Alice Magic > 明日は天気になれ

愛崎一美という少女を語ることは、非常に困難だ。
彼女には一貫した在り方がなく、直ぐに大きな波に流されてその人物性さえも投げ捨てる。
水は物質を溶かし混む性質を持っているが、言うならば一美のそれは水溶液にも等しかった。
何かに染まることでがらりと存在自体を変革させる、愛崎一美とはそういう生き物である。
ある並行世界では殺人鬼に影響されて『人殺し』になり、この世界では悪人を志している始末。
白崎ミュートンと酒々楽々の二人が彼女に与えた影響は、なかなかに甚大なものだった。
唯一無二―――そう表現するだけの価値がある親友の存在を、忘却させてしまう程に。


「ごめん、あれ? えっと、ちょっと待ってくれおにーさん」


心から混乱した様子で、一美はこめかみに可愛らしい手を当てて眉間に皺を寄せる。
紆余曲折は唖然とした風に黙って彼女を見ているが、そんなことは気にもならなかった。
"ひとみん"。
ついさっきまで普通に会話の中で名前を出していたことは、如何に彼女と言えども覚えている。
口にしている時はごく自然で、何の違和感も抱くことなく使っていた。
一美くらいの年頃だと、自分が知らない難しい言葉を格好つけて使いたがるのも珍しいことではない。
現に愛崎自身も経験のあることだし、その方が話していて気持ちいいこともままある。
だから、このひとみんとかいう訳の分からない単語もまた、大した意味のない下らない知ったかぶり。
知らないものを思い出すことは出来ないんだから、これはどうでもいいこと――とは、思えなかった。


「……みすてりーだな」


ひとみんの意味は理解するどころか、その取っ掛かりを掴むことさえ出来ない。
遠い昔の記憶のように、思い出せない筈はないと分かっているのに、思い出すことは出来ないのだ。
悪人の在り方を嫌悪することもなくあっさりと受け入れた少女は、ここで初めて嫌悪の情を懐いた。
―――気持ち悪い。
難しいパズルを解いていて、途中でピースが一個足りないことに気付くような気持ち悪さが、愛崎一美の心に僅かながら苛立ちをもたらしていた。
無邪気な顔に不機嫌の色を滲ませつつ、一美はどうにか思い出そうと四苦八苦する。
学校の思い出。
クラスメイトの顔。
何処にでも居るような教師たち。
時たますごく面白いものを提供してくれる、知識の宝庫たる教科書。
未知の溢れかえる理科室(塩酸をマグネシウムにかける実験が好きだった)。
どうでもいい記憶から、一美が興味を懐くに到った重大なものの記憶もそれなりには覚えている。
だが、どれだけ検索をかけようと『ひとみん』に関する記憶(ワード)だけは見つかってはくれなかった。

白崎なら分かるだろうか。
どうして思い出せないのかも、あの魔法使いのような男なら分かるだろうか。
意地の悪い邪悪な笑顔で、一美にアドバイスを出してくれるだろうか。
白崎は悪人の鑑だから、アドバイスは出すけど悩む一美を見て楽しむかもしれない。それも悪くない。


「あー、推理小説の犯人の名前にラインマーカーが引かれてたような気分だァ」


よく分からない喩えを持ち出して溜め息をつく一美。
そうしていれば年相応の少女で、紆余曲折にはとてもこれが、あの邪悪な笑顔の主とは信じられない。
いや――彼女は何者かによって『変革』されたのではないか、と彼は考える。
ここまで悪人に染まれるなんて、余程のカリスマ性と話術がない限り無理だ。
記憶を失っているらしいことだって、突発的過ぎて物忘れとは思えない程に不自然。
そこで、紆余曲折はひとつの仮説を導き出す。
憶測に近い話ではあるが、そんな人間離れしたやり方を証明するにはもってこいの道理を、『四字熟語の殺し合い』に参加させられていた彼は知っていたからだ。


(………ルール能力)


ルール能力。四字熟語たちに与えられた、原理不明の力。
『紆余曲折』ならば『迂回』の力を与えられ、『一刀両断』なら『一刀両断』する力を与えられる。
このバトルロワイアルの参加者では四字熟語を冠された方が少数派ゆえ、全ての参加者にルール能力が付与されていると考えるのは少々無理があるだろう。
だが、この殺し合いでもルール能力に準ずる力を持つ参加者が居るとは考えられないだろうか。
少なくともそう考えるのが、眼前の少女に起きている異常を説明するには最も適していた。

さあ、どうするか。
愛崎一美が微小であろうと揺らいでくれたことで、紆余曲折にも未来が見えてきた。
冷静に考量すると、一美が考え込んでいる隙に彼女を銃で威嚇でもしたなら良かったのかもしれないが、そういうことを考え始めるときりがないので止める。
今考えるべきことは、如何にしてこの窮地を脱するか、ただそれだけだ。
電流の速さの前では迂回が意味を為すかは怪しいし、身を挺して確かめるようなことも無理。
小学生に生殺与奪を握られている状況というのは空しいものがあった。


