―――革命家、佐田国一輝は大変に憤慨していた。何に対してかなど言うまでもない。昨夜ルーラーを自称して姿を現した、ツートンカラーのマスコットに対してである。


 知性や品性というものを全く感じることの出来ない浮ついた態度と達者に回る口。
 おちゃらけた言い回しはその一つ一つが佐田国を苛立たせると同時に、心の底からの嫌悪感を彼に抱かせた。
 生前、堕落したギャンブラーが集う『賭郎』という組織に接触していた時にも何度となく沸き上がってきた感情だ。
 佐田国に言わせればあのモノクマとかいう存在もまた、救いようのない堕落した存在だった。
 生涯を費やす大義も命を投げ捨てる気概もなしに、安全圏でゲスな笑い声を響かせる社会にとっての不要物。
 サーヴァントという存在は、どいつもこいつもこうなのか。
 人類史に名を残した英霊とは、こうも終わった性根の持ち主ばかりなのか。
 チッと吐き捨てるように舌打ちし、佐田国は手元の鈍く光る凶器を机の上へ置いた。


 佐田国達がアジトとしている新都のアパート。
 その室内には、方々に手を尽くして調達した重火器がいくつも用意されている。
 ヘッケラー&コッホ社が生み出した、世界で最も殺傷力の強いアサルトライフル――H&K HK416。
 小ぶりで機動性に優れ、なおかつ高い殺傷力も完備したウージー銃。
 百年近く前に開発された短機関銃でありながら、現代でも世界中で使われている傑作、トンプソンM1921。
 ミサイル兵器のように大掛かりなものではないものの、一応は爆発物の備えもある。
 たかだか学校一つを襲撃するには過剰とも思えるほどの備えが、佐田国のもとに結集していた。


 それでも、サーヴァントの力というものを正しく理解していれば安心など決して出来ない。
 佐田国とその同志達がいくら素晴らしい武器を集めようと、魔術的な意味を持っていなければただの豆鉄砲も同然だ。
 無論、そんなことは佐田国も分かっている。これはあくまで人間相手の凶器で、サーヴァントを炙り出すための道具。
 もしマスターを殺傷出来れば御の字。マスターを守るためにサーヴァントが姿を現したなら期待通りの展開。
 万が一どちらの当たりもなかった場合でも、義憤に駆られたバカを誘き寄せる誘蛾灯くらいにはなるだろう。


 佐田国を知る人間ならば今更語ることでもないが、彼は罪悪感や倫理観というものを全く持たない狂信者だ。
 それらしいものは常識としてあるのかもしれないが、彼は目的のためならそれらを無視することが出来る。
 聖杯を手に入れるために未来ある若者を何十人とこの世から消すことなど、彼なら眉一つ動かさずに実行出来る。


 穂群原学園襲撃。
 先日の時点ではまだ〝視野に入れておく〟程度の扱いだったそれを、こうして一気に実行の側へ舵を切った理由は昨夜の放送にあった。
 討伐令の対象として挙がった三人――『岸波白野』『七海千秋』『人吉璽朗』。
 放送の後に与えられた顔写真を見るに、岸波白野と七海千秋の年齢は恐らく高校生程度のものだ。
 冬木市内にある高等学校は何も穂群原のみではないが、最も知名度が高いのは間違いなく穂群原である。
 襲撃するならばここしかない。ここを狙うのが、最も成功率が高い。


 通常、聖杯戦争中に発布される討伐令のクリア報酬は令呪の一、二画が精々だ。
 しかしあのモノクマを操るルーラーは、それに加えて『スペシャルな特典』とやらを提示している。
 聖杯戦争を単なる娯楽としか捉えていないことが窺える物言いに嫌悪を覚えたが、それとは別に興味があるのも確かだ。
 もちろん、それ以上に令呪の追加がありがたいというのもある。
 佐田国はアサシンを召喚してすぐに彼女へ令呪を使っており、その点で他のマスターよりも不利な状況にあるのだ。
 まして彼のサーヴァントは、そんな愚行に出ることを余儀なくさせるような大変な厄ネタ。
 今後令呪を使う機会が、最後の瞬間を除いて来ないとはとても思えない。
 化け物を従順にさせる手綱は一本でも多く、契約という首輪に結び付けておきたい。
 そうでもしなければ―――あのサーヴァントはいずれ、必ず自分を食い殺すだろう。大江山の伝説が如く。


