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長門有希の憂鬱IV 未公開シーン 一章

最終更新:

hiroki2008

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同窓会の部分の元テキスト


誤算の歴史改変の詳細が決まる前に書かれた部分
歴史が一致しないので要修正となった



「なんであたしが高校のクラス会なんかに出なくちゃいけないのよ」
「いや別に行かなくてもいいんだが、お前の代わりに出席の返事をしちまったからなあ。お前が行かないと俺が二人分の会費を払わされる」
「あんたが勝手に返事をするのが悪いんでしょ。あたしの知ったこっちゃないわよ」
「毎年やってんだからたまには顔を出せよ。お前がいないとメンツが締まらない」
「あたしは同窓会と名のつく集まりは嫌いなの」
「なんでだ?昔遊んだよしみじゃないか」
「イヤよ。年取って小じわが現れたのをお互いに数えあうなんて。昔の顔と比べて使用前使用後みたいな集まりは」
同窓会は別に化粧品の広告じゃないんだが、うまいこと言うな。
「メンツの中で社長やってるのはお前だけなんだよな。なんつーか、みんな聞きたいわけだよ。お前のサクセスストーリーを」
「社長なんてその気になりゃ誰でもなれるわよ」
というかこれは幹事をやっている阪中の折り入っての頼みだったわけだが。拝み倒されて事後承諾みたいにして出席に丸を入れた俺がバカだった。今は反省している。
「まあそこまでイヤだっていうんならしょうがない。俺が自腹で二人分の会費を払うしかないな。せっかく古泉をお披露目できるチャンスだったんだが……」
最後のはボソボソともったいつけて言った。
「お披露目ってなによ」
「知らないのか、八年も付き合いのある同級生を彼氏に持ってるってのは希少なんだよ。あいつらはそういう話をうらやましがるのさ。幼馴染みの彼氏に近いかもな」
「そ、そうかしら」
ハルヒがポッと顔を染めた。ふっ、釣れたな。だがまだ引き上げないぞ。
「いやいいんだ、気にするな。俺もあんまり同窓会って集まりは行きたくないしな。気持ちは分かる」
「あんたが払えないんだったら行ってもいいわ」
「忙しいんだろ、無理すんな。会費くらいなんとか払える」
「いいの、あんたの寒い懐具合を凍らせたら有希がかわいそうだから」
「今月は余裕あるから大丈夫だ」
「あたしも行くつってんでしょうが!」
くっくっく。とうとう切れやがった。
 とは言うものの、古泉はあまり乗り気ではないようで、仕事にかこつけて後から顔を出しますとごまかしていた。同じクラスならまだしも、彼氏を見せびらかすだけの集会なんてふつうの男なら喜んでついていくわけがない。

 飽きもせず毎年やっているだけあって集まるメンバーにそんなに違いはないんだが、来るやつは毎年来るし来ないやつはハルヒみたいに招待のはがきを出そうが電話をかけようが絶対に来ない。よっぽど学生時代にいやな思い出があったんだろうか。かつての担任岡部はオリンピックじゃあるまいに四年に一度顔を出しているようだが、今年は来ていないようだ。