「うーん……」


こう言うのは大人げないが、間抜けなことに獲物を目の前にして一美はまだ記憶を掘り返している。
慢心――こういった状況では最も忌避されるべき行為を、平然と冒している。
思い出すことを諦められる前にどうにか打破しなくては、本当にここで死ぬかもしれない。
そんな馬鹿なことがあってたまるかと、吐き捨てたくなる気持ちを必死に胸中に押し込めた。
武装はひとつ、コルトM1908ベストポケット。
弾数は記憶が正しければマックスの六発弾丸が入っている筈だ。
これで一美を撃てば状況は一変、優位は逆転するだろう。
しかしあのコードを的確に撃ち抜くような真似は出来ないし、やるとすれば一美本人を狙うしかない。
……本気で言っているのか、と紆余曲折は自嘲的な笑みを浮かべる。

たかが一度殺し合いを経験しているからといって、これはそんな柔な窮地ではない。
相討ちなんかじゃ意味がないのだから、どうにかして生きて、出来れば無傷で抜けなければならない。
それに―――相手は小学生。精神的にはまだ弱い年頃だ。
泣かれでもして誰かに見つかれば、どちらが悪人かなんて一目瞭然である。
……愛崎一美の本質を誤解している彼は、ひとつミスリードを冒していた。


(やっぱり……いつまでも時間を稼いでもいられないよな)


紆余曲折は気付かない。
愛崎一美は、別に自我をねじ曲げられて悪人にされた訳ではないのだ。
記憶に干渉したのがとある悪人だとして、しかし悪人になりたいと志願したのは他ならない彼女自身。
普通の小学生と断じてしまうには、少々愛崎一美は行き過ぎている。
改心させるのは容易いが、彼女を新たに染め得るだけのものを紆余曲折は持っているかと言われれば、記憶を失っている彼では役不足だ。
そんなことを知る筈もなく、何かを違えたまま紆余曲折は必死に考えを絞る。


「なぁなぁおにーさん。おにーさんのせいであたし、すげー気分だ」


とんでもない方向からの言い掛かりが飛んできた。
これには紆余曲折も思わず突っ込みそうになる。


「ひとみんって何なんだよ。あー、責任としておにーさん、答えを教えてくれよ」
「……僕は何も知らないよ。ただ、名簿にそれっぽい名前があっただけなんだ」


「それっぽい……さっき言ってた榎本とかゆーやつのことか」


紆余曲折と愛崎一美は初対面なのだ、彼女が思い出せないことを彼が知っている訳がない。
ただ、彼女が話の中に交えていた『ひとみん』というワードに合う名前を言ってみただけだ。
実際のところ、『ひとみん』なる人物はこの会場にはおらず、今も何処かで普通に暮らしているのかもしれない。そこのところは当然、紆余曲折の預かり知るところではない。
が―――活路が見えたと、紆余曲折は思った。
単に思い出せないだけなら、ものの一瞬でそんな些事は切り捨てて、殺しにかかっている筈。
それをしないということは、彼女の深層心理にはまだ『ひとみん』の存在が根付いていることになる。
ならばまだ、彼女にかかった一種のマインドコントロールを解くことは可能だ。
慎重に、一美の気を変わらせてしまわないように彼は口を開く。


「愛崎ちゃん。君はさっきから話の中に、『ひとみん』という言葉を何度か使っていた」
「うん、それは覚えてる」


やはり消されている記憶はごく部分的なもので、故意に改竄されたようにしか見えない。
僅かな突っ掛かりを残すあたり何を考えているのか分からないが、恐ろしい奴だとは思う。
記憶を消されている自分だからこそ、その辺のことはそこらの人よりは理解できているつもりだった。


「僕は愛崎ちゃんのことを全然知らないけど、ひとつだけ心当たりがあるよ」
「え、ほんとうか!? おにーさん、すげえな! 天才だな!」


無邪気な驚き顔で音量も気にせず叫ぶ姿はなかなかに愛らしい。
ロリータ・コンプレックスの気は無い紆余曲折でも、可愛い子供ということは分かった。
出来ればそのコードをどこか安全な場所に置き直して欲しいものだけど、それはまだ早い。
完全なギャンブルではあるものの、もしも成功すれば危険因子を暴くことも出来る。
少なくとも銃を用いて行うギャンブルよりかは、ずっと紳士的で、リスクも少なく思えた。
使う武器は言葉のみ。
的中するかは運任せ。
成功したらこの場を掻い潜れるし、失敗してもすぐに破滅するとは限らない。
生き抜くためにはここが正念場だ――紆余曲折は、慣れないことをする不安を圧し殺す。


