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第六章-第二幕- 珍しきカレン家の男児





レイクリッター・タウンに到着した勇者軍主力部隊は、
早速ではあるが、我が目を疑った。
今までは街のド真ん中から食い潰されるように、
もしくはえぐられるかのように壊れていた街ばかり見てきたが、
ここは何というか、微妙だ。街外れの建物数軒だけが壊れている。
これなら自然災害の方がよほど
被害が出るだろう、という微妙な損害が
スプレッダー幼生体によってもたらされていたのである。

まあスプレッダー幼生体とて、ただ歩いているだけなので、
その進行ルートが街の上でなければならない理由も無いのだが、
何にしても中途半端である。しかも
この付近にはスプレッダー幼生体の
反応らしきものもなかった。既に立ち去っているようである。
とにかく人的被害も無かったようなので、この件を後回しにして、
カレン家の者を探すため、端末同士で反応するレーダーを
ジルベルトは作動させるのであった。

ぴこん!

反応があった。しかし思ったより距離が離れている。
レーダーの有効範囲ぎりぎりに近い位置を走っているようである。
しかも進行方向がアイリーン・マフィアの方向と一致している。
まさか一足先に行ってしまったとでもいうのだろうか?
ジルベルトが思案にくれていると、後ろからリゼルがそれを
覗き見してきたのであった。
「でも、この人明らかに早く走り過ぎですよね?
 騎乗した状態のユイナ姫といい勝負していると思いません?」
(……言われてみたらそうかも)
という意味合いで、ジルベルトはただ頷く。
「むしろ、この場合は何かから逃げている、もしくは追撃中、
 じゃなきゃ何らかの原因で単に急いでいるだけかもしれませんが、
 何にしても見失うのはよろしくないと思いますよ、隊長」
リゼルの言葉にジルベルトは頷いた。
「行きましょう」
シエルの言葉で全員が走り出す。
カレン家の者と思われる人物を追うために。

一方、そのカレン家の赤い髪の男――
カレン家にはやや珍しい事に男――
テディ=カレンはスプレッダー幼生体を追撃していた。
「勇者軍専用の訓練施設をぶち壊した
 アイツには例をしないとな……!」
テディは、自立のための訓練課程を終える寸前だった身であるが、
その最終試験を行おうかという矢先に、訓練施設を不幸な事に
偶然通りがかったスプレッダー幼生体に
迂闊にも破壊されてしまったのだ。
教官が言うには、その幼生体の撃滅をもって
合格の代わりとしてやる、らしい。
ならば是も非も無く動かねばならないだろう。
「普通にやれば普通に終わった試験だったものを!
 どうやらあいつは俺を怒らせたいらしいな!?」
そう愚痴混じりの皮肉をこぼしながら、ひたすら彼は走った。
すると見えてきた。自分の街をちょっとだけ潰した幼生体だ。
「あれか!」
足を速めた。武器を――ハンマーを構える。
「訓練施設の仇は取らせてもらう!」
そして、振りかぶって叩きつける。
がぎゃっ!
「きぎぎぃぃぃぃぃぃぃ!!」
スプレッダー幼生体は大きく怯んだ。
衝撃がそれだけ凄まじいのだろう。
無視して進んでいたが、流石に幼生体も振り向かざるを得なかった。
「ぎきゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
スプレッダー幼生体は、その身体をもって地下水を汲み上げ、
ウォーターブレスとして解き放った。
ばしゅっ!
「ぬるいな」
しかし、テディは平然と立っている。
彼には火の守護精霊が付いている。
並大抵の水の攻撃など、まったく通用しないのである。
「くらえッ!」
引き続き重い打撃がしつこく加え続けられる。
ごっ、がっ、がすっ!
「ぎきゃっ! ぎゃぎぃぃぃぃぃ!!」
みるみるうちにスプレッダー幼生体が弱っていく。
戦い慣れしていないにも関わらず、優れた洞察力と反射神経のみで
ここまでほぼ無傷で戦ってのけている辺り、やはりこのテディも
勇者軍メインメンバーの資質を持っているのである。

