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壁に耳あり天狗に目あり

壁に耳あり天狗に目あり ◆9OL6ub.jZ2



暗闇に包まれた深夜の森。
そこにその少女は立ちつくしていた。
綺麗な金色の髪を二つに括り、緑色の瞳は恐怖で潤ませている。小柄な体は少女がまだ小学生ぐらいの年齢なのだろうと予測させた。
少女の名は三千院ナギ。
大富豪である三千院家の令嬢であり、13歳ながらにして名門、白皇学院へと飛び級したほどの頭脳の持ち主である。
そんなナギが今、周囲を見渡しながらただ恐怖に震えていた。

「は、ハヤテぇ……マリア~……」

彼女がピンチの時は必ず駆けつけてくれる執事であり、ナギの最愛の男性、綾崎ハヤテ。
普段は彼女の生活態度に終始文句を言っていたりするが、誰よりナギのことを理解してくれているメイド、マリア。
最も頼りにしている二人の名を呟くが、その声は闇に吸い込まれ何の反応も返ってこない。

闇。

日頃気丈な彼女が恐れているもの、それがこの一面に広がる暗闇だ。
幼いころ起きた『不幸な事故』により、彼女は人一倍暗闇を恐れる。
普段大豪邸に住み夜も明かりが絶えない都会にいては、街灯の一つもない夜の森は例えナギでなくとも恐怖を覚えるだろう。
その上先ほどの出来事……殺し合いの宣言が彼女の思考を更に混乱させていた。

「な、なんなのだこれは……いつからサ○デーはこんな悪趣味なイベントをやるようになった? 少年誌的にまずいだろう……」

言葉の端々に意味のわからないものがあるが、恐怖と混乱のためである。

「い、いや待て、クールだ、クールになるんだ三千院ナギ……常識的に考えてこんな殺し合いなどというものが行われるわけがないだろう、日本の警察だってそこまでザルではあるまい」

これはただのイベント、殺し合いなんて非常識な物が実現できるわけがない。
そう考えようとするが、あの生々しい血の臭いを忘れることができなかった。
ナギ自身豊富すぎるほどの財力を持っているが故、命の危険に陥ることも少なくない。誘拐されることなど日常茶飯事である。
それでも、いや、だからこそか、今の状況が本当に危険だということを感じ取っていた。

「ぅ……」

涙が零れそうになる。
それを弱いと言うのは酷だろう、ただでさえ苦手な暗闇の中、たった独りでいるのは限界があった。
だが、その瞳から雫が流れ落ちる直前、ナギは自らの頬を叩き顔を上げる。

「こ、この程度で私が参ると思うなよ! こんな森がどうしたというのだ! これぐらいで泣いていては三千院家の名に傷がつく!」

無論強がりだ、そう簡単に恐怖を払拭できるほど人間は強くできていない。
それでもこのまま怯えてるだけでは何も変わらない、そのぐらいの事は考えられる。
震える体を無理矢理抑え、足元に置かれていたデイパックを開く、あの女達が言っていたことが本当ならこの中身は絶対に必要だ。
紙のようなものやペットボトルらしきものが入っているのがわかるが、森の枝葉が月明かりを遮りよく見えない。
馴染みのないランタンに多少苦戦しながらも灯りを点し、改めて中身を取り出す。

「なんだ、この名前の羅列は……名簿だと? おい、まさかこれ全員が殺し合いに連れてこられた奴なのか!? ハヤテやマリア達までいるじゃないか!」

自分が最も頼りにする者達がいることに一瞬安堵するが、それ以上に殺し合いをさせられている事実に驚愕する。

――ナギ、助けて……!
――や、やだ、お姉ちゃん……
――逃げて、ナギっ!

――生き延びてください……お嬢様……!

