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第五章-第三幕- 本領発揮





休火山デス・ボルガノンの中にある洞窟の一つ。
地熱による温かみで、身体を冷やさずに済むのが利点のこの場所で、
降り出した雨を無視する形で、勇者軍主力部隊は
そのほとんどが横たわっていた。

「でも、おかしいね」
「何がだ?」
レイリアの疑問が飛び出し、エイリアがそれに興味を持った。
「私達のナノ・マシンほど万能じゃないって言ったって、
 メインメンバーの遺伝子には旧時代からの分の抗体だって
 ちゃんと残ってるはずだよ。それなのに過去に現存した疑いの強い
 ウィルスなんかに、やられちゃうなんて……」
そのレイリアの言葉に、エイリアが一つの結論を出す。
「抗体は万全の防御態勢にはならないんだ。
 抗体に勝る勢いでウィルスを空気感染させられたとしたら、
 いくら抗体があってもやられてしまうだろう。
 ましてあれだけスプレッダーに近くてはな。
 だから、ワクチンを作るために研究部が奴の身体の部位を
 欲しがるのも、道理だろう? レイリア」
「そっか……でも今は近くにスプレッダーはいない。
 一度治れば、より抗体は強化されるよね?」
「そうだな」
「じゃあ、やるよ、エイリア」
そこまで言うと、レイリアは自らの手をかざし、
まずは体力の消耗が著しいジルベルトの前へとかざした。
ちらちらと薄く何かが光り、ジルベルトの体内へと入っていく。
ナノ・マシンによるウィルスの直接除去を行うのである。
これは勇者軍の数少ない戦士の中で、更に唯一彼女が持ち得る
特殊技能でもある。抗体の強弱、多少に関わらず、
このナノ・マシンであれば直接、病原菌を駆逐出来るのだ。
エイリアもエイリアで、ナノ・マシンを自らの体内に秘めている。
他者の治療に生かす事は出来ないが、彼女はより強い耐性をもって、
あらゆる病原菌や状態異常などから完全に解放されるのである。
人はそれを『絶対耐性』と呼ぶ。

そんなエイリアが行ったのは外部への通信であった。
研究部に連絡を取り、ナノ・マシン以外に対処し得る
治療薬が無いかを求める事が、今の彼女の役割だった。
「研究部、誰かいないの!?」
「はいはい、もう送りましたよ?」
暢気なシルヴィア=スターリィフィールドの声。
「送ったって……何を?」
「治療薬ですよう。幼生体の数も減ってきているし、そろそろ
 成体と当たる可能性も出てきてるんじゃないかと思って、
 情報部経由で、治療薬を送ってもらっているんです。
 遂に、ウィルスの正体が分かりましたので」
「何ですって?」
エイリアの表情が変わった。それが本当なら大事なことだ。
「西暦と呼ばれた旧時代に蔓延していたウィルスと同一の反応です。
 名前はインフルエンザウィルス。毒性はそう強くありませんが、
 とにかく感染能力が高く、下手を打てば致死に至る事もあります。
 自然治癒も不可能ではありませんが、薬剤の投与が必要ですね」
インフルエンザ――
聞き覚えの無い名前ではあったが、
そんな得体の知れないウィルスさえも
防いでしまうストレンジバスター機関――
自らを生んだ生みの親の技術には
心底、感心と感謝の念を抱くエイリアであった。
「誰がそっち行くかは分かりませんけど、端末の反応を目指して
 動くと思いますので、出来るだけ早く
 薬剤を受理して下さいね、では」
「ありがとう、助かるわ」
通信が切れたので、エイリアは洞窟へと戻った。

「大丈夫?」
「ナノ・マシンの減りが大きい……全員分に回したけど、
 ナノ・マシンの自己増殖まではまだ使えないみたい……
 減らしすぎると今度はあたしが倒れちゃうから……」
と、大きく消耗したレイリアが答えた。
「そうか。死なないならいい。よくやったよ、レイリア」
「へへ……」
息が上がったままではあるが、Vサインをとってみせるレイリア。
「端末から救難信号を送っておいた。情報部経由で増援が来る。
 それまでもちこたえよう、レイリア」
「それは……助かるよ。正直ちょっと疲れちゃった」

じゃりっ!
砂を踏む音が強く聞こえた。
「誰!?」
レイリアとエイリアが鋭く振り向いた。
しかし、敵意が無い。味方だろうか?
「あのう……主力部隊の皆さんですよね?」
場にそぐわぬ、おっとりとした少年の声。
「そうだけど……君は?」
「僕はリゼル。リゼル=ジョルダ。勇者軍サブメンバーです」
「ジョルダ?」
レイリア、エイリア共にその名に聞き覚えがあった。
が、その少年には同伴者がいたのだ。
青い髪の女性である。背が高い。
「そっちの女の人は? 勇者軍の人?」
「違うわ。私は善意で道案内をしてあげただけ。
 君? ここが目的地って事でいいのよね?」
「あ、はい。ありがとうございました」
少年は女性にぺこりと頭を下げる。
女性は倒れている集団を一目見たのだが、
後はどうという事もなく立ち去って行こうとした。
「あ、あの! この事は正式に勇者軍上層部に連絡し、
 然るべきお礼の品を後日、贈呈しようと思います。
 よければ、名前とご住所をお聞かせ願えますか?」
「いいのいいの。そんなつもりで案内したんじゃないから」
と、手をひらひらさせて立ち去る女性。
(あの子が助かれば私はそれでいいもの……)
という内心は、肝心のジルベルトとシエルがダウンしているおかげで
読まれずに済んだのは、彼女にとって幸運だったのかどうか、
この時点でそれを知る術は無いのであった。

