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亡國覚醒カタルシス

 ♀


なんだかんだいって二時間弱車を運転しているが、一向に参加者に出くわさない。
ツイてるのかツイてないのかよく分からないんだけど。
出くわしたところで、轢き殺すなりするでしょうけど、なんか前回のことを思うとこの頻度はあまりに酷い。……気がする。そうでもなかったかしら。

会わないなら会わないで、特にこれといって文句の言いようはないんだけどねー。
漁夫の利って奴かな。それ狙いでも十分いける。前回の呆気なさと言ったら、なかったから。

粉塵を巻き起こしながら走行する車を運転しつつ、呑気に私はそんなことを考えていた。
人殺しが怖く恐ろしい行為だってのは、後になってだが理解した。
正直あんな思いはしたくはないけど、私だって生き残りたいし、うん。仕方ない仕方ない。

「……」

黙々と運転する。
まあ喋ることだってないし、いいんじゃない?
んなことよりもなんか美味しいものが食べたいな。危機的状況には空腹はつきものね。
前回はなんだかんだ言って、サンドウィッチなんてありがたいものが手近にあったからよかったんだけど、うーん。
どうせだったら道なりにデパート(らしき建物)に行きゃよかった。
今からUターンでもしようかな、こっちに進む理由もないし。……と、そんなことを考えてた時であった。

いそいそと、遠目ではよく分からないけど、女の子を肩からおろしていた男の子を見つけた。
ツンツン髪の少年と、金髪の女。……事情は良く分からないけど、私には関係ない。
遠慮なく、殺させてもらう。
そんな事を思い、私は少年に車体を向けてアクセルを全開に近いぐらいまで踏み込んだ。
多分これ、前のフロントガラス外した車なら顔が痛くて出来ない所業だったんじゃないかしら。

猛スピードで迫る車、少年の姿だって近くなってくる。
――――よし、このまま轢き殺せる。半ば確信しかけた頃、事情が変わってしまう。
少年は、こちらに向けて、構えた。――――ある物を。

「……げ……銃?」

思わず言葉を漏らしてしまったが、少年の手に握られていたのは、遠目からでもはっきりわかる。
拳銃。さすがにそんな通でもないし種類までは特定できないが、明らかに拳銃。
そしてその銃口が向けられた先は。

「……やっば」

――――タイヤだった。
気付いた時にはもう遅い。鼓膜にはある意味聞き慣れてしまった乾いた音がつんざく。
少年は、見事タイヤにヒットさせた。させてしまった。

つまりは、キャンピングカー、パンクである。
悟った直後、車体が僅かに揺れる。さーて、いよいよつまらなくなってきてしまった。
ちょっと進路がずれた。きっとあのツンツン髪の少年にもあたらない。だが今はそれを機にしている場合じゃなくなってしまった。
……こういう時はどうするべきか、一応は襲禅から習っている。焦らずスピードを徐々に落としていく。
その後に、停止させる。鉄則らしい。急停止はスピンをする可能性がある。とのこと。

ここはそれに逆らう理由がない。徐々に、アクセルを緩くする。踏み込みを甘くする。
はっきりいってめちゃくちゃ緊張してるわ。ええ。これ史上何番目かに入る程の緊張感だわ。
手に汗握るとはまさにこのこと。若干混乱状態に陥りずつ、それでも一応は理性を残しつつ捌いていく。
徐行を進めていき、猛スピード出してた所為か、何メートルも進んでいき、ようやく車体は停止した。

……。
緊張したあ……。焦ったあ……。
ふう、と安堵の息を漏らした直後。

「……はぁはぁ……て、手を挙げろ……」

息切れ気味のさっきの少年が、窓ガラスの向こう側にいた。――――銃口を突き付けて。



 ♂



計算違いだ。


先あたって、この歩きづらいにも程がある山岳地帯を抜けることを目的とした。そしてそれも多少のピンチに陥りながらも無事に平地に降り立つことに成功した。

おれはとりあえずこいつを一番安置出来そうな場所、まあ病院が一番手っ取り早いだろう、ということで病院に向かおうとしたところで、
遠くの方で豪快になってるエンジン音を聞いた。……車? まあ病院なり、どっか盗んできたのかもしれないし、案外支給品として入ってたのかもしれない。
正直、今車は喉から手が出るほどに欲しいものだ。いつまでもこいつを肩に病院に向かうのはきついし。
ならば奪うのみ。段階を幾つか飛ばした気がするが気にしない。まあそれなら話は早いし。一旦肩から、セナちゃんを下ろす。どの道肩に乗せたままだと色々きつい。

