は、彼の意志なくしては成立しない。正しく言うなら、立たない。

「さて、ところで今まで俺は何の取り留めもない、順序だとか段取りだとか、そんなもののへったくれもない話し方ばっかりしてきたわけだが。
 どうだ? 正しいか? おまえのやってることははたして、おまえの望むものなのか? 俺はちげえと思うがな」
「僕は間違ってるよ。わかってる。だからって正しくある必要は」
「矛盾してる。ならば俺とおまえがこうして対面している理由は何だ。正しくなくていいってんなら。おまえは俺にかまわずどっかにいけよ」
「正しくなくとも、間違ってても、生きている価値がある奴とない奴はわかるよ」
「わからないよ。おまえは神か? 天秤の螺子は、皿は俺と同じなのか? 違うだろう。
 たとえば……さっきからイフの話ばっかだが、まあおまえに恋人がいたとする。よっぽどの事情がない限り、それは命に代えても守りたい存在のはずだ。
 だがしかし、俺にとってはどうでもいい。余裕で殺戮対象になるな。俺の天秤はこうだ。不平等だ。じゃあおまえは違うのか?
 おまえの天秤は、精確に正確で正格を極めているのか? ならば俺には何も言うことはねえんだけどよ。うん、まあ、無理だよな」
「……」
「己の価値観だけで、他人の命をどうにかしていいと思ってるなら、それは十分な、害悪だ」
「……それは」
「それは?」

恒例とは異なり、敢えてここでは疑問で返す。
追い詰めるのに特化した、愉悦の為の会話術。
本領は、人を変えることに在らず。
真髄は、己を愉しむことに尽きる。

「……っ」

相川友の言葉は、続かなかった。

「さて、俺はおまえに今まで、散々言ってきたわけだけれども」

頭を掻きながら、欠伸をしながら、気だるそうに佐々木竜也は言う。
相川友は再びダーツの矢でも出そうとしたが、どうもああ見えて、案外前回の教訓を活かして警戒自体を怠ったりする節が見受けられない。
前回の死亡の間接的要因が、自身の慢心による隙となれば、改善しないわけにはいかないだろう。
相川友は、動かない。

「……」
「おまえはまだそんな曖昧模糊に偽悪を混ぜたくだらねえ理想論を掲げるのか?」
「僕はおまえらとは」
「違わねえ。おまえの掲げてるそれは一見して現実論でありそうだが、違う。
 さっきも言ったように、おまえがたとえ善人以外を皆殺しにしたところで、また殺し合いだったらどうすんだ?
 おまえが仮に悪人を殺したところで、次の殺し合いで生き返ってたらどうすんだ? なあ、どうすんだ? どう責任取る」
「そんな可能性の話なんて、僕は聞いちゃいない。今を生きなきゃ――――始まらないだろ!」
「だからその生きた先になにもないは愚か、より深き漆黒の闇が待ってるかもしれねえ事態をどうにかしない限り、おまえのやってることはどちらにせよ生殺しに過ぎない」
「なんっ」
「死んだ痛みを知って、辛いだろうなあ。生き残ったのにまた殺し合いをさせられちゃあ、辛いだろうなあ。
 おまえにはそいつらの負の感情を背負いきることができるのか? ――できねえよ。故にそれは生殺し」
「……」
「異論は?」
「……ないよ。でも、それでも」
「僅かな正義感が疼く、とでもいうのか、格好いいねえ。でもおまえがそれで得るのは自己満足に過ぎない」
「自己満足でも構わないよ。僕は僕の決めた道を歩む」
「その道がねえから懇切丁寧に教えてやってんのになあ」
「僕の道だ。茨道でもかまわないさ。指図は受けない。……さっきからおまえは何が言いたいんだよ」
「いや、ただ愉しみたかっただけだよ。……一つ言っていいか?」
「……なんだよ」

相川友の瞳の色は、怒気に染まる。
青い瞳には、真っ赤な感情が、染まる。滲む。

――――佐々木竜也の顔色は変わらない。
平然とした、へらへらとした表情で、彼は少年に問いた。
今までの怒涛の勢いを引き継いだまま、彼は最後に、問う。


「おまえは、それを本当にするべきことだと思ってるのか?」






結局青年が何を言いたかったのか。
少年、相川友には分からない。だってなにせ、青年、佐々木竜也自体、何を伝えたかったというわけではないのだから。

だって、愉しみたかっただけなのだから。

怨敵とも呼べるであろう間柄といっても過言ではない間柄に立った少年の、苦しむ顔が。歪んだ顔を見るのが、この上なく極上の料理だったのだから。
美味しくいただけないわけがない。
不味いわけがないであろう。
別品。至極の一品。
実に面白い。佐々木竜也は、素直に感謝する。

