「うおおおおおッ!」
ジークがなりふり構わず、多脚を斧で叩きまくる。
装甲に傷を入れる程度が関の山だが、彼自身の怪力もあってか、
数少ない貴重なダメージソースとなり得る存在でもあった。
地味な損傷が次第に蓄積し、多脚の動きも鈍くなっていた。
ライナスも激しく動き回り、大きく撹乱する。
「
フロストゲイザー!」
時折、地面からの氷の茨を生み出し、メカ・スプレッダーを拘束する。
そのわずかな時間でジルベルトは大きく接近する事が出来た。
しかし、それでも知能の増したメカ・スプレッダーの動きを
捉える事は容易ではなく、厄介な存在であった。
「もういいわ! メカ・スプレッダー! 全兵装発射なさい!!」
「イエス」
どがんどがんどがんどがん!
豊富に積み込まれた武装が射出され、無秩序に軌道を描く事から、
動きの鈍い者から真っ先に当たってしまう。
また、重い武装を射出する事で
本体重量も軽くなり、また軽快に動き始めるようになった。
その動きに翻弄されるジルベルト。
ずどむ!!
「!?」
しかし、自慢のストレンジバスターの砲撃は至近距離で炸裂した。
大きく後退したメカ・スプレッダーに容易に回避されてしまった。
やはり零距離戦闘専用なのだ。まったくもって乱暴な武器である。
(射程距離は……せいぜい五十センチメートル?)
しかしジルベルトは冷静にそのスペックを把握し始めていた。
「おらぁッ! 行けぇッ!!」
そんな間にも、コンラッドがリールで
メカ・スプレッダーを巻きつける。
強引に拘束したが、恐らく長持ちはしないだろう。
ジルベルトは懸命に走り、剣で斬りかかる。
ざぐッ!
大きく装甲を斬り、そして直接砲撃を叩き込む。
ドガンドガンドガン!!
乱暴な三連射で、またしてものたうち回るメカ・スプレッダー。
確実に効いている。しかし決め手がもう一つ欲しかった。
ガシャコン!
再度のリロードをしながら、困り果てていた。
ここまでの生命力を持ち合わせているとは思わなかったのだ。
生体兵器なので『耐久力』と呼ぶべきではあるが。
まったくもって、ドルカスの技術力たるや、
勇者軍の研究部に匹敵するものがあると言い切って良かった。
敵ながら見事というほかなかった。
「…………ジル君、ストレンジバスターが青く光ってない?」
ユイナ姫の指摘に、ジルベルトは己の武器をよく見た。
安全装置と思われる箇所が青く点灯しているのだ。
よく見れば、ロック、オープン状態の他に
もう一箇所操作可能な箇所がある。
そこへ安全装置レバーを動かした。
ガキン!
鈍い音を立ててから、安全装置が赤く点灯した。
「Maximum output radiation preparation completion」
電子音声が警告らしき音声を発した。
「何て言ったの?」
ソニアも興味を抱いて近寄る。
(最大出力での放射準備が完了したみたい)
と、素早くメールで教える。
「それって、つまり……」
「必殺技?」
ソニア、ユイナ姫が揃って呟く。
(みたい)
と、ジルベルトが頷く。
「メイベル、ちょっと来て!!」
それを理解するや否や、ソニアはメイベルを呼ぶ。
慌ててメイベルが移動してくる。
「みんな聞いて!」
そしてソニアは叫んだ。
「これからジルベルト君をメイベルと一緒に奴の所へ送るわ」
それが意図するところを察したのだろう。
メンバーは全員、頷く。以心伝心という奴である。
瞬間機動力に優れたメイベルがジルベルトを運ぶ事を察したのだ。
「隙を作るわよ!」
そう言うと、ソニアが真っ先に突撃を開始する。
「
チトセ!! 駆けて!!」
次いでユイナ姫が動き出した。
他のメンバーも、必死に陽動を開始する。
「お祖母様、力を貸して下さい!!」
シルヴィアが、祖母の愛用していた、
眼鏡の形をした解析用ツールを取り出し、懸命に解析を開始した。
弱点は何処なのか。そこに一撃を叩き込めば勝てるかもしれない。
「…………見えました! 幼生体と同じく、口の中にコアです!!」
しかし、口は未だ破壊されていないプロテクターが覆っていた。
「まずい……気付かれた!?
