死闘と殺戮を目的とした島の、とある森の中。
月影が冴え渡り、夜だというのに万物の輪郭を淡く白く浮かび上がらせる。
そこに異形の耳を持ち槍を正眼に構える青年に対し、大振りの剣を手にした少年、その横に並び立ちこれまた大振りの鋏を持つ少女を模した人形が睨み合うように向
かい合う。
この状況になるまで、数刻程遡る。
◇
積み重なった落ち葉を踏みしめ、視線を落とす。
ベナウィは、ついさっき自分が手にかけた少年を見下ろしていた。
(武人である自分が、民間人を殺した。しかも自分本位の大儀で…)
後悔はない、はずだ。戦場で幾人もの命を奪ってきた。今更珍しいことじゃない。
民あってこその国。この少年も仲間のいた故郷があっただろう。
しかし、民だけでは国は治まらない、誰かが政をしなければならない。その政をする者が愚者であれば民は摂取され国は滅びる、だから良い統治者が必要だ。今やト
ゥスクル周辺は戦乱がいつ起ころうとおかしくはない状況、聖上は民の為にも国の為にも必要な存在。
民は弱者。それを守るのが私達、武人の役目。今は諦めるしかない、戦う術を持たぬ民を殺すことを……。
それなのに、と思う。
この少年は逃げなかった。この槍を見ても突きつけられても、単に無鉄砲と言ってしまえばそれまでだが、この殺し合いという不条理に本気で怒り、私の道に立ち塞
がった。
(なぜだ)
そこに、どうしてもあの人の面影を重ねてしまう。聖上もおそらく戦いを止めようとするだろう。一刻も早く、合流せねばならない。
少年の死体を見て足が止まる。個人を捨てると決めた。この屍は聖上が生き残るためのただの捨石に過ぎない。
皇と国と民とを護り続けた侍大将ベナウィは、抗った少年を見つめた。
そして今になって手を伸ばす。
死後硬直もまだ始まっていない小さな死体を、潅木の下に押し込んだ。
(…今は埋めてやることはできないが、これで鳥獣にやられる事もないでしょう。聖上さえ生き残ればトゥスクルはなんとかなる。それに、あの少女達の言っていた事
が本当ならば、聖上がお前も生き返らせてくれるはずです。前原圭一)
背に修羅を背負い、自分が殺めた少年の名を胸に刻み、前を向く。
その視線の先に二つの人影を目にする。
すぐに瞳は戦士の物となった。
ベナウィは木々の間、暗闇へと身を同化させる。
一方は男、持つ得物はかなりの長刀。
鬱蒼と茂る森では不利なものだ。
もう一方の小柄な少女らしき人物も巨大な鋏を手にしている。
扱えるのか?
しかし、カルラのような例もある。
…警戒。
◇
私、上条当麻は現在、不思議なしゃべる人形、翠星石と共に森の中で身を潜めていた。先ほどの戦いで分かったことは、積極的に殺し合いに乗る者もいるという事実
。だからこそ初めての土地で無為無策無闇やたらにうろつくよりも、きちんとこの島の特徴をつかみ行き先を明確に決めて行こうということにしたのである。
とまあ、そんなこんなで木の下に腰を据え、ランタンの明かりを絞りつつ対策を練っていた訳だが、あのトチ狂った公開処刑はなんだったんだろうか?裏の世界の実
験か何かか?そして、この突然のテレポートはなんのドッキリなんだ?白井黒子も一枚噛んでいるのか?ともかく、この忌まわしい首輪を何とかしようと、我が幻想殺
しでもって触り続けていたのだが何一つ変わらず首輪が外れる事は無かった。
……やっぱり不幸だ。
俺がいつもの感情に流されている間にも、不思議オカルト人形、翠星石は地図を真剣な眼差しで眺めている。
最初、こいつは科学側の新型ロボットなのだと思っていた。
だが最初の犠牲者の三人の内の一人?が妹だと言ったこと。そして俺の支給品の鋏についていた簡易的なメモ用紙。さらに今しがた聞いたドール、ローゼンメイデン
という概念。
それによって、翠星石に対して人形というよりもちょっと変わった女の子として接すればいいんだろうと思い始めていた。例えて言うなら、インデックスや姫神みた
いな感じかな?