ここで咄嗟に思いついた選択肢は二つ。
一つは相手が殺し合いに乗ってない奴、もしくは女の子ならタイヤを撃って、混乱させてる間に説得させておれも乗せてもらう。まあああいった車なら変えのタイヤもあるだろうしな(てか見えた)。
もう片方は、相手が男で、殺し合いに乗ってる奴なら、窓ガラスをぶち抜き脳天を貫く。悪いが男には基本淡白なつもりだ。


それから数秒、きっとおれを視界に映したのだろう。急スピードでこちらに迫ってくる。窓ガラス越しに映った姿は――――女。それも結構美人! 美人だぜひゃっほう!
ゲフン……。というわけで、そこから行動へ移すタイムラグはほぼ生じなかった。生憎ここは原っぱだ。幾ら暴走しようが、事故る可能性だって低いだろう。……多分だがな。
故に銃声が轟くのもまた必然で、車が暴走するのも、決定事項だったわけだ。銃のコツはさっきなんとなくわかった。

集中力を研ぎ澄まし、当てやすいようにちょっとだけしゃがみ、銃口をちゃんとタイヤに定め、撃つ。
直後、乾いた音がおれの鼓膜を叩く。……何度聞いてもいやな音だ。
まあ結果はと言うと思惑通り、変な音が微かに聞こえたかと思うと、車はちょっとだけだが方向を歪ませる。
フロントボディを多少壊しつつ、タイヤへと突き刺さる。――――まあまあかな。


だがしかし、ここからが計算違いだった。つかおれが無知だった。
てっきり車は急停止でもしてくれるのか思ったら、徐々にスピードを落とす運転に変わっただけ。
だから走って追いかけるのがものすっっっごい疲れた。腐っても車。パンクしても車だ。
何メートルか走った頃、ようやく車は停車に行動を移す。…………はあ、はあ。
……おれ、頑張ったな。よく追いついたよ、マジで。まあ最後らへんはスピードあってない様なものだったのが、一番助かった。

「……はぁはぁ……て、手を挙げろ……」

結果的に息切れになっても仕方がないと思うんだ。むしろ褒めてほしい。讃えてほしい。
まあなんであれ拳銃効果は大きい。女の子は素直に手を挙げる。……ふむ、あのスカートからチラつく物体は、拳銃かな。なんであれ一旦は没収だ。
走った甲斐があるというもの。……逆に入ってなかったら確実におれあれで殺されてたな。

「窓を開けて、そしてそのスカートに入ってるものをこちらに渡せ。下手な抵抗したら撃つ」

嘘。
女の子相手にそんな事する訳ないじゃん。よほどのことがない限り。
……よほどのことがこないことを祈るばかりだ。

なんてわけで、窓を開けて潔く女の子はおれに拳銃を渡す。シンプルな形状をした拳銃であった。
それをおれはディパックに放り込み、改めて目の前の女の子を見つめる。観察する。

……ふむふむ。にやにや。
緑髪のロングヘヤー。どことなくダウナー系な風格は可愛さというよりも美しさというものを引きたてる。
どこか影がある印象も、そんな美しさと重ね合わせるとどことなく儚く可憐というイメージを生み出していた。
全体的に凹凸が足りないスレンダーな体つき、滑らかな曲線と描く輪郭。ぷにぷにとして柔らかそうな肌! 瑞々しい肌!
見たところ歳はおれと同じぐらいってところか。……いいね。いいねー。いいねぇぇえええええええええええええ!!

