「……………」
紅い髪をした狐獣人の少女が、全く感情の波を感じさせない無表情で只、進んでいた。
いや、"進んでいた"という言い方は適切ではない、彼女は何も目指さず『徘徊』しているだけなのだから。
彼女は何も求めはしないし、何も惜しみはしない。
死んだ魚のように濁った瞳と不気味なまでの無表情で、少女は徘徊していた。
彼女―――
小神さくらは、只自らの役割通りに行動する殺戮マシーンである。
『死体から生体兵器を生成する技術』によって製造された『元』人間の、生体兵器。それこそが小神さくらの正体であり、同時に全てでもあった。
そんな彼女は、この殺し合いゲームを経験するのは二度目である。
一度目は、兵器の試験的導入実験がてらに投入され、見事なまでの戦いっぷりでダントツの殺害数を誇って他の参加者達を脅かし、最期は数人の参加者の猛攻の前にあえなく倒れた。
そして今回、本来有り得ぬ筈の『二度目』の殺し合いゲームに、再び小神さくらが参加する。
前の殺し合いで負った多数の大傷も致命傷となった筈の傷も跡も残さず消えて、完全な肉体だ。
死者を兵器とする以前に、死者を完璧に蘇生させる謎の技術。
そんなある意味では夢のある話も、小神さくらの兵器としての脳髄には何の変化ももたらさない。
話を戻すと、結論から言って大方の予想通りに、彼女は今回も殺戮行為を執り行う。
「……………」
兵器としての役割通りに、何の情も与えずにただただ殺していく。
彼女に良心の呵責なんてものを期待するのは間違いであり、そもそもそんな期待にさくらは応えない。
彼女はどこまでも兵器で、人間の形こそしているがその中身に人間らしさなど皆無である。
僅かな感情こそあれど、結果的にそれは彼女の根幹を揺るがすには至らない。
恐怖もなく、動揺もなく、慢心もなければ怒りに我を失うなんてこともあり得ない。
それは―――『前回』の殺し合いで十分に証明された、揺るぐことのない事実である。
「……………」
自己を鼓舞する独り言の類も、更には寂しさや恐怖を紛らわす言葉も発せず歩いていく。
表情の動きもなく、その無機質とさえいえる姿と振る舞いはまるで精巧なロボットのようでもあった。
彼女は名簿の確認を既に実に機械的に済ませてしまっているが、それはあくまで自らが今回殺戮する対象である参加者たちを『機械的』に確認するだけで、一つ一つの名前など彼女の眼中にはない。
そう―――かつて自らに激闘の果てに引導を渡した老人、
額賀甲子太郎の名前も確認はしたが、『以前自分を殺した』とは記憶していれどそこに個人的な感情は一切関わってこないのだ。
余談だが彼女が兵器といえども、自分の死後に甲子太郎が死んだことなどは知らない。
興味を抱く、という曖昧な感情さえまともには抱かないさくらには、死者を蘇生させる技術なんてものにも甦った亡者たちにも興味はないため、知ったとしても何も変わりはしなかったろう。
全てを何の意味も意志もなく、冷たく機械的に殺戮していくのみだ。
それしかなく、それを徹底的なまでに極められた存在、それこそが小神さくらである。
「…………」
デイパックを開き、やはりとても無機質な動作で自らの支給品を確認する。
前回のゲームで用いたような武器があれば良かったが、どうも今回の武器はたった一つのようだ。
クロスボウ、狩猟などに用いられる比較的古風な射撃武器である。
とはいえその殺傷力は侮れない、少なくとも人間の頭蓋くらいは易々と貫くだろう。
さくらは右手にクロスボウを持ち、それ以外に武器がないことを確認するとデイパックを閉じる。
ボウガンで銃を持った相手などを相手取るのは危険極まりない行為だが、それも杞憂の心配。
『兵器』であるその肉体は多少のダメージでは揺るがず、例え腹が破けようと止まらない。
まさに、何の比喩でもなく殺戮マシーン。
故に小神さくらという兵器に救いはなく、きっと救いという概念さえも存在してはいないのだ。
