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第十章-第一幕- 決着の前の小さな決着





勇者軍主力部隊は、ウィルスユーザーズ本部基地内戦闘において、
全ての幹部を撃退もしくは捕縛に追い込み、
また中央ホール内での戦闘も一通り決着が着きそうなこともあり、
事実上、ウィルスユーザーズを壊滅させる事に成功した。
全てのメインメンバー及び、ソニアが戻るべく走っている最中、
サブメンバー達が最後の数名を追い詰めていたのだった。

「ふんッ!」
ジークの斧の一撃が、最後の兵士を薙ぎ倒した。
「お、おのれ……!」
兵士はそれでも立ち上がろうとする。
倒れた者達も意識を取り戻し始め、
最後の抵抗を始めようとしていた。
「ちっ、しつこい!」
コンラッドもいい加減嫌になってきて愚痴をこぼす。
「そこまでだ!」
しかし、そこで鳴り響いたのはハートレオこと、
レオンハルトの声だった。
「我々、ウィルスユーザーズはここに解体を宣言する。
 我々の負けだ。各員は自己の安全を図り、
 速やかに脱出せよ!! 死ぬ事は許さぬ!」
「…………了解!」
兵士達はのろのろと起き上がり、体力のある者がふらつく者を
懸命に支えながら、ゆっくりと、しかし確実に撤退して行った。
「やったのね、お兄ちゃん達が!」
歓喜の表情でシエルが快哉をあげる。
「流石ですね、シルヴィアさんでさえ、一人で勝ってのけるとは」
リゼルも満足気に頷いた。
そこへ、まずジルベルトとソニアが現れた。
「みんな、無事なの!?」
「ソニアさん……大丈夫です……」
突撃のし過ぎでふらふらしているメイベルがよろよろしながら答える。
次いで、ユイナ姫が、ライナスが、レイリアとエイリアが、
最後にズタボロになったシルヴィア(足が遅い)と、
足を撃たれた怪我人のテディが出てきた。
「大変、怪我してるじゃない!! ヒールキャノン!!」
慌ててシエルが治療に向かう。
「ドルカスの奴が……もといブレインフォックスを逃がした!
 奴め、生体兵器化したスプレッダーを
 動かすつもりだ、気を抜くな!」
回復の呪文を受けながら、テディは状況を説明する。
一方、ズタボロのシルヴィアをリゼルが迎えた。
「大丈夫ですか、シルヴィアさん!」
「相性が悪かったみたいで……少し疲れました」
「無事ならいいんですよ」
そう言うと、頭を撫でるリゼル。
「そう言えば研究担当なのよね、ブレインフォックス……
 えーと、何だったっけ、名前?」
ソニアが首をかしげる。
「各員の持ち寄った情報などをお互いに端末に転送しましょう。
 スプレッダーが動くなら、それほど時間はありません。
 やれる事をやっておかないといけませんね」
と、ユイナ姫が各員の端末にレオンハルトの情報を転送した。
それに倣い、他の者も情報を相互に転送し合った。
これで全員の情報の齟齬は無くなったと言っていいだろう。
テディの回復もほどなく終了した。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

突然地鳴りが響き、建物自体に凄まじい振動が起こる。

バギン!

