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第九章-第三幕- 未来への夢想





ライナス、レイリアとエイリア、シルヴィアの四名は
ウィルスユーザーズ本部基地での幹部制圧戦闘に勝利した。
過去への妄執に捕らわれた敵との戦いは熾烈を極めたと言える。
一方でジルベルトとソニア、ユイナ姫、テディの三名は
未来への望みをかけた者達との戦いに臨んでいた。
こちらはこちらで過酷だと言えよう。


テディは、ブレインフォックスとの戦闘を始めようとしていた。
研究用の設備などが豊富に置いてある部屋である。
「ブレインフォックス、今日こそは観念してもらうぞ!」
「ブレインフォックス、ねぇ……そろそろやめてもいいのかしら」
ブレインフォックスは大量の銃を抱えていた。
「私の正体は前も言った通り、レイクリッター財団の研究員。
 名前はドルカス=ウィンチェスターっていうんだけどね」
彼女は銃をテディへと向けた。
「私は正直、ウィルスとかはどうでもいいの。
 ウィルスへの対処はハンドドッグがしてくれたし、ね。
 私は、スプレッダー成体を生物兵器化して、
 いずれは培養してから量産して、儲けが欲しいだけよ。
 戦力を欲しがる国ならどこにでもいるからね。
 勇者軍もどうかしら? 優先的に回してあげるわよ?
 レイクリッター家とカレン家のよしみで、ね」
「ふざけるな!」
ドン!
床を踏みつけ、怒りを露にするテディ。
「確かにレイクリッター財団には常日頃から世話になっている!
 レイクリッター財団の品揃えや節操の無さも理解している!
 だが、その道は歩んではいけない道だ!
 カレン家とレイクリッター財団のよしみだ。
 穏便に止めてやる! 覚悟しておけ!!」
テディがハンマーを振るって殴りかかろうとすると、
ドルカスは銃を発射。巧みにハンマーで防御し、
取り出す銃のことごとくをへし折る。
「そうはさせないわ……これでも食らいなさい!」
かちり!
彼女がスイッチを押すと、巨大な狙撃砲が床からせり出してきた。
人間が持つ常識から言うととんでもないサイズの狙撃銃だ。
「私の完全オリジナル狙撃銃『アイズ・オブ・バーバリアン』よ」
ずどむ!
凄まじい精密さで、暴力の塊たる弾丸がテディへと向かう。
回避は不可能だった。反則的な弾道予測によるものだ。
「ぐっ!」
テディの足に直撃。かなりの傷を負った。
何とか歩ける程度であろう。
「さあ、ここで終わるか……続けるか! テディ!!」
「続けるに決まっている!」
「その足で悪足掻きを!!」
第二撃の照準を合わせようとした矢先だった。
ごがん!
ハンマーで床を打ち据えるテディ。瓦礫が舞う。
「何を――」
「地熱のある所ならもうちょっと効くが……
 手加減はサービスだ! 必殺! マグマロックストライク!!」
がぎん!!
破片をホームラン的に打ち飛ばすテディ。
その床の破片はアイズ・オブ・バーバリアンを直撃。
あっという間に変形し、使い物にならなくなる。
それに押し潰される形で、ドルカスはダメージを受けた。
「……私の、負けなのね」
「降伏しろ! 今なら悪いようにはしない!」
「まだよ! 私の科学力が負けたわけじゃないわ!」
しゅばっ!!
大ジャンプして天井からドルカスが逃げ去った。
「往生際の悪い奴だな……皆は大丈夫か?」
テディは足の傷が割と深く、とりあえずは回復を優先するために、
シエルのいる中央ホールへと急いで向かう事にしたのだった。

一方のネイルキャットは、既にジルベルト、
及びソニアと相対していた。
飾り気の無い空間である。武器などが
少数あるだけの簡素な部屋だった。
「さて、そろそろ本名を明かした方がいいかしらね」
ネイルキャットは、今まで被っていた仮面を脱ぎ捨てた。
「お姉ちゃん!?」
ソニアが驚愕し、それに対してジルベルトが驚愕する。
「私はルシア=メーベルヴァーゲン。よろしくね、ジルベルト君」
「…………!!」
そう言ってルシアは身構えた。戦うつもりのようだ!
「なんでよ! お姉ちゃんはいつも私を守ってくれたじゃない!
 それがなんで私や……私の大事な人と
 戦おうとするの! なんで!?」
「ソニア。あんたこそ、私との約束を忘れたわけじゃないでしょ?」
「それは……!」
ルシアとソニアの約束。それは二親を亡くした彼女達の間の約束。
「お姉ちゃんと一緒にずっといられたらな、
 って子供の私は言ったわ」
「私はいい加減な約束は嫌いだったもの。ソニア、
 それはあるいは無理かもしれない、ってね」
「だから私は言ったのよ。じゃあいつまでなら
 一緒にいられるのかって」
「そう、だから私は答えた。ソニアがお嫁に行くまでは。
 そしてあなた自身がせめて一人前になるまでは、ってね」
「お姉ちゃん、まさか……!」
ソニアが身じろぐ。
「あなたが一人前に生きていけるかどうかを確かめるために、
 私はそれを知る機会を考えていたわ。
 そんな最中にあなたがいきなり勇者軍に参加した、
 っていう話を聞いたモンだから、慌てて押し行ってまで、
 私はウィルスユーザーズに加盟したのよ」
「だからって敵に回る事は無いでしょ!?」
「可愛い妹を任せる相手かもしれないのよ? そこの坊やは」
「…………?」
ジルベルトがいまいち分かっていない顔をする。
「……どうも朴念仁っぽいけど」
「……それは別に否定しないけど」
ルシア、ソニアが揃って言うので、
ジルベルトは少し不機嫌顔になった。
「ともあれ、あんた達二人が一人前になったかどうかを確かめるなら、
 味方としてより敵に回った方が早いかな、って思ったのよ。
 現にスプレッダーなんてどうでも良かったし、むしろムカつくから
 裏で何匹も幼生体潰して、こっそり
 ザン共和王国軍に回したりしてたわ」
(そこまでスプレッダーの危険性が分かっているのに、
 なんであなたは味方になってくれなかったの?)
という顔をジルベルトがしてみせたので、ルシアはそれを察した。
「なってあげるわよ? ただし、ここで私に勝てたらね!」
ルシアはそう言って弓を構えた。
しかし、そのタイミングでは既にソニアが接近していた。
「一人前半人前を言うなら、接近できるだけの隙を寄越したのが
 そもそもお姉ちゃんの甘さなの! そんなに見たいんだったら
 見せてあげる! 一人前になったって事を!!」
「しまっ……!」
「アースナックル!」
ソニアが床を打ち据え、破片を魔力で拳に纏わせた。
「破ッ!」
がつっ!
しかし、水の精霊の恩恵を受けたルシアには効果が今ひとつだった。
「本質的に私の方が優位なのを忘れていたらしいわね。
 いっそ普通に殴れば良かったのに……ウォーターシューター!」
ばしゅん!
しかし、かすめただけで何とか水の魔法を回避する。
ジルベルトが慌てて加勢に入った。
ソニアからもらった銃を乱射する。
「それは、父さんの銃……!? ぐっ!」
ルシアが大きく回避するが、それが仇となった。
ジッとしていれば一発たりとも当たらなかったのに、
下手な回避をしたせいで
ジルベルトのへっぽこ射撃を受けてしまったのだ。
「予測……射撃!?」
驚愕の目線でジルベルトを見るルシア。
「どうやら一本取られたみたいね。まさかそこまでソニアが
 あなたを信頼していただなんて、思いもしなかったし……負けね。
 二人とも、お見事よ。流石は勇者軍メンバー、なのよね」
むしろ安堵の視線でお互いが見つめ合う。
「お姉ちゃん!」
久々の抱擁だった。姉妹の愛情がダイレクトにジルベルトに伝わり、
なんだかジルベルトは安心するのだった。
「さ、私は少し休んでから行くわ。あなた達は行って。
 仲間が待っているのでしょ?」
「!」
ジルベルトは思い出した。残してきた仲間達の事を。
(行こう、ソニアさん!)
「分かってるわ!」
急かすジルベルトに応じるソニア。
「ジルベルト君、だったわよね……妹をお願いね!」
「…………」
言うルシアに、無言で頷くジルベルト。
そして何も言わずに立ち去って行く。
「父さん……母さん……私、あの子との約束、守ったからね。
 冥界にまだいるのなら、誉めてくれる?」
ルシアはただ、呟くのだった――

