○零○
時に、皆さんにとって絶望とは何なのでしょうか?
いきなり何だとは思いますが、考えてみてください。
特別急かすことでもありませんし、ゆっくりをお悩みになってください。
では、その間にボクの説明をさせていただこうかな。
とはいってもこんな辺鄙なボクの紹介なんて本当に必要なのかな、とも思いますけどね。
今回の「物語」に置いての主役は決して僕ではないですし。
まあ。
すると宣言してしまった以上は、すると致しましょうか。
んー、おほん。
じゃあまずは、名前から。
ボクの名前は人無結。「じんないむすび」って読むんだよ。
ちなみに紹介してなかったけど、隣には人無つなぎ、「じんないつなぎ」って双子の妹がいたりする。
言っておくけど、彼女対人恐怖症だから可愛いからって口説こうとするなら一目散にやられるつもりでね、身も心も。
さて、ではボクの紹介と戻りまして。
好きな食べ物はハンバーグ、嫌いな食べ物は………特にないや、強いて言うなら人肉は食べたくないなー。
好きな音楽はアニソン全般、嫌いな音楽はクラシック全般。堅苦しいのはボクは嫌いだ。
好きな言葉は………っと、なになに?
おおっと、そんな詰まんない事言ってる間に、時間切れの様だ。
いやはや、ボクは昔から時間配分というものが苦手でね。
なにかといつも狂っちゃうんだよな。いけないいけない。これはボクが今考えている療法にとっては不完全だ。
すぐに埋め合わせなきゃな。うんうん。
ってなわけで、画面の前にいる皆さん。
先ほどの問いの答えは持ち合わせてくれたでしょうか。
よもや、希望の対義語などとほざくことはないよね。
もしそんな事を考えているのならば、それは甘ちゃんの考えだと一言添えておくよ。
いやはや、だってそうでしょ?
希望と絶望は均衡した存在で無い。
絶望は常に何時だってどんな場所に関わらず発生し、巻き起こす。
けれど希望は違う、希望は。希望というものはようするに、当人の資質なんだよね。
資質がないものは得ることが出来ないもの。その癖、かなり脆弱な存在。
そんなんでエネルギーバランスが取れるものだろうかなあ?
ボクはそうとは思えない。絶望が絶望を巻き起こし渦を巻くだけだ。希望なんて木っ端微塵。
だからボクはこう考えている。
希望の対義語は失望だと。
だってそれだったならば、せめてもの均衡は取れるだろう。
絶望は、皆に振り撒かれる者だけれども、失望は違う。素質のないものだけが得るものだ。
言うなれば、「質より量」という存在が絶望で、「量より質」という概念が失望だとボクはそんな価値観を有しちゃった。
ならば。
皆さんにとっての希望とは何なんでしょうかね。
尊いもの?
儚いもの?
煩わしいもの?
欲しかったもの?
少なくともボクにとっての希望は簡単なものであって。
単純すぎて笑われちゃうかもしれないけれど。
では、模範解答としてのボクの希望とは―――――
答えは、CMのあとで。
○壱○
広い教室の中。
とある二者面談を行っている。
無論一人は、ボク。
人無結なんだけれども。
もう一人の方はというと鮮やかな青色の髪が御馴染の相川友くんなる人物らしい。名前についてはどうでもいいんだけどさ。
ちなみに今の彼には、諸事情によって意識は無い。
空っぽの心。放心状態。
まあ、言うほど理由は難しくもないし、緊急事態という訳でもない。
ボクは諸事情によって手に入れられざる負えなくなった《催眠術》を行使している。
代々ボクに流れる血統は、そういった《超能力》を使うことに秀でていたらしく、
ボクはその中でも《催眠術》は飛び抜けたステータスとなった……らしい。
で、今それを行使しているってわけ。
ちなみにとある町の歩道で歩いていた彼をちょちょいと《催眠術》にかけてからずっとそのままだから、
彼の記憶ではまだ道端で歩いていたで止まっているだろうね、知ったこっちゃないけど。