天井が砕け、機械化されたスプレッダーの成体、
メカ・スプレッダーが登場した。
傍らにはブレインフォックスこと、
ドルカス=ウィンチェスターもいる。
「行きなさい、メカ・スプレッダー! 勝利を私の手の中に!!」
「イエス、マスター・ブレインフォックス」
スプレッダーから声のような物が聞こえたが、ひどく機械的だ。
「人工知能を内蔵したみたいですね」
と、冷静にシルヴィアが分析する。
「流石にスターリィフィールド家のご当主は冷静みたいね。
 獣を遥かに凌ぐ知性を秘めた上に、超合金である
 オリハルコニウムセラミカルチタン製のハニカム装甲を採用した、
 私の可愛いメカ・スプレッダーに勝てるかしら!?」
「勝つ! でなければここまでの戦いが無駄になる!」
真っ先に動き出したのはテディだった。ハンマーが振り下ろされる。
がさがさがさがさ!
しかし、メカ・スプレッダーは距離を取り、その巨体にも関わらず
テディの的確な一撃を見事に回避しきってのけた。
「何ッ!?」
「俺が行く!」
続いてライナスが俊足――いや、瞬足とでも例えるべき
その健脚で、瞬時にスプレッダーに追いつき、斬りかかる。
「疾風剣!」
じゃりじゃりがぎぃん!!
甲高い音を立てて、装甲に傷が付くが、被害はそれだけだった。
「ごぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
新たに追加された機械多脚でライナスが薙ぎ払われた。
「だああッ!?」
無様に転がるが、流石にそれだけでは致命傷にはならないのか、
あっさりと立ち上がるライナス。
「なんという装甲だ!!」
ライナスが歯噛みする。
「一人一人では駄目だ! 一気に行くぞ!!」
ラティシアが特攻し、次いで全員が動き出す。
「機銃掃射!!」
ドルカスの指示にメカ・スプレッダーが反応した。
ばらららららららららッ!!
まさに弾幕としか言いようのない機銃の乱射が飛び交う。
無秩序な射撃と跳弾によって、みるみるダメージが増える。
「危ないわ! あんた達、どっか行ってなさい!!」
シエルは慌てて、今までついて来ていた仔猫達を逃がす。
「うにゃー!」
流石の屈強な仔猫達も、たまらないと感じたのか素直に従う。
しかし、その弾幕を懸命に回避しつつ、ユイナ姫が接近。
愛馬チトセも多数の被弾をしながらも懸命に追いすがる。
「ウォータージェットスルーフ!!」
必殺の水圧突きが、装甲に穴を開けたが、ダメージは
それが限界だった。誠に凄まじいとしか言いようがない。
ドルカスが更に指示を飛ばす。
「グレネード弾、散布!!」
「ラジャー」
メカ・スプレッダーが更に対地攻撃としてグレネード弾をばら撒いた。
どがんどがん!!
「きゃああッ!?」
ユイナ姫が愛馬チトセから落馬する。チトセが転倒したのだ。
爆風でダメージを受けたらしい。
「くそっ! 化け物め!!」
コンラッドの攻撃も効果が無い。
レイリアの対物破砕銃がいくらか装甲に
傷を付けるが、やはり中に届かない。
巨大な体躯に似合わず、機敏に動き回るせいである。
「クロスアイアンメイデン!!」
メカ・スプレッダー相手に猛威を振るったリゼルの魔法が炸裂する。
地面からは地割れの鋭角、そして空中からは氷柱が襲う。
しかし、刺さりはするものの、
その戒めさえもメカ・スプレッダーは
瞬時に破壊し、また機敏に動き回る。
「どうやったら倒せるんだ、こんな奴!!」
さすがにエイリアも対応に苦慮していた。
「ミサイル発射!!」
ドルカスの指示でミサイルが発射される。
「その驕慢が命取りだ! 隙有り!!」
エイリアはミサイルを数発ほど鞭で巻き取り、それを直に叩きつける。
ごばんッ!!
「損傷、軽微」
大爆発にも関わらず、メカ・スプレッダーはなおも怯まず動き回る。
「ボルトコンダクション!!」
ジークの奥技が電流を叩き込む。
しかし、メカ・スプレッダーはその電流を吸収すると蓄電、
間もなく、それを放電してのける。
ばぢっ!!
「あうッ!?」
その放電の猛威に、リゼルや、シエルなどがよろける。
機械多脚の攻撃も凄まじく、メイベルがこまめに動いて、
スカーレット・アーマーで何とか凌いでいるという状況だった。
ジリ貧である。
ジルベルトも、ソニアも懸命に攻撃していたが、
ストレンジャーソードをもってさえ、傷を付けるのが精一杯だ。
だが、一番の有効打なのは事実で、中にも若干の傷を与えていた。
(ソニアさん、前に出すぎないで!)
前に出ようとするソニアを押しとどめる。
しかしその隙がまずかった。
がごんッ!!
「…………ッ!?」
生々しく、そして鈍い音を立てて、ジルベルトの腰に、
メカ・スプレッダーの機械多脚の一撃が叩き込まれる。
凄まじい勢いで身体を打ち、びくりと痙攣する。
「ジルベルト君!? 嫌ぁッ!!」
攻撃を中止し、ソニアが絶叫をあげてジルベルトへと駆け寄る。
「死んでたり……死んでたりしないわよね!?」
しかしその懸念は無かった。息をしている。気を失っただけだ。
ホルスターに触れると、ソニアの父親の形見の銃が砕けている。
この銃が守ってくれた形になったのだろう。
「なんで、なんであんな無茶をするの!」
「それは……ジル君が、きっとソニアさんを好きだからです……」
ソニアが振り向くと、落馬してふらつく
ユイナ姫と、愛馬チトセの姿があった。同じく傷だらけだ。
「私、本当は分かってたんです……ジル君は私を選ばない。
 所詮彼にとっては妹みたいな存在でしかないんですから……」
「ユイナ姫……」
「この十数年間、ジル君は私をずっと守ってくれた。
 だから、今度はあなたの想いでジル君を守って……!」
「……分かったわ」
ソニアは頷く。大切に温存していた究極の回復道具の一つである、
魔法の霊薬、エリクサーを投入してジルベルトに呼びかける。
「ジルベルト君……あなたはきっと、誰もが愛する人なの。
 そういう人が私を大好きだって言ってくれるなら、受け入れるわ。
 私だってあなたが好きだもの。だから……だから立ち上がって!」
「ストレンジャー家の筆頭を倒したのは私の科学力! 無駄よ!
 メカ・スプレッダーに勝てるわけないんだから!!」
自信を持って叫ぶドルカス。
「あなたは史上最強の勇者軍筆頭なの……私が大好きな男の子は、
 あんな気色の悪い化け物に負けたりしないの!!
 負けないで! 諦めちゃ駄目よ!
 ジルベルト=ストレンジャー!!」
ソニアの呼びかけが悲痛な色に染まっていく――
だが、ジルベルトの意識はそこには無かった――