一方のユイナ姫は玉座の間らしき場所にいた。
既にユイナ姫は愛馬チトセに、
ハートレオは愛馬エルトリオンに騎乗している。
「ハートレオ!」
「ユイナ王女。我輩の正体を教えておかねばな……」
ハートレオは仮面を脱ぎ捨てた。
「レオンハルトおじさま!?」
「いかにも。ザン共和王国民政部副大統領こと、
 レオンハルト=サイクスだ」
ザン共和王国は王政部と民政部が
共存することによって成立する国家だ。
その民政部のサブ・リーダーこそがこの男、レオンハルトである。
民政部は王政部を軽視する傾向が強いものの、このレオンハルトは、
王政部に対する敬意をきちんと払う義人であり、
幼い頃のユイナ姫との親交も深い、顔見知りである。
「何故……何故、勇者軍メインメンバーのアーム王家を擁する
 ザン共和王国の最高幹部の一人が、わざわざ勇者軍に
 敵対するような行動を取るのですか!?」
「失礼ながら、ユイナ王女や、イスティーム陛下は
 ご自分の家系が導いてきた功績を
 過小評価し過ぎているきらいがある」
「そんな事!」
「お聞きなさい」
ユイナ姫を軽く制止するレオンハルト。
「この惑星アースの……いえ、恒星サンシャイン系のどこに
 一万年以上も存続し得る国家があったというのでしょう。
 これはアーム王家及び、我々民政部の善政がダイレクトに
 国政に反映されたと言っても過言ではありますまい。
 ……ならば、ザン共和王国こそが世界の覇権を握り、
 その善政をもって統治を行えば、世界は自ずから平和となる」
「勇者軍にそのような権限など!」
「では、このまま戦争で数多の人名が失われる未来をお望みか!
 それを勇者軍は、その力で何度屈服させてきたか!」
「それは……!」
反論が浮かんでこない。
「何も実際に戦争を仕掛けようというのではないよ。
 ほぼ未知の病原菌であるスプレッダーのインフルエンザウィルスを
 化学兵器と称し、対処法の無い国を抑え込めば良い。
 パワーバランスをザン共和王国が一手に引き受ける事によって、
 いらぬ考えを起こす国に対してのみ、
 この力を行使すれば良いのだ」
「人が人に罰を与えるなどと! エゴです、それは!」
「勇者軍こそ自らを人類史上最大のエゴイストと称して、
 逃げに徹してはいないか! よく考えてみるのだな!」
「それは力のある者の理屈です! 王政部次期筆頭として、
 力無き者が被った被害を考えるならば、スプレッダーも、
 それによるインフルエンザウィルスの存在も、私は許しません!」
「ならば参られよ! このレオンハルトの槍に向かって!」
レオンハルトは槍を構えた。
「ブレイド・オブ・アイシクル!!」
いきなり奥技だ。全力のつもりらしい。
回避も、防御も厳しいのであれば、力技で打ち破るのみであった。
「行きます! おじさま!!」
ユイナ姫が槍を構える。突撃するレオンハルトを迎撃。
まともに受ければ尋常なダメージではすまないが、
それをわざわざまともに受けてやるつもりも無かった。
ぎゅるっ!
ユイナ姫の魔力で生み出された大量の水を、ユイナ姫の槍が纏う。
「ウォータージェットスルーフ!!」
ばきゃッ!!
水の精霊の加護を受けた水圧の槍が、氷柱の槍を打ち砕く!
そのまま、レオンハルトを凄まじい勢いで落馬させた。
「ぐぉぁッ!!」
レオンハルトは床に叩きつけられた。
「おじさま!」
やり過ぎた、と思ったのか、槍を捨てて下馬し、駆け寄るユイナ姫。
「くっ……途中から……分かってはいたのだ……
 スプレッダーのあまりの猛威に、
 我輩は内心怯えていたのだろう……
 本当はスプレッダーを潰そうとしていたし、そのために
 各国の、いや宇宙からの協力が欲しかったのも事実だ……
 世界制覇など、そのための言い訳に過ぎなかったのかもしれん。
 我輩はどこかで、スプレッダーに恐怖を感じていたのだ。
 それを認めるのが心苦しかっただけなのだろう、な」
「おじさま、喋らないで! 傷に響きます!!」
「この程度で死にはせんよ……流石にかなり痛むがな」
無理して笑ってみせるレオンハルト。
どうやら打ち身のダメージが大きいらしい。
「おじさま……! 私が、私達がスプレッダーを全滅させます!
 だからもう、昔の優しかったおじさまに戻って下さい!!」
「年を取るのは嫌なものだな……もう少し若かったなら、
 がむしゃらにスプレッダーと戦っていただろうものを……
 お美しく、そして強くなられたな、ユイナ王女。
 それだけ成長したのだ。我輩が年を取るのも当然だろう。
 後を任せる……私も、少し休まねばならんらしい」
「はい! たとえスプレッダーが生体兵器化されてるとしても、
 勇者軍と、ザン共和王国はそう簡単に負けません!
 私と、ジル君が保証します!」
「ウィルスユーザーズも終わりだな……行くがいい」
「はい!!」
ユイナ姫は中央ホールへと戻り出した。
レオンハルトは近寄ってきた愛馬エルトリオンを撫でながら呟いた。
「随分と無理をさせたな、エルトリオン――
 だが、本格的な休暇はもう少し先だ。
 今は少し休んだら、あの娘の力にならねばならぬぞ?」
「ひひぃぃん!」
エルトリオンの高らかな鳴き声が、誰もいない通路に響いた――

こうしてウィルスユーザーズはほぼ壊滅状態に陥った。
ただ一人、捕縛もしくは制圧の手を逃れた、
ブレインフォックスこと、ドルカス=ウィンチェスターを除いて――



<第十章 へと続く>
最終更新:2011年02月18日 13:21