……しかし、なんといいますか。いや、この殺し合いという自分の存在価値が揺らいでも仕方ないような非情なる極限状態において場違いなこと甚だしい上に、私こ
と上条当麻の人格を疑われかねない事でヒッジョーーーに言いにくい事なのであって、今、言っていることも言い訳がましいのだが……率直に言って翠星石は、その、
そこはかとなく………………綺麗というか可愛い。
とても流暢に言葉を話す様子や、地図を見る小さいのに整った横顔、つややかな亜麻色の髪と肉感的な肌、左右で色の違う瞳が生き生きと動くさまを見ていると、ど
うにも生きているようにしか思えなくなってくる。
だから、土御門や青髪ピアスといっしょにすんなそこぉっ!!
「じゃあ、街に行ったほうがいいと思うんですか?」
「あ、ああ、そうだな。これだけ建物が点在してるから、何をするにしても街に向かったほうが都合がいいんじゃないか?」
「確かにチビ人間は街に行きそうですよねぇ。真紅は洋館に行こうとするかもしれませんけど…」
「さ、荷物まとめて行こうぜ。夜明けまでには街に着きたいからな」
そう言って立ち上がり、脚についた葉っぱを払う。翠星石はさっき、主催の少女達に敵を討つと気丈に言った。しかし、少し目を離すと塞ぎ込むようにぼーっとして
いることが多い。やはり姉妹を亡くしたことはショックなようだ。だから、あえて率先して動いているのだが…
ただ一つ、最大の懸念材料がある。
上条当麻という男は、世界の不幸を一身に背負う不幸の星の下に生まれた人間だということ。確かに、この殺し合いに参加させられたこと自体も不幸ではある、不幸
ではあるが武器には恵まれていた。
そこがおかしい。
普段の俺なら、良く分からないが支給品の中に言葉を話す三毛猫(雄)が一匹しかいないとかで、さらに支給品の食料をその猫に根こそぎ食べられいて、開始早々「
不幸だぁぁぁ!!」と叫ぶのが相場のはずだ。
…何か、いらない所で不幸が起こりそうで怖い。それが実感だった。
「それにしても、トゲ人間は威勢がいいですよねぇ。幻想をぶっ壊すだなんて、そうそう言えるものじゃないですぅ。チビ人間にも爪の垢を煎じて飲ませてやりたいで
すよ」
「トゲ人げ……まあ、半分ハッタリだったんだけどな」
「そうなんですか?」
「こんな剣、刀か。とにかくこんな物騒な物を持つのすら初めてなんだぜ。それなりに修羅場慣れはしているんだけど、俺の『幻想殺し(イマジンブレイカー)』は異
能以外の肉弾戦にはほとんど効果ないからさ」
月を反射する冷たい光がギラめいたのはその時。
翠星石の視線が逸れた方向を見た途端、風を切る音が聞こえ、木の陰から刃が迫った。当麻は手に余るほどの長刀をとっさに盾にする、火花が間近で瞬く。
(また敵!?)
何とかバックステップで後退し体制を整える。翠星石も横に立ち、既に庭師の鋏を手にしていた。
木陰から黒い大きな影が現れる。
高い上背、広い肩幅の人物。圧迫感を与える鋭い双眸が睨み付ける。闇に紛れる濃紺の袖なし外套がはためいた。郡を抜いた威圧感は夜闇のせいだけではないだろう
。重そうな肩当てを両肩につけたままの今しがたの動き。何より、その手に持つ巨大な槍が自分達に向けられた敵意を顕にしていた。
◇
「初太刀で仕留められなかったのは誤算です。……やはり、闇討ちというのは性に合いません。」
襲撃者は言い放つ。その余裕に気おされた。ともすればコスプレ紛いの格好ではあるが、当麻の周りの人物を思い出せばおかしいとも言いがたい。
そして、構えはまったく崩れていない、相手は確実に場慣れしている。さっきの木刀を持った少女とは違う、理性に裏打ちされた鋭利な殺気が二人に突き刺ささった。
この余裕、超能力もしくは魔術を持っているかもしれない、後退しつつ当麻は残りの煙幕を翠星石に渡す。次に右手を自由にするために、刀を左手に持ち替えた。