さて、とだ。
それじゃあそろそろお仕事の時間だな。
なんか時間が予定通りに行ってないや。なににそんな滞らせたかな……。
ともあれ。
「それじゃあいっちょ」
そう、声に出して。
意気込んでから、ボクは目の前の彼に、質問事項を問いかける。
『催眠行使。相川友、貴殿にとっての「希望」とはなんだ。答えよ』
「×××××」
さて、これがボクの催眠術。
一番初めに、「催眠行使」と一々云わなければならないのが手間だがそれさえ出来ればそれまでだった。
そして、命令された相川友くんはすらすらと答えてゆく。
もしかしたら彼すらも知らない潜在的な思考を弄って、問いただす。
ふむふむ。成程ねー。ふーん。
ま、なんてこともありつつ。
ボクは最後にこう命令する。
『催眠行使。相川友、貴殿はこの書物にサインを記せ』
「…………………」
そして、相川友くんは疑う心を知らないようで、
その書物に的確にサインを連ねてゆく。
最後。
彼の血判を押せば、その書類は見事完成されることとなる。
いやはや、一人十分か。中々かかるな。
そう思いつつ、ボクは相川友くんに退出してもらう。
そして、最後の仕事として。
ボクは彼の書いた書物に書き漏れがないか見直して、ファイルに仕舞う。
ちらりと見えた書物の名前は。
《バトルロワイアル/参加証明書》と。
簡単に、簡潔に、簡素に、簡便に。
見出し語として、ただそれだけ書かれていた。
我ながらきれいな字だと感心してしちゃうな。
だがそれで心を奪われて時間を潰すわけにもいかないからさ、ちゃちゃっと終わらそう
『催眠行使。―――――』
そして仕事は、順調に進んでいく。
いい仕事をした後は、気分が晴れやかだな。
あとでイチゴ牛乳でも飲もっかな。
あーうん。つなぎを誘うのも悪くないかも。
○弐○
場面はころころと変わるよ。
舞台は遊園地。
正確には観客は誰一人としていない、遊園地。
ジェットコースターだってあるし、お化け屋敷もある。
メリーゴーランドもコーヒーカップも。観覧車だって当然ある。
選り取り見取りだね、蛍光の光が。いや昨今の事情を考えるとネオンって言っておいた方がいいのかな?
人工の光がいやに眩しい。
この遊園地を人はなんといったか。
ここに集った人間には、ボクとつなぎを除いて知る由は無いと思う。
その程度の穴場だ。………いや、正しくはボクが追いだしたのだけど。
しっかし、絶叫の無いジョットコースターってのも中々侘しいものなんだね。
何てことも思いつつ、ここはショーとかをやるための野外舞台。
暗い中、多数のスポットライトがボクを照らす。眩しいなあ。………ていうか眩しすぎる、
つなぎめ、もしかしてわざとやってないか?
まあそんな冗談も程々としましょうね。
つなぎへと叱責はあとにしよっと。
じゃあ、そろそろいい加減始めないとな。
改めてボクは辺りを見渡す。
そこには八十人前後の人間の陰があった。
皆さん首を下に向け、手足をだらりとぶら下げていた。なんていうか人形みたい。
ん? おお、一番最初にやった相川友くんの姿が懐かしいや。
そのほかにも、小学生だったり、中学生だったり、高校生だったり。挙句の果てには人狼なるものもいる。
わーお、改めて並べてみるとボクも中々個性豊かな面子を集めたなあ。感心感心。
…………。
さて。
そんな事も思ったので、予定通り開幕しよう。
『バトルロワイアル』――――人と人との暴きあいを。
○惨○
『催眠解放。貴殿らの目覚めの刻が来た』
これも一つの合言葉。
そういえば、さっきからボクは仰々しい口調で物申しているがそれはなんていうか、そっちの方が気分が乗るから。
それだけだよ? 文句があるんですか。ないようなんで先に進めさせていただきましょうか。
まあそんな具合に、各々が順番に目を覚まし、声を発する。
いわばテンプレートなものなのだが、敢えて言うなら、