「……愛崎ちゃん――「ひとみん」って人は、君の大切な人なんじゃないのかな?」


がしゃん、と音がしたような気がした。
一美はぽかん、と口を僅かに開けて紆余曲折を見て、納得したようにぽんと手を叩いた。
全てに合点がいったような表情で何度も頷き、やがて「うん、うん」と声まで漏らし始める。
彼女の中に蔓延っていた疑問だとかそういうものが消えたようで、一美は向日葵のように笑った。


「そっか、ひとみんってのはあたしの大切なやつだったのか! 誰かは分かんないけど、すっきりだ!」


記憶を戻すことは出来なかったようだが、それが自分にとってどんな意味を持つのか、彼女はどうにか理解することが出来たようだった。
だがまだだ。何者かが施した洗脳はまだ解けていないようだし、油断は禁物だ。
紆余曲折の行おうとしている賭けが成功するには、あともう一つ踏まなければならない過程がある。
「ひとみん」が何なのかを示唆するくらい誰でも出来る、問題はここからどう転がすか。
コードを手離させる為に、一番の正念場を越えなければならない。


「それで、「ひとみん」に一番近い「榎本瞳」……この人も、愛崎ちゃんは殺すのかい?」


何度も言うようだが、紆余曲折は榎本瞳と愛崎一美の間柄をまったく知らない。
それどころか、両者の間に明確な繋がりがあるのかも実のところ不明瞭だ。
はったりをかましているような気分に胸の鼓動が早まって心地悪い。
実は憶測は見事的中しており、本当に二人は親友同士なのだが、彼がそれを知っている筈もなかった。
綱渡りをしているかのように不安定な状況、一美の挙動ひとつで全ては終わる。
心臓が破裂しそうなまでの緊張感を、しかし迂回させようとはせずに、甘んじて受けていた。
この緊張は有用だ。
これを失って下手なドジを踏むよりかは、一手をよく吟味し、慎重にやっていく方がずっとマシ。
銃口を喉元に突き付けられているにも等しい窮地と知った上で、彼はただ少女の返答を待っていた。


「……うー、殺したくはないかもなっ」


嫌そうな顔をして、愛崎一美はそう吐露した。
たとえ悪人として洗脳されていても、その思いがあればまだ引き戻せる。
自分が生き抜くための手段として行おうとしていた一連の賭けが、思わぬ結果を生みそうなこの流れに、紆余曲折は不敵な笑みを浮かべたくなった。
順調だ。
どこの誰がこの少女をこんな風にしたのかは分からないが、正体を広められてはひとたまりもない筈。
逃げ場を失わせれば厄介な奴が勝手に自滅してくれる可能性だってある――行幸の極みだ。
ここで畳み掛ける、確かな自信をもって紆余曲折は再び、彼女を改めて壊そうと言葉をかけた。


「じゃあ、今からでも僕と一緒に来ないか? 僕は乗っていない。一緒にこのゲームを―――」


思わず頬を緩めて、笑顔でそう言いかけた時だった。
より正確に言うならば「僕と一緒に来ないか」のくだりを言い終えたあたりで、一美が変わった。
今までそれが僅かであろうと確かに存在していた彼女の躊躇めいたものが、瞬間的に切り替わった。
まるで何かを思い出したように、感情を隠せない子供のように、愛崎一美は変化した。
顔に浮かぶ表情は笑顔――ただし、それは邪悪さを惜しむことなく押し出した悪人のもの。
纏う雰囲気は近寄りがたいまでの悪意に変わり、紆余曲折が失敗したことを暗に告げていた。
彼女を新たに染め直すことは紆余曲折には叶わず――それも、ふたりの悪の仕業である。
白崎ミュートンと酒々楽々、ふたりが教授したある「敵」のやり方を、一美が思い出したからだ。


「『何かにつけてやれ仲間になろうだ、やれこんなこと止めようだ――そういうことを喚く奴が俺達悪人の敵だ。騙されてはいけない』……白崎の言葉、思い出せてよかったぜ」


白崎。その名前は名簿にあった。
確かミュートンとかいう珍しい名前だったから、思い返すまでもなくぱっと脳裏に浮かんできた。
白崎ミュートン、その男が一美を悪人として育成したと考えるのが自然だろう。
しかしその情報を手に入れられたところで、これではそれを活かす間もなく殺されてしまう。
あのコードが紆余曲折に突き付けられた死神の鎌で、最早蛇に睨まれた蛙も同然の状態だ。
こうなれば駄目元で《迂回》させるか、殺人犯の謗り覚悟で銃を使うしかない。
どちらにしても背に腹は代えられない、どちらかを選ばなければここで自分は死んでしまうのだから!
苦肉の策ではあるが、紆余曲折は後者、相討ち覚悟で銃を使うことに決めた。
少なくとも電流を直で浴びて何もできないよりかはマシな作戦だ。
グリップを強く握り、手離さないように両手でしっかりと握り締める。
一美も紆余曲折が和解の道を放棄したことに笑みで応え、コードを揺らして見せた。

やるしかない――紆余曲折が引き金に指を掛けた、その時だった!


