芽を出せば再び廻るカルマ

「……………え?」

A-1エリアの病院内、とある個室のベッドの上で彼女――三瀬笑子は目を覚ました。
しかしその口を突いて出た言葉は恐怖ではなく、自分が此処に存在しているという事実に対する驚愕であった。
有り得ない、と笑子は思う。
肉体を潰されて生きていられる人間など現実には居ない、仮にそんなびっくり人間が存在したとしても、三瀬笑子という少女にはそんな特異な体質をしているなんて驚愕の事実など用意されている筈もない。
なら、どうして自分は今此処に生きているのか?
体には傷痕一つないが治療云々の前に彼女の体は文字通り完全に、生存の余地なく破壊されていた筈だ。
化け物――あの青い鬼のように、自分もそんな存在に成り果ててしまったのだろうか?
しかももっと最悪なのは、百歩譲って自分が生き返ったとして、どうしてまた殺し合いをさせられる羽目になってしまう。
笑子は生涯、古川正人との劇的な出会いも含めて波の多い人生を送ってきたが――どうやら、自分は余りにも壊滅的な不幸を抱えているようだ。
神様に嫌われている。そうとしか思えない人生の袋小路で、笑子は一人その体を恐怖に震わせた。

瞼を閉じれば蘇る、最愛の恋人と過ごしたかけがえのない人生。
不良から助けて貰うところから人生が変わって、彼には一生かけても返せないほどの恩を受けた。
しかしあの日、喋る熊のぬいぐるみに殺し合いなんてものをさせられて――そこから、人生が終わった。
最期は恋人の背後で、得体の知れない青い鬼の怪物に無惨に殺されて終わった。
結局あの後、古川正人がどうなったのかは笑子には分からない。
けれど、彼が笑子を深く愛してくれていたことは笑子自身が誰よりもよく知っている。
きっと、彼もまた自分のように―――。

「正人」

譫言のように、だが助けを求めるようではなく、恋人の名前を呟いた。
願わくば彼の顔をもう一度見たい。しかし自分にはもう一度立ち上がるだけの強さも残っていないのだ。
もう一度会えなくともいい。
只、何でもいいから彼の顔を一目見られれば今の三瀬笑子には十二分であった。
一度死に、そしてもう一度絶望の中で目を覚ます――そんな数奇な運命を辿った少女は、今此処に壊れかけていた。
当然の話である。まだ人生を半分も生きていない少女が本来経験すべき修羅場を越えた数に相当するだけの絶望を彼女は経験したのだから。
これで平気な顔をして動き回れる方が異常というものだろう。

「正人…………っ」

重圧――死と生、そして一度死んだ自分が生きているという事実が、重圧となって重く彼女の心を苛む。
案外ここは死後の世界だったりするのかもしれない。
そんな、滑稽すぎることでも妄想していなければやっていられない程に、潰れそうで。


―――だから、病室の入口に立つ緑髪の女性にも、気付くのが一瞬遅れた。
   その手に持つ黒光りする殺意の塊を見ても、その意味をすぐに理解することが出来なかった。
   理解した時にも、何故だか蛇に睨まれた蛙のように身動きが取れなかった。


「………ごめんなさい。私は生きなきゃいけないの」
「え…………?」

実感が湧かない。
これから自分が死ぬのだという事実を突きつけられても、体が反応してくれない。
どこかで自分が程なく辿るであろう運命を受け入れてしまっている。
死にたくない。そう思っているのに、何故だか体は動かずに。
不思議そうな顔で、襲撃者の女性を見つめることしか出来ずにいた。
だが皮肉なことに、笑子の生んだ行動が、僅かながら彼女の寿命を延ばすことになった。

「……もしかしてあなた、この状況を理解できてないのかしら」

その言葉には、どこか同情の色が含まれていた。
そう、目の前の女性は決して無機質無感情な殺戮マシーンではない。
人並に罪悪感を感じ、人並の暮らしを願う、バトルロワイアルがなければ何処にでも居そうな普通の人間。
ただし――彼女の場合は、他の参加者と少し事情が異なっているのだが。