「テンション上がってきたぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「ひぇっ!?」

とりあえず、全力で腹から声を出してみた。腰辺りで作った力強く握った拳がチャーミングだぜ。
おやおや、緑髪の女の子は悲鳴上げて恥ずかしかったのか先ほどよりも若干頬が赤くなってるような、可愛らしい。ギャップ萌え美味しく頂きました。
……なおさら、こんないたいけな女の子がいるっていうのに、動かないわけにはいけねえな。志水セナちゃんの二の舞は、もう勘弁だ。
この女の子は、ここにいる女の子は、救わなきゃ。……そういやこの人の名前聞いてなかったな。

「おれは熊本潤平。貴女は?」
「はい?」
「いや名前。おれは熊本潤平だ。貴女の名前は?」

少々呆けてから、戸惑ったように緑髪の女の子は返す。
綺麗な声だなあ。いいなあ。愛でたいなあ。

「……新藤真紀
「ありがとう、真紀ちゃん」
「ちゃん!?」
「うん、真紀ちゃん」
「……」

ジト目で見つめる真紀ちゃんを他所に、ちょっとおれはその名前についてなにかを感じた。
……? 新藤真紀。どっかで聞いた様な。
ああ、そうだ、前の殺し合いの時に名簿に載ってるのを見たんだ。そういやさっきもデジャブったんだよなあ。
何だろうか、おれみたくあそこで殺し合ってる最中に呼ばれたのだろうか。

「もしかして真紀ちゃんってこの殺し合い二度目?」
「……よく分かったわね、ええそうよ」
「前は何やってたの? もしかして飯島遥光って人に会ったりしたか?」
「いえ、あってない。……というかそんな人はいなかった」

うん? ……あれ。話が食い違うな。
けど、殺し合いに参加してたんだよな……? 同姓同名の別人って線も薄いだろうし……。
……。もしかして、だけど。この人は、別の殺し合いに呼ばれてた? 現におれは前の殺し合いと今の殺し合いとでは、
一番最初の、便宜的に言うが開幕式の時、あそこにいた二人と、今回の二人は違う。声が違う。変声機、という可能性もなくもないが、それにしては自然な声。
だけどそうだとしたら、前の殺し合いであった「新藤真紀」の名前はどういう意味だ。ブラフ? だけど何のために。
「新藤真紀」だけではなく「相川友」とか「青木百合」とかそんなのもあったはずなんだけどなあ。……よし、こうしよう。
おれの前いた殺し合いであった名前は「新藤真紀」はブラフ。きっと親しい関係者がいたんだろう。それに対する当てつけだ。
あんだけ数がいたんだ、あえなくたって不思議には思えないし、この考えに問題はない。違和感はあるけどさ。……今はそういうことにしよう。
と。
言う訳で保留。

しっかし可愛いなあ。可愛いなあ。麗しいな。麗しいなあ。
頬ずりしたいなあ、あの貧相な胸元に飛び込みたいなあー。ウリウリしたいなー。
なんていうんだろう。この冷たそうな瞳って言うのはおれの心を揺さぶるというか。
うん、好みだ。最高だ。素晴らしい。エクセレント。ビューティフル! パーフェクト! つまりおれの嫁!!

……とおふざけムードは一旦置いといて(おれは至って大真面目だが誰かに反感を食らいそうだったのでここではそういうことにしておく。おれってなんて空気の読める奴)
いつまでも志水ちゃんをあそこに放置しているのも些か心苦しい。可愛い女の子と戯れるというのはやはり心地のいいものだがしかしやはり場をわきまえるのも大切だ。
というわけで、真紀ちゃんに命令する。

「一回車を降りてくれるかな真紀ちゃん」
「…………」

おれは半歩横にずれて真紀ちゃんがドアを開けやすいような位置に立つ。
無口を保ちつつ、静かに真紀ちゃんは車から降り立った。
ここでおれは、気軽な口調で一応は核心をつく様な言葉を吐く。

「きみは殺し合いに乗ってるのかい?」
「……乗ってると言ったら?」
「さすがにあんなおれを殺そうとしていておいてシラを切るって言うことはなかったね。感心感心」

実際感心だ。
ここで事故だとか言われたらおれはどうしようか迷った。
真紀ちゃんは肩をすくめ、疲れたようにため息を吐く。ああ可愛いなあ。さらさらそうな髪を撫でたいなあ。
ぷにぷにそうなほっぺを引っ張ってみたいなあ。むぎーって。……えへへ――――ゲフンゲフン。