「俺のような奴が、あそこで終わるわけがないだろう」

一見すれば、それは慢心。
ただ、本来の彼であれば、それほどの実力は持っている。
自称、前代未聞空前絶後超特大最大級未曾有で稀代の破天荒犯罪者。佐々木竜也。
……ただの慢心で留めるには、実力は、実績はあり過ぎた。

彼の手には、拳銃が――――拳銃型の何か。
「電磁砲」なる、一丁の拳銃型の物体。
元々彼が所有していた、それと同一だ。

多少いじられ、六時間に三弾までとかなり使い勝手こそ悪くなってるが、それでも強力な部類の支給品。
放送の度に自動で充電……フルリロードされるとなれば、使い道を見極めれば、極悪な支給品なのかもしれない。

ただ、これだけでは人を殺せない。これは高圧の電流が、身体に巡るだけの、実に彼好みの一品であるだけだ。
しかし彼には、まだダーツの矢がある。ダーツの矢で、痺れる相手の瞳を奪った暁には、人格Bの彼なら狂喜乱舞の宴であろう。

次に参加者に遭った時は、彼は殺人に走ってもおかしくない。
今はまだ、殺傷能力で言えば低い彼の支給品とは言えれども、元々そのはずだったから。
相川友との、愉快痛快な談話をしたのは、その余興に過ぎず。

「クックック……」

笑い声は、野原に響く。
気味悪く、後味悪く、なかったところで何も問題のない邂逅を果たして、彼は笑う。

愉快そうに。
愉悦そうに。
その顔を愉色に染めて。

飽きるほどに描写した。それぐらいに、いつまでも面白そうに。
殺し合いが何だと言わんばかりに、面白そうに。


何の意味のなかった邂逅を果たして、彼はやはり、楽しそうに笑う。




【G-2/野原/一日目/朝】

【佐々木竜也@DOLバトルロワイアル】
[状態]:人格A、健康、歓喜
[服装]:特筆描写なし
[装備]:電磁砲(3/3)@DOLバトルロワイアル、ダーツの矢×2
[道具]:基本支給品一式 、不明支給品0~2
[思考]
基本:殺し合いに乗る。場合によっては拷問する
1:とりあえず人を殺す。人格が変わった時はその時はその時
2:あてもないのでぶらぶらするか
3:相川友はどうなったかねえ
[備考]
※DOLバトルロワイアル死亡後からの参戦です










膝をついて。
手をついて。
頭をさげて。

相川友の現在の状況はと言ったら、酷いものだった。
身体的な問題ではなく、精神的な問題でだ。
今回の邂逅では、さっきの邂逅とはあまりに正反対。活躍の場なんて全くなく、適当に終わる。

追い責められ追い責められ、追い責められる。
何と言っても返ってくる言葉は、否定の言葉で、それが的を外しているかと言ったら、そうではない。
中途半端に、真実を射抜く。

地に茂る雑草を毟る。
力を込めて。佐々木竜也にぶつけれなかった、怒りを込めて。


わかっていたはずだった。そんな反論は。
わかっていたはずだった。そんな異論は。

なのに受け切れなかった。
覚悟の裏にあった、現実を見つめない、幻惑の瞳がみつけた理論。
覚悟と匹敵するだけの、行動への踏み切りが足りなかったのだろうか。

あの男にそれを指摘されるやりきれなさは、確固たるもので。
全ての元凶であるあいつに、当たり前のように否定された。
全ての元凶は全ての不幸を他人の不幸にだけに押し付けた。

許せるか許せないかと言ったら、許せない。文句なく心内裁判、満場一致で許せない。
なのに、言い返すことすらままならなかった。
何でだろう。
――――自分が間違っているからだ。答えは探せば簡単だった。
明快すぎるその答えは、同時に自覚あってこそのものでもある。

空虚な現実。
彼の奔走していたものは、空虚な現実。
からっきしでいてぶっちぎりな虚空を据えた謎感覚。

誰から野次を飛ばされようが。
誰から罵倒を浴びさせられようが。
なにがなんでも、貫き通すはずだった。

「……。 ほんと、馬鹿みたいだよな」

先ほど吐いた言葉と、同じ言葉。
されど今回放たれた言葉には、失笑すらも付いてこない。欠陥理論すら、纏わりつかない。
瞳の奥は笑ってないし、怒気も含まれていない。ある――――いや、虚無に澄んだ、真っ青な瞳しかそこにはなかった。