「やあキョン、来てたんだね」
「キョンよお、お前相変わらず涼宮とつるんでるんだって?」
国木田と谷口がコップを握ってにじり寄ってきた。なんで知ってるんだこいつ。
「あんときのクラスメイトが集まって昔話に花が咲くといや、必ず一度は涼宮の話になるもんさ」
「あいつとは腐れ縁だしな。俺もそういう星の下に生まれたんだとそろそろ諦めの境地だ。俺だけじゃない、四人ともだ」
「涼宮さんと会社作ったんだって?」
「ああ。なにがしたいのかよく分からん会社だがな」
「いいよなあお前ら。俺も雇ってくんねえかな」
お前が宇宙人未来人超能力者のどれかに属するなら考えてやらんこともないが。それよりお前にハルヒのお守りが勤まるとは思えん。
「長門有希とはまだ付き合ってるのか?」
谷口は、別れたならぜひ自分がとでもいいたげな目をして、ヒシと俺に問い掛ける。
「ああ。来るとき途中までいっしょだった」
「な、なんで連れてこなかったんだバカ」
「あ、僕も会いたかったなあ長門さん」
「あいつは隣のクラスだったし、長門も俺のおまけみたいにして着いてくるのは居心地が悪いだろうと思ってな」
「男なら誰だって七年経ったアレがどうなってるか興味あるだろうがよ」
気持ちは分からんでもないがアレ呼ばわりはねえだろ。
「にしても、まさかお前がトリプルAの長門有希となぁ」
「Aマイナーじゃなかったのかよ」
「俺のランキングは市場連動型なんだよ」
「なんだそりゃ」
「朝倉みたいな清純派はあの時代にはハイクラスだったが、今は萌えの時代なんだよ」
こいつもまたハルヒみたいなことを言い始めたぞ。
「なるほどな。お前朝倉が好きだったもんな」
谷口がポッと顔を赤らめた。

── 高校三年のとき、俺と長門が付き合いはじめたことが谷口の耳に入るのは朝のラッシュアワーをすっ飛ばして行く原付よりも早かった。こいつには一度長門と抱き合っているところを見られた経緯もあって、二人の仲はずっと疑われていたらしい。
 あのとき谷口は俺のネクタイをハルヒ張りにひっつかんで締め上げた。
「キョン、お前長門と付き合い始めたってほんとか」
「ハ、ハルヒに告げ口したのはお前だろ。おかげでとんでもない目にあったぞ」
「キョンが人気のない教室で抱き合ったりするから噂が立つんじゃねえか」
「いやあれは抱き合ってたんじゃなくて長門が具合悪そうだったから支えてやってたわけでだな」
「この期に及んでそんな言い訳が通用するか、よっ」
ふざけているのかまじめなのか分からん谷口に腕卍固めを決められてマイッタを何度も叩いている俺だった。
「で、長門有希のどこに惚れたんだ?」
どこと申されましても。俺と長門の関係が曖昧すぎてハルヒが付き合うのか付き合わないのかはっきりしろと怒ってそれで強制的に団公認みたいな流れになっちまったんだが、なんてことを言ったら谷口は切れるだろうな。俺はただひと言、
「萌えた」
このセリフが予想以上に谷口にショックを与えたようで、やおら涙目になって、
「末永くお幸せにっ」
ごゆっくり、のときと同じシチュエーションでダダダッと駆け出して教室のドアをガラガラピシャっと閉めて出て行った。いったい何があったんだとシーンと静まり返った教室内に谷口の賭けていく足音だけが遠く聞こえていた。

 今じゃなつかしい、恥ずかしい話だ。
「お前らは知らないだろうけどな、俺あのときマジ泣きしたんだぜ」
いや、知ってたから。みんなの前で十分涙流してたから。ついでに言うと翌日から下級生に手当たり次第ナンパしてたのも知ってる。欲をかいて新卒の研修生にまで声をかけてひっぱたかれたのも知ってる。さらに近所の中学生に、
「分かった、分かったからもういいって」
「あははは、あのとき谷口が生徒指導室に呼ばれたのはそれでなんだ?」
「頼むから思い出させないでくれ。酔いが覚めちまう」
「谷口は見境がないからな」
「あれは俺なりの治療薬なんだよ。女で受けた傷は女で癒せ、って昔からいうだろ」
「それは寝取られたときとかに使うセリフだ。お前が勝手に傷ついてるだけじゃないのか」
谷口がぼそりと言った。
「あーあ、朝倉に会いてえぜ。今ごろどうしてんだろな」
今からでもカナダに行っちまえよ、などというと本当に行ってしまいかねんやつなので言わなかったが。

 二次会が終って三次会のカラオケに付き合い、そろそろハルヒを連れて帰らなきゃなと見回してみたがすでに姿はなかった。そういえば一次会の終わりごろ古泉がちょこっとだけ顔を出して一緒に帰っちまったな。その後の記憶は曖昧なのだが、ただ谷口が俺に向かって言ったことだけはかすかに覚えていた。
「キョン、ちゃんと呼べよ?」
谷口がなんのことを言っているのか、酔った頭で数秒考え、
「おい、何のことだ?」
もう一度谷口を見たがタクシーはすでに走り去っていた。