「……まあいいでしょう、貴方達はこの島に着いてからハクオロという人物を見かけませんでしたか?」
「………見た」
もちろん嘘だ。名簿で少し名前を見ただけだったが、相手の隙を作る時間を少しでも作りたい。襲撃者は眉一つ動かさず視線のみで射抜く。
「…それは、どこで?」
「俺達、山を下って来たんだけど少し登った所で、木刀を持った女と戦ってたぜ」
何とかこちらのペースにしたいが、相手はまったく動揺した様子がない。
「聖上の角は五本とも無事でしたか?」
(…角?いきなり引っ掛けかよ)
「遠目だったからな…よくわからなかったぜ」
「遠目だったのに、その人物がハクオロとよくわかりましたね」
「夜だから、声がよく響いたんだよ」
「………」
ベナウィは迷っていた。二本の角を五本と言った引っ掛けは通用しなかった。目の前の少年の話が本当ならば、もう勝敗はついているかもしれない。
ハクオロの強さならば、そう易々と負けることはないと思うが、万が一ということもある。合流はしておきたい。
襲撃者が黙り込んだのを見て、当麻は説得できるかも知れないと思い始める。
「…なあ、アンタ。そのハクオロって人に会いたいのか?」
「…貴方に関係はありません」
「なんて失礼なエゴ人げ「ごめん、翠星石。ちょっと黙って。……それとアンタ、人に質問してそれはないぜ。ギブ・アンド・テークってのは基本でしょう?」
声を荒げる翠星石を遮り言葉を紡ぐ。後ろで文句を言っているが、この際無視する。
「ぎぶあんどていく、というものが何かは知りませんが……教えなくて結構です」
(げっ)
あっという間にに間合いを詰められ刃が襲う。またも長刀で防ぐ。その時、相手の刃に血曇りを見出した。
(こいつ……)
殺し合いに本当に乗っているかどうか見極めようとしたが、最早そんな悠長なことを言っていられない。相手は既に誰かに傷を負わせているか手にかけている。
(ここは危険すぎる)
変わった力をもっている様子はない、体術だけが人間離れしている。逃げるしかない、当麻はそう思った。幻想殺しが効かない以上、下手に留まった方が危険だ。
口だけを動かし翠星石に合図を送る。小さく頷き、鋏と煙幕を握り締めた。
それを確認すると当麻は長刀を持ち直し、襲撃者の隙を作るために大きく振り回す。相手は力を込めるでもなく受け流す。
二対一、数では勝っているのに相手は一歩も引かない。寧ろ、当麻達の方がジリジリと後退していた。
「オイ、アンタ!もうやめろよ!この殺し合いするなんて幻想に過ぎねぇっ!
あの女の考えが幻想なんだ!殺すんなら人より、その幻想を殺すほうがいいだろうが!!」
「幻想、幻想……。耳に胼胝ができます。……なにが幻想、なにが現実、それは私の決めることです」
(駄目だ)
聞く耳を持たない。
「そんなことないです!エゴ人間!トゲ人間はこんな事をさせる人たちの考えが幻想だって教えてくれたんですぅ!」
「……人の考えにばかり口を出すなど、余程の暇人のようですね」
翠星石を軽く弾き飛ばす、軽蔑した視線で当麻を見据え、構えを自然体に戻した。
「聖上は立派な方です」
相手に有無を言わさぬ毅然とした声。
「件の少女達が言っていた。げえむの優勝者に願いをかなえるという話に偽りがなければ…、
いえ、この地に一瞬で移動させる者達です。その異能を体験した後の今、彼女等の力を信じてもよいかも知れません。
だがそれは瑣末な事、もしも本当に彼奴らが死者蘇生をできるというならば、聖上は我欲のためになど使わず、我らを生き返らせる道をお選びになると断言できます。
貴方達も無論、例外なく蘇生させて下さいましょう」
淡々と言い放った。言葉にならない。ここまで他人を妄信できるものなのか?