この世界はなにかがおかしい。
その諦観を帯びた成長期の最中にあるその小柄な体は、そう訴える。
訴えたところで、まともにそれを取り扱ってくれる人こそいないけれど。


少年は孤独だ。
何時だって少年は孤独だ。
母子家庭で育てられた時点で、すでに周囲の人間とは一つ頭を突き出している。
次いで挙げるならこの青髪。特徴的なこの青髪。他の世界ならいざ知らず、彼の世界では確実に浮く存在。
物心ついた時に、彼はこの孤独感に浸りながら生きてきた。

今のこの感覚は、それに似ている。
誰も自分を理解してくれないのではないかという不安や焦燥。
いやに肌に纏わりつく、べっとりとした感じ悪い空気。

自分のこの腐りきった考えを、別に理解して欲しいわけではなかった。
けれど、突放されたくなかったのも、また事実である。
一人ぼっちは嫌だから。一人きりは嫌だから。自分が何のために戦っているか分からなくなるから。

けれど青年――――佐々木竜也は突き落とした。
奈落の外に。『外していない』理論を引っ張り、突き落とした。

あったのは、真っ暗な世界だった。
怖いぐらいに。真っ暗で。何も見えず何もない。まるで地獄のような、鬱屈。


「僕は――――」


青年は言った。
『おまえは、それを本当にするべきことだと思ってるのか?』
対し少年は心の中でこそ思えど、結果として答えることはなかった。

結論から言おう。
少年が思ったことは、やはり至極明快なもの。


――――そんなわけが、ないだろう。


人殺しなんて、したいわけがない。
自明の理であり、人殺しは何であろうともやってはいけないことぐらいわかってる。

それでも、それでもだ。彼にはやるべき理由があったのだ。
――――善人を守りきるという、大きな使命にも似た理由が。

だが、否定された。簡単に。いとも簡単に。赤子の手を捻るように。
『この先に在るのかもしれない、殺し合いの可能性』。
否定したかった。――――できなかった。

生還している少年、相川友の再戦。
死亡している青年、佐々木竜也の再戦。
その他もろもろ、死人含めた知人の再戦という可能性。

これらのピースを組み合せてできたパズルの完成図はたしかにそれに塗られていてもおかしくない。
むしろその可能性の方が高い、と見てもいいのかもしれない。結局この先に待っているのは、人を殺し続けなければいけないという使命。

信じたくはないが、疑えない。
中立とも言いづらい、もどかしい視点。


思い返せば、青年は立ち去る前に言っていた。



『もしかしたら、優勝して、もうこんな出来事に巻き込まないでください。とでも頼んだら、利いてくれるかもしねえぜ?』



あぁ。
確かにその通りだろう。

不思議であるがすんなりと、少年の胸に収まった。
疲弊しきったその身体とその精神には、さながら温泉に浸かったのように、沁み渡った。
もう殺し合いがウンザリだから、殺し合いに乗る。人殺しが嫌だから、人を殺す。
矛盾理論。先ほどと大差ないぐらいに、混沌な理論。……されど、要領は射てる、不思議な理論。
相川友を頷かせるのは、十分な、疲弊の極みに達した、究極理論。

気持ちいい、とすら、感じた。
もう何もかも投げ出して、放り捨てて、どうにかしたかった。

どうにもできない理論は、どうしようもなく再建不能なまでにズタズタのボロボロに叩き伏せられ。
新たな理論は心地がいい。思いの外に、しっくりくる。


――――ああ、もしかしたら。これはそういうことだったのかもしれない。



青年が言った、『害悪根性』。
確かにあったのかもしれない。この相川友の胸の内には。
染まる。沁みる。
染まる。沁みる。
染まる。沁みる。



まっくろに、そまりあがり、しみあがる。





――――暗転――――





「なるほど、これが僕か」




口元は、笑っていた。――――愉快そうに



【G-4/野原/一日目/朝】

【相川友@DOLバトルロワイアル】
[状態]健康
[服装]特筆事項なし
[装備]ダーツの矢×4
[道具]基本支給品一式、インスタントカメラ、ジッポライター
[思考・行動]
基本:優勝するため殺し合いに乗る
1:とりあえず人を見つける。
2:あいつ(佐々木竜也)とはしばらく会いたくない
[備考]
※DOLバトルロワイアル生還後数ヶ月後からの参加です


【電磁砲@DOLロワ】
別世界の科学技術で作られた侵入者撃退用の銃。
グロック19のような外見をしている。
電磁砲は軽く、反動もない為正確な射撃ができる。
高圧電流が流れるようになっているが、抵抗が占める割合が高い為殺傷能力はない。
制限により六時間に三発までしか撃てない。
放送ごとに充電される形となっている。


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039:パラダイムパラダイス――――たったひとつの冴えたやりかた 相川友 044:少年少女、時々老人
039:パラダイムパラダイス――――たったひとつの冴えたやりかた 佐々木竜也 052:犯物語~しかみアリス~

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最終更新:2012年05月10日 20:39