同窓会の部分の修正版


ハルヒと古泉だけが出て長門は出席しなかったパターン
どちらでも繋がるように書いてあるが谷口のセリフが変わる



「なんであたしが高校のクラス会なんかに出なくちゃいけないのよ」
「いや別に行かなくてもいいんだが、お前の代わりに出席の返事をしちまったからなあ。お前が行かないと古泉も行かないだろうから、俺が会費を払わされることになる」
「あんたが勝手に返事をするのが悪いんでしょ。あたしの知ったこっちゃないわよ」
「毎年やってんだからたまには顔を出せよ。お前がいないとメンツが締まらない」
「あたしは同窓会と名のつく集まりは嫌いなの」
「なんでだ?昔遊んだよしみじゃないか」
「イヤよ。年取って小じわが現れたのをお互いに数えあうなんて。昔の顔と比べて使用前使用後みたいな集まりは」
同窓会は別に化粧品の広告じゃないんだが、うまいこと言うな。
「メンツの中で社長やってるのはお前だけなんだよな。なんつーか、みんな聞きたいわけだよ。お前のサクセスストーリーを」
「社長なんてその気になりゃ誰でもなれるわよ」
というかこれは幹事をやっている阪中の折り入っての頼みだったわけだが。拝み倒されて事後承諾みたいにして出席に丸を入れた俺がバカだった。今は反省している。
「まあそこまでイヤだっていうんならしょうがない。俺が自腹で会費を払うしかないな。せっかく古泉をお披露目できるチャンスだったんだが……」
最後のはボソボソともったいつけて言った。
「お披露目ってなによ」
「知らないのか、八年も付き合いのある同級生を彼氏に持ってるってのは希少なんだよ。あいつらはそういう話をうらやましがるのさ。幼馴染みの彼氏に近いかもな」
「そ、そうなの?」
「そうさ。あいつらの話題はだな、お前がいかにして王子様のハートを射止めたか。それが最重要テーマだ」
「知らなかったわ」
ハルヒが頬に手を当ててポッと顔を染めた。ふっ、釣れたな。だがまだ引き上げないぞ。
「いやいいんだ、気にするな。俺もあんまり同窓会って雰囲気は好きじゃないしな。気持ちは分かる」
「あんたが払えないんだったら行ってあげてもいいわ」
「忙しいんだろ、無理すんな。会費くらいなんとか払える」
「いいの、あんたの寒い懐具合を凍らせたら有希がかわいそうだから」
「今月は余裕あるから大丈夫だ」
「あたしも行くつってんでしょうが!」
くっくっく。とうとう切れやがった。
「古泉、お前も行くよな」
「えっ、困りましたね。僕はそのような過去を継続するような付き合いは苦手でして」
お前が阪中をたらい回しにして俺に頼めとよこしたんだからな、お守り役のお前も来るのが筋ってもんだろ。
「年に一度だろう、たまには顔を出せよ。どうせ休みで暇だろ」
「その日は別件でミーティングがあるんですが、それが終わったら顔を出しますよ」
機関の仕事にかこつけてごまかしているようだが、この古泉の記憶にはないクラスメイトの、しかも彼氏を見せびらかすだけの同窓会になんて喜んで行くわけがないよな。
 あとは長門だが、確か出張とか言ってた気がするな。
「長門は物理学会だっけ?」
「……ちょうどその日に帰ってくる」
「そうか。帰ってきて当日は疲れてるだろうから休んでいいぞ。俺から欠席を伝えておくよ」
「……分かった」
まあみんなの変わりようは写真でも見れば分かるだろう。長門はクラスメイトとはあまり付き合いもなかったようだし、それよりなにより、男どもに長門を品定めされるのは気に入らん。