させちゃ駄目よ、メカ・スプレッダー!」
ドルカスが必死の指示を飛ばす。動きが早まった。
傷の増えていく
メインメンバーの治療にシエルが追われていた。
「なら、口をこじ開けないとな!!」
テディが奥技の準備を整えた。
「
マグマロックストライク!!」
そこら辺に転がっている瓦礫を豪快に飛ばし、牽制する。
「よし行けレイリア!!」
「わわッ!?」
エイリアは、鞭で姉を巻き取ると、
そのまま空中に向かって放り投げた。
「乱暴にしないでよッ!!」
だんだんだんッ!!
怒りながらも、空中にも関わらず、反則的な超反応で
照準を合わせて対物狙撃砲で器用なことに三連射を放つレイリア。
パンッ!
軽くだが、口腔部プロテクターにヒビが入った。
地上ではソニアやジーク、ラティシアなどが大きく動き回り、
拳を、斧を叩き込んでいた。それも大きな隙を作る。
ユイナ姫とチトセがメカ・スプレッダーへと飛び乗り、口腔部を狙う。
「
ウォータージェットスルーフ!!」
ばきゃッ!!
渾身の一撃がプロテクターを完全に粉砕した。そして速やかに離脱する。
「あとは拘束です。お願いします!」
ユイナ姫の意図を受けて、ライナスとリゼルが動き出した。
「この中でなら、俺の奥技と……」
「僕の魔法が拘束には適切です、ならば今こそ即席ながら!!」
「勇者軍
特務戦技教導隊指導要項05番『合体攻撃』に基き!」
ザムッ!
ライナスは地面に剣を突き立て、リゼルは手を高く掲げた。
「フロスト!」
「アイアンメイデン!!」
ライナスとリゼルの声が響き、上から下から氷の茨が生み出され、
ダメージこそ軽微ながら、完全にメカ・スプレッダーを拘束した。
動く事すらままならないほどに。
「今です、ジル君!」
「行って、メイベルと一緒に!!」
ユイナ姫と、ソニアの言葉に、メイベルが頷いて、
鎌さえも捨てて、懸命にジルベルトを抱えるのだった。
「ジルベルトお兄様、行きましょう……!」
(うん)
「バーナー点火!」
メイベルの
スカーレット・アーマーのブースターが火を吹き、飛翔する。
その最大速度はチトセの最大速度さえも軽く凌ぐ。
故に制御は容易ではないが、メイベルは見事に制御してのけた。
一気にメカ・スプレッダーの口腔部へと、接近する。
ジルベルトを抱きかかえたまま、口腔部目前へと着地。
「お兄様、その砲剣の反動は凄まじいものです……
最大出力で撃ったらお兄様でも……受け切るのは無理です。
だから、ここは私がお兄様を支えます……どうぞ!」
(ありがとう、メイベル……大きくなったね)
未だ小さいながらも、自分より逞しくなった従兄妹に
敬意を表する謙虚なジルベルトは、
未だ赤く光る警告ランプを無視し、
無造作に、しかし全力で、剣の刃をコアへと突き刺した。
ざぐッ!