「……話が過ぎましたね。……もういいでしょう?生への執着や醜い欲望に囚われずに安んじて死になさい。」
間髪いれず槍が襲いかかる。もう攻撃は止むことはない。休みなく降り注ぐ斬撃。
木々の空間に出た途端、槍を棒術のように大きく振り廻し、石突きの部分を叩き付けようとする。
長刀でなんとか凌ごうとしているが、打ち込まれる度に腕が痺れた。速さだけじゃない圧倒的な力量の差。
当麻も同年代に比べかなり体は絞ってあり、動きも俊敏だ。ケンカじみた事だって何度も経験している。
だが、まだ少年のその体躯からすれば、大人と子供以上に差がありすぎる。翠星石が槍の風圧で、また後ろへ吹き飛ばされた。
(隙がねぇ…)
煙幕を張ろうとしても、白い煙が充満するまでに時間差が生じる。何より自分達も一瞬視界を奪われてしまう。そこを突かれたら終わりだ。
(一瞬でいい、相手を怯ませれば…)
考える。その暇さえ与えない攻撃が続き、徐々に避け切れなくなっている、刃が体中に切り傷をつくっていく。
そして、一瞬の溜めのあと捻りを加えた突きが襲った。当麻は受け切れず吹き飛ばされる。転がりながらその反動で何とか立ち上がった。
「トゲ人間!」
「…二対一とはいえ、よく動きに附いてきましたね。…筋は良いようですが、これまでです」
一分の隙もない動き、虚をつくように、今度は袈裟斬りが当麻を襲う、緩急の激しい攻撃に体の重心を崩した。
返す刃で、長刀を持て余す当麻の腕の中、間合いの間合いへと斬り込む。
斬ッ
衝撃の後、何かが顔の横を飛ぶ。
(あ)
それを自分の右手と視認する前に、手元から赤黒い液体が勢いよく噴き出す。
槍は軌道を整え、すぐさま喉へ向かってくる。
(俺、死ぬ?)
冷静にそう思う。笑えない。切っ先が迫る。
ビュンッ
風を切り裂く音が耳元で聞こえた。
続いて金属同士のぶつかる衝撃音。槍の軌道がぶれる。
左の頬を冷たい感触が疾走した。
「ぐっ」
呻き声?誰の?
次に破裂音がして視界が白く染まっていく。
「さあ!トゲ人間逃げるですぅ!!」
甲高い翠星石の声でハッとする。周りには白煙が満ちていた、最後に見えた襲撃者は肩に鋏が突き刺さりよろめき、やがてその姿も煙の中へ消える。痛みが酷い。
右手を捜すが見えない、どこに在るかさえわからない。煙が晴れ出してきた。不意に無事な方の腕を掴まれ、引き摺られる様に駆け出す。
◇
煙は晴れた、遥か遠くに小さな影が二つ見える。
追いつけない距離じゃない、戦において間断ない追撃こそ最大の攻撃…ではあるが、ベナウィは二人を追わなかった。
右肩に刺さった鋏を抜き取る、ぬらりと血が滴った。
(……最初に槍が出てきて慢心していたのかも知れませんね)
自分を嘲る。
自惚れ、驕り、不覚。そうだ、覚悟が足りない。
武人として最低限の手順すら踏んでいなかった。
まずは手駒、地の利の確認。これなくしてどうやって力量の分からない相手に勝利ができようか。
ここは戦場、民間人すら巻き込む地獄の殺し合い。
相手とて死に物狂いで抵抗するのは当然だ。
肩の傷の代償は大きいが、御陰で冷静になれた。
「……この島は運命だの幻想だの、自分の宗教に殉じる者が本当に多い」
(ならば、私は忠義に殉じるのみ…)
武人の決意は揺るがない。
彼はまた、森の闇へ溶け込む。
【G-03 森の南部/1日目・黎明】
【べナウィ@うたわれるもの】
[状態]:健康、右側の肩あてが破損、右肩に裂傷(中)
[装備]:海軍用船上槍(フリウリスピア) @とある魔術の禁書目録
[道具]:基本支給品、不明支給品1~5、庭師の鋏@ローゼンメイデン
[思考・状況]
基本:殺し合いに乗りハクオロを生還させる。
1:肩の傷の処置をする。
2:地の利を見極める。
3:ハクオロを探しに山を登る。
4:仲間には会いたくない、会ったならば斬る。
―――息が切れる。…辛い。もう、どれ位走ったんだろう。
ずいぶん走った気がする。大地の感覚は踏み慣れたコンクリートへと変わっていた。踏みしめる度に足の裏が燃えるような熱を帯びる。
「ほら!腕を上げるやがれですぅ!傷口を上にするのは基本でしょうが!」
すぐ下で、支え引きずるように駆ける翠星石が叱咤激励する。その脇にデルフリンガーを抱えていた。言葉遣いが荒くなっているようだが気にしている余裕はない。
「…右手が」
未だ血の止まらぬ手のなくなった腕が目にした途端、足が絡まり道路に倒れ込んだ。
「うぅっ……」
激痛が全身を走る。あの先生もいないこの島で、これだけの傷を受けて生きていられるのか?
恐怖と痛み、焦燥が当麻を責める。
「幻想をぶっ壊すって言ったじゃねーですか!」
「だめ…だ…俺は、もう…」
「今手当てしてやるから、自分が言い出した事くらい、最後まで貫きやがれですぅ!」
「…でも、イマジ…もむぐっ……」
舌を噛ませないように白いヘッドドレスを当麻の口に突っ込む。
翠星石は長刀を使い、引きずるほどの長いスカートを細く切り取る。それを使い、当麻の右手首をきつく縛ってゆく。
「……ッァあ…」
痛みが酷過ぎてもはや感覚がない。
(……そういや、前もこんなことがあって、…そん時ゃハイになっちまってたよな)
寒気がする、体中が熱を放っているのに氷になってしまったようだ。
白い白い空間が広がる。
(二時間ちょっとで二回も、戦うなんて……俺、やっぱり疫病神なのかな?)
何かの映像が浮かび上がってくる。
――ただいまーっと。
――とーまー、お腹が空いたよー。なんか作ってー。スフィンクスだってお腹と背中がくっつきそうだってにゃーにゃー言ってるよー
――そこはおかえりだろ、冷蔵庫にチャーハンが入ってなかったか?
――それ昨日だよー、ちゃんと覚えてなきゃ私困っちゃうかもー。
――痴呆じゃねーよ。で、何食いたい?
――えーっとね、えーと………
(…イン…デックス、どこに…居んだろ……)
そこで上条当麻の意識は、まどろみへ消える。
◇
「まったく!ほら、トゲ人間!とっと起きるやがるですぅ!夜だけど寝てる場合じゃねーんですよっ!」
ぺちぺちと小さな手で当麻の顔をたたき続ける。左手薬指の指輪が当麻の唇に当り、小さく呻いた。しかし目を覚ます様子はない。
血の気も引ききっていた。右腕は布で何重にも固く縛り血はほとんど漏れていないが、念のため右腕は体の上にのせて高い位置に保たせている。
「右手が駄目なら左手使えばいいでしょーが!甘ッタレやがるんじゃねーですよぉっ!!」
言葉は乱暴だが、口調にはどこか悲壮感を湛えていた。
「どうやら、止血は成功したみたいだな」
突然聞こえる第三者の声。
翠星石はびくりと身を震わせ、周りを見渡した。
誰もいない。
「…あれ?おお、やぁっと、話せるようになったあ!!」
またも聞こえる声、そこでようやく、転がる長刀の柄が小刻みに動いていることに気づいた。
「オイ、そこのあんちゃんの右手は何だったんだ?話そうと思ってもぜんぜん話せねぇしよぉ。俺の意識も飛ばされそうになったんだぜぇ!
ま、伊達に6000年以上生きてねぇからな。踏んじばってた訳だけど…」
自由になった言葉に浮かれ気分良く話していると、此方を見る明らかに警戒している色違いの瞳が一対あった。
「ど、どうした?やっぱしゃべる剣ってのは珍しいかい?」
(……怪しい)
翠星石はジト目で刀を睨み付けながら相手の出方を伺う。水銀燈の例もある、何者かが遠隔で操っているのかも知れない。カタカタと柄を動かし話し続ける剣。
自律稼動できるのはそこまでなのか、それ以上の動きは見せない。
その後、翠星石は距離を取ったまま、軽い自己紹介というより一方的な尋問を行った。
しゃべる剣はデルフリンガーと名乗り、ガンダールブという伝説の使い魔の所有物だと言った。
「つまりは、ドールと似たような存在ってことですか?」
「いや、ドールってのが俺には分からないんだが…」
「まあいいですぅ」
「いいのかよ」
「………」
「…?どうした」
急に真剣な顔になり、吟味するようにデルフを注視した。襲撃者の青年が言っていた事を思い出す。
「……。デルフリンガーは6000年以上生きているんですよね」
「デルフでいいぜ。そうだな。一応、その位は生きてるはずだ」
「だったら、いろんな話も聞いたこともありやがりますよね?」
「まあな」
「………死者蘇生って信じますか?」
一蹴される事を覚悟していた。水銀燈に敗れたピエロのような単純なドールならともかく、生身の人間が生き返れるはずがない。そして、おそらく自分達も。
「あー、と…あるかもな」
「…………」
予想外の言葉、空いた口が塞がらない。しばし呆然となる。適当な事を言ってんじゃないだろうか、こいつは。いぶかしむ様に眉をひそめた。
「…それは、マジのマジですぅよねェェェ」
「怖いな。顔が近いぞ」