そこへ真っ先に馬に乗ったユイナ姫と、それに同乗したエイリアが
駆けつけて援護を開始した。
「お手伝いします、カレンさん!」
「任せてちょうだい!!」
いきなりの女性二人の登場に、テディはすこぶる驚いた。
か弱そうな婦女子二人がいきなり出てきて自分の加勢をするために
怪獣に突貫しようというのだ。普通は誰でも驚くだろう。
「おっ、おい! 誰だか知らんが無茶するなよ!!」
しかしもちろん増援はこれでは終わらない。
「いたぞ、あそこだ!!」
次いでライナス、ソニアの駿足タッグが到着し、戦列へ参加。
更にはジルベルト、コンラッドのバランスタッグ、
そして次はリゼル、シエルの魔術タッグ、
最後にやや装備が重厚なジークが到着した。
「お、おいおい! あんた等は何なんだ!?」
「味方だ!」
コンラッドの元気の良すぎる返答に、かえって困惑するテディ。
「味方だ、って漠然とし過ぎてるだろうが! 説明をしろ!」
「後でだ! そんな場合でもなかろう!」
ジークに一蹴され、やや不機嫌になるも、
確かにスプレッダー幼生体は死亡には程遠い状況だ。
ならば頼れるであろうこの集団の戦いに乗っかってでも
己の役割を果たさなければ、と解釈し、テディもまた、
己の武器でスプレッダー幼生体を再度殴り始める。
もはや総攻撃の前に、スプレッダー幼生体は
瀕死に近付きつつあった。

「そこまでよ! 大人しくしなさい!」
そんな戦場に、突然女性の声が響いた。無論聞き覚えなど無い。
そちらの方を見やると、ライフルを構えた女性が
大勢の兵士を引き連れて堂々と立っていた。
「ウィルスユーザーズか!?」
「その通りよ」
女性は兵士達に待機命令を出しつつ、答える。
「そのスプレッダー幼生体は生け捕りにして、
 我等の技術向上のためのサンプルとさせていただきます。
 それ以上の攻撃を我々は許さないわ。
 この研究部筆頭の幹部<ブレインフォックス>が!!」
また新しい幹部である。
「ウィルスユーザーズ!?
 ブレインフォックス!? 一体何の事だ!?」
成り行き任せに戦闘に参加している
テディには事情が分かっていない。
「ええい、何でもいいや!
 アレは俺が仕留めなきゃならん獲物だ!
 みすみす横取りの上に生け捕りになんぞ
 されてたまるか、あんな危険物!」
テディが激昂し、ブレインフォックスに殴りかかろうとするのを、
何とか必死にライナスとコンラッドが止めにかかる。
「こらこら待て待て! アレは俺達にとっても
 敵なんだ、協力しよう!」
「お前も勇者軍だろ、だったら仲間なんだから
 ちゃんと任務に加われよな!」
「勇者軍? お前『も』?」
カレン家の男、テディはすぐに事情を察した。
ならば彼等の言うとおり、この小団体こそが味方にして、
勇者軍主力部隊という事になるのだろう。
「よし、分かった! 乗りかかった船だ!
 俺も付き合わさしてもらう!」
「なら、あなたも敵、って事なのね」
ずどん!
ブレインフォックスとやらは銃を構えて、テディを狙撃する。
「うお! 危ない! 無警告とはやってくれるな!」
その一発が引き金となって、ウィルスユーザーズの兵士達一同による
一斉掃射が加えられるが、誰も被弾などしない。
勇者軍主力部隊は毎度の如く突貫し、兵士達を蹴散らしまくる。
当のテディはというと、ブレインフォックスに向かって突撃していた。