「…………」
迫っていく。
さくらの進む先に居るとある人物たちとの邂逅は、近い。
邂逅と呼ぶに相応しい結果になるのか、それとも只の一方的な虐殺に終わるのかは分からない。
只一つ確かなのは―――その未来には『和解』の文字は、無い。
■ □ ■
小神さくらという少女であり兵器である存在が向かう先で、一人の青年が顔をしかめていた。
何かを思案しているその表情は真剣そのもので、何処か切羽詰まった様子にさえ見える。
声を掛けられない空気、というのはまさにこういうことなのだろう。
青髪、実年齢の割には少年らしさが残留した童顔の青年は、事実かなり重要な決断を迫られていた。
彼の名は
早野正昭、小神さくらと同じく殺し合いの『経験者』である、そして同時に、これまた彼女と同じく一度命を断たれた『死者』でもある。
彼の最期はまさに凄まじいもので、徒党を組んで殺し合いへの反抗を掲げていた仲間たちに保身の為反旗を翻し、大勢の仲間の命を奪って結果正昭自身も殺害された。
呆気ない、あっという間の出来事と言っても何も間違ってはいないだろう。
その正昭は今――前回の最期を考慮して、その上で殺し合いでのスタンスを決めようとしていた。
幸か不幸か死ぬまでの記憶はついさっきのことであるかのようにその脳に刻まれている。殺し合いへの知識と、一度の壮絶な経験を持ち越せているのは、ある意味ではアドバンテージにもなりえる。
乗るか、それとも乗るまいか―――葛藤が、正昭を支配していた。
(どうしろってんだ……けど、生き返れたのはまさに奇跡だ)
本来、死者が生き返るなんてことはまず有り得ないことだ。
ある種死者への冒涜とさえいえる行為であるが、正昭はそういったことを気にする性質ではなかった。
これは幸運、まさしく天文学的な確率でしかもたらされない幸運なのだ。
蘇った先がまたも殺し合いというのは戴けないが、それは贅沢ってものだろう。
そして、その本来有り得ぬ奇跡をどう活かすかが早野正昭の運命の別れ道。
死か生か、天国か地獄か――――、たった一つの決断を誤っただけで最悪の結末を辿る訳だ。
(…………どうせ、地獄行きは決まってるんだけどな)
自嘲的な笑いをこぼし、早野正昭は頭を掻く。
何度も言うが、普通なら死者は生き返らない。
正昭が生き返れたのはまさに奇跡、そして全員が全員その恩恵を受けているなど有り得ぬ話だ。
正昭が殺した仲間たちが生き返っているなんて保証はないし、世の中そんなに甘くない。
早野正昭は只の下らない殺人鬼で、仲間殺しの咎を背負う只のクズでしかない――と、自嘲する。
そんな人間が救いを求めようなどおこがましいし、むしろ救われてはいけない。
たとえどんなに罪滅ぼしを続けようが、赦される罪ではない。
逆に言えば、どんなに罪滅ぼしをしようとも無駄なことで、そうするくらいなら罪を重ねて、悪徳と悪逆と暴虐と卑劣と暴挙と殺戮と虐殺を続けて堕落した方がきっと、心地好い。
無理をして無様な偽善に浸るよりも、いっそ真性の悪人に堕ちてしまうべきだろう。
が、それでいいのか。
最低の裏切りの果てに間抜けな最期を迎えたクズの謗りを受けたままで本当に、いいのか。
もう光の道には絶対に戻れないし、正昭自身も戻ろうとは思わない。
だが、何かを変えられないとは、限らないのではないか。
「殺し合いを……潰す……?」
確かに早野正昭には、この厄介極まりない首輪の呪縛を破れる可能性がある。
前回だって、狐獣人のとある少女と途中までは得意のパソコンで奮闘していたと記憶している。
が、その先に待っているのは勝ちであるとは限らない。
もしかしたら、いくら正昭が戦おうとどうにもならない巨大な壁があるのかもしれない。
だとすれば、自分のした事は正義でもなんでもなく、悪戯に希望を振り撒く只の詐欺だ。
どうする。
自分か他人か。どちらにしろ、状況は限りなく絶望的な状況である。