「―――――ガァァァアアアアッ!!!」


サイエンスドキュメントでしか耳にしないだろう野獣の咆哮が、フロア一帯に響き渡ったのだ。
これには一美も紆余曲折も、行おうとしていた一連の行動をキャンセルされてしまう。
次の瞬間、物凄い勢いで駆けてきた一匹の狼が、器用に一美の持っていたコードを噛み、顎の力だけでそれを近くの棚にまで投げ飛ばした。
棚の上に乗ったそれに落ちてくる様子はなく、どうやら危機は脱したようだった。
唖然としている紆余曲折を余所に、一美は突然乱入してきた狼にも臆することなく口を尖らせる。


「ちぇっ。後少しであたしの悪人としての初仕事がたっせーできたのになんてことすんだよ」
「悪人なんていいものじゃない……!」


諭すような口調で言い聞かせる狼だが、一美を揺るがすには全く足りないものだった。
誰かの主観で物事を語られたところで、所詮聞く側からすれば只の戯言。
折角良い所だったのに邪魔をされてしまった、そのぐらいの認識でしかない。
愛崎一美は、次の瞬間ディパックに手を入れ、一個の瓶を取り出した。
普通なら彼女のような小学生が知っている代物ではないのだが、既に白崎たちから説明は受けている。
炎を生み出す『魔法の瓶』―――火炎瓶。
曲がりなりにも警官である狼にはその意味が直ぐに理解でき、急いでそれを奪い取ろうとした。
しかし一美の手は火炎瓶を強く握っていて、下手なことをすれば大惨事が予想される。
このデパートそのものが最悪消し炭だ――それは、良いことではない。
そして一美もまた、本当にこの瓶を使う気はなかった。
いくら無邪気な彼女でも、こんな場所でこんな物を使えば自分達まで危ないことは分かる。

あくまで脅す為だけに使え、特にこのデパートの中なら有効だ。
そう白崎に指示を受けて、現に狼の行動を止めることに成功した。
火炎瓶の燃え広がり方は早い。熱帯魚コーナーの水で鎮火しきれない可能性だって十分にある。
売り物の魚達もろとも丸焼き、なんてことになってからでは遅い。
筋書き通りに事が進行していることに満面の笑顔を浮かべて、一美はにしし、と声を出して笑った。
そして、お決まりの悪人らしい台詞を吐くのだ。


「ここからいなくなれ。そしたらこれ、使わないでやる」


本当なら、ここで本物の悪人らしく殺人を犯してみたかった。
だがコードを改めて回収する隙を与えてくれる程、こいつらは馬鹿じゃないだろう。
ここは汚い手段を使って、より格好よく切り抜けるのが悪人らしい。
狼――香坂幹葦と紆余曲折の胸中はきっと同一のものだ。
彼女の異常性に、恐怖めいた感情さえ懐く。
その点において、一美は自身の目指す悪人に着々と近付けている、ということになる。


「どうした、使っちゃってもいーのか? きっとここは火の海だろうなァ。
デパートで火事なんてことになったら、すぐに煙がじゅーまんして大変なことになるよな。
おにーさん達があたしに従わなかったせいで、一体なんにんが死ぬんだろうなぁー?」


それは見事なまでの脅迫だった。
警官であるとはいえ香坂もまさかこんな状況を想定したことなどない。
スプリンクラーがまともに機能しているかも怪しい現状で、何としても火を放たせることは出来ない。
火事で一番多い死因が焼死ではなく煙を吸い込んでの中毒死であるというのは有名な話だが、こんな中途半端な階数で火事が起きれば煙だけでなく建物の倒壊だって危惧される。
どんな観点から見ても危険しかないこの状況、条件を了承する以外に選択肢は無いようだった。


「……分かった。だけどひとつだけ。少し離れた場所でいいから、俺の話を聞いてほしい」
「あ? ……ま、いっか。じゃああそこの一際でっかい水槽まで下がってくれ」


黙って指示に従い、香坂は指定された水槽の位置まで下がっていく。
紆余曲折も最悪の事態を回避するために、香坂の少し後ろまで後退した。
一美はまだ火炎瓶を手離していないあたり、何か行動を起こすことはまず無理といえる。
香坂幹葦もまた、体内に回りつつある催淫効果の嫌悪感に耐えるばかりだった。
それでも彼を繋ぎ止めていたのは、いいことがしたいというただそれだけの欲求。
いつもなら空回りするだろうそれも、誰かの命の危機とあれば正常に回転してくれた。