 それから長門を空港まで送り、一週間が経った。長門のいない職場はそれほど珍しいってわけでもなく、大学院のほうが忙しくなると休むこともたまにはある。それでもなにごとかあると長門の机のほうを振り向いて呼びかけようとして、ああ今日はいなかったんだと思い出して少し寂しい気持ちになる俺だった。黙っていても存在感が強いから、そこにいないことになかなか慣れない。それが長門だった。そんな俺をハルヒがニヤニヤしながら見て、古泉も「長門さんがいなくて寂しいですね」とニコっと笑うのだが実に癪に障る。

 俺とハルヒは電車に乗って上りの始発駅まで行った。帰りはどうせタクシーだろうから車では行かなかった。古泉がいっしょに来ないのでハルヒは機嫌が悪い。こんな日曜に無言のハルヒを連れて電車に乗るのは息が詰まりそうだ。


「たしかこの辺なんだが」
「まさか迷子になったんじゃないでしょうねキョン」
久しぶりに中央の駅前をうろうろして会場を見つけ出すのに苦労した。会場はホテルのミニ会議室のようだった。フロントに県立北高三年五組クラス会ご一行様と札が立ててある。俺は二人の名前を言って部屋の場所を教えてもらった。ドアを開けると壁に仰々しい横断幕が飾ってあり、披露宴とクリスマスが同時に来ても勝てそうな雰囲気だった。会場の手配は阪中がやったんだろうな。まあ欲を言えば地味に割烹とか料亭のお座敷のほうがよかったが。
 俺が出席するのは確か三年ぶりだ。卒業して何度かは出たもののだんだんと飽きてきて返事のハガキすら出さなくなってしまった。阪中をはじめとするクラスの女子グループが飽きもせず毎年やっているだけで、集まるメンバーにそんなに違いはないんだが、来るやつは毎年来るし来ないやつは招待のはがきを出そうが電話をかけようが絶対に来ない。よっぽど学生時代にいやな思い出があったんだろうか。かつての担任岡部は律儀にも毎回顔を出しているようだが、今年は忙しいとあって来ていないようだ。

 幹事の挨拶で乾杯をし、ビールを飲みながらたまに思い出したように近況報告のマイクが回ってくる。ビデオカメラを持ったやつがマイクを追いかけて撮ってまわってるんだが、これもなんだかマンネリ化だな。
「やあキョン、来てたんだね」
「キョンよお、お前相変わらず涼宮とつるんでるんだって?」
国木田と谷口がコップを握ってにじり寄ってきた。こいつらの記憶と俺の記憶がどこまで一致しているか果たして疑問だが、適当に話を合わせておこう。
「なんで知ってんだ」
「あんときのクラスメイトが集まって昔話に花が咲くといや、必ず一度は涼宮の話になるもんさ」
「あいつとは腐れ縁だしな。俺もそういう星の下に生まれたんだとそろそろ諦めの境地だ。俺だけじゃない、四人ともだ」
「キョン、涼宮さんと会社作ったんだって?」
「ああ。なにがしたいのかよく分からん会社だがな」
「いいよなあお前ら。俺も雇ってくんねえかな」
お前が宇宙人未来人超能力者のどれかに属するなら考えてやらんこともないが。それよりお前にハルヒのお守りが勤まるとは思えん。
「長門有希とはまだ付き合ってるのか?」
谷口は、別れたならぜひ自分がとでもいいたげな目をしてヒシと俺に問い掛ける。
「ああ。今日は家にいるはずだ」
「な、なんで連れてこなかったんだバカ」
「あいつは会社と大学院をかけもちでやってんだよ。今日まで物理学会とやらがあってな、疲れてるだろうから連れてこなかったんだ」
「僕も会いたかったなあ長門さん」
「お前らが長門に会いたがるとは意外だな。クラスにはほかにも女はいるだろうに」
「男なら誰だって七年経ったアレがどんな姿になってるか興味あるだろうがよ」
気持ちは分からんでもないがアレ呼ばわりはねえだろ。
「にしても、まさかお前がトリプルAの長門有希となぁ」
「Aマイナーじゃなかったのかよ」
「俺のランキングは市場連動型なんだよ」
「なんだそりゃ」
「朝倉みたいな清純派はあの時代にはハイクラスだったが、今は萌えの時代なんだよ」
こいつもまたハルヒみたいなことを言い始めたぞ。
「お前朝倉が好きだったもんなあ」
谷口がポッと顔を赤らめた。

