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第六章-第三幕- 堂々たる獅子の心臓





先のブレインフォックスとの戦闘において、
発信機を付ける事に成功した勇者軍主力部隊は、
そのままこっそりとその後を追跡していくうちに、
アイリーン・マフィア本部基地に程近い位置に何故か建っていた、
大掛かりな研究施設らしきものを発見した。

マフィア本部基地から三キロメートルと
離れていない位置にありながら
アイリーン・マフィア構成員が気付かなかったのも、
密林区域にひっそりと建造されていたからであろう。
「あはは。こりゃまたデカい基地ですねー」
と、暢気に笑うリゼル。見張りが立っているのにお構いなしだ。
「ちょっちょっ、気付かれるって!」
慌ててシエルが制止にかかるが、既に遅かった。
「こんにちは~」
のんびりした口調で、見張り兵の前に堂々と出てくるリゼル。
「おい、小僧。ここは立ち入り禁止区域だ。
 どっから迷い込んだ?」
「いやぁ、どっかで道を間違ったっぽくて。
 この林を出る道知りません?」
見張り兵の詰問口調にも平然と対応する。
「そうか。じゃああっちだ。いいから行った行った、ほれ――」
そこまで言った途端、見張り兵がその場でくず折れた。
「なっ……!?」
見張り兵(二人目)が驚いて臨戦態勢に入ろうとするが、
その前にリゼルが素早く動き、どうやら杖で叩き伏せた。
「変にこそこそするから警戒されるんですよ。ね?」
「確かに一理あるな」
と、参戦したてのテディがしたり顔で頷く。
と言いながら、正門ドアに何かの機材をリゼルが取り付ける。
(なにそれ?)
と、ジルベルトが興味深げに近寄る。
「どうせ門はIDか何かで管理されてるでしょうから、
 この解析装置でちょちょいとハッキングしてしまいましょう」
「器用なんだねー」
と、レイリアも感心する。
ぷしゅっ。
ほどなくドアが開き、研究施設へのドアが開く。

中は意外なほどに広かった。スペースに無駄があるとも言えるが、
基本的に騎乗して動くユイナ姫とチトセにとっては
ありがたいとも言える状況だった。
工夫しなくても重機であるはずの
ビーム・カーテン改さえ余裕で入るだろう。
「あら……騎乗のまま人のお家に
 あがるだなんて、はしたないですね」
と、頬を赤らめて照れるユイナ姫だったがそれはどうでもいい。
「いや、今更それを言うのかい? しかも敵地だし」
とライナスは呆れ顔ではあるが。
しかし人の気配というものがあまり無い施設である。
機械類はやたらと稼動しており、何かを製造していたりするのだが、
今のところ見張り兵その一、その二以外の人間と接触していない。
今まで接触してきた敵部隊の方がよほど人数がいたぐらいである。
「だああッ! 何かねーのか、何か!」
と、テディがいらついて腕を振り回す。
その時だった。
ふぃーん、ふぃーん、ふぃーん!
警報らしき音が響き渡る。どうやら察知されたらしい。
「まあ当然でしょうね。監視カメラぐらいあるでしょうから」
と、リゼルはまるで他人事である。
「落ち着いてる場合かよ! 走るぞ!」
コンラッドの指示に従い、各員走り始めた。

防犯設備が稼動し始めたのか、砲座などが出てきて
時折勇者軍主力部隊を狙い撃ちし始めるが、
大半がリゼルの攻撃魔法と、レイリアの狙撃銃で沈黙。
ひどい時にはエイリアの鞭でもぎ取られたり、
ジークの斧で一撃粉砕されたりと、身も蓋も無い。
当然フラストレーションの溜まっていたテディ辺りも
ハンマーで嬉々として防犯設備を殴っていた。
「……私も何か攻撃魔法の一撃でもぶっ放す?」
あまりに出番が無いので、珍しく
申し訳無さそうにシエルが申し出るが、
「大丈夫だ、シエルは私達を守る。
 だから私がシエルを守ってやる。それでいいだろう?」
ジークの言葉に、珍しくシエルも素直に頷いた。
(『私達が』シエルを守ってやる、じゃないんだ……)
……よく分からないが、何となくシエルは嬉しかった。