まあいつまでもこうして返事を返さないわけにはいかない。
返事を受け取った以上は返すのも義理だろう。
真面目なトーンで、目を見つめて、本音を言う。ここで嘘を言うほどおれはイケてない奴じゃないさ。
茶化すのなんて論外だな。

「いや、なんてことはない。殺し合いに乗るのを止めて、おれと一緒に行動してくれないか」
「……はい?」
「一緒に行動してくれないかって言ったんだ。おれは真紀ちゃんを受け入れる。たとえ前に何人殺してようが、おれは今の真紀ちゃんを受け入れる。だから一緒に行動してくれ」
「それは無理。私は既に取り返しのつかないぐらいに殺し抜いてきたのよ。今更後戻りはできないし、しようとは思えない」

話すのって疲れる、と愚痴をこぼしながら真紀ちゃんはダルそうに返す。きっと心の底から思っていることなのだろう。
ダルそうな割には真摯な口調で、おれの瞳をぶち抜き答えてくれる。だからおれもやはり本音で語り合うべきだ。

「何人だよ」
「……七人、だったかしら」
「多いな」

素直な意見だ。……七人。七人もの命が彼女の手によって葬られたのか。
流石にそれは羨ましいとは思えない。
それでも、それは見過ごす理由にはならないさ。――――捻じ曲げてやる。こいつの歪んだ倫理を、壊してやる。
何が何でも、だ。
殺し合いに乗るなんてことは、させてやらない。
女の子に、そんな真似は絶対にさせない。

「だからおれがその真紀ちゃんが背負っている十字架を一緒に背負ってやる。一緒に戦ってあげる。いや、一緒に背負うさ、戦うさ。
 嫁の不祥事には夫が駆けつけるのが常識ってもんだぜ。だからさ、それを理由にしないでくれよ。それはきみが戦う理由には、たった今なくなった」
「……いや、ツッコミどころが多いんだけど」
「真紀ちゃん、知ってるかい。人は群れをなして生きていくもんだぜ。共に分かち合い、共に喜びあい、共に悲しみあい、共に支え合う。
 きみは決して一人じゃない。おれがいる。少なくてもおれがいる。女の子の味方たるおれがいる。
 後戻りはしちゃいけない。だから前に進めばいい。重しが重たいのならおれが引っ張ってやる。もう殺し合うなんて悲しい事言うなよ。
 おれは女の子が血で血を洗う姿なんて、見たくないんだ。きみの今やってる行為は、ただの現実逃避だよ」
「説教?」
「説得さ」

おれは説教なんて出来る立場なんてないしな。
……凛々ちゃんは元気にやってるかな―。優先度は低いとはいえ、おれがああさせてしまった以上はやはり心配である。
健気にヒーローやっててほしいものだけど。……いや待てよ、けどそれであの柔らかかった凛々ちゃんの肌が傷ついたらどうすんだ。
中学生相応の張りと言うより滑らかさに長けたあの瑞々しい潤い溢れる肌をもう楽しめないと思うと残念である。
ならダメだ。そもそも死ぬかもしれねえっつってんだからやっぱダメだ。凛々ちゃん、大人しくしてればいいんだけど。
遥光と隣に並べておきたいものである。あの若干子供じみた体型の二人ならぴったしだろう。

まあ、なんであれ。
それはおれが、遥光が凛々ちゃんが、女の子が、(一応は)男諸君が生還しないことには話にもならない。
――――命は、重たいんだ。

「きみが本当に殺したことを申し訳ないと思うなら。それで命の重さを知ったんだったら、もうこんなことなんて出来ないはずなんだ。
 生き残りたいと思うんだったら、別にこの道を選ばなくていい。おれが選ばせない」
「あなたには……それを強要する権限はない」
「あるさ、おれはなにも正義の味方を気取る訳でも秩序の守護神を象るわけでもねえんだ。
 多少の我儘は通すし、横暴なことだってたくさんする。おれがきみには、最低でも女の子には殺し合いに乗ってほしくない、それだけだ」
「…………たとえば、私があなたの言うとおりにしてなにかメリットでもあるの?」
「正式におれの夫になる」
「ごめんなさい」