正直な話、正昭がどれだけの奮闘をしようがこの絶望は覆らないのではないか、とさえ思う。
いや、確実にどうにもなりはしないだろう。
仮に強固な主催の城壁を崩せたとしても、自分たちを制圧するには機関銃で武装した黒服の男たちでも呼べば事足りる話なのだ―――壁は一枚ではなく、まさしく無数の絶望が張り巡らされている。
ははは、と渇いた笑いが漏れ、正昭は笑い出す。
結局、未来は袋小路。
――――罪人に、救いなどありはしないのだ、と。
そろそろ決めよう、と正昭は何処か冷めた感情で思考した。
その瞳は何の希望も映さず、ただただ底なしの絶望に飲み込まれ、疲弊しきっている。
乗って罪を重ねるか、抗って罪に購うか。
あるかも分からない未来を思い描いて、やがて早野正昭は一つの『答え』を選び取る。
それが正昭にとって誤った答えだとしても、彼は選び取った。
□ ■ □
「ふざけやがって……また、殺し合いだと……!?」
電柱を思い切り殴り付ける一人の青年の姿がそこにはあった。
精悍そうな顔立ちをしていたが、何故だか本来ある筈の殺し合いへの『驚き』が決定的に欠けている。『怒り』に燃えていることは誰でも理解できたろうが、やはり若干の異質さがあった。
理由は単純にして明快、彼もまた殺し合いにて命を落とした経験者だから、だ。
丹羽雄二。何の変哲もない日常を送っていた彼は、唐突にとある少女の主催する殺し合いに参加させられることになった。何も悪いことをした覚えはないが、まるで何かの罰のようだった。
結局殺し合うことはせずに、電波系の少女と共に行動していた筈である。
最期は拍子抜けするほど呆気なく、だが丹羽雄二という人間にとって満足な結果で終わった。
あの後、少女――
河田遥は、どうなったのだろうか。
無事に生き抜いてくれたのだろうか、それとも――考えたくないが、殺されてしまったのか。
それだけが、気掛かりだ。
だが――それもまた、どうやら杞憂だったらしい。
杞憂だった、と言えば何処か安心出来る響きではあるのだが、これは悪い意味での『杞憂』。
丹羽の手で握られている名簿には、一つの名前がある。
絶対にあってほしくない、だがどんなに目を背けても変わらない現実として、確かに存在していた。
――――――――『河田遥』の名前が、確かに確認できてしまった。
「ふざけるな……どうなってんだよ、俺は生き返ってるし、河田まで……」
理解不能―――この四字熟語が、これほど似合う心境を丹羽は他に知らなかった。
間違いなく確実に死んだはずの自分が今ここに存在している、それだけでも十分に理解の及ばない事象だというのに、まるで狙ったかのような河田の参加。
頭の中はしっちゃかめっちゃか、自分の常識の完全な外で進む殺し合いへの困惑を、ただやり場のない怒りとして叩き付けることしか出来ない自分を、丹羽は情けないと思った。
普段何時も眠気を放っている彼とは思えないほどに、今の丹羽には余裕というものがない。
無理もない話ではある。
丹羽雄二という青年は、ライトノベルの主人公のような波乱だらけの人生を送ってなどいないし、魔法や超能力が使えるなんて隠し設定も存在しない、普通に暮らしていた青年なのだ。
それが、死んだはずなのに蘇らせられ、挙げ句命を懸けて守った少女と共にまた殺し合い。
こんな状況で平然としている方が異常というものである。
(とりあえず河田……あいつを探す、絶対に死なせたりしない)
丹羽は困惑する自らを奮起させるかのように、走り出した。
拳を血が滲む程に強く握って、命を懸けた少女を守るために、当てもなく走る。
その先に待つ未来など一切考えることなく、がむしゃらに走る。
放り捨てた名簿を拾うことさえ忘れて、大の男がまるで創作作品の主人公のように、走る。
そして、程なく―――参加者と遭遇した。
◆ ◇ ◆
「はぁ……全く、どういうことなんッスかねえ」