そのままいくらかの区画を強引に突破したところで、
広大なフィールドへと躍り出る。一応は施設内のようだが、
そのまま野球でも出来そうなほどの広大な区画のようだ。
たくさんの重機が稼動しており、その中には
スプレッダー幼生体の死骸らしきものが鎮座していた。
「やっぱり、何かに利用していたのね……」
ソニアが苦虫を噛み潰したような顔で怒りを露にする。
「あなた達……なんでこんな所にいるの!?」
突然、予想もしない方向から女性の声。ブレインフォックスだ。
「見つけたぞ、ブレインフォックス!」
テディが攻撃を仕掛けようとするが、彼はその足を止めた。
見慣れないもう一人の幹部らしき人物がいたからだ。
「俺はテディ=カレン! お前は誰だ!!」
律儀な事に自己紹介をしてから名前を訊こうとするテディに、
白髪の初老にさしかかったその男――
ただし素顔は覆面で見えない――は、
鼻で笑う仕草を見せた。
「カレン家の男児は随分と礼儀正しいようだな。
 ブレインフォックス?」
「そんな場合ではありません!
 無茶をなさると御身が傷付きますよ!」
ブレインフォックスが初老の男を嗜める。
年齢的に前線に出るのは無茶だと思っているのだろう。
「よい。どうせいつかは会う運命にあるのだからな。
 我が名は、といってもコードネームだが<ハートレオ>。
『ウィルスユーザーズ』は我が手によって、創設された。
 人はそれをもって、リーダーと呼ぶ事もあるが、な」
ハートレオ。それが敵のリーダーなのか。
そして何故こんな所にのこのこ出てきたのか。
疑問の尽きぬ勇者軍ではあるが、臨戦態勢を取った。
「総員、出撃!」
ハートレオの指示に従い、総員、つまり基地内に存在するであろう
全ての戦闘要員が周囲の出入口から現れた。
「勇者軍は強敵だが、私個人にとって、敵とは言い難い存在でな。
 なので丁重に痛めつけて、追い払いさえすればよい。いいな?」
「はっ!」
兵士一同が応じる。
しかし勇者軍の心中には疑問が増えるばかりであった。
敵ではない? という事は勇者軍の誰かの縁者なのだろうか?
しかし、勇者軍主力部隊の疑問は払われる事になった。
もちろん戦闘によって、である。
「総員、攻撃開始!」
ブレインフォックスの指示が飛ぶ。

戦闘は極めて迅速に行われた。
「疾風剣!」
特に最も敵兵を速く薙ぎ倒しているのはライナスだ。
自慢の剣速をもって、他の者の倍近いスピードで敵を減らしていく。
「分かってるよな、隊長! 殺すより無力化だ!」
(うん)
ジルベルトとコンラッドは、得意のリールによる攻撃をもって、
敵の武器を破壊、無力化する事に力を注ぐ。
「ウォーターブラスター!」
リゼルの広域魔法もかなりの敵を薙ぎ倒している。
瞬間撃退速度ではライナスの方が速いものの、
一度に撃退できる人数はリゼルの方が上である。
ジークとソニアは一番非力なシエルへのガードに徹し、
彼女に一切敵を近付けないのであった。
レイリアとエイリアも前線に踊り出て、
時には密着して、時には離れて敵を翻弄していた。
ユイナ姫はとにかく周囲を駆け回って敵を撹乱する。
「ブレインフォックス! 全てを白状してもらうぞ!」
テディはブレインフォックスに再度肉薄し、近距離戦闘を試みる。
ずだん、だん、だん!
「させない!」
ブレインフォックスが銃を連射し、テディを牽制、近付けさせない。
「くぅッ!」
予想より激しい銃撃に、今度はテディが距離とペースを取られた。

「うにゃーッ!」
敵の人数が多いあまりに、大福、きなこ、みたらし、黒ごまの
愛猫四匹まで暴れ出し、結果的にウィルスユーザーズ側に
多くの被害を出していたりする。
その隙間を縫うように、ユイナ姫とチトセのコンビが
ハートレオめがけて一直線に突撃をかける。
「あなたは一体、誰なのです!」
「ふっ……若い」
ハートレオは身を翻し、簡単にユイナ姫の攻撃を受け流す。
「なっ!?」
渾身の一撃だったが、あっけなく回避された。
ハートレオは突如として叫ぶ。
「エルトリオン!」
すると、どこからともなく一頭の馬が現れた。
どうやらエルトリオンというのは馬の名前らしい。
ハートレオは愛馬エルトリオンへと騎乗すると、大きな槍を構えた。
どうやらナイト――いや、パラディンとしての技能を有するらしい。
「ザン共和王国王政部筆頭のユイナ姫とお見受け致した。
 いざ、尋常に勝負されたし、良いですな?」
「次期筆頭、です!」
ユイナ姫がその旨を訂正し、二人は刃を合わせる。

