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第十二章-第二幕- 練兵戦技(前編)






勇者軍主力部隊は謎のニンジャからの襲撃を受け流しつつ、
アースシールドをメイベルに預け、
遂にバイオレット・ヴィレッジへと辿り付いた。
長い山道を登ってくるのも一苦労だったが、
体力に乏しいキョウカ王妃を連れ歩くのはもっと厳しい。
勇者軍とのタフネスを比較して示すなら、
病人ないし怪我人と、トライアスロンの世界チャンプほどの差がある。
実際、キョウカは良く付いて来ているのだった。
(もっともメイベルがアースシールドを持ったおかげであるが)

「今日は宿でも取りましょうか、キョウカ王妃」
と、ソニア。
「ええ、ゼクウさんに会うのは明日でもいいですわね。
 明日、アーリア家にお伺いしましょうか」
「賛成!」
同じく歩きっ放しで疲れているルシアも賛成する。
ジルベルトも内心疲れているのか、こくこくと頷いた。

勿論勇者軍の進軍上に限って、そんなに平穏で済むはずもなく、
まずはバスクの部屋に異変が起こった。
どすっ!
枕元に手裏剣が叩き込まれたのだ。
まだ寝てはいなかったバスクが、素早く回避する。
「……手紙?」
手裏剣には手紙が巻き付けてあった。
同様の異変はフローベールの部屋にも起こっていた。
「危なかった……ん、手紙かしら?」
もちろん、ソニア、ルシア、メイベルにも同様の事が起こり、
最後にジルベルトの部屋に手裏剣が叩き込まれた。
どすっ!
「!」
ジルベルトは避けはせず、実はまだ捨てていなかった
効果切れのプラズマブラスターの書でガードした。
本当につくづく役に立つ魔道書である。
……魔道書としての用途からはかなり外れてはいるが。
(手紙?)
他と全く同じ文面の手紙が巻きつけられていた。
『練度の足りない新兵と、経験不足の新兵が二名。
 我が権限によって君達は、フレイデッド・タワーへ
 即時召喚される事が決定した。
 速やかに戦闘準備を整え、参られよ。
 ――ゼクウ=ユウキ』
……という内容だった。するとジルベルトの部屋に、
キョウカを除く面々がどたばたと押しかけてきた。
「ジルベルト君、もうそっちは準備出来てるの?」
同じ文面を見て先に準備を始めた他のメンツが急かしてくる。
ジルベルトは慌てて支度を整え始めた。

『それじゃあ、ユイナママ。ちょっと行って来るの』
ジルベルトのメールをキョウカは読んではいなかった。
何故なら彼女はとっくに寝ていたからである。

フレイデッド・タワー。4階建ての塔である。
観光用の建築物で通常はニンジャ的なアトラクションが
豊富に盛り込まれているが、ちょっと手を入れるだけで
訓練施設へと早変わりするという特徴がある。
その場合の機能はさながら戦闘的要塞と言ってもいい。
イザという時は防衛用の拠点にさえ成り得るのだ。
それが今、新兵を多く含む勇者軍主力部隊に向けられる。

その入口に差し掛かろうかという時、妙な床が見えた。
石ばかりの砂利道かと思いきや、
その実、尖った石を多数並べて足のツボを刺激し、
激痛を与えて時間を稼ぐという仕掛けだ。
一見地味だが撒き菱などと違って撤去出来ないために厄介である。
欠点は健康体そのものであれば、
まったく効果が無いに近い事ぐらいだ。
むしろついでに健康になるかもしれない。
ルシアが試しに一歩踏み出してみると、物凄く痛かった。
「あだだだだだだだ!」
思わず飛び退いて泣き叫ぶ。予想以上に痛い。
不摂生がたたったのかもしれないが、
良くない状況に変わりは無い。
「ルシアさん……私に掴まって下さい……飛びます」
「ありがと、メイベル」
ブースターを吹かして二人は入口へと入っていった。
看板を見ると『この先、馬や天馬厳禁』と書いてあるので、
フローベールとバスクは、泣く泣く愛馬を置いていく事にした。
ルシア以外は特に問題も無く、石畳を通過し、
全員揃ってあっさりと通過したのであった。

フレイデッド・タワー1F。
一番広い階であるが、それだけに大味なトラップ。
時折壁から巨大かつ猛烈なバネ仕掛けが飛び出してくるが、
それらは敵を直接叩くためのものではなく、転がっている鉄球を
擬似半永久的に往復させるためだけの装置である。
つまり片側からのバネで鉄球をもう片側へ押し出し、
ひたすらそれを繰り返しているのだ。
この転がっている鉄球というのが生半可な大きさではない。
まさに建築現場で使うスチールボールそのものである。
また、壁から叩き出されるスピードも車よりよほど速く、
もはや勇者軍主力部隊を轢き殺す気なのではないかと思うほどだ。
そうしている間にも、フローベールの目の前を鉄球がかすめていく。
「きゃっ!? 危なかったぁ……」
「ここは私の出番みたいね」
下品に指の骨をバキバキ鳴らしてからソニアが前に出た。
「ソニア先輩、何をするんですか?」
「まあ見てなさいって、バスク」
今にも弾かれる鉄球のコース上に陣取るソニア。
鉄球の接触とのタイミングを見計らい、蹴りを繰り出した。
「蹴脚!!」
ごがっ!
鈍い音を立てて鉄球がピタリ、と止まった。
即座に別の方向へ回り込むソニア。
「掌底!」
手の平を押し当てるように鉄球へと叩き込む。
すると鉄球はバネ仕掛けなど問題にならないスピードで射出され、
他の鉄球にドカドカ当たって、ビリヤード状態で鉄球が
不規則に動き回り、その事でレーンから外れていく鉄球群。
その事によってほぼ全ての鉄球が無力化され、停止した。
「ほえー……」
口をあんぐりと開けるフローベールとバスク。

その勇者軍の前に先程会ったニンジャが現れた。
何故か、丁寧に鉄球の上だ。
「……乱」
それだけ言い残すとすぐに立ち去った。
「どういう意味?」
『乱暴だけど、まあいいだろう、って意味みたい』
こういう相手にはジルベルトのテレパスは便利だった。
「合格ってことでいいのかしらね。じゃあ次行きましょう」

2Fは小部屋ばかりだった。しかも扉らしきものが無い……
「?」
ジルベルトが壁を適当にぺたぺた触っていると、突然壁が回転し、
ジルベルトはその先へと進んでしまった。
「……仕掛け扉?」
メイベルが訝しむが、すぐそれに続く。他の者も同様だった。
しかし仕掛け扉がある部屋もあれば、戻るしか無い部屋もあり、
さながら回転扉の迷路、という様相を呈していた。
ここで力を発揮したのは情報端末であった。
マッピング機能をバスクがフル稼働した事により、
ほとんど無駄足を踏まずに通過出来たのだ。
次の階段の前にニンジャは立っていた。
「速」
それだけ言い残してニンジャは去って行く。
『予想以上に速かