ある少年が居た。
何回も繰り返すひぐらしが鳴く夏の中で生き続けていた少年。
時には挫折もした。
時には後悔もした。
特には過ちだって犯した。
それでもその夏を乗り越える事を諦めなかった。
何度でも、何度でも。
惨劇を止めようと進んできた。
運命を乗り越えようと諦めなかった。
そして乗り越えたのだ、運命を。
惨劇が起こるという運命を仲間と共に。
運命に屈しなかった少年。
運命を乗り越えた少年。
その名前は前原圭一。
運命を打破すべき鍵となる赤い炎。
そしてこの殺戮の島で彼は何を志すのだろうか――――
◆ ◆ ◆
「……何だってんだよ……畜生」
深い森の中、一人の少年が呟く。
少年は標準的な夏服の学生服を纏い大樹に寄りかかっている。
ボブカットの茶色の髪を不機嫌そうに掻く。
意味が解らなかった。
いきなり自分と同じ年ぐらいの人に変なことを言われて。
いきなり三人の命を奪われて。
そして気がつければ深い森の中だ。
瞬く間の出来事で少年――前原圭一――の理解が追いつかない。
必死に考えても何故こんな事がおきたかなど彼には思いつかなかった。
わかるのは一つ。
「三人……死んじまったんだよな……くそっ」
三人の命が奪われたと言う事。
罪も無いだろう三人の命が無慈悲に奪われた。
命の価値も解っていなさそうな少年少女達の手で。
その事に圭一は思う。
「ふざんけんな……許せるかよ」
許せないと。
自分たちに殺し合いを強要させる為に三つの命が散っていったのだ。
そんな事、許したくもなかった。
それにこの殺し合いに自分の大切な仲間も居た。
「レナ……魅音……詩音」
竜宮レナ。
園崎魅音。
園崎詩音。
共に楽しい日常を過ごした仲間達。
共に運命を覆す為に戦った仲間達。
惨劇を回避する為に。
それを起そうとした鷹野を止める為に。
ずっと一緒に戦った仲間達。
その仲間たちが巻き込まれてその仲間達と殺し合いなど圭一には考えられなかった。
考えたくも無かった。
ならば圭一は
「そうだよ……運命なんて……惨劇なんて……」
こんな殺し合いをする運命なんて。
仲間が死ぬという悲しい惨劇なんて。
「俺が覆してやる……止めてやる……見てろよ……!」
覆そうと。
止めようと。
強く強く心に誓う。
「それを俺を成し遂げてきたんだ!……絶対に諦めてたまるかよ!」
圭一は諦めないと強く思う。
何故ならそれを成し遂げたのだから。
レナ達と一緒に。
哀しみしかなかった惨劇という運命を。
皆が幸せになれる運命に変えて見せたのだ。
挫折もした。
失敗もした。
後悔もした。
限りなく続く夏の中で。
でも。
それでも。
圭一は進み続けていた。
諦めずに。
ずっと。
ずっと。
そして運命を覆した。
圭一自身の力と仲間達の力を合わせて。
だから。
それだからこそ。
この殺し合いでも誓う。
「俺は絶対諦めない! この殺し合いを止めてみせる!」
殺し合いを止めると。
そう右手を突き出し力強く誓った。
負けないと。
諦めないと。
前原圭一はこの殺戮の島でも変わることなく誓ったのだ。
その直後だった。
「動かないでください」
圭一の直ぐ近くの茂みから1人の男が躍り出たのは。
◆ ◆ ◆
「貴方に聞きたい事があります」
「……い、いやその前にお前は誰なんだよ……俺は前原圭一。仲間を探してる」
「……そうですか。まぁ名乗っておきましょうか。私はトゥスクルの侍大将、ベナウィと申します」
躍り出た途端圭一に胸に槍をつけつけている男。
名はベナウィといった。
彼はい着物と蒼い外套の上に甲冑なような肩当をしていた。
ベナウィの端麗は顔立ちをしており表情を変えずただ圭一を睨んでいるだけ。
圭一にはベナウィの目的がわからずただ混乱するだけで迫る命の危険に怯えていた。
「それで……貴方は聖上……いえ、ハクオロという者知っていますか?」
「……ハクオロ?」
ベナウィが告げた名前、ハクオロ。
その名前に特に何かを思いつくわけでもなかった圭一はついその名を聞き返してしまう。
その反応が不味かった。
「……いえ、もう結構です……では…………すいません」
すっとベナウィは槍を引く。
その動作に圭一は直ぐ身をよけた、何か嫌な予感がして。
その瞬間ベナウィは凄まじい勢いで槍を突き出した。
間一髪で圭一は避ける事ができたが尻餅をついてしまう。
「……なんでっ! お前……殺しなんて」
「簡単です……私が仕えるの主が巻き込まれていた……それだけです」
「それだけ……それだけってなんだよ! それだけであんな少女の言いなりに……」
圭一は声を荒げて言う。
こんなにも簡単に殺し合いに乗る。
そうしたベナウィが言ったのが信じられなかったから。
圭一の言葉にベナウィが悲しく笑う。
「そう、それだけ……ですが私にとって……トゥスクルに仕える家臣にとってはそれだけの事が途轍もなく重大なのですよ」
「重大……?」
「国を纏める主が居なければ国は治まりません。まして未だ発展途上の我が国……聖上の存在は必須なのです」
ベナウィは国に仕える家臣だった。
だからこそ主に死んでもらうわけには行かない。
ここで死んでしまえば国は滅ぶだろう。
だからこそ、自身が死んでもハクオロには生きて貰わなければならない。
そう、だから乗った。
簡単で且つ悲しい事だった。