「偉そうに説教する気はない……僕も、悪いことをしたからな」
「悪いこと? どんなことをしたんだ、教えてくれっ」


悪人を目指す少女は瞳を輝かせ、さっきまでの邪悪さは何処へやら年相応の好奇心を見せる。
その好奇心が果てしなく間違っている方向に向かっているとしても、子供らしさはそこにあった。
香坂は話しながら思い出す。
自分のやってしまった悪いこと。
ブルース・ヤスパースを撃ってしまったこと。
何をされた訳でもないのに彼を傷付けて、あろうことかその場から逃げ出してしまったこと。
ついさっきなんかは助けた相手に裏切られるわ、警官の癖してまともな説得も出来ないわ。
はっきり言って、散々極まる数時間だった。


「はははは。なんだそりゃ、なんつーか……誰かさんなら惨めですね、って言いそうだぞ」
「しかももっと前には、何を血迷ったか悪人になりたいなんて考えてたよ」
「でも分かんないな。どーして悪人になるのをやめたんだ? 悪人の方がきっとーー楽しいぞ」


悪人がどれほどスリリングで楽しい生き方かは、白崎と酒々楽々からしっかり教わった。
他人を常に蔑み、踏みにじり、嘲り、利用し、使い捨て、自分が愉しければ今際の際だって高笑い。
やり方次第じゃ善人よりずっと楽しい人生が謳歌できると、白崎は語ってくれた。
酒々楽々も白崎も一度死んだとか言っていたが、そうとは思えないほど愉しそうだった。
あんな風になって楽しい思いをいっぱいするのと、善人なんかのまま人生を無駄にするのじゃどちらがマシかなんて比べるまでもない。
一美の言葉を聞くと香坂は寂しげな笑顔を浮かべて、


「……僕もそう思っていた……だけど、いいことをするために頑張る方が清々しい」


と、途切れ途切れの口調で語った。
体調が良くないのか、心なしか重心がぐらついているように見えなくもない。
悪人なら、ここで弱っているところを攻撃するのが正しいだろう。
火炎瓶でなくたって、そこら辺の水槽を投げつけたっていい。
なのに―――どうしてか愛崎一美は、香坂幹葦に何かを感じ始めていた。


「これで、僕の話は終わりだ。……君も、頑張れ」


聞いているだけで笑いが込み上げてきそうな散々尽くしの目に遭って、小学生一人説得できずに。
お勧めしてあげているのに善人なんて愚かなものを目指し、更にふらふらの狼。
怒りとやるせなさで狂乱してもおかしくないのに、どうしてあんな顔で笑うのか。
良いことをすることが出来た嬉しさを噛み締めているような顔で笑うのか。笑えるのか。
そんな笑顔を見せられたら――――


「なんだよ、それ」


一美は、彼女以外の誰にも聞こえないだろう消え入るような声で呟いた。


「……楽しそうじゃん」


もう人生で何度目か分からない、自分の中の何かが書き替わる瞬間。
普段ならば書き替わるというより「吸収する」が正しいのだが、ここはバトルロワイアル。
彼女にとっては強すぎる刺激となり、またも大きく彼女は変化する。
香坂幹葦という青年は、悪人になりたいと思っていた頃から散々な目にばかり遭ってきた。
特にこの殺し合いに招かれてからは、運が悪いでは済まないくらいロクな目に遭っていない。
そんな香坂が、一美に興味を持たせた。
悪人になりたいという「心」を塗り替え、少しずつだが「良いことをしてみたい」に変わっていく。
いつもの彼女だったなら、この後程なくして善人思考に変化し、正義のヒーローじみたことをする。
香坂達は、いつの間にやら去ってしまった後だった。
もう少し「良いことをする」ことについて聞いてみたかったのに、と一美は残念そうに溜め息ひとつ。


「……それじゃ、白崎達をかいしんさせてみようかな」


手始め、のつもりだったのだろう。
彼女は悪人二人をして「化け物」と形容させる程に、凄まじい吸収力を保有している。
だがその内面は所詮小学生、算段を微細に立てて行動するだけの思考には至らない。
それがいけなかった。
とんでもない悪人としか認識していない二人の「おじさん」を改心させようなんて、無謀にも等しい目標を最初の取っ掛かりに据えてしまったこと、それが彼女の失敗だった。
思い立ったが吉日、一美はすぐに走り出して、適当なエレベーターに乗る。
二階のボタンを押して、白崎たちを捜すことにした。
香坂幹葦のように良いことをしてみたくて、悪人を善人にする、そんな良いことをするために。


――不幸にも、彼女は最初にボタンを押して行き着いた二階で無事白崎たちと再会した。
もしも別の、あと少しでも良識のある参加者に出会えていれば良かったものを、こんなところで無駄なまでの幸運が味方し、一美に再会をもたらしてしまった。