と、即答で悲しいことを言い、踵を返した。
……て、おいおい。

「待ってって」
「……」

銃を握ってない方の手で真紀ちゃんの手を掴み、逃がさない。
温かい。……セナちゃんの手とは違い、温かい。……生きている証だ。
これほどまでに人肌に感動した日はないだろう。凛々ちゃんの膝枕も中々だったけど。中学生は最高である。
ゴホンゴホン。

「……まあ、メリットなんてないよ。殺し合いに乗るぐらいメリットがない。――――今はな。
 今からおれが創ってやる。生きる目的を作ってやる。殺し合いなんて頭からすっ飛ぶぐらい楽しい時間をプレゼントしてやる。
 背負った十字架はおれに放り投げればいい。だからきみは平穏な時間を暮らしてほしい。それだけだ」
「…………」
「仮にきみが殺し合いに乗ってもおれは咎めない。安心していいよ。
 きみが改めて決めた選択にまでおれは口を出すつもりはない。
 どちらにしても、心に遺してほしい。――――おれは、女の子の味方だ」
「…………」

返事は返ってこない。
真紀ちゃんは目を伏せたまま、あげない。
こちらからは生憎顔色は窺えなかった。

「……」
「……」

返事を待つ。
閑静な無の時間が漂い始め、ちょっとおれとしてはもどかしいけど、待つ。

そして、数十秒後。
顔をこちらに向けた真紀ちゃんは、至って真面目に答えた。


「まあ、別に私も強硬する理由もないし。いいわよ、のってあげる」


その返事は、返ってきた。
おれは満面の笑みで爽やかに返してやると、

「よろしく」

といって、銃を持ち変え右手を差し出す。
握手。仲直り、結託の握手。
実に青春。

「……うん、よろしくね」

そういって、右手を握ってくれる。
もしかしたらそのままなんか攻撃されるんじゃねーかとも思わなくもなかったが何事もなく、
そのままに終わる。……いやー女子の手ってやっぱ素晴らしいね。


これは――おれが壊したのか。
……よく判断がつかない。なにせおれは今回そんなことはあまり言ってない。
おれは凛々ちゃんみたいに意志が固い人ほど折りやすいのだが、真紀ちゃんみたいな柳みたいな人には中々通らないはずだど。
樹の枝のような割としっかりしてるものを折るのは簡単だけど、鞭のようなしなやかなものを千切ったり折ったりするのは難しい。
ついでに言うとただ単に勧誘をした覚えしかない。まあおれが知らず知らずにそう言う事言ったのかもしれないけど。いつもそう言う感じだしな。

疑うわけじゃないけど、もうすこし様子見を兼ねて銃を渡すのは後だな。
とりあえず今は車のタイヤを交換して、病院にでも向かおう。
凛々ちゃんと話した時のことに乗じるなら、おれの《目的》を貫き通す。

……。
セナちゃん、もう少しだけ、待っててくれ。
凛々ちゃん、もう少しだけ、待っててくれ。
遥光――――無事でいてくれよ。


「さあ、行くぜ」


こうして出来た組み合わせは毒か薬か。善か悪か。
わからないけど、今は止まれないから。――――変哲もない男の物語は再び回り始める。


 ♀



驚いた。
まさか自分がこんな奴の言いなりになるなんて。
私が我の強い奴だってわけじゃないけどさ。いやー驚いた。
他人事じゃないんだけど、感想としては以上の通りなわけなんだよね。

とはいえ。
まあ私だってそんなに殺し合いと言うものをしたいわけじゃない。
もうあんな苦しい想いだって、正直したいわけではない。……もがいてでも生きたいのもまた確か。
それは揺るがない。人を殺してだって私は生き抜きたいんだ。

だから動いた。
病院で私は真っ先にあの女の子を殺そうと試みたんだ。

けど。私は思った。
最初の失敗を経て、私自身。あまり覚悟を決め切れてなかったんではないだろうか。
殺人をしてるからこその経験則。体験談。終わった後に感じた虚しさや淋しさと言ったら、きっと生涯忘れるものではないだろう。