溜め息混じりに、これまた一人の青年が呟いた。
しかし彼は殺し合いなんてものには一切関わったことのない――いや、未来はどうだったか分からないが――、才能溢れる野球選手である。名を、
大塚英哉という。
事の重大さを理解していない訳ではないが、やはり若者の軽薄さがどうしても緊張感を感じさせない。
一人の人間が、見せしめなんて下らない動機で殺されたことも、理解はしている。
しかしそこまでなのだ。それから先、怒りを燃やせる程の正義感が伴っていない。
普通の反応。
野球選手という特異な立場に居ようが、それは殺し合いなんてものには何も関係しないのだ。
「……誰か居ないんすか」
少しばかり不安そうに、英哉は呟いた。
そして―――「お前もこのゲームの参加者……みたいだな」
青髪の青年が、その声を聞き付けたのか英哉の元に駆け寄ってくる。
手には何も持っておらず、徒手空拳の達人というような体型でもない、何処にでも居そうな青年。
殺し合う気がないことは明白であることを理解した英哉は思わず笑顔をす。
英哉と年齢はさほど変わらないだろうが、その童顔の印象も手伝って少し幼く見える。
だがその瞳は何か、英哉とは確実に違う『芯』のようなものがある――疲弊した瞳であった。
その瞳を、何故だか英哉は『怖い』と生理的に考えてしまった。
「そうッスよ、俺は大塚英哉ッス」
俺は早野正昭だ、と青年は言った。
そして、英哉の首根っこを掴み――その直後、冷たい何かが、突き抜けた。
◇ ◇ ◇
早野正昭。
彼の選んだ道は単純明快に、『優勝』を目指してこの殺し合いを勝ち抜くことだった。
何故か。理由などは最初からたった一つである――彼が罪人であることが、その理由となった。
彼の目的は『自分が殺めた全ての人間を、賞品として生き返らせること』いわば、無にする。
正昭が暴走して殺したかつての仲間たちを、そしてこの殺し合いで殺した人物も、誰一人として例外なく自分と同じように蘇生させる。
言ってしまえば自らの罪を消し去ってしまうために、正昭は殺す決断をした。
罪を消すために罪を犯し、生き返らせる為に人を殺す――矛盾している。
しかし人間とは、案外そういうことには気付かないものなのだ。
自分の行う事がどれほどの悪事でも、どうしても人間という生き物は自分を正当化するもの。
殺し合いを経験していたとしても、早野正昭は人間だったのだ。
だから――結果、彼は大塚英哉を、自らが生きるための『盾』とした。
「あ……ぇ、何で、――――」
首を未だ掴まれたままの英哉の胸からは、銀色の矢が紅い液体を滴らせながら突き出ている。
口からもごぽごぽと音を立てて真紅の液体が溢れ出し、正昭の手を汚した。
英哉を『利用した』張本人である正昭はといえば、面倒なことになったと舌を打った。
盾となって未だ正昭に利用される英哉の向こう側には、紅の狐獣人の少女の姿が見える。顔だけ見ればなかなかの美少女だったが、その瞳はまるで死んだ魚のようで、それが全てを台無しにしている。
手に持っている武器がボウガンなんてものだったことは幸運だったろう。
もしもマシンガンなんかを使われていたら流れ弾に被弾しないとも限らないのだから。
矢を装填する時間が隙になる為、その隙を突いて攻撃することも可能ではあったが――正昭は、逃げることを選択した。
まず正昭の支給品は一本の木製バットである、接近戦で戦わなければならないというのはさすがに厳しい。
邂逅したばかりではあるが、狐の少女・小神さくらの危険性は十分にようく理解できた。
(…………逃げるか)
元より心臓付近を撃ち抜かれたらしい大塚英哉の体は既に生者のそれではなく、絶命した一体の死体となっている。
死体に気を遣ってはいられない、ここは悪いが盾としてもう少し利用させて貰おう。
さくらの矢の装填が終わる。精一杯ジグザグに走って逃げているおかげか、その射撃は正昭には当たらない。