── 俺の記憶によればだが、高校三年のとき俺と長門が付き合いはじめたことが谷口の耳に入るのは朝のラッシュアワーをすっ飛ばして行く原付よりも早かった。こいつには一度長門と抱き合っているところを見られた経緯もあって、二人の仲はずっと疑われていたらしい。あのとき谷口は俺のネクタイをハルヒ張りにひっつかんで締め上げた。
「キョン、お前長門と付き合い始めたってほんとか」
「は、離せ谷口。ハルヒに告げ口したのはお前だろ。おかげでとんでもない目にあったぞ」
「お前が人気のない教室で抱き合ったりするから噂が立つんじゃねえか」
「いやあれは抱き合ってたんじゃなくて長門が具合悪そうだったから支えてやってたわけでだな」
「この期に及んでそんな言い訳が通用するか、よっ」
ふざけているのかまじめなのか分からん谷口に腕卍固めを決められてマイッタマイッタと何度も叩いている俺だった。
「で、長門有希のどこに惚れたんだ?」
どこと申されましても。俺と長門の関係が曖昧すぎてハルヒが付き合うのか付き合わないのかはっきりしろと怒ってそれで強制的に団公認みたいな流れになっちまったんだが、なんてことを言ったら谷口は切れるだろうな。俺はただひと言、
「萌えた」
このセリフが予想以上に谷口にショックを与えたようで、やおら涙目になって、
「末永くお幸せにっ」
ごゆっくり、のときと同じシチュエーションでダダダッと駆け出して教室のドアをガラガラピシャっと閉めて出て行った。いったい何があったんだとシーンと静まり返った教室内に谷口の賭けていく足音だけが遠く遠くカナダにまで行ってしまいそうな勢いで聞こえていた。

 今じゃなつかしい、恥ずかしい話だ。こいつの歴史と一致するのかどうかは知らんが。
「谷口は長門にも惚れてたのか」
「おうよ、キョンが長門と付き合いだしたって聞いてそりゃもう逆上もんだったしな」
どうやら一致してるらしい。
「お前らは知らないだろうけどな、俺あのときマジ泣きしたんだぜ」
いや、知ってたから。みんなの前で十分涙流してたから。ついでに言うと翌日から下級生に手当たり次第ナンパしてたのも知ってる。欲をかいて新卒の研修生にまで声をかけてひっぱたかれたのも知ってる。さらに向かいの中学校の生徒に、
「分かった、分かったからもういいって」
「あははは、あのとき谷口が生徒指導室に呼ばれたのはそれでなんだ?」
「頼むから思い出させないでくれ。酔いが覚めちまう」
「谷口は女のことになると見境がないからな」
「あれは俺なりの治療薬なんだよ。女で受けた傷は女で癒せ、って昔からいうだろ」
「それは寝取られたときとかに使うセリフだ。お前が勝手に傷ついてるだけじゃないのか」
谷口が遠目をしながらぼそりと言った。
「あーあ、朝倉に会いてえぜ。今ごろどうしてんだろな」
今からでもカナダに行っちまえよ、などというと本当に行ってしまいかねんやつなので言わなかったが。

 近くの酒場での二次会が終って三次会のカラオケに付き合い、そろそろハルヒを連れて帰らなきゃなと見回してみたがすでに姿はなかった。そういえば一次会の終わりごろ古泉がちょこっとだけ顔を出して一緒に帰っちまったな。車で来てたんで俺も一緒に帰ればよかった。
 その後の記憶は曖昧なのだが、ただ谷口が俺に向かって言ったことだけはかすかに覚えていた。
「キョン、ちゃんと呼べよ?」
谷口がなんのことを言っているのか、酔った頭で数秒考え、
「おい、何のことだ?」
もう一度谷口を見たがタクシーはすでに走り去っていた。


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