あの潤平を殺そうとしたときだって、別に車にこだわる必要だってなかった。
前のあのときだって、確かに人を殺すことには成功したけど、何もかもが予定通りだったかと言うとやはりそうじゃない。
車での轢殺にはやはり穴は大きい。理解はしていたはずなんだけどね。
最初の一件だって、同情さえなければ順調にキルスコアは一つ分稼げてた。……まあ、つまり私は甘ちゃんだったのかもしれない、ってこと。

無理する必要がないなら、甘えたくはなるものだ。
前回だってそう、私には生きたいという感情以外に特に目的はない。

潤平のような意欲的な姿勢はないし。
襲禅のような利己的な欲望もないし。
生きていけれればそれで十分。
故に私は殺し合いに乗った訳だけど、味方がいるならまた別なのかもしれない。

……。
ともあれ、危険でない限りはこいつと行動するのもまたいいのかもしれないわね。
あいつは不思議と信頼できそうにもなくはなくはなくはないのかも。……銃を取り返したいしね(こっちが本命)。
まあそうは言いつつ条件は付けた。こちとら当たり前かもしれないけど銃をとられたのだ。それぐらいないと流石の私も付き合ってられない。
条件は以下の通り。

1。私を守る
2。面倒事には巻き込まない
3。先ほど言ったことは守ってもらう
4.ちゃん付け止めて
5。――――食べ物を頂戴。


腕に抱きかかえられた某有名チェーン店の箱を眺める。
……いやーまさかこんなのもらえるなんて。まあ皮だけとはいえ皮もおいしいんだよね。
うん。やっぱあれよ。こういう緊迫感に包まれてちゃ身体の活動が活性化されても仕方がないの。仕方がないの。
別に私が胃袋キャラとかとかそういう意味ではなく。太りそうとか言わない。

……。
とはいえまだ自重してる。
潤平がタイヤの交換しているのに食べるのは些か憚れる。
こいつの自業自得とはいえ(ちなみに「……女にやらせるの?」といったら快く引き受けてくれたわ)、まあ私も困るし。
今思うと中々に支給品に恵まれてるわね。私も。生還者様々ね。いや知らないけど。

「うーし! 終わった―!! 真紀褒めて褒めて―」
「いやよ」

何て思っていると潤平の作業が終わった。
先ほどな剣呑な声色とは全然違うあかるげな声をあげる潤平。
あれだ。こいつは「敵には厳しく味方(女性)に優しく」を徹底的につめている。
こいつに何があったかは、さっきここまでいっしょに運ばされた志水セナ(話によれば生きていたらしい)をみればそこはかとなく察することはできる。
気丈なこと。人の死に直面してこう振る舞えるのは凄いと思う。善人としてか道化師としてか優秀なのかは分かんないけど。
まだ私はなんだかんだ言いつつこいつのことあんまり知らないし。

「そりゃないって。セナちゃんの足持って」
「はいはい。頑張ったわね。……じゃあ、せーので」
「ふっふーん。まあな! じゃあ」
「「せーの」」

満面の笑みを浮かべ、こちらを向く。直後に見せた影を落とす辛そうな表情が酷く痛々しい。
まあなにせ、志水セナの死体をこれから車体に入れる。つまりは持つってこと。
無論どっちか一人でやったら? と私は提案した訳だけど、潤平はこっちの方がいいらしい。よく分からない。
嫁云々は本気で言ってたのかな?

それからしばし無言のまま死体を無事キャンピングカーの後ろに置き、私は再度チキンの皮の入ったあれを持つ。
匂いをかいでたら益々食欲が旺盛になる。自然と手は箱を開かせ、一枚皮を手にとって、口へ頬張る。

「おいしい」

言葉を漏らす。

「……うわーすげーいい笑顔……」

若干傷ついた様子で潤平は言ってるが気にしない。
……。
……。
……。
なんだろう、さっきから隣で視線が全くと言っていいほどズレないんだけど。
私の顔やら胸やら足やらと。
何故だか襲禅とかと違い、ねっとりとしたじっとりとした熱い視線と言うか爽やかな視線ではあるけど。
……。
……。
……。