怪訝な声、驚愕する声、焦りの声、歓喜の声、怒りの声。
多種多様。よくもまあ同じ行動に対して、こんなバリエーション豊富に声を上げてくれるものだ。
開催させたこちらとしては、してやったりみたいな感情が芽生えてくるじゃん。
ここで満足して終われないのが現実なんだけどね。
時を戻す能力は、少なからずボクはあまり得意じゃないから。
もう、後戻りはできない。――――するつもりもないけれど。
じゃあ、お仕事の時間だね。
主催者は主催者らしく、真面目に事を進めよう。
「んー、お目覚めご苦労様です。っていってもそこまで苦労をかけた覚えもございませんが」
こう言う時、口を歪めながらって云うのかな。
きっとボクの顔はいつものような顔とは少しばかり不細工に見えるかもね。
なんだか緊張してるのか喋りにくいし。言葉が喉に詰まる。
いつもの通りにすらすらとは喋れないな。なんだか小心者みたいで悲しい。
「まあボクの名前は人無結って言います。あの辺でなんかちょこまかしてるのはつなぎ。以後お見知りおきを」
そんな事を言うと、視線の圧力が約半分ほど減った。
恐らくはつなぎの方にむいたんだろう。なんかつなぎが目をウルウルさせながらこっちを見てくる。
あーやべーなー。可愛いなーこん畜生。
おっと、仕事仕事。忘れるところだった。
なんか視線の圧力が何故か減ってから四倍近くに増えた気がする。うん、気のせい気のせい。
けど耐えがたいのは確かなので、言葉を続ける。全く本当人間ってのは恐ろしい。
「えーとですね。簡単に事の次第を追っていきます」
ボクがこう言うと、どこからか唾を飲む声が多少聞こえた。
先ほどとは違い、各々ちゃんと見えるので皆さんの戦慄の顔が実によく分かる。
…………まあ、だからといってボクには関係ないんだけど。
「まずですね、皆さんはれっきとした形で誘拐されました。主にボクの一存で」
途端に、約半数以上がポカンと擬音が出そうな勢いで口をあけて呆然としていた。
全く人の話を聞いてそんな態度を取るなんて失礼な。どんな教育を受けてきたのやら。―――――まあボクの所為でしたね。
けれど事実は事実なんだよー。そもそもの話ボク程度に誘拐される貴方達が悪いとボクは思うね。責任転嫁だけど。
言っちまえば、誰の責任とかはっきり言うとどうでもいいんだけどさ。
なので事を進めることにします。はい。
「そんなわけで、申し訳ないのですが。一旦こちら側の実力を見せないと後々厄介そうなのでちょっと一人生贄になってもらいますね」
ボクはいい、適当に首を振り、指名する。
丁度いい駒がそこにいたからさ。
『催眠行使。長谷川祐治、貴殿は我の支配下となれ』
そんな風に言うと一人の中年臭いおっさん。長谷川祐治くんが立ち上がる。
そしてこっちへとのらりくらりと徐々にやってきた。
蛇足として記しておくと、周りの皆さんは例外なく長谷川祐治くんの方を注視して、動けない。
まあ皆さんの心情なんて、ボクにとっては関係無いのですが。
さて、別にこれはなにもショーではない。
見せものではない以上これ以上無駄に長谷川祐治くんに話を引っ張るのはよしておこう。
だからボクは再度言葉を紡ぎだす。
「と、まあこんな具合に言葉の一つで支配下に置くことは可能なんですよ。
ですのでってのは変ですが黙っておいた方が賢明ではありますね。どうしてもというならば―――はい」
なんてわけで、ボクはボクの隣にせっかく立ってくれた長谷川祐治くんから離れて、一言。
一言だけ言葉を発する。
『催眠行使。ユーザー名「HASEGAWA/YUJI」首輪爆破』
そして爆音。ついで爆風。
いとも簡単に長谷川祐治くんに嵌められていた首輪は爆発した。ちなみに皆さんにもついてるものだ。
しかしまあなんつーか、血が汚い。きっと不衛生な生活してやがったな長谷川祐治くん。
ちなみに周りからは声はしない。絶句って奴でしょうか?