一方で雑魚の掃討戦はほぼ決着の様相を呈していた。
「ビーム・カーテン改、搬入急げ!」
コンラッドの指示によって、ビーム・カーテン改重機部隊により、
スプレッダー幼生体の死骸の除去作業が始まっていた。
「あの子達、勝手な事を!」
ブレインフォックスの銃がコンラッドやジルベルト達の方を向く。
「隙を見せるとは、愚かな!」
がきゃっ!
テディのハンマーがまたしても銃を破壊する。
「くっ!」
ブレインフォックスが予備として用意していたのであろう、
リボルバー銃二丁をもって、再度対応を開始し、
テディはそのことごとくをハンマーで防御する。
「ハートレオ殿! 私にはこれ以上の戦闘継続は困難です!
 撤退しますが、御身にご自愛のほどを!!」
ブレインフォックスは素早く距離を取り、その場から引き上げた。
「待て!」
テディが追おうとするのを、ライナスが止める。
「君こそ待て! 今はスプレッダー幼生体の除去作業中だ!
 大きく離れるとビーム・カーテン改を破壊される!」
「ちいッ! 仕方ないか!」
テディは追撃を諦めた。

一方のユイナ姫は、ハートレオとの激闘を繰り広げていた。
「ほう、ブレインフォックスを退けるか。見事なものだな」
「ブレインフォックスだけじゃありません。
 アイズオウル、ハンドドッグ、レッグホース、ネイルキャット、
 全て私達の戦力の前には抗することも敵いません。
 いい加減に、あなたも諦めて降伏したらどうですか?」
「流石は勇者軍よな。屈服させ甲斐がある、というところか」
そこまで言うと、ハートレオは大技の準備をした。
「ブレイド・オブ・アイシクル!!」
氷の技。水の守護精霊を受けたユイナ姫には通用しない。
ユイナ姫自身もそう思い、防御が疎かになっていた。
ハートレオの槍をつらら状の氷が覆い、そのまま突撃。
バキン!!
氷などおまけにすぎない。その突進力だけで、
ユイナ姫の持つシールドの破壊には充分であった。
「あうッ!!?」
危うく落馬しそうになったが、愛馬チトセがステップを踏み、
何とかバランスを持ち直すに至った。
「ふむ。この奥技を受けて落馬せずに残るとは、
 いい馬に乗っておられる。では、防衛対象の
 スプレッダー幼生体も除去されたようなので、
 そろそろ我輩も失礼させていただくとしよう……
 エルトリオン、走れ」
未だふらついているユイナ姫を放置し、ハートレオは
ブレインフォックスと同じ脱出ルートから、後を追うように離脱した。

「大丈夫、ユイナ姫!?」
真っ先に駆けつけたのはソニアだった。
「ええ、正直、私の負けでした……油断が過ぎましたね」
と、ユイナ姫は苦笑いする。
「いいえ。私達の勝ち、よ。スプレッダー幼生体は除去したもの」
「ええ」
ソニアとユイナ姫はがっちりと握手した。
その後、主力部隊は基地内に残っていた
スプレッダー幼生体のサンプルや
死骸などを残らず除去した。作戦は一応成功であるが、
完全勝利というにはあまりにも程遠い結果であった。
ブレインフォックスとて愚かではない。現に発信機は潰されていた。

「よっしゃ、まずは任務完了だ!」
コンラッドが笑うが、事態は気楽でもない。
スプレッダー成体にも、ハートレオにも、
作戦上勝利していても、戦闘面での敗北を喫している。
とならば、再訓練の必要があるのだろう。
それを痛感したジルベルトは、シエルに念を送る。
「この施設の解体を依頼するためにも
 アイリーン・マフィアへ急ごう、
 ってお兄ちゃんが言ってるから、もたもたしてられないわよ」
「そうね。急ぎましょう」
と、エイリアも賛同する。
「ナンナさんの実家かぁ。あたし初めてなんだよねー」
と、何故か嬉しそうなレイリアをエイリアが無言で嗜める。
「急ごう。シエルさんの――もといジルベルト君の言う通り、
 早急に実力を高める必要があるからね」
と、ライナスが締めて離脱行動へと移った。

紆余曲折あったものの、勇者軍主力部隊は
アイリーン・マフィア本部へと向かう事になる……



<第七章 へと続く>
最終更新:2011年02月18日 13:09