アリスは、およそメルヘンとは無縁の悪意に触れる。



◆ ◆


一美が希望に目覚めるより少し前、白崎ミュートンと酒々楽々の二人は未だ談義に花を咲かせていた。
今度の話のネタは今までにやってきた悪いことの暴露……早い話が悪行自慢である。
才能を保有している白崎のやることは良くも悪くも派手だが、陰湿さや隠密性では酒々楽々のやってきた悪事にも見習うところはある、と白崎は感心した。
あれだけの大事件を引き起こしたのだ、心の何処かで自分は新たな探求を怠っていたかもしれない。
ましてやあの施設に幽閉されていた身、こうして誰かと悪事を語り合うのはなかなか新鮮だった。
酒々楽々には「嘲る悪意」のような才能が無いが、酒の霧という汎用性の高い力を持っている。
これを街中だとかでばら撒いて、酔っ払いの地獄絵図を産み出してみるのも悪くない。
お高く止まる高い地位の人間に使えば、一瞬でその高みから引きずり下ろすことも容易いだろう。
見果てぬ悪の道に、酒々楽々もまた言い知れぬ奥深さを感じていた。
煙草の吸殻を床に捨てて揉み消し、僅かに残る火種を見て酒々楽々は思い出したように言う。


「そういやあの嬢ちゃん、火炎瓶使ってねえだろうな……おれたちまで死ぬぞ」
「まあ、確かに俺も一酸化炭素を壊すことは出来ないしな……でもま、大丈夫な筈だ」


確信をもっているかのような口調でにやりと笑う白崎。
一美にあれの使い方を教授した張本人である彼だが、実は彼も使い方なんてよく知らない。
そんな物理的な悪行を行ったことはあまり無い白崎は、漫画でちらっと見たうろ覚えの知識を適当に、だがそれっぽく聞こえるように一美に吹き込んだだけだ。
使った瞬間に火達磨、なんて落ちも考えられる危険な行為に、しかし白崎は微塵の恐怖も懐かない。


「あいつの飲み込みの早さは凄いの一言だが、悪人らしさを求めるなら俺の指示に従う筈だ」
「『瓶を威嚇以外で使うな』だったか。妙なこと言うと思ってたぜ」
「俺だって煙にまかれて死ぬのは嫌だよ」


雑談のようなノリで物騒な会話を交わす二人からは、常に邪悪の片鱗が覗いている。
足元で弱々しくオレンジ色に輝く火種を靴底で完膚なきまでに踏み消した。


「俺が心配なのは、あれがちゃんと火種になってくれてるかだな」


白崎のいつにない弱気な台詞に、酒々楽々は酒臭い息を撒き散らしながら笑った。
一美に妙な指示を出したのは酒々楽々だが、その後彼女を放っておいたのは白崎だ。
その彼がこんな台詞を吐くとは、雨でも降るのではないか、というぐらいには珍しい。


「実のところ、今はちょっと後悔してるぜ。もっと徹底的にやるべきだったか、とな」
「だから徹底的にやったら面白くないって言ったのはどこの誰だよ、ハハ」
「……あいつ、ちょっとでもおかしい奴に会ったら変わるぞ」


「嘲る悪意」を使えば精神を叩きのめすことは赤子の手を捻るより更に容易だ。
ただ、もしも悪人は見敵必殺というレベルまで極端な影響を受けられると話は少し面倒になる。
あれはただの小学生に過ぎないが、それでも刃物を持てば大の男を殺せる可能性はある。
万一ということを考えれば、愛崎一美に限って言うなら徹底的にやるべきだった。
榎本瞳を忘却させてある程度ストッパーを外したとしても、変なスイッチが入っては意味がない。
白崎ミュートンはここにきて、初めて自身の采配を反省した。


「心配なら見に行くとしようぜェ、そろそろ丁度いい頃だろ」
「ま、もし本当にヤバかったら頼んだぜ、酒々楽々」
「応よ。軽ーく酔わせて行動不能にしたらァ」
「殺すなよ。ちゃんと扱えばあんな面白い駒はそう居ないんだからな」
「はいはい分かってますよ、大将」


熱帯魚コーナーに戻るため、二人は手近なエレベーターを目指して歩き出す。
ごーっ、という聞き慣れた重々しい音が響いて、二人はその足をほぼ同時に止めた。
逃げるか立ち向かうかは相手次第だが、ひとまず《酒の霧》+「嘲る悪意」があれば戦える。
一見無防備な二人は各々の臨戦態勢を整え、エレベーターのドアがゆっくりと開くのを黙って見る。
中からとてとてと歩いてくる少女は、彼らが今からまさに様子を見に行こうとしていた人物だった。
愛崎一美。
その愛らしいフェイスを笑顔に染めて、小学生相応の無邪気さで走り寄ってくる。
瞳に爛々と輝く希望の光を見て、二人の悪人は同時に思った。
《ああ、何かに染まってきやがったな》と――――。