まあ長谷川祐治くんにはいい見せしめ役になってもらったし。
長谷川祐治くんの死は絶対無駄にしないよ………多分。
けれど、黙ってくれたおかげで話はしやすいというもの。
この機を逃すわけにはいかないよね。
「なんてわけでいきなり死んでしまいましたが、皆さんにはボクから直伝でお願いというか命令があるんだ」
誰も相槌を打ってくれない。
あれー? 一人ぐらい打ってくれるものかと思っていたが。
何だか悲しいな。
まあいいや。
どうせ次の句でボクの言うべき台詞は終わりのはずだしさ。
遠慮する必要はない。
どーんと胸を張って言ってやろう。
どうにもさっきから本調子が出ないからね。
「命令、それはとびっきり簡単です」
けれど、《催眠術》を行使しては全くの意味の無い出来事を。
ボクは今ここに宣言する。
「殺し合え。本能を剥き出しにしてもいい。だから――――殺し合え。
皆さんの平穏は皆さんの手によって届かぬものとなったしな」
聞こえたのは、唾を飲む音と、乾いた声だけだった。
ボクはつなぎに一瞥をくれたが、特に変わったこともなく順調に準備を進めている。
とても静かになった。
なんかボクも次の句を発するタイミングを逃してしまったようだね。
しばらく静寂は続いていく。
○死○
まあ、本当はこれ以上なにを言おうとかもなかったんだけど。
一応ね。やった方が確実性も増すというものだ。
「あー、言っとくけど最終的な判断は皆さんの一存に任せるけど。
参加自体は絶対事項です。逃れることはできませんよ、皆さんの人権なんて今となってはあってない様なものですし」
と、ボクは先ほどのファイルから一枚の紙の抜きとる。
名前は、「長谷川祐治」。さっき死んだ長谷川祐治くんのプロフィールなどだ。
名前のところには、ちゃんと彼の字で「長谷川祐治」と記入されている。
「たとえば、これはさっき見せしめとなってもらいました長谷川祐治くんのものですが、
見ての通り……って言っても分からないかもしれませんが、彼の字で、彼の血液で判が押されてます」
ふむ。
ここまでの無反応をみるとどうやら信じてはもらえているようだな。
まずまずの好感触。
「で、ここからは敢えて言うまでは無いかもしれませんが、一応これも利用して皆さんの住民票とか抹消してもらってます。
あれですね、強いて言うならば海外へ引っ越した、みたいな扱いにさせてもらってボクとしてもちょっと頑張っちゃいましたね」
いやいや、そんな敵意の目を向けられてもな。
ボクにだっていろいろ事情はあるんだよ。
「ですので、仮に逃げたところで暮らせる場所なんて無いですよ?
ていうか逃げる以前のもんだが色々と山積みではあるって先に言っておきますけれど」
完全に沈黙。
おーい。皆さん生きてますか―?
まあ…………どうでもいいや。
説明を続けようかな。
「別に無償でやれとは言ってない。別に人権すら剥奪さした皆さんへそんな気遣いは本来無用なんでしょうが、まあボクは優しいので。
どうでしょう、一つ。最後の一人まで生き残った者……この場では優勝者としましょうか。その優勝者には《ご褒美》を授けたいとボクは思っています」
実際言っちまえばボクは基本的になんでもできる。
《超能力》を使える一賊。人無一賊。
その中でボクは《催眠術》がずば抜けているだけで、《物質移動》なり《回復》なり効力の多少はありども何でも使えたりする。
そして、つなぎだって《呪縛》さえ解ければ――――――――。