「警告、警告、警告、警告……」
無機質な人工知能の声が周囲に響くが、
ジルベルトはもちろん構わない。
「メカ・スプレッダー!」
ドルカスの悲鳴が響くが、それも構う道理が無い。
「
終撃砲、発射ッッッッ!!」
ただ一言を発し、最大出力のトリガーを引くジルベルト。
砲口に長いチャージが始まる。押せばすぐ発動ではないらしかった。
一秒、二秒、三秒……
まさに『死ぬほど』長く感じられる三秒だったが、
それも実際には拘束を解くほどの時間さえかからなかった。
そして砲口が暴力の嵐と表現する他無いほどの火を吹いた。
カッ!!
閃光は一瞬、すぐに爆発と変わる。
ずがどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!
爆風は凄まじい勢いで炸裂し、一瞬でメカ・スプレッダーのコアなど
文字通り跡形も無く吹き飛び、ほとんど全ての装甲板が破壊された。
内部もグチャグチャというより他無いほどに無残に破壊されている。
原型は留めているが、まともな戦闘は不可能であろう。
「うわあぁぁぁッ!?」
最至近距離にいたラティシアが大きく爆風で吹き飛ぶ。
しかし抜群の身のこなしによって、受身だけは完璧に取った。
他のメンバーも爆風に巻き込まれ、大きく転倒する。
建物自体も外壁はおろか、屋根も、柱も、窓も、ことごとくが
ボロボロに砕け散り、建物と呼ぶのも憚られるほどの状況となった。
当然、ドルカスも爆風で大きく吹き飛び、何とか崩れた2Fから
落下せずにいるのがやっと、という有り様である。
「…………ッ!!」
ジルベルトを抱えた当のメイベルも反動だけで大きく後ろへ下がるが、
彼女自体は割とスカーレット・アーマーの性能により無事であり、
アフターバーナーを吹かして、何とか後退は最小限に留めた。
それでも後退距離はわずかながらにあった。
ジルベルト本人に至っては零距離から爆風を受けたせいで、
ダメージ云々はあまり無いものの、煤で黒くなっていた。
肝心の砲剣ストレンジバスターは安全装置が緑色に点灯し、
警告音らしき音声が再び流れてくる。
『Necessity increase of rejection
heat and cooling beginning』
「……何でしょう?」
メイベルが音声の意図を理解しかねているところ、
何とか起き上がったシエルが代わって解説する。
「排熱の必要性増大につき、冷却開始だそうよ」
バクン!
何らかの放熱ギミックらしきものが動き、水蒸気を吹き始めた。
これが冷却装置なのであろう。とんでもない代物だった。
ともあれメカ・スプレッダーは動きさえしない。完全決着だった。
「行動不能、行動不能、行動不能……」
無慈悲な機械音声が状況をただひたすらに告げていた。
「そんな! メカ・スプレッダーが負けるというの!?」
状況を認めきれないドルカスが悲痛な声をあげた。
「レイクリッター財団の技術力の結晶が、あんな馬鹿げた
ナンセンスな兵器一本に負けるわけないのに!!」
「技術力云々はさておいても、あんたは間違っている。
結局惑星の外からやってきた得体の知れない何者かに
頼ってる時点で、負けを認めたようなものじゃないか」
テディが、淡々と告げる。
「……そうなのかもしれないわね……
現に、私はこうして敗れているもの。
でも、この技術力は世界に利潤をもたらすわ!」
「分かっていないな。いくら利潤をもたらす物と言えど、
世界にこれだけの恐怖と怒りを撒き散らした存在を、
俺達が許しても、世界が許しておくはずはない。
最初から存在してはいけない物だったんだ、こいつは」
「…………くっ…………」
膝を折るドルカス。勝敗は決した。
「さあ、ビーム・カーテン改部隊を呼ばないとな」
コンラッドが指示を出そうとした直後だった。
「何だ……あれは……!!」