「俺の名前はテディ=カレンだ! ふざけた偽名使ってないで、
 ちゃんと本名で名乗れ! 失礼な奴!!」
「カレン……!?」
一瞬、ブレインフォックスが攻撃を躊躇した。
その事にテディも戸惑うが、すぐに攻撃の応酬が再開される。
少なくともこんな知り合いはいなかったはずである。
テディは自らの乏しい知性と、
記憶を総動員して思い出そうとしたが、
やはりその中のどこにもこんな女性の姿は無かった。
「偽名じゃないわ! コードネームよ!
 あなたがカレン家の子息だっていうなら、お願い、退いて!
 レイクリッター財団のために!!」
「確かにレイクリッターは縁戚関係にある間柄だ!
 だが、この怪獣を生け捕りにする事が、必ずしも
 レイクリッター財団のためになるとは、
 俺には思えない。故に断る!!」
「分からず屋!!」
ブレインフォックスの銃撃がテディを襲うが、テディは
手持ちのハンマーでことごとくをガードしてみせる。
「大体、あんな奴を生け捕りにして何をしようと言うのだ!
 俺はアレの存在を許さないぞ!!」
「生物兵器へ改造すれば立派な商売として成立するわ。
 そのために、私の技術も必要となるの!
 あなたのような子供に邪魔はさせなくてよ!」
「本気でそうする気があるなら、
 もうちょっとマシな腕になって来い!」
がごんッ!
テディの一撃がブレインフォックスの銃を捉え、
ものの見事にへし折った。
「あんッ!」
大きくよろけて転倒するブレインフォックス。
「やるのね……引き上げるしかない、か……! 総員、撤退よ!」
ブレインフォックスの指示で、勇者軍主力部隊に
ズタボロに叩きのめされていた兵士達が、一斉に引き上げる。
いつもながら見事な統制である。逃げ足も非常に速い。
「レッグホースの補給作戦を阻止し、
 今、ここで私の研究準備を阻んだ事を、
 いつか後悔させてあげます!覚悟しておきなさい!」
ブレインフォックスはそう言い残すと、すぐに立ち去った。

ジルベルトが珍しく捕縛でもしようというのか、
急にもらったマグナム銃で銃撃を加えようとした。
だん、だん、だん、だん、だん、だんッ!
フォームと連射速度だけは見事な六連射であった。
……が、かすりもしないどころか、
どこに着弾したかさえ分からない。
もちろん命中など、夢のまた夢である。
「……へたくそー」
流石にシエルも呆れてつい本音が漏れてしまう。
射撃の才能が根本的に無いと言い切ってもいいだろう。
それほどにジルベルトの射撃は酷かった。
正直、そこらの一般市民に撃たせる方がまだマシだっただろう。
むう、と頬をふくらませてご立腹のジルベルトだったが、
一方で、レイリアとリゼルががっちり握手していた。
「何してるの?」
と、エイリアが興味深々に尋ねる。
「今の隊長の牽制だかなんだか分からない射撃にまぎれて、
 サイレンサー付きの銃で発信機を撃ち込みました。
 これで、彼女の帰還する場所ぐらいなら突き止められるかと。
 あ、もちろん僕の開発した発信機なんですけどね?」
と、ちょっと自慢げに言ってのけるリゼル。
「アイリーン・マフィアにほど近い場所にあるのね。
 行きがけに基地の一つもぶっ潰してやれないかしら」
と、ソニアも言うので、全員がそうするべく動き出し――
「待て待て! 自己紹介も済んでないだろ!
 そっちはおいおいやるとして、まずは自己紹介はさせてくれ。
 俺はテディ。テディ=カレンだ。
 お仲間だろ? よろしく頼むよ」
と、テディはきっちりと自己紹介した。
「それはそれはご丁寧に。あなたの言うとおり、
 自己紹介は道すがらやりましょう。今は、急がないと」
と、礼儀正しくお辞儀しながらも、
意見はきっちりと言うユイナ姫。
「分かっている、行こう!」
テディも慌てて一行の後を追う形で歩き始めた。
目指すはウィルスユーザーズの施設。研究施設なのか、
補給基地なのか、その本質は不明だが行かねばならないだろう。
ウィルスユーザーズとの戦いはこの戦線の一部に過ぎないのだから。



<第六章-第三幕- へと続く>
最終更新:2013年08月09日 22:02