そして――彼女は、己の同情心に足元を掬われることになる。


「ガアアアアアアアアアア!!」
「ちっ」

突如女性に真横から跳びかかる黒い狼。
そしてそれを間一髪で、しかし掠りもせずに躱して見せる女性。
笑子は呆然とそれを見つめている。
恐らく自分はあの黒狼に助けられたのだろう、と、やっと冷静さを取り戻し始めた脳で理解する。
暫く二人は睨み合っていたが、先に折れたのは女性の方だった。
黒狼の身体能力は彼女にとって脅威だったし、女性の持つ銃は引き金一つで黒狼に手痛いダメージを負わせられる。
どちらもそれを――互いが互いの命を握っていると知った上で、ここは互いに見逃すことを暗黙に了承した。
言葉もなく、二人は短い邂逅を終了する。

「………えーっと、大丈夫?俺はレックスっていうんだけど」

こくり、と頭を振り、笑子もまた名乗る。

「私は、三瀬笑子」

まだ立ち直ってこそいなかったが、確かにそう言った。


【A-1/病院/一日目/朝】


【三瀬笑子@DOLバトルロワイアル2nd】
[状態]:健康、軽度の呆然自失
[服装]:特筆事項なし
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:???
1:とりあえずレックスさんと会話する。
2:正人に会いたい。
3:私は死んだはずじゃ………?
[備考]
※DOLバトルロワイアル2nd死亡後からの参加です
※名簿を確認していません

【レックス@新訳俺のオリキャラでバトルロワイアル】
[状態]:健康
[服装]:特筆事項なし
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:殺し合いはしたくないが、襲ってくる奴には容赦しない
1:笑子ちゃんと情報交換を行う。
2:緑髪の女に警戒。
3:葉月を探す。
[備考]
※新訳俺のオリキャラでバトルロワイアル、開始前からの参加です



「ちぇ………いきなり逃がしちゃったわね」


舌打ちをして、悔しそうに緑髪の少女――新藤真紀は病院を出る。
あんな強そうな黒狼を相手にするなんて二度と御免だし、ましてや正面からなんて論外だ。
真紀は殺し合いに乗っていた。
彼女が殺し合いに参加するのは、三瀬笑子とは別のベクトルで二度目であった。
彼女は一度バトルロワイアルに参加させられ、そして多くの人間を殺めた末生還している。
多くの咎を背負いながらも生きていく決意をしたところで、まさかまた殺し合いなんてものに参加させられるとは。

「迷惑極まりない」

しかも何故だかは分からないが、前回の殺し合いで死亡した筈の名前が名簿に記載されている。
死者が生き返るなど有り得ない――そんなことは小学生でも分かるだろう。
だがここで主催者の二人に嘘を吐いてメリットなんてものが存在するとも思えないのが現状だ。
罪を償う為に殺し合いに反逆してでもいれば、もしかしたら救いがあったかもしれない。
けれど、新藤真紀は再び殺し合いに乗る事を決意する。
生きるために、生き抜くために――――此度の殺し合いも征することを。

「生きてやる。みっともなく足掻いてでも、無様に生き抜いてやるわ」



【新藤真紀@俺のオリキャラでバトルロワイアル】
[状態]:健康
[服装]:特筆事項なし
[装備]:ベレッタM92(15/15)
[道具]:基本支給品一式、ベレッタM92予備弾薬(30/30)、ランダム支給品1
[思考]
基本:生きるために殺し合いに乗る。
1:とりあえず目についた参加者を殺していく。
2:ただし、強そうな人物にはなるべく関わらないようにする
[備考]
※本編終了後からの参加です



支給品説明
【ベレッタM92】
新藤真紀に支給。
世界中の警察や軍隊で幅広く使われており、現在はコルト・ガバメントに代わりアメリカ軍の制式採用拳銃になっている。なお、米軍では「M9」のモデル名で呼ばれている。



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GAME START 新藤真紀 043:亡國昏睡カタルシス
GAME START レックス 042:怒りの行き先
GAME START 三瀬笑子 042:怒りの行き先

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最終更新:2012年04月15日 15:28