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一陣の風が吹き抜ける。
冷たい空気のうねりが素肌を撫でるようにまとわりつき、どこか心地好い。
殺し合いなんていうふざけた場所でも、我らが世界は平常運転だ――と、少女は笑った。
天王寺深雪、そんな仮の名前を持つ少女が、一人殺し合いを開始しようとしていた。
長い銀髪、年相応の比較的小柄で貧相な体格。年齢にして13歳の深雪は、早い話殺し合いを打倒する気もないし、全員を殺して勝ち抜こうなんて野心も持ってはいない。
彼女からすれば、自らの命など所詮は二の次でしかないのだから。
白鷺教―――とある内部抗争によって分裂した新興宗教の『過激派』、その鉄砲玉。
教祖、阿見音弘之の為に命を擲つような無茶な仕事さえ嫌な顔ひとつせずに受け入れる。
ある雪の日、捨てられた自分を拾ってくれた人物への恩義を果たすために、ただただ盲目な好意だけを向け続ける―――そんな彼女が執る道など、最初からたった一つしかないだろう。

「阿見音様……必ず、この深雪が生き残らせて差し上げます……」

阿見音弘之の名が名簿にあった時点で――いや、無くとも彼女はそうしただろう。
白鷺教の為に、あの教団を守るために戦わなければならないのだから。
信ずる者こそ救われる、そして戦った者こそ多くの救いを敷くことができる。
教団が掲げるその教訓が全ては『もっともらしい』だけの建前であると知らずに、ただ遂行する。
自らの神聖視する者は、只の腐れ外道だとは思いもせずに、何処までも盲目に戦うのだ。
右手に握ったイングラムが、手に馴染むような生活にも何一つ疑問を抱かずに、生きてきた。
これからも治ることはないだろうその盲目な信仰を抱えたまま、彼女は殺し合いに臨む。

「………あは、あははは」

狂ったように漏れ出す笑い声。
だがそれは誰がどう聞いても無理をした、芝居がかった笑い声でしかない。
天王寺深雪という少女は、所詮は中学一年生の世の中のイロハもろくに理解していない小娘だ。どれだけ盲目な信仰心を持っていようと、未だ深雪は『機械』になりきれていないのだ。
だから人の命の尊さを無駄に理解している――それが、彼女の欠点。
阿見音はそれを把握していたから、深雪が行った仕事には破壊工作ばかりが並んでいる。
人を殺させたことはないし、無駄に手駒を一人壊してしまうのもまたいただけない。
阿見音弘之の緻密な計算で生かされているに過ぎない幼い心が、この殺し合いでどう動くのか。
当然、普段慣れていないことをさせて成功するなんてことは『難しい』。
自暴自棄になろうが、狂ったふりをしようが、結局、理性のある戦士では修羅に落ちられない。
狂戦士としての器には足りず、戦士としても未熟すぎる子供でしかないのだ。
勇気のリミッターこそ完全に破損しているが、その中途半端な善の意識が災いする。

「阿見音様、阿見音様、阿見音様、阿見音様」

きゃははははっ、と少女期特有の甲高い笑い声をあげて、曲がり角。


―――どんっ、と。20歳前後と見られる青年と盛大に衝突した。




「痛いなぁ……っと、すみません。お怪我はありませんか」
「っつ……っ!!」


盛大な尻餅をつく二人――まるで一昔前の少女漫画のような展開ではあるが、そんなに牧歌的ではない。むしろ、殺し合いでの出会い方としては最悪だったかもしれない。
しかも、片方は殺し合いに乗った殺人者もどきだ。
右手にはしっかりと、殺意の塊を放出するマシンガンが握られている、まさにこの状況は青年にとって本来『詰み』と言ってもおかしくはない、そんな絶望的な状況だった。
目を白黒させる深雪であったが、すぐに自らのやるべきことを思い出して立ち上がる。
射殺する。
何もイングラムのようなマシンガンを扱うのは初めてではない。
何度も何度も何度も、気の遠くなるような訓練で扱い慣れているくらいだ。
これが支給されたのは完全にラッキーだったとさえ言える。
引き金を引けば、直ぐにでも殺意の塊が嵐のように放出されて青年を蹂躙するだろう。
頭を狙えば、きっと原形も留めぬまでに破壊されるはずだ。
銃口を、その胸板に強く押し当てる。絶対に外さぬように、より確実に殺すために。
無言。不気味なまでの無言が、深雪の緊張感を更に高める。
しかし――――沈黙を、青年の盛大な溜め息が切り裂いた。

「…………?あなた、自分の立場分かってるの?」
「ええ分かってます……―――――紛れもない、絶対的な優位ですよ」

びくっ、と。
緊張に強ばる体が一瞬だけ痙攣した。
深雪の目指すところ『機械』には程遠い、とても人間らしい反応。
ハッタリだ。深雪は自分の心に――得体の知れない感情を告げる心に、必死にそう言い聞かせる。
有り得ない、たとえ仕込み刀の類なんかを持っていようと、イングラムの引き金を引く動作を止めるには余りにも、致命的に足りない。
何を臆するか、此処で有無を言わさず引き金を引けばそれで終わりなのだ。
零距離でマシンガンの銃弾を受ければ、どんな超人とて只では済まない。
ましてやこの青年、筋骨粒々な訳でもない下らない何処にでも居そうな男、警戒にすら値しない。
もしも初撃の動作を封じられようが、優位は崩れない。

(殺せ、殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ――――!!)