そして場所は『勇者の館』へと移る――
『勇者の館』とは、狭義においては、冥界に用意された
勇者軍メインメンバー用の魂の居住スペースのことを指す。
しかし、広義にはストレンジャー家直系の人間が誰しも持っている
精神世界さえも内包された存在であるのだ。
「よう、お目覚めか?」
仮面のサムライ姿の人物が語りかけてくる。
(誰?)
ジルベルトの精神体は首をかしげる。
「今度の筆頭は随分と無口だな。俺はザイン=ストレンジャー。
 有り体に言って、お前さんのご先祖様って奴かな」
(それはそれは、はじめまして)
ぺこり、と頭を下げる。
ザイン=ストレンジャーは初代勇者軍筆頭である。
その彼が今もこうして冥界で
子孫を見守っているというのは有名な話だ。
(有名にしたのは彼の祖父、エドウィンであるが)
「おう、俺は礼儀正しい奴は好きだぞ。
 ところでジルベルトとか言ったな?
 お前、こんな所で油売ってる場合か?」
(ちがう。僕はソニアさん助けに行くの)
「ふむ、女の名前だな……好きなのか?」
(厳しくて、気が強くて、よく怒られるけど……好き)
「はっは! 素直なモンだ!
 エドウィンの野郎とは大違いだぜ!」
爆笑するザイン=ストレンジャー。
(僕はここを出たい。死んだりしてる場合じゃないの)
「そうだな。さっきからお前の大事な人が呼んでるもんな」
ザインは笑うのをやめて、次元の壁を叩き壊した。
「ほら、行け。そしてストレンジャーソードの覚醒の時だ。
 お前の母親は自分自身の分身とここで戦うなんていう
 無茶な真似をしてくれたが、お前はそんなことせんでいい。
 お前は自分の大事なものを、母親以上にちゃんと知ってるからな。
 行くんだ――ジルベルト。俺の大事な子孫の一人。
 ストレンジャーソードの進化の鍵は、お前の記憶の中にある。
 それを忘れるな。急ぐんだ!!」
(お世話になりました)
ぺこり、とまた頭を下げると、ジルベルトは次元の割れ目へ走った。

むくり、とジルベルトが目を覚ました。
「ジルベルト君!!」
苦戦を他所に、ソニアが泣きそうな顔で喜ぶ。
そして、ジルベルトはホルスターから砕けた銃を取り出した。
「ごめんなさい……」
悲しそうな顔で、ソニアに謝るジルベルト。
「いいの! いつ壊れるか分からない思い出よりも、私は
 今、生きているジルベルト君が大事だから!!」
「……無駄にはしない、出来ない、したくない」
「え?」
ソニアの驚きを他所に、ジルベルトが
ストレンジャーソードを抜いた。
すると、掲げられたストレンジャーソードが激しく光り始める。
それに驚いた勇者軍が動きを止め、ついでにメカ・スプレッダーも
ドルカスも状況が把握できず、行動を停止する。
砕けた銃の破片が光るストレンジャーソードへと集まり、
更にストレンジャーソードは激しく発光し、閃光となる。
かッ!!
フラッシュに誰もが目を閉じる。
そして光が収まった頃には、
ストレンジャーソードは変異を遂げていた。
「ストレンジャーソード……? いえ……」
シエルが呆然と呟く。ジルベルトの思考が流れてくるのだ。
「この剣は……この剣の名前は……」
シエルが、驚愕する。
「砲剣『ストレンジバスター』――」
「なッ!!?」
レイリアとエイリアが真っ先に驚愕する。
ストレンジバスター、それは勇者軍にとって忌まわしき名前である。
ストレンジバスターという機関が存在し、事故に便乗して
レイリアに生体改造を施し、そしてエイリアをもクローンとして
生み出し、ストレンジャー家を滅亡に追い込むために、
それら全てを利用しようとした忌まわしき集団の組織名である。
二人にとっては気分のよかろうはずはない。
しかし、シエルはジルベルトを代弁する形で続ける。
「ストレンジャーとは異邦人――という意味合いを持つわ。
 でも、一万年以上もの時間を人類と共に過ごし、そして
 帰化――いえ、順化していったストレンジャー家の血脈は
 もはや異邦人と呼んでいいものか、
 躊躇するほどに『人間』と化したの。
 人類にとって、もはやストレンジャー家は
 異邦人であってはならないわ。その願いを込めて、
 お兄ちゃんが付けた名前だそうよ……」
そこまでの深い願いと意味合いがあるのならば、
レイリアとエイリアとしても、反論は出来なかった。