何故なら……
「そんな……でもそれでも無実な人を殺してまでやるなのかよ!」
「……ええ。殺します」
「それが許される……」
「許される訳ないでしょうね。私自身『武人』としても許すわけにはいきません。その非道な行為を許すなどもってのほかです」
「……なら、何故!」
「『家臣』であるからですよ。国の為なら、そこ住まう民の為なら。そして主の為なら……私は喜んで自分を捨てましょう。そして家臣として忠義を貫くのみなのですから」
ベナウィは悲しいほど『家臣』であったから。
ベナウィ自身は本来『武人』だ。
人道に外れ力無き者を守る。
それが至純の信念であるのだから。
だが……国の危機となったら別だ。
道具となり意志を捨て国を守る。国の民を守る。主を守る。
あらん限りの忠義を尽くすのだ。
そして今、主の危機なのだ。
その為なら捨てなければならない。ベナウィ個人を。
一度はハクオロによって戻されたベナウィの個人。
だがその為ならもう一度喜んで捨てよう。
そう、ベナウィは思ったから。
『家臣』であるからこそ。
ハクオロに心酔しているからこそ。
全てを切り捨ててハクオロを生かすのだ。
「……ふざんけんなよ……どうしてそんなに簡単に決めてしまうんだよ!」
そのベナウィの決意に圭一が怒る。
どんな時でも諦めなかった圭一が。
「そんなの……喜ばないだろ! 誰も! 誰も! 幸せになりっこない!」
圭一は挫折した。
圭一は後悔もした。
だからこそ解る。
それが幸せになるとは絶対思えないと。
「そんな運命乗り越えて見せろよ! 俺は……絶対に諦めなかった!」
悲しい運命も。
諦めずに乗り越えたから。
だから、簡単に割り切ってしまうベナウィが。
どうにも許せなかった。
「俺はここににも居る仲間……竜宮レナ、園崎魅音、園崎詩音、北条沙都子、古手梨花と乗り越えたんだ! 運命を!」
仲間と共に。
運命を乗り越えたから。
どんな苦難も絶望も。
乗り越えたから。
だから
「なあ! お前もこんな運命を……仲間と共に……覆し乗り越えてみろよ!」
「運命ですか……」
「ああ! 悲しい運命……難しく考えなくていい……単純に……覆して乗り越えて見ろよ! あるはずだ。皆が幸せになる方法が!」
手を伸ばす。
運命を覆す為に。
だけど
「……運命……確かにこの運命は悲しいかもしれません。覆したら幸せになるかもしれません。ですが―――」
ズブリと。
肉を貫く音が。
「―――不器用なんですよ。私は……こうする事でしか聖上を国を護る事はできないんです。貴方と違って。真っ直ぐには進められません」
槍が。
圭一の胸に刺さっていた。
「だから―――私はその運命に従います。それが私が選び取った『運命』なんですから」
命が。
圭一の命が急速に失っていく。
目には生気が失われていき。
そして
「だから……そ……れ……は……とても……かな……し……い……運命……なん……だ……よ――――馬鹿野郎」
手が落ちた。
その手はもう二度と動く事がなく。
運命を覆す事もなく、乗り越える事もなく。
かくして。
この島でも運命を打破しようと志した少年は。
悲しい運命に飲み込まれて。
そして。
赤い炎は潰えた。
【前原圭一@ひぐらしのなく頃に 死亡】
◆ ◆ ◆
(まずは1人ですか)
ベナウィが二度と動く事が無い少年を見つめる。
もう戻れないと思いながらも。
だけど迷いは無かった。
ベナウィはハクオロにトゥスクルに心酔していたから。
それを護るのだ。
後悔も迷いも無かった。
ただ、圭一が言った言葉。
「運命と仲間……ですか」
ベナウィにも仲間が居た。
この島にもいる掛け替えの無い仲間。。
エルルゥ。
アルルゥ。
トウカ。
カルラ。
大切にしたい仲間。
失いたくないと思った仲間。
彼女達ならハクオロと共に運命を覆す事ができるのだろうか。
またそう志すのだろうか。
そう思い……
「それがどうしたの言うのです。私は『家臣』……ならば主の為に……忠義を貫くのみ」
そこで止まった。
もう考えない。
そんな戯言は。
そして
「……できれば会いたくないですね……仲間を斬りたくありませんから」
悲壮の決意を決め。
そして何も考えず空を見上げる。
月がただ怪しく光りベナウィを照らす。
そのベナウィの背は悲しい決意をした
―――修羅だった。
【G-3 森/1日目・深夜】
【ベナウィ@うたわれるもの】
[状態]:健康
[装備]:海軍用船上槍(フリウリスピア) @とある魔術の禁書目録
[道具]:支給品一式、不明支給品1~5
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗りハクオロを生還させる。
1 :殺し合いに乗りハクオロを生還させる。
2 :仲間には会いたくない、会ったならば斬る。
【海軍用船上槍@とある魔法の禁書目録】
天草式の五和の使用武器。
デザイン的にはシンプルな槍。
しかし1500回ほど樹脂のコートを重ねることによる『植物の持つ繁殖力』の術式を付加し、更に刃先に『冷たい夜気』を利用した術式を付与したもの。
その結果、メイスによる一撃に耐えるほどの耐久力を持ち、その一撃が破壊的な攻撃力を撒き散らす霊装になっている。
最終更新:2009年08月30日 13:57