運が良かった、と正昭は心の底から思う。
あれは何かが飛んでいる、あれが自分と同じ人間とはとても考えられなかった。
――――原因を作ったのは正昭であれど、人間一人を殺していながら、顔色一つ変えないのだから。
ゾッと、背筋を冷たい悪寒が這い回る気がした。
もうこれだけの距離を取っていればボウガンのリーチからは外れているだろうし、もしかすると少女から自分はもう見えていないのかもしれないが―――どうしても、体の震えが止まらない。
小神さくらへの恐怖もそうだが、そこにはまた別の理由もあって。
路地の突き当りで一人の青年と遭遇するまで、その悪寒が消えることは無かった。
【大塚英哉@夢オチだったオリロワのキャラでロワ 死亡】
◆ ◆ ◆
丹羽雄二は、その男の姿を確認した瞬間にその顔を強張らせた。
一度殺し合いを経験しているとはいえ、彼は幸か不幸か殺人者に一度しか遭遇していないのだ。
故に、血塗れでもう当に息絶えているであろう青年を片手で引き摺って歩く血塗れの人間など、見慣れている筈もない。
青髪に幼く見える顔、やけに疲弊した瞳、だが何よりも死体への恐怖というモノが決定的に欠如している。
その引き摺る死体を乱暴に投げ捨て、正昭はその顔を丹羽に向けた。
よく見れば彼ら――いや、彼と一体の屍が来た道には血がべっとりとこびりついている。さながらそれは凄惨な事故現場のようにも見えて、ひどく猟奇的な光景だった。
湧き上がる吐き気を堪えきれなくなりそうな丹波だったが、そんな隙をこの危険人物の前で見せてはいけないことくらい理解していた。
丹羽の姿を暫くじっと見つめていた正昭は、やがてそのまま、丹羽に向けて言葉を掛ける。
「気を付けた方がいいぞ、近くに狐獣人の女が居る……さっき襲われてな、そいつを盾にして逃げてきたんだ」
狐獣人?聞いたことのない単語に丹羽の脳内で疑問符が踊る。
だが、何よりも――平然と、まるで何でもない事のように語られた事実が、丹羽の心を揺さぶった。
人間を『盾』にして、逃げてきた。
そんなものは人間の所業とはとても思えないし、そんなことをするくらいなら死んだ方がマシだとさえ思う。
これが、殺し合い。
これが、殺人者。
これが――――人間、か。
丹羽の中から吐き気は何時の間にか消えて、何処か冷めた感情が沸き起こっていた。
前回の殺し合いでは殆ど殺人者と出会わずに殺されたが、それは本当に珍しいことだったのかもしれない。
これがバトルロワイアルの本質で、生き抜くための手段なのだ。
丹羽は殺し合いに今回も乗る気は今の所ないが、この青年はやはり、乗っているのだろう。
生き抜くために人を使って――そうでもしなければいけない理由など、推察に難くない。
「…………『ご褒美』が目当てなのか?」
疑問符などつける必要はなかったかもしれない。
生憎平和な日々を謳歌してきた丹羽は通り魔やら快楽殺人鬼なんかと関わったことは無いが、それでも何となく、目の前の青年が『そういう人間』でないことは理解できる。
殺人に何も思うところが無い訳でもない、だが叶えなければならない何かがある―――と言ったところか。
「ああ、そうだよ。俺は、生き返らせるんだ」
死者の蘇生。
夢物語のような下らない、つまらない話だと以前の丹波なら笑い飛ばしただろうが、今ではそれも叶わない。
現に丹羽雄二は、どう考えても助からない致命傷を負わされて間違いなく死亡した筈なのだから。
そんな夢のような話が、この世には本当に存在するということなのだろう。
そして丹羽は、思う。
『自分は、河田の奴が死んでもまだこんな日和ったことが言えるのか』―――つまり、自分にこの青年を糾弾する権利はあるのか、と。
分からない。
命を擲ってまで守った少女が、この上なく無惨な最期を遂げたなら、本当に丹羽雄二はそれでも願わないのか。
『褒美』―――それを手に入れさえすれば、救えるとしても?
