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第3話

03

日本国がこの世界に遭難したのは今から10年前だった。
当時、世界経済の中核を担っている貿易国であった日本はその瞬間世界経済から切り離された。
当初は輸出入の途絶による物価の動乱などの混乱があった。大量の失業者が発生したものの、その2年後にはそれらの失業者は全て政府主導の資源開発プロジェクトに吸収された。
遭難当初から政府は測量船や自衛隊の偵察機を使って周囲を探索。その結果南西方向約900㎞に小規模大陸を発見。さらに調査を続けたところ人口こそ農耕が可能な沿岸部や河川付近を除いて極めて少ないが内陸部に大量の地下資源が埋蔵されている可能性が高いことが判明した。
そのため政府は自衛隊と共に調査員を派遣。詳しく調査したところ、21世紀前半の年間世界消費量換算で900年分の可採埋蔵量を持つ油田や大規模な鉄山を筆頭とする大規模な資源の埋蔵が明らかとなった。
政府は即座に民間と共に資源開発プロジェクトを立ち上げたがその資金はあまりにも膨大であり海外資産を失った日本経済では限りなく不可能に近かった。
そのため政府は『必ずお返しする』と宣言して郵便貯金と簡易保険を凍結し、その資金を流用するという非常手段に訴えた。
まず、日本政府は自衛隊1個師団を動員して資源帯と資源輸送ライン周辺の原住民を制圧。労働力の供給を約束させる。同時に警備の為の人員を確保する為警備会社に所属していた人員を自衛隊と同様に訓練して予備役とし派遣した。
政府は膨大の資金を持って経済混乱で発生した失業者を大量雇用し、開発とインフラの整備は昼夜を問わず同時複数かつ急ピッチで進められ、転移3年には大油海油田鉄天鉱山の大規模輸入が開始された。さらに奥地に発見されたチタンやクロム、ウランなどのレアメタルの鉱山の開発もめどが付いていた。
資源は政府の統制価格で販売された為郵便貯金と簡易保険を補填する一方で政府の財政を一気に黒字へと転換させた。転移5年目で財政融資分を完済し郵便貯金と簡易保険の凍結は解除された。
転移6年目からは経済は一気に好調となり、生産は大きく増えた。
そのため一部の製品の生産は明らかに内需に対して余剰となり輸出が求められた。
そのため政府は複数の国家と通商条約の交渉を行ったが、数カ国を除いて芳しい返事は得られなかった。
何より貿易制度と規模が違いすぎた。
日本が不換紙幣による変動相場制をとっているのに対してこの世界の各国は金本位の購買力平価説に基づいた固定相場制を取っていた。
さらに経済規模を現すGDPは千倍の単位での差があった。
そんな大幅な経済制度の違いから極限られた国としか貿易できなかった。
それでも最初は上手く行った。
まず、この世界には化学というものが存在しない。それゆえに天然素材よりも優れる化学製品はかなりの需要を得ることが出来た。それ以外の工業品についても概ね好評だった。
その噂が広がり貿易相手国は増えた。
加えて工業製品は天候に左右されず生産できるという特徴がある。それゆえに新たな需要にも柔軟に応えた。
既製品に比べて『安く』『質が良い』日本製品が『大量』に流通すれば既製品をあっという間に駆逐する。一部には損害だったが、大多数の消費者にとってそれは利益だった。
しかし、それを妨害するものが居た。
それこそが同盟諸国であった。
彼らは貿易により自国内から輸入品の代価として支払われる金の流出に歯止めが利かなくなったことを極度に恐れた。それは通貨の信頼を著しく損ねることと知っていたからだ。
彼らは日本からの輸入品にとんでもない額の関税を適用し、価格を不当に吊り上げて需要を無理やり減少させた。
この世界では輸送能力が限られる為ブロック経済制なのである。それゆえに外部経済との統一外貨である金は極めて貴重なものだった。だが、日本が目指しているのはブロック経済などではない、汎惑星的な自由貿易経済なのだ。それを行うだけの輸送技術を日本は保有している。
それは日本の国是とも言うべきものだった。
それゆえに日本は自衛隊を動員するという荒っぽい手口を使ったのだ。
そして、その戦いはブロック経済の盟主である列強各国との戦いの始まりでもあった。

最終更新:2006年09月22日 17:37