「むろん、《死者蘇生》、《大金の贈与》、《一生の保障》何でもいいですよ。お応えしましょう」
この言葉を吐いた瞬間。
ピク、と顔を揺らす人間がちらほらと。
現金な奴らだな、本当。
ま。
どうでもいいんだけどね。
ともあれだ。
「まあ説明は以上です。
これから皆さんがどんな行動を起こすかまではこちらの知る由ではない」
その通り。
何でも使える―――と先ほどは調子づいてしまったが、
《未来予知》だけはどうにも苦手で、中々上手くいかなかったりする。
《時間移動》といい《未来予知》といい、時間がキーとなる《超能力》は苦手なんだよ、ほんとにもう絶望的に。
そんな事を思いつつ、言葉を繋ぐ。
「さながらジェットコースターのように急展開に巻き込まれるかもしれない」
数人がジェットコースターに目をやる。
「さながらお化け屋敷の様に常に冷や冷やさせられる心臓に悪い展開が訪れるかもしれない」
数人がお化け屋敷に目をやる。
「さながらメリーゴーランドのように穏やかに生き過ごせるのかもしれない」
数人がメリーゴーランドに目をやる。
「さながらコーヒーカップのようにくるくると激しく動き回る展開を起こすかもしれない」
数人がコーヒ―カップに目をやる。
「さながら観覧車のように誰とも関わることもなく孤立した時間を過ごすのかもしれない」
数人が観覧車に目をやる。
それ以外にも、各々が各遊具をぼんやりと眺めていた。
案外現実逃避の一環かもしれないし、実際そんな光景を想像しているのかもしれない。
どうでもいいにしろ、そんな風にボクからは見える。
なんであれ。
これにて開演式はお終いだ。
「だが、安心しろ。それでも近くには常に死が待っている」
ボクは指を振って、つなぎに合図を送る。
「だから精々、己の私欲の為に、死欲の為に足掻いて見せてくれ」
そして。ボクは。唱える。
『転送行使。貴殿らをランダムに施設へ転送』
瞬時。
約八十近くの人影の輪郭が大きくぶれて、消える。
この場には。
二人しか残らなかった。
物静けさが、この場を数瞬支配した。
観客のいない遊技場に、ボクらは立つ。
【長谷川祐治@DOLオリジナルキャラバトルロワイアル:死亡】
【非リレーオリキャラオールスターバトルロワイアル:開幕】
【進行役:人無結】
【進行役:人無つなぎ】
○後○
人無つなぎという人物が対人恐怖症ってことはさっき言ったけれど。
その重大性についてまだ触れていなかったならさ、話しておこうと思う。
つなぎの対人恐怖症。
その事実だけで言うならば、まだいいんだ。
けれど、それが思わぬ形で副作用をもたらした。
人の前では、《超能力》が使えなくなる。
元をただせば、小学校の時に受けたしょうもない侮蔑言葉が始まりだった。
かねてからつなぎが繊細な心の持ち主だということはボクも知っていたけれど、
まさか高校生になっても引きづっているとは思うまい。
いや、正確に言うならば中学校のときには既に察し自体は付いていた。
けれどそれも一時期なものかとボクは甘く見ていたのだ。
だからボクはこれも一種の勉強でもある、と親に促されたのもあり放っておいた。
だけどその結果がこの現実だ。
治る兆しは愚か、日に日に人前で《超能力》は使えなくなていく。
先ほど、ボクが合図を送ったのは、《一体化》。カタカナで表すならばフュージョンなのだろうか。いやシンクロって言った方が適切かなあ?