脳内をリピートする、殺してしまえという命令。
阿見音が見たなら、失望してしまうかもしれない。
自分を捨てて、再びあの孤独に戻されるのかもしれない。
殺せ。自分の居場所を守るにはそれしかないのだから。
殺せ。自分にとっての神の為に破壊の雨を吹き荒らせ。
殺せ。理由なくとも。
殺せ。自分の都合で、誰のためでなくともただ殺せ。
今更罪などと謳うな罪人風情、罪人は罪人らしく罪の道を全うしろ―――!!

「ほら、私の優位です。もしもこの場で私が貴方の体を蹴り飛ばしでも、その物騒な銃を吹き飛ばしでもして、貴方の首を絞めでもすれば私はもう『貴方を殺している』」

ぞくっ、と背筋が凍る。
いわば、破壊に特化しすぎて人間を相手取らなかったこと。
それが天王寺深雪の弱点であり、同時に狂いきれなかった要因でもある。
こいつは殺す。
深雪は今度こそ、確かな意志で決断するが―――指先は痙攣し、まともに動いてくれやしない。
その痙攣が全身に回るのに時間は掛からず、痙攣が続くうちに深雪の中の何かを蝕んでいく。
存在意義を、機械として積み重ねてきた訓練を、破壊の技術を――全て忘れ去るほどに。


気持ち悪い。
自分の体を苛む得体の知れぬ痙攣が、気持ち悪い。
自分の生命線である銃を取り落としたことにさえ気付かずに、全身を駆け巡る震えに戦慄する。
そして気付く。
これが――純粋な、恐怖から震えているのだと気付いてしまう。

「あ、あ」

がくん、と膝の力が抜けて、地面にへたり込む。
自己を苛み続ける震えの正体を知った瞬間、深雪の中の何かが完全に崩れ去った。
イングラムを拾うことさえ忘れて、阿見音弘之の顔が脳裏に浮かぶ。
助けて欲しい。素直に、まるで泣き叫ぶ子供のように、深雪はそう思った。
だが、どうだろう。
阿見音にとって、只震えることしか出来ない無能な子供などが、果たして必要なのか?
破壊の技術を如何に積もうが、恐怖なんて幼稚な感情を捨てきれない人間は、不要なのではないか?
恐怖――ただし、青年に対するものよりも遥かに大きい。
それが、天王寺深雪という少女にとって――最大の、負の感情だった。
そんな深雪を見て、再び深い溜め息を吐き、青年は左手で静かに顔面を覆った。

「ったく、こんな子供まで巻き込むたぁな……許せねえ、人無」

遅れたが、彼の名前は鬼一樹月という。
外見こそ20歳にも満たぬ若造だが、その実年齢は優に四桁を越える年数だ。
彼の正体は妖怪『鴉天狗』。
普段は温厚な善人であるが――本気で怒れば、凄く怖い。
その樹月が、今この現状に対して―――言い知れぬ、激しい怒りを覚えていた。
人無の二人に事情があるかどうかは知らない、もしかすれば並大抵ならぬ事情があるかもしれない。
だが、それとこれとは話が別だ。
自らの目的の為だけに大勢を犠牲にするなど、どう考えても許されるものではない。
樹月は、怒りを抑え込んで目の前の少女に目をやった。
「さて……と」

まさか放っておくわけにもいくまい。
置いていくことで、安全性だけは確保できるだろうが……樹月は、善人であった。
此処で天王寺深雪を放置して立ち去るなど、選択肢の中にさえなかっただろう。
それに、どうせこの少女には人は殺せない。
無理に鍛えた心が、逆に不安定さを浮き彫りにしてしまっている。
強さゆえの弱さ、というやつだろうか。

(まあ、暫くはまともな話は聞けそうにありませんか……仕方ない。落ち着くのを気長に待つしかないようですね……せめて名前くらいは知りたいものですが)

座り込む深雪の瞳には当に光というものは無く、茫然自失を体現したような有り様。
その体は意外にも無抵抗で、仕方ない仕方ないと自分に言い聞かせながら樹月は深雪を背負う。
歳の割に軽いその体重に、これならさほど行動に支障もでないだろうと安堵しつつ。
何処か体勢を立てられそうな場所を探そう――と、鬼一樹月は歩き出した。


【C-6/路上/一日目/朝】


【天王寺深雪@愛好作品バトルロワイアル】
[状態]健康、茫然自失
[服装]特筆事項なし
[道具]基本支給品一式、イングラムM10(40/40)、ランダム支給品×2
[思考]
基本:……………
1:私は…………?
[備考]
※ロワ参加前からの参加です


【鬼一樹月@オリキャラで俺得バトルロワイアル】
[状態]健康
[服装]特筆事項なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品×3
[思考]
基本:殺し合いを潰し、主催者を打倒する
1:何処かで体勢を立てる
2:少女(天王寺深雪)が落ち着き次第話をしたい
[備考]
※ロワ参加前からの参加です
※能力の制限に関しては後続の書き手さんにお任せします


支給品説明
【イングラムM10】
天王寺深雪に支給。
アメリカ製の短機関銃である。小型であるためマシン・ピストルに分類されることもある。


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GAME START 天王寺深雪 041:何遍でも迷って、行き止まって
GAME START 鬼一樹月 041:何遍でも迷って、行き止まって

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最終更新:2012年04月02日 23:24