「……同志達に全てを委ねるのは、心苦しいがな」


 苦虫を噛み潰したような顔で、佐田国は呟く。
 聖杯戦争において彼を援助する同志達は、身も蓋もない言い方をすればただのNPCだ。
 頭であり心臓である佐田国が下手に前線に出て死ねば、その時点で革命の大義は潰えてしまう。
 そういう事情から、彼の穂群原学園襲撃における役割は無線での指示役というものに落ち着いた。
 実行役は彼の同志数名とアサシンに。
 佐田国と支援役の同志達は直接学園には赴かず、それをサポートする。


 彼らは皆優秀な革命戦士だ。
 佐田国と同じく、死など恐れない。
 恵まれた仲間を得たことに感謝をしながら、佐田国は時計の針に目を向ける。
 …時刻は午前八時丁度を示していた。実行の時間まであと五時間弱、といったところか。


 同志達は作戦の前準備のために外出している者、個人の潜伏先として手配してあるホテルで仮眠している者、今の時間から既に下処理の手続きに奔走している者まで様々だ。
 少なくとも今、この部屋に佐田国以外の人間は居ない。
 アサシンは霊体化して近くに居るのだろうが、生憎と彼女には嫌悪以外の感情を覚えたことがない。
 近くに居られることすら吐き気がする思いだというのに、しかし野放しにして彷徨かせるには危険すぎるサーヴァント。
 つくづく厄介だ。これで性能が悪かった日には、佐田国は召喚した当日に自決させていた自信がある。


 大江山の大鬼、酒呑童子
 酒に酔いながら命を奪い、肌を重ね合いながら騙し合う。
 そんな道楽を重ねた末に討伐の矛先を向けられ、源頼光率いる頼光四天王に騙し討ちという形で討たれた。
 この容姿でそんな末路を遂げたとあれば、同情心を抱く者は少なくないだろう。
 だが、それは間違いだ。酒呑童子は同情されるような子女ではないし、そうでもしなければ殺せないような怪物だ。
 そう、彼女は強い。学校襲撃という無謀な計画をたった一人で支えられるほどには、化け物じみた強さを持っている。


(食い殺したいのだろう。酒に酔わせ、溶かし、より多くの命を踏み潰したいのだろう)


 佐田国一輝の掲げる革命もまた、多くの死の上に成り立つものだ。
 大量虐殺。彼の革命は最後に、そういう言葉をもって達成される。
 だがそこにアサシンが好むような面白可笑しいことや堕落の色が入り込む余地はない。
 そんなものが入れば、それは革命とは言いがたいただの蛮行へと姿を変えてしまう。
 だから、このマスターとかのサーヴァントは相容れないのだ。―――そう、絶対に。


(ならば食らって来るがいい。一人でも多くの命を……)


 どうせあのルーラーは、数十人殺したくらいでは討伐令など出しやしない。
 ならば好きなようにやればいい。我らはただ、鬼の暴力を利用するだけ。
 兵器としてサーヴァントを使い、望む革命を推し進めるのみだ。


 決行の時は十三時三十分。残り―――五時間と三十分。



【一日目・午前(8:00)/B-5・佐田国一派の拠点】

【佐田国一輝@嘘喰い】
[令呪] 残り二画
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] ベレッタ92
[所持金] 十万円前後(拠点に保管してあるものも含めれば数百万)
[思考・状況]
基本:聖杯を手に入れ、革命を成し遂げる
1:穂群原学園を同志達に襲撃させる。決行時には指示役に徹し、計画を導く
※死亡後からの参戦です。


【アサシン(酒呑童子)@Fate/Grand Order】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] 大剣、酒瓶
[所持金] なし
[思考・状況]
基本:聖杯戦争をやりたいように楽しむ。
1:雇い主(佐田国)はなかなか面白いが―――

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最終更新:2016年10月13日 15:37