『えー、みなさん。こんにちは。ボクです。人無結です。
ボクの雑談で時間を潰すのも吝かじゃありませんけどね。さっそく司会進行を執らせていただきます』
ボクだって暇な訳じゃない。
これまでの経緯を纏め上げなければいけないのだ。
面倒なことこの上ない。けれどそれがボクの仕事である以上、仕方のないことではある。
ったく、市街地の皆さん方が想像以上に動きまわってくださいましたからね、大変です。
と言うわけで。
このボク、人無結が責任を以て第一回放送をお届けしましょう。
『死者の発表から致しましょうか。嘘だとか勘ぐるのは勝手ですけどね。
では参りましょうか、死者の発表です。
……ですかね。以上二十一名。聞漏らしのあった方はいらっしゃいますか、いたらまあ、ボクまでお願いします』
にしても、八十名のうち、二十一名。
割合にして、約四分の一。死にすぎだ。
生粋の犯罪者、
佐々木竜也くんの弁を流用させてもらうのであれば、――ボクが殺したのは、長谷川裕治くん。ただ一人だと言うのに。
ただそれだけにして、ボクが殺した人間の数を優に上回る数の人間が死んでいった。
ボクも彼らと同類だけれど、敢えて言わせていただこう。
――やっぱりこうも人間は醜いのだ。妹に害をなして、それでもヘラヘラ笑える彼らが特殊と言うわけじゃない。
今回の件(くだん)は、報復行為と言うわけじゃなかったけれど、最後に確かめられてよかった。
妹が必ずしも、万人にとって『良い人間』だとは言わない。
けれど、ボクがちょっと日常を壊したくらいで、人を殺せる人間が腐るほどいる事実――。
まあ、ボクも人の事、言えないけれど。
『ああ、名簿にない方はですね、言うなら乱入者って感じで。シークレットキャラって燃えますよね。
自分で考えることっていいことですよ? ボクからの情報を頼りにしてばかりではいけません。
可愛い子には旅をさせろ、とはよく言ったもので、優しいボクはこれ以上情報致しません』
本当はここで公表させてもよかったのだけれど。
まあ、想定内ではあったけど、ジョーカー二人がサボタージュを決めたのでやむを得ない決断である。
やむを得ない理由は、特にないには変わりない。
そもそもそういうルールだってなかったはずだし。気分の問題だ。
『それと、ルールを改めてみた人は分かると思いますけれど、今から言うのは禁止エリアという奴の話です。
禁止エリアとは、って言っても名前のままなんですがね。これよりは立ち入り禁止の場所っていうことです。
英語で言うと KEEP OUT でしたっけ? まあ勿論、刑事ものにありがちな黄色いテープを周りに貼りつけるとかそう言う話じゃないですからね。
立ち入ったら、首輪がボカン。六時間前の長谷川祐治くんみたいになりたくなかったら、下手なことしない方がいいですよ。
では回りくどい説明は此処までとして。発表しますか
一時間後に――
“A-4”
“B-4”
“F-4”
“G-4”
……えーとそうですねえ、あとは
“C-6”
“D-6”
“E-6”
って辺りでしょうかね。綺麗に区分しましたから覚えやすいですね。聞漏らしても推測してください』
最後三つを選んだ理由は、言うまでもないけれど。
ボクの仕事量軽減だ。よもやあそこまで交錯するとは思わなかった。
全てが計画通りいくとは想定してなかったけどさ。
では、そろそろこの放送も終わらせていただこう。
結びの言葉を最後に、ボクはマイクの電源を切った。
『では、ボクからは以上です。また六時間後に遭えたらいいのかな。
今度はゆっくり雑談でも致しましょうか。それではみなさん、お元気で――』
◎
「……」
「……ねえ」
手足を鎖で縛られた少女は問うた。
帽子を深くかぶった少女、人無つなぎは答えない。
代わりに、ビクッ、と身体を震わせたのが応答と見ていいだろう。
溜息をつきながら、首を横から前に向けて、数えるのも億劫になるほどのモニターに目を移す。
そこで繰り広げられているのは、バトルロワイアル――人無結が企てた殺し合いの中継(ライブ)映像だった。
かれこれ六時間が経過しており、現在人無結が放送を流している。既に流れる内容を知っている彼女は、散漫とその内容を聞き流す。
かれこれ。
六時間ほど――少なくとも五時間からこの光景は変わらない。
変化があったのは、人無結が途中、現状の最低限の説明を加えに来た程度。
あとは、縛られた彼女がここにいて、その隣に人無つなぎがいる。
その事実そのものの意味がわからない上に、目の前で『またしても』バトルロワイアルが繰り広げられており。
且つ、隣には人見知りなのかなんなのか、無口で意志疎通がうまく成立していないこの形が続いていた。
そもそも、帽子の所為か、二人の目が合ったためしがない現状である。
「……ねえ、今何が起きてるの?」
「……」
この質問も数え切れないほどしてきた。
それでも、つなぎは答えない。
ただただ、こちらの様子を窺うように、飽きもせず縛られた少女を見る。
「いい加減答えてよ!!」
「――ッッ!!」
流石に疲弊を隠しきれなくなり、語尾を強めた叫び声を撒き散らす。
さもありなん、こんな状況でストレスをためるなと言うのがそもそも無理な相談である。
涙をためて、こちらの機嫌を窺うつなぎの姿に、妙な苛立ちを覚えながら、彼女は何も言えなかった。
なにせ、彼女の兄もまた、人殺しだから。
前回に引き続き――またしても兄は修羅となったから。
つなぎの兄を、最低だと罵り貶すことなど到底できない。
静かに、静観を貫き通すしかなかった。
「……ごめん」
「……」
首を横にフルフルと。
恐らくは『気にしてない』と言いたいのだろう。
「ありがとう」と伝えると、彼女は勢いよく首を縦に振った。
溜息をもう一度。
静かに天井を仰ぐ。変哲もない、息のつまりそうな天井だった。
「「……」」
矢部由美子。
矢部翼の妹である。
彼女の今回の役割は――いや、今回の役割もまた、バトルロワイアルの観望であった。
(――あぁあ、わたし、疲れちゃったよ……お兄ちゃん。――お兄ちゃん)
第一回放送が流れたのを知り、兄の負う役割と知り、彼女は一人――絶望している。
心身の疲れをほぐす様に、静かに彼女は一時の眠りに堕ちた。
人無つなぎは、その様子を眺め、毛布を調達すべく大好きな兄の元へと向かった。
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最終更新:2013年02月03日 20:04