「どうだ、上手くやったか?」


我ながら白々しいとは思うが、手っ取り早く彼女がどうなっているかを判別する手段であった。
皮肉にも彼の狙い通りに、落ち着かない様子で一美は白崎達に興奮を隠そうともせず言う。


「そんなことより、あたしもっと楽しいこと見つけたぞっ!」


酒々楽々は、深い酒臭いため息をついた。
白崎ミュートンは、動揺はしなかったが静かに「才能」を使用する準備をした。
そして愛崎一美は二人の心情を察しようともせずに、自分の言いたいことを口に出す前に整理する。
溢れ出さんばかりの言いたいことを、二人の心にしっかり響くように整理する。
脳裏に再生される光景は、未だ瑞々しいついさっきの一連のやり取り。
電流を流してとある青年を殺そうとしていた矢先、そこに颯爽と現れた一匹の狼。
コードと塩水を使った殺人作戦はおじゃんにされてしまったが、火炎瓶で悪人らしいことをした。
その後狼の散々な話を聞いて、良いことをしたいという彼の考えを楽しそうだと思った。
それから、白崎たちを改心させて悪人同盟から善人同盟にしようと思った。
整理はついた。
すぅーっ、と息を大きく吸い込んで、自分の言いたいことを全てぶちまける!


「あたしは気付いたんだよ。いや、気づかされたって言った方がいいな。
悪いことをすることは確かにたのしーよ、誰かをめちゃくちゃにしたりするのってすげー憧れるし。
白崎に言われた通りに魚をいじめてたけど、塩水で苦しむあいつらを見てたら顔がにやけた。
えものは取り逃しちゃった。へんなおおかみがらんにゅーしてきてよ、でも瓶で脅してやったんだ。
そしたらそのおおかみがすげー散々な目に遭ってきたらしくてさ、なのにそいつ、うーんなんてゆーんだろうな、ぜんっぜん辛そーに見えなかった。
腹でも痛いのか知らないけど体調悪そうなのに、良いことするのは楽しいって笑ってた。
今まで良いこと出来なかったのがやっと出来て嬉しーみたいだった、それがすげー楽しそうでさ。
悪いことした後にする笑顔よりずっと楽しそうに見えて、あたしはそこでやっと気付けたんだ!
悪いことするより良いことした方が楽しいって気付けたんだよ、すげー発見だ。
だから悪いやつってアニメとかで必ず負けるんだろうな、って納得できちゃった気がするよ。
それに気付けた瞬間に、もうなんか、今までやってたこと放り出して良いことしたくなった!
ひとりじめしたいのは山々なんだけど、あたしはおじさん達を改心させて良いことすることにした。
おじさん達も良いことすればまた誰かが良いことして、そうやってれば全員死なないで済む! こんな良いこと考えるなんて、あたしは自画自賛したくなっちゃうよ。
そんな訳でお前ら、あたしのために改心してくれ。
すげー楽しいから、お前らもきっとすぐに気に入るぞ。
そしたらあたしらは善人同盟だ! 良いことをするための同盟、どうだこれ、なあ――――」


「ふーん、そうか。まあお前は影響を受ける質だから予想していたことではあるぞ。
だが面白そうなので俺にもちっと喋らせて貰おうか。もちろん話題は善人の愚かさ、悪人の楽しさだ。先に言っておくがな、お前は騙されてるぞ。良いことをする程つまらないんだよ。
例えばお前、お前が財布を拾って交番に届けたとしよう。良いことだな。
無論俺や酒々楽々なら中身どころか財布ごと速攻で持ち帰るが、お前はこれを届ける。
法律だと届けた奴は一割だったか、とにかくちょっと貰えるんだったと思うからお前にも見返りがあるな。だが考えてもみろ、逆の場合はどうなる?
お前が頑張って財布届けた帰り道に、お前も財布を落っことすんだ。
中身は何千円でも何百円でもいいけど、重要なのはその財布がどうなるかってことだ。
お前は目先のカネを掴まずに届けたが、十中八九お前が落とした財布は帰ってこないだろう。
交番に届けられていても中身は期待しない方がいいな。その時お前は、どうしようもなくなる。
どうしようもない空しさに襲われて、そんな不毛なことを何度も繰り返す内にまた思うのさ。
「あー、悪人は楽しそうだな」と、また悪人に逆戻りするだろうさ。
それだけこっちの世界は甘い。欲望に忠実になるから、腹の中に無意識に見返りを求めて善を働く馬鹿共に比べたらその生き方もどれほど美しいことか。
悪ってのは甘美だ。故に善人のような苦しみがなく、常に己の楽しさを追求できる。
良いことをするのは楽しい? はん―――そんなもん、何も知らねえ奴の台詞だぜ」