「これがタミフル、リレンザと呼ばれる、西暦当時に流行した
 対インフルエンザ用の一般的処方薬の複製品です、お使い下さい。
 多少ですが、備蓄用も持ってきていますよ」
おっとりと、リゼルは優しく持ってきた袋を手渡す。
大量の錠剤が入っていた。
「これがあれば……!」
エイリアは急いで水を用意し、一人ずつ処方薬を投与する。
「あとは勇者軍ほどの体力と地力があれば、
 一日、長くても二日程度で
 完全に回復出来ると思いますよ。それまで僕も看病しますね。
 僕、これでも研究部で働いている人間ですから」
「ありがとう、助かるよ」
と、リゼルも手伝い始めた事に、素直にレイリアは感謝した。

それから二日後――
看病は予想以上に困難を極めたが、長雨が降り止んだ頃、
勇者軍主力部隊は何とか戦闘が出来るまでに回復した。

そしてその場ですぐ作戦会議が開かれた。
まずは増援として訪れたリゼルの処遇からである。
「リゼル=ジョルダ君、だったね?」
と、ライナス。
「君がこれから主力部隊で戦うと言ってくれるなら歓迎したいが、
 君としての意志はどうする? 後方支援に戻っても構わないよ」
「いえ、僕はここで戦ってみようと思います。
 どうせ僕程度の力量じゃ、シルヴィアさんの
 役に立つには実力が不足していますから……」
「……そうか」
リゼルにはどうやら、若干の劣等感があるようではあったが、
来てくれる者を拒む理由は無いので、皆、揃って受け入れた。

そして状況の確認である。これからどうするのかが最重要だ。
「私は、当初の予定通りカレン家の人を迎えるべきだと思います」
と発言したのはユイナ姫。
特に皆、異存は無かったが、それに意見を加えた者がいた。
コンラッドである。
「それも必要だが、その後でアイリーン・マフィアに行かないか?
 今回はレッド・ワイズマンMk-Ⅱの砲撃に大きく助けられたが、
 いつまでもそれに頼っちゃいられねぇ、メイベルの親父さんの
 助けを借りて、本格的に特訓しときたいんだがな」
「なるほど」
と、シエルが頷く。
「ケヴィン叔父様による、肝煎りの特訓をすれば、確かにみんな
 見違えるほど強くなると思うわ。考えたわね、コンラッド」
(僕は、それもあるけど、メイベルも心配。
 小さくて泣き虫な子だもん)
と、ジルベルトの意見が飛ぶ。
「お、いい事言うなリーダー! でもお前の方が小さいぜ? 確か」
と、コンラッドが言ってのける。
(いつの間にか身長追い抜かれてる……!?)
少なからずその事にショックを抱いた
ジルベルトがちょっと涙目になった。
「あれ? 何か悪い事言ったっけ、俺?」
「この馬鹿! 隊長を泣かすんじゃないの!」
「要らないこと言ってジル君をいじめないで!!」
ソニア、ユイナ姫から罵倒を受けまくって怯むコンラッドであった。
明らかに失言であろう。それを遠目から見てくすくす笑うリゼル。
なだめる事さえしない辺り、若干日和見に過ぎるのではあるが、
それはただ、それだけの話である。

「とまあ、揉めに揉めたはいいけど、とりあえずカレン家の人を
 迎え入れて、アイリーン・マフィアへ向かう、これでいいのね?」
と、また小芝居を入れながら喋るエイリア。
「それでいいと思います」
リゼルも賛成したので、話がまとまった。
「よし、いつまでもこんな休火山に
 いられんからな、動くぞ、みんな!」
「ええ!」
ジークの檄にシエルが応じ、全員が立ち上がり、
洞窟の外へと出た。すると雨の面影であろうか、
高らかに虹が輝いていた。遠くからカルナード港の
喧騒もかすかに聞こえてくる。いい景色だ。
「うむ、今日は新たな旅立ちには良き日だ。
 歩くとしようか、隊長!」
ジークの元気な声が妙に心地良い。
(うん、行こう)
ジルベルトが頷き、剣を前に向けた事で行軍は再開した。

目指すはレイクリッター・タウン。カレン家に縁の深い
レイクリッター財団が創設した町である――



<第六章 へと続く>
最終更新:2011年02月18日 13:06