ジークが絶望の呻き声を漏らした。
それはジルベルトも同じ気持ちだった。
あんなに苦労して仕留めた成体が山盛りという様相を呈している。
「何なのだ、あれはぁぁぁぁぁぁぁッ!」
ジークの叫びが、その場にこだまする。
あんなものがあっては、人類に安息の日など訪れようがない。
そしてあれだけの数を勇者軍のみで相手するのは限界があった。
地を埋め尽くすように立ちはだかるスプレッダー達は、
巣のようなものを守っているように見えた。
戦力もさながら、ああも組織的に動かれては
太刀打ちも難しいだろう。
シルヴィアとリゼルはそこに着目した。
「……シルヴィアさん、あの中央の建造物、解析出来ますか?」
「やってます」
立ち尽くす一同をよそに、シルヴィアは解析を続けた。
「解析結果、出ました」
一同が振り向いた。希望なら何でも欲しかった。
こんな事で負けを認めるのは、皆、嫌だったのだ。
「あの中央の建造物から超音波と生命反応です。
恐らく蜂の生態に例えるなら、女王蜂でしょう。
そして、それこそが敵を指揮する総本山です」
「つまり、中央の女王スプレッダーを叩けば……」
そのシエルの言葉に、リゼルが応じた。
「統率を失い、通常の幼生体同様に無秩序に動き始めるでしょう。
数がいると言っても、一致団結されない限りは
防衛軍や各国の軍、それにコロニーからの応援部隊などでも
鎮圧が出来る可能性が出てくるはずです。
何より、無秩序に動いて事実上の同士討ちとなる事により、
相当数の減少が見込めるため、場合によっては
各惑星コロニー軍の支援さえ不要になるかもしれません」
「で、俺は何をすればいいのかな?」
ライナスが立ち上がり、今すぐにでも行こうとばかり、
柔軟体操を始めた。行く気満々である。
「――言うまでも無かろう」
テディもすぐに立ち上がる。同じく行く気満々である。
そして、ほぼ全員がすぐに立ち上がった。ならば作戦は一つ、
一点集中による強行突破で、
スプレッダーの巣へ殴り込みだ。
相当数が出ている事から、巣には女王体しかいないのだろう。
また、解析の結果もそうなっていた。
「行くわよ、ジルベルト君!」
ソニアに手を引かれてジルベルトも立ち上がる。
かしゃっ。
その時、軽い音を立てて、ストレンジバスターの冷却が完了した。
ギミックが元に戻り、通常通りに運用が可能となったのだ。
『ソニアさん』
メールでジルベルトが連絡を取る。
『一緒に帰ろうね?』
児戯のように簡潔なメールがソニアの胸を打つ。
「当たり前よ。ここで負けなんて、私が許さないわ」
『ほっぺを出して?』
無邪気な意図のメールに、ソニアは従う。
『しゃがんで、しゃがんで』
何やら届かないらしい。
(キス、でもするの……かしら……)
内心ドキドキしながら頬をジルベルトの顔に近付ける。
ぴとっ。
ジルベルトは自分の頬を、ソニアの頬にくっつけた。
それきり、特に動く様子は無い。
絵面の間抜けっぷりに、思わずソニアは訊いた。
恥ずかしさのあまり、顔が真っ赤になっている。
「……なに、してるのかしら?」
『僕が不安がってる時はお母さんが
よくこうやって落ち着けてくれたの。
ソニアさん、不安かもしれないから。落ち着いた?』
「落ち着くかーッ!!」
ごん!!
ソニアのゲンコツがまたしてもジルベルトの頭に飛んだ。
半泣きのジルベルトだが、それに構わずソニアは叫ぶ。
「私ゃてっきりアンタがき、き、キスとかするかと思って
期待とか不安とかドキドキとか乙女心必死に抱えて待ってりゃ、
ほっぺたをピッタリ合わせるだけって、何なのよソレは!
私の事が好きなら最初から乙女心を勉強し直してから
おととい来なさい! このポンコツ朴念仁!!」
どっ、と大爆笑する一同だった。
またしても泣き出すジルベルトを
懸命にユイナ姫がフォローしたりする辺り、
まさしくユイナ姫も損な役割としか言いようがないのだった。