ジルベルトがゆっくりとメカ・スプレッダーへと歩みを進める。
「たかが剣が銃剣になった程度で、
 メカ・スプレッダーに通じるわけが!
 行きなさい、メカ・スプレッダー! 今度こそトドメよ!!」
「イエス、マスター・ブレインフォックス」
メカ・スプレッダーは機械化多脚をもって襲い掛かる。
「総員、ジルベルト君を援護よ! あの剣が勝負を決めるわ!」
ソニアの指示が飛ぶ。各員頷き、
ジルベルトをメカ・スプレッダーに近付けるべく、
必死の援護を再開した。
(ありがとう、みんな)
ジルベルトは全員の援護で付いた装甲の傷めがけて、
ストレンジバスターの刃を叩き込む。
ざしゅッ!!
わずかながら傷を付けた。そこまでが限界かと思われた。
「わずかな傷程度で、何を――」
ドルカスの声が終わるよりも早く、ジルベルトは
ストレンジバスターに装備された『引き金』を引いた。
バゴン! バゴン! バゴン!
無茶苦茶な爆発がジルベルトの至近距離で三回起こった。
その衝撃波だけで、建物にヒビが入り、
そしてすぐに崩れ落ちる。味方まで軽く吹き飛んだ。
「損傷、甚大! 損傷、甚大! 損傷、甚大!!」
それだけでメカ・スプレッダーがのたうち回る。
一方のジルベルトはと言うと、黒煙の中から反動で出てきた。
凄まじい勢いで地を滑り、脚力だけで何とかそれを止めた。
黒煙が晴れてくると、装甲はボロボロに剥がれ落ちており、
その爆発力の凄まじさが伺える。
「なんて威力だ……! 滅茶苦茶じゃねぇか!!」
爆風だけで吹き飛ばされたものの、メイベルに支えられて
何とか打ち身だけは免れたコンラッドが呟いた。

「ば、馬鹿なの……!? あんな至近距離で砲撃なんて……!
 それも通常のミサイルなんて比較にならない火力で!!」
ドルカスも呆然とする。
「立ちなさい、メカ・スプレッダー!
 これぐらいで壊れるようには作ってないはずよ!」
メカ・スプレッダーはその声に応えてゆっくりと立ち上がる。
バクン!!
ジルベルトはストレンジバスターの柄から中折りにした。
じゃらッ!
空薬莢を排出し、すぐマガジンから次の弾を装填する。
一発辺りの薬莢の大きさが清涼飲料水の缶より遥かに大きかった。
ガキャン!!
鈍い音を立てて、フレームを元に戻し、装填行動を完了した。
まさしく乱暴な武器であるが、
あの化け物に対しては相応しい武器だった。
ジルベルトは闘志を緩めず、メカ・スプレッダーのみを見つめていた。
「とんでもない武器になったね……」
ライナスも呟く。彼も吹き飛ばされたクチである。
「まさしく、勇者軍筆頭完全専用対宇宙巨大生物兵器群
 超零距離戦闘用銃剣型最終究極決戦兵器というところですね――」
とんでもなく長いセリフでシルヴィアもその砲剣を表現する。
「だが、あの武器なら充分に勝機はある!!」
テディも立ち上がる。
「そうです、立ち上がりましょう!!」
シエルの治療を受け、ユイナ姫も再騎乗した。
そして全員が頷く。

「メカ・スプレッダー、行きなさい!」
ドルカスも押されながら、負けじと指示を出す。
今度ばかりはシエルでなく、
ジルベルトの意志をソニアが汲んで頷いた。
高らかな指示が壊れかけの建物に響く。
「総員、再度突貫! 確実にジルベルト君を奴の元へ届けるわ!」
「了解!!」
全員の声が唱和し、メカ・スプレッダーとの決戦は佳境に入る――



<第十章-第二幕- へと続く>
最終更新:2011年02月18日 13:23