それが本当に正しい事なのか、分からない。否、きっと答えなど最初から存在してさえいないのかもしれない。
何かを救うために何かを殺す、何かを救うために誰かの救いたいという望みを殺す。
そこにどれほどの差異がある?本質的には、何も違いなどないではないか。
「俺は一回この殺し合いを経験してる……その時に殺した仲間たちを、生き返らせたいんだ」
こいつも、経験者か。
道理で死体を引き摺って歩いていても平気な筈だ―――どうやら余程壮絶な物語があったらしい。
犯した罪の清算。その為に、新たな罪を犯す。
いや、この殺し合いで殺した人間も蘇生させるつもりか。
自らの罪を全て白紙にして、それどころか結果的には大勢の、彼が殺しただけの人数が殺し合いから帰れる。
都合のいい話だ、と丹羽は思う。
しかし、この青年を糾弾することはできなかった。
理由としては単純、『それが本当に間違ったことだと断言できない』からに尽きる。
「……俺も、こんな風に人を殺したのは初めてだよ……だから、正直きつい」
少しその顔を俯かせて、正昭は言う。
その様子からは、丹羽を此処で殺す気はないらしい。
「じゃあな、けど」
彼自身が盾として利用した死体のデイパックを丹波に向かって放り投げる。
武器は抜いてあるけどな、どうでもいい物なら何個か入ってる―――と、正昭は苦笑しながら言った。
「――――――次に会ったら、きっと容赦しない」
去っていくその背中を追いかけることは、丹羽には出来なかった。
□
―――獲物を取り逃した小神さくらは、悔しさも何もない相変わらずの無表情で静かに徘徊を再開していた。
ボウガンという武器はなかなか不便なもので、一人を逃してしまったのも仕方ない。
逆に言ってしまえば、一人を仕留められただけでも上々の成果である。
早野正昭の反応が後一歩遅れていたなら、彼も今頃は物言わぬ屍になっていただろう。
正昭が近接戦に持ち込まなかったのはまさに正しい判断だった、少なくとも一発の殴打で止められる相手ではない。
運よく一発叩き込んでも、その直後に彼の肉体にも矢が突き刺さるのがオチだった。
「…………」
彼女は止まらない。
たとえ何人、何十人を殺したとしても、目の前で寂寥の涙を流しながら誰かが死んでも、彼女には一切響かない。
それが、小神さくら。
彼女は歩く。
何も求めず、只自らの性質に基づき見つけた者を仕留めるためだけに。
濁った瞳のままで――――、兵器は、往く。
【C-6/路上/一日目/朝】
【小神さくら@俺のオリキャラでバトルロワイアル2nd】
[状態]:健康
[服装]:特筆事項なし
[装備]:クロスボウ@現実
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~2
[思考]
基本:殺し合いを遂行する。
[備考]
※俺のオリキャラでバトルロワイアル2nd死亡後からの参加です
※支給品は確認しましたが、武器はもう残っていないようです
◆
大塚英哉のデイパックから奪ったアサルトカービン、M4カービンを持って早野正昭は移動していた。
しかし、先程小神さくらに対処した時とは明らかに違う、何か後悔するような雰囲気を纏っている。
そう、正昭は前回の殺し合いで結果的に仲間たちを大量に殺害した。
が、冷静に思考した上で結果的な殺人を犯したのは初めてなのだ。
それも射撃の盾にするなど、非道もいいところ―――正昭の心は、揺れていた。
英哉への申し訳なさと、未だ覚悟を決められていない自分の情けなさが混ざり合って、心が壊れそうになる。
(しっかりしろよ早野正昭………殺すんだろ、あいつらを生き返らせるために)」
不安定な心を無理に奮い立たせて、正昭は歩いていく。