聞けばデルフの相棒、現所有者は一度死んだらしい。そこにエルフという、また得たいの知れない異能が介在して、その力を借り蘇生したと言った。
あの少女達が自分達を拘束した手口を見ても、それに匹敵する異能を持っていると考えて不都合は生じないように思える。
(て事は優勝すれば、本当に……)
「…また、生きて蒼星石に会える?」
言葉にしたら会えるような気がした。
生きることは戦う事。
戦わなければ、何一つ守れない。何も手にはできない。
ただ、指をくわえて見ているだけ、奪われてゆくだけ。
一つでも、少しでも可能性があるなら、それに賭けよう。
目の前にやり方があるのに、それを気づかない振りをしてやらないまま一生後悔するよりも精一杯やって、それでも駄目なら諦めもつくというもの。
どちらにしても、アイツ等の元にたどり着かなければ敵を討つことすらできない。
……真紅やチビ人間には悪いがこのアリスゲームに乗させてもらう。
倒れたままの当麻を一瞥して、転がっているデルフリンガーを拾った。
「…トゲ人間、助けてもらった借りは返したです。さあ一緒に行くですよ。デルフ」
「そこのあんちゃんをほっといていいのか?」
「血は止まってまるから、くたばったりはしないはずです……多分」
当麻の横を通り過ぎながら彼の荷物を見る。が、すぐに視線を外す。どちらにしてもあの怪我だ。武器もなしで長く持つはずがない、だから荷物は置いていく。
願わくば彼が寝ている間にトドメが刺されればいい。苦痛もなく、恐怖もなく、死ねばいい。そして、この島ではもう二度と自分の前に現れないで欲しい。
幻想で惑わさないで欲しい。
デルフリンガーをデイバッグに仕舞った。あれだけの長物だったのに簡単に収まる。どんな仕組みかは知らないが、これで行動もしやすくなった。
そして翠星石は、さっきの襲撃者から距離を取るため海沿いを目指す。
あとに残されるのは、道路に横たわる今や異能無きただの少年。道端の雑草が風にゆれる。
微かではあるが、ゆっくりと確実に胸は上下動を続け、呼吸をしていること示す。
その左手の薬指には、薔薇を模った指輪がいつの間にか嵌められていた。
それの意味を知るドールが振り返る事はない。
―――奈落に咲いた一輪の花。咲いた場所は、所詮奈落に過ぎない。
【G-02 道路/1日目・黎明】
【翠星石@ローゼンメイデン】
[状態]:健康、自己嫌悪、スカートが短くなっています。デイバッグからデルフの柄だけ出しています。
[装備]:デルフリンガー@ゼロの使い魔
[道具]:基本支給品、不明支給品1~3(確認済み)
[思考・状況]
基本:主催者は許さないが、優勝して全員を生き返らせる。
1:海沿いに街へ向かう。
2:いずれ、鋏を取り戻す
3:蒼星石…
4:トゲ人間(当麻)とはもう会いたくない
[備考]
※当麻と情報交換をしました。
【上条当麻@とある魔術の禁書目録】
[状態]:気絶、貧血、強い喪失感、精神疲労(大)、右手首から消失(止血済み)、左頬に裂傷、全身に切り傷
[装備]:契約の指輪(翠星石)@ローゼンメイデン
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本:こんなふざけた殺し合いをやるという幻想をぶち殺す…
1:俺の右手…
2:幻想殺しの無い自分に殺し合いをやめさせることができるのか?
3:翠星石と行動する
4:インデックスやビリビリと会う
[備考]
※翠星石と情報交換をしてローゼンメイデンの知識を得ました。
※煙幕は使い切りました
【契約の指輪@ローゼンメイデン】
ドールと人間がミーディアムの契約をした証の指輪。
ドールが100%の力を出すために必要な物、力を供給する際、契約者の人間の指輪が光を放ち熱くなり、疲労する。力を使いすぎると人間は衰弱死する。
契約者の人間がドールの指輪にキスをして契約は成立。
逆にドールが契約者の指輪にキスをすれば契約は破棄される。
【備考】
※当麻の右手はG-03の森に放置されています。
※切り取られた当麻の右手が幻想殺しを使用可能かどうかと、現在、大河の支給品の今北産業用名簿に反応するかどうかは、次の書き手さんにお任せします。
最終更新:2009年09月15日 13:00