「な、何を考えているのだ、私は!」

脳裏に浮かんできた光景を振り払う。
親しい者たちが死ぬ瞬間など、考えたくない、絶対にごめんだ。

「ハヤテ達が死ぬなんて、ダメだ、そんなの絶対!」

とにかく森を抜けるのが先だ、このままでは悪い考えばかりが浮かんでしまう。
そう思い地図を取り出すが、周り中が木のこの場所では地形の当たりをつけることすら困難だ。

「くっ……と、とにかく一方の方角を目指せば森は抜けられるだろう!」

言うが早いか、コンパスを片手に走りだす。

ハヤテ達と合流してどうするのか。
ここから脱出する方法はあるのか。
そもそも何故自分たちがこのようなことをさせられるのか。
あの女達の目的は何なのか。

その解への道は、彼女の頭脳を持ってしても導けない。


【F-7 森/1日目・深夜】
【三千院ナギ@ハヤテのごとく!】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1~3
[思考・状況]
基本:ハヤテを始め、知りあいを探す。
1 とにかく森を抜ける。

「綾崎ハヤテさんにマリアさん、肝心のあの子は……あ、三千院家って言ってたわね、三千院ナギさんか」

ナギが走り去るのを見送りながら、黒い羽を生やした少女、射命丸 文はメモ用紙へと今しがた得た情報を書き込んでいく。
先ほどナギが戸惑ったように、彼女の手元にも光など届いてはいないのだがそれが障害になっている様子もなくその筆先は滑らかだ。
それもそうだろう、彼女はその羽を見てわかる通りただの人間ではない、幻想郷と呼ばれる世界の鴉天狗である。
彼女は最初からナギのすぐそばの木の上にいたのだ。そのまま音一つ立てずにナギを観察し続けていた。

文にとって、人間がどれだけ死のうが関係はない。
むしろ自分や博麗の巫女、紅魔館の地下に閉じ込められていたという癇癪娘なんかを拉致した方法の方が興味がある。
今すぐにでもあの五人組に取材をかけて自身が作る新聞の記事にしたいぐらいだ。

「……でもま、殺しじゃね」

途端に冷めた眼に変わる。
別に殺しを咎めるだとか、そんな偽善者めいたことを言う気はない。
自分だって、振りかかる火の粉を払う時は容赦なく相手を殺す気でやるだろう。殺し合いとやらにスペルカードルールが適用されてるとは思わない。
とはいえ、それを記事にしたいかというと話が別だ。
自分は新聞に魂を賭けている。その新聞に殺しの記事など入れてたまるものか。

そこでようやく走らせ続けていたペンを止め、文はナギが走り去った方向へと木々の枝の上を飛ぶように駆け抜ける。
文は積極的に殺し合おうとは考えてない。言われた通り最後の一人になったところで助かる保障など、何もないからだ。
とはいえ逃げる手段があるのかどうか、一度自分は気づく間もなく捕らえられている、ただ逃げたところでまた捕まって終わりだろう。
だからこそ、彼女は自分が最も信じる武器を頼る。

その武器の名は『情報』

この殺し合いの中における施設の配置、参加者の関係など、ありとあらゆる情報をかき集めるのだ。
その結果、有力な脱出方法が見つかればそれでよし、もしも見つからないのならば――

「……さて、と。しばらくはあの子の様子を見るとして……とりあえず考えるべきは、これかしらね」

幻想郷一の俊足を持ってあっという間にナギの姿を確認できる位置まで追いつき、手にした名簿に目を落とす。

「何で――私の『名前が載ってない』のかしら……」

ナギ自身や、その知り合いの名前は載ってるいるようだ。
それに文の知り合いである、博麗霊夢を始めとした幻想郷の面々の名も書いてある。
何故自分だけ……いや、自分だけではないのか?

「あややや……まずは、同じ立場の方がいないか探しましょうか。清く正しい射命丸、突撃取材を始めさせていただきます!」

営業用の口調へと切り替えながら、文はナギの様子を窺いメモとペンを構える。
その二つの鋭い眼光は、ナギの姿を捉え続けていた。

【F-7 森/1日目・深夜】
【射命丸文@東方】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1~3
[思考・状況]
基本:まずは情報集め、殺し合いに関してはその情報を吟味してから決める。
1 ナギの尾行。
2 名簿に名前が載っていない人物がいないか捜索。



01:こんな殺し合いくだらない、ってジュンとミサカは思っていたり 時系列順 03:Fate
01:こんな殺し合いくだらない、ってジュンとミサカは思っていたり 投下順 03:Fate
三千院ナギ 39:洞窟ツアーにようこそ
射命丸文 39:洞窟ツアーにようこそ


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最終更新:2009年10月03日 15:04