整理したつもりが全く整理されていない一美の言葉を、白崎は同じく言葉の嵐で押し返した。
答えるような真似をする前に十八番の才能を使ってやればいいものを、わざわざ彼女が懐いた希望をぐちゃぐちゃに塗り固め、壊すあたりーーまさしく、悪人のやり方だ。
酒々楽々はそのカオス極まる光景を見て、下品な笑い声をあげた。
才能を使わずとも十分じゃねえか、と叫び散らしたい衝動を堪えるのが大変だった。
だがそれで愛崎一美という少女がへこたれないのは白崎が既に分析済みだ。
別に舌戦くらいならいつまでも続けてやれて、彼女の渾身の理論をことごとく覆し続けてやるだけの自信はあるのだが、正直不毛にしか思えないので面倒臭い。
茶番は終わりといった様子で、白崎は口元を薄い弧の形に歪めた。
それが真なる言葉の暴力――才能・嘲る悪意で一美をねじ曲げる前の合図であることは明白だった。
彼から説明を受けていない一美でも、本能的に自分の辿る運命を悟ったようだ。

耳を塞いでもその隙間から入ってくる声が病魔となって脳を冒す。
暴れようものなら酒々楽々だっている。
そもそも一美が戦ったところで、白崎ミュートンという男をどうにかできるとは思えない。
どうすることも出来ずに、白崎の瞳をぼうっと見つめ、彼の才能が放たれる瞬間を、待った―――。



◇ ◆


あたしは死ぬんだ、と思った。
いくら白崎の言葉でも、ひとをちょくせつ殺せるわけがないけど、あたしは死ぬんだとおもう。
からだがいきていても、今ここで良いことをしたいとかんがえているあたしはもうのこらない。
あたしの「いし」は最後まで白崎に勝てないまま、まけいぬのまま終わるんだ。
―――くそっ、なんだかくやしいな。
あたしが楽しいとおもったことをどんなにがんばってせつめーしても、白崎はかおいろひとつかえなかった。それがどーした、ってかんじでかえされた。
けっきょく、あたしにはどうも悪人になるしか道がないみたいだ……白崎がいるかぎり、あたしはほかの何にもなれないまま、悪人としてたのしー人生を生きていくんだろう。
うう、それもたのしーと思うんだけど、どーしてこんなにくやしいんだ。

もしかすると、まだだれか分からないけど、「ひとみん」ってのがきっかけなのかな。
違うかもしれない。
だけど、こんきょはないのに今度のあたしは、ひとみんってそんざいがあったことすら覚えてない気がする。なんでだか、そんな気がする。
だから、もうそれはあたしじゃないんだ。
あたしはここでしぬ。
さよならみんな、あでゅー、ってやつだ。
あたしが覚えていることをひとつでもわすれてたら、それはもうあたしじゃない。
みじかいじんせいだったけど、こんなにはやくしんじゃうなんていやだな。
どうやらひとみんはあたしの大切なひとみたいだから、おわかれのことばくらいいってあげようか。
思い出せないだれかにおわかれするなんて、なんだかおかしいな。こっけいだな。
もし白崎たちがあたしの心をよめたら、きっとおおわらいされちゃうだろう。
でも、これくらいゆるしてくれ。
愛崎一美の、えーと、なんだっけあれ……そーだ、「じせいのく」ってやつをいわせてくれ。


なもかおもしらないひとみんへ。
あたし、愛崎一美はおまえのことをわすれます。
もうわすれてるだろとか、そうゆーつっこみはやめてくれ。空気よんでくれ。
ひとみんとあたしがどういうあいだがらだったのかは覚えてないけど、おわかれの言葉をやる。
うまいことばがさがせないし、はたせなかったやくそくもあるかもしれない。

―――でも、おわらないおわりなんてないんだ。

ひとみんはしらないままでいいよ。
あたしもいわないままでいいから。
だけど、きっともうかえれない。
あたしがむかしよんでハマった絵本、不思議のくにのアリスってやつにあたしはちかいかもな。
それじゃあ、おげんきで。
あたしのだいすきな―――のかはおぼえてないけど、ばいばい、ひとみん。


それじゃあさいごに。















――――あした、てんきになあれ。












時系列順で読む


投下順で読む




050:神戯-DEBUG PROGRAM- 大崎年光 062:Alice Magic/退廃の宴
045:パラノイドなリズム 古川正人 062:Alice Magic/退廃の宴
045:パラノイドなリズム カインツ・アルフォード 062:Alice Magic/退廃の宴
058:おさかな→天国 白崎ミュートン 062:Alice Magic/退廃の宴
058:おさかな→天国 酒々楽々 062:Alice Magic/退廃の宴
058:おさかな→天国 愛崎一美 062:Alice Magic/退廃の宴
054:マインド・イミテーション 香坂幹葦 062:Alice Magic/退廃の宴
058:おさかな→天国 紆余曲折 062:Alice Magic/退廃の宴

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年10月11日 03:04