「……食べる?」

根負けしてしまった。
まあ元はと言えばこいつの何だし躊躇いはないし、私は別に食い意地はってるわけではない。

「ああ、じゃあ頂くよ」

と、潤平は箱から一枚皮を頬張ると、笑みを零すと、

「おいしいな」

一言私に向ける。
うん、視線は私に向かなくなった。
視線は上にあがると、また動かなくなる。

……。
いやーやり辛い。
非常にやり辛いんだけど。

こう元気な奴が黙ると、居た堪れない空気になるって言うか。
こうさ、嫁とかほざくんだったらせめて嫁の心情ぐらい察して欲しいものだわ。
私もさっきまで死体を運んだ身。きっとこいつの倫理に多大な影響を与えたであろう死体に触れていた訳なんだから、文句も言えない。

しょうがないので今度は私から動く。
……世話の掛かる夫だこと(皮肉)。

「そうね、このままだと流石に飽きるかもしれないし、私の手料理でも振る舞ってあげましょうか?」

そういやさっきまでデパートに行くために進路を戻そうとしていたことをいま思い出した。
まあ別に私が手料理したというか、色々とこれではきつい。無口だからと言って静寂ばかりが好きかと言ったらそうじゃないのだ。
嫌いな沈黙だってこの世にはある。その嫌いな沈黙が流れてるのだから、空気を変えるしかないでしょうが。
死んじゃった元彼氏はそういうことしたら喜んだしいいんじゃないかしら。男って単純だし。
銃のためとはいえ些か面倒だ。……銃なんて捨てて逃げ出しても案外よかったのかもしれない。

つーか私、一気に気が抜け過ぎだろう。
銃を握ってないと、こうも実感がわかないものなのかしら。
……いえ、もう感覚が麻痺しているだけなのかもしれないわね。

潤平は驚いたように目を見開くと、微かに微笑み、「ありがと。是非とも頂きたいものだぜ」と。
その後に「いやー献身的すぎて泣けるわ、抱きつきたいね」なんて戯言が聞こえたのは幻聴だと思いたい。背筋に冷たいものが走る。

「……じゃ、行きましょう」
「おう、行こうぜ」

と、私が運転席に。潤平が助手席に。
こいつは運転したことないらしい(見りゃわかると豪語こそされたが)。だからここは私が必然的に。
ブロロロ…。と逞しい音が豪快になると、自動車は問題もなく走りだす。


……はあ。


【B-4/平野/一日目/午前】


【熊本潤平@数だけロワ】
[状態]:健康
[服装]:特筆事項無し
[装備]:ウィンチェスターM1897(5/5)
[道具]:基本支給品一式、12ゲージショットシェル(5)、M1917銃剣、ベルグマン・ベアードM1908(2/6)、
    装弾クリップ(9mmラルゴ弾6発入り×3)、こけし、ベレッタM92(15/15)
[思考]
基本:遥光を捜す。女を守る。
1:真紀と行動。とりあえずセナちゃんをちゃんと弔いたい。
2:凛々ちゃんは……どうするか。
[備考]
※数だけロワ29話「無題――――NoTitle――――」以後からの参戦です。
矢部翼の外見のみ記憶しました。


【新藤真紀@俺のオリキャラでバトルロワイアル】
[状態]:健康
[服装]:特筆事項なし
[装備]:キャンピングカー(車体に若干の破損あり)
[道具]:基本支給品一式、ベレッタM92予備弾薬(30/30) 、ケンタッキーフライドチキンの皮入り箱
[思考]
基本:一応殺し合いには乗らないことにする。
1:一応潤平についていく
2:ただし、強そうな、面倒そうな人物にはなるべく関わらないようにする
3:……銃を返してもらう
[備考]
※本編終了後からの参加です



【キャンピングカー@現実】
厳密にはSprit 2 Ultimaという機種であり、大人二名用。
トイレ、シャワー、冷蔵庫、三口コンロ、電子レンジが搭載されている。使えるかどうかは不明。


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043:亡國昏睡カタルシス 新藤真紀 :[[]]
043:亡國昏睡カタルシス 熊本潤平 :[[]]

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最終更新:2012年04月19日 17:58