やはりその行動にあてはなく、只闇雲に。
血塗れのその姿は、殺し合いに乗っていないと主張したところですぐには信じて貰えないだろう。
正昭の戦闘能力はそう高くないのだから、出来ることなら何処か対主催グループに潜り込んでおきたい。
まさに前回のように、隙を見て一網打尽にしていく。
その前に獣人などの戦闘力が比較的高い連中を排除しておきたいのだが、そう上手くいくかは微妙だ。
それでも、正昭は止まらない。
その道に、もはや殺し合いへ反旗を翻す選択肢などはなかった。
【早野正昭@個人趣味ロワ】
[状態]:健康、精神疲労(大)、衣服が血塗れ
[服装]:特筆事項無し
[装備]:M4カービン(30/30)
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~2、木製バット
[思考]
基本:優勝して自らが殺した全ての人間を蘇らせる
1:当分は替えの衣服を探したい。
2:対主催グループに潜入して、隙を見て一網打尽にする
[備考]
※個人趣味ロワ、死亡後からの参加です
◇
「悪い………埋葬してやりたいけど、ここじゃあ無理っぽいしな……」
丹羽雄二は、大塚英哉の亡骸に黙祷を捧げた。
その背中から貫通している矢は引き抜いてやったが、無念の表情を浮かべたままの死体は無惨の一言に尽きた。
死体。
まさかこんなに早く、殺し合いに乗った殺人者と死体に遭遇するとは思わなかった。
結局名前は分からなかったが、あの青髪の青年のように殺し合いに乗っている人物は確かに居る。
捨ててしまった名簿をもう一度入手出来たことは有り難かったが、この本来の持ち主はもう居ない――その事実が、心苦しい。
場所を考えたとしても、正昭の言った危険人物――この青年に引導を渡した張本人が近くに居るのだ。
一刻も早く、この場所を離れなくてはいけないだろう。
「…………河田」
別に特別な感情などがあったわけでもないのに、自分が守った少女の名前が口を突いて出る。
行こう。
殺し合いには何があろうと乗らない、そう心に決めて。
しかし、人間の決意なんてものは所詮とても希薄な、薄っぺらく脆いものでしかない。
丹羽は、不安定なままで――彼もまた、歩き出した。
【丹羽雄二@DOLオリロワ】
[状態]健康、僅かな精神不安定
[服装]特筆事項なし
[道具]基本支給品一式、ランダム支給品1~3、大塚英哉のデイパック(ランダム支給品1~2)
[思考]
基本:殺し合いに乗るつもりはない。
1:とりあえずこの場を離れて、河田遥を探す。
2:………何が、正しいんだ?
[備考]
※DOLオリロワ死亡後からの参加です
※大塚英哉のデイパックに武器は入っていません
支給品説明
【クロスボウ】
小神さくらに支給。
西洋で用いられた、専用の矢を板ばねの力で、これに張られた弦に引っ掛けて発射する装置(武器)。引き金を持ち、狙いが定めやすい。
【木製バット】
早野正昭に支給。
木製のバットで安物。無茶な使い方をすると折れる可能性が高い。
【M4カービン】
大塚英哉に支給。
コルト社が開発製造したアサルトカービン。
M4カービンはM16A2アサルトライフルの全長を短縮し軽量化したM16A2の直系の派生型で、M16A2とは約80%の部品互換性を持つ。初期型のM4はM16A2同様のセミオートと3発バーストの発射機構を持つが、改良型のM4A1はバーストに代えてフルオート機構を備えている。M4A1は連続したフルオート射撃による加熱に耐えるために肉厚の銃身を採用している。
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最終更新:2012年12月17日 17:59