ともあれ。魂をボクの身体に預け、彼女自身の持つセンスで《超能力》を発動させて《転送》を唱えたのだ。
余談だが、《超能力》は《魔法》とは違うので、ようするに当人の有するセンスによって使えるのだ。魔力の類も必要ない。
だから極めればそこら辺にいる人たちだって使える。少なからずそれはボクの中で教わってきたこと。
さてここまで話して、分かる人には分かっただろうか。
別に人無つなぎは決して《超能力》自体が使えなくなった訳ではない。
彼女は、彼女自身のままで人前で《超能力》が使えないのだ。
理由は先ほど言った、侮蔑言葉から。
理由は簡単。
自分に自信が持てないからだ。
無論のことボクは頑張った。
たとえば、自信を持たせる言葉を掛けたり。
たとえば、一緒に《超能力》を使ってみたり。
たとえば、《催眠術》で頑張ってみたり。
とにかくありとあらゆる手を尽くして、
ボクはつなぎの意欲を、自信を上げてゆこうと頑張った。
けれど。
それでもその努力は虚しく。成功が訪れることは無い。
それは、医者にも宣告されてしまった。付き合いの長い医者だ。嘘を言うはずもない。
《回復》の《超能力》は精神的なものでは作用しない。それはどちらかというと《催眠術》の立ち位置だ。
もはや打つ手はない。
もはやどうしようもない。
だから両親はこう言ったのだ。
「結、お前には言っておこう。実を言うとな、このままではつなぎを人無一賊から追放せねばならん」
「結ちゃん。お母さんたちだって悔しいの。………けどね、『満足に《超能力》を使えない子に用は無い』ってのが人無一賊の言い分なのよ。
とてもじゃないけれど、お母さんたちに逆らえるほどの権力も実力もないの。………分かって頂戴……。結ちゃん」
涙ながらに、母さんはそう告げて、隣では父さんは苦虫をかみつぶしたような顔をしているのをボクはまだ覚えている。
漫画とかだったならば、例えば親をその場で虐殺して、なにも知らない妹の手を引いて家出などをする場面だろうね。
けれどボクには出来なかった。
家族が―――大好きだからさ。
無論妹も例外ではなかった。つなぎだって、ボクの家族だ。
だが、両親の言うように、ボクらにはどうすることにも出来なかった。
当人の問題である以上、過保護すらも出来ない状況に、ボクは身を悶え悩まされてきたね。
それでも、時間は刻一刻と迫ってくる。
両親も今まで以上につなぎを愛でて、愛し、苦しんだんでしょう。
つなぎからの苦情も来た。
ボクもそうして半ば諦めかけていたある日のこと。
ボクはふと、悪魔のささやきを聞いた気がしたのだった。
『自分を上げるのが無理ならば、他人を落としてみればいい』
そんな、言葉を。
そんな、幻想を。
嫌に頭に響く、憎たらしくもありがたい声だった気がする。
そして―――ボクは、それを一旦信じてみることとした。
理由なんて言わずもがな。
ボクとしては他者なんて関係ない、家族だけがいればいい。
少なからず、当時のボクはそれを信じて疑わなかった。
だから……。
だからこそボクはこの『バトルロワイアル』を思いつくに至った。
全ては、家族の為に。
仮初でも構わない。
虚実でも構わない。
妹が立ち直ってくれるなら、ボクは何でも致そう、と。
他者の犠牲など、どうでもいい。
ボクは、ボクであるために、妹を救う。
だから、皆さま。
どうにか精々醜く争ってくれ。
どうにか血生臭く戦ってくれ。
どうにか、《他者》のランクを盛り下げてくれ。
その為の《バトルロワイアル》なのだから。
ボクは、愛する妹の耳元で囁く。
「大丈夫だよ、つなぎ。直ぐにお前がこの世で一番だって思ってくれるよ」
これは―――――自分勝手な、自由なバトルロワイアル。
正しくそれは、ボクのためのバトルロワイアル。
【オリキャラ情報】
【名前】人無結(じんない・むすび)
【性別】男
【年齢】18歳
【職業】高校生、超能力者
【性格】家族命、他者に対しは冷たいが、家族に対しは熱血。時間にルーズ
【好きな物・事】家族、ハンバーグ、アニソン、親孝行
【嫌いな物・事】家族を貶す者、人肉、クラシック、親不孝
【特殊能力】《超能力》
【趣味】親孝行、妹と戯れる
【備考】
人無つなぎの双子の兄。今回の件の主催者でもある。
《超能力》を操る一賊、人無一賊の者。
《超能力》は《催眠術》を筆頭にほぼ全て満遍なくこなせるが、《時間》に直接関わるものは苦手とする。
【名前】人無つなぎ(じんない・つなぎ)
【性別】女
【年齢】18歳
【職業】高校生、超能力者
【性格】対人恐怖症、繊細
【好きな物・事】?
【嫌いな物・事】?
【特殊能力】《超能力》
【趣味】?
【備考】
人無結の双子の妹。今回の件の主催者でもある。
《超能力》は家族以外の人前では使えないが、《一体化》なら辛うじて使える。
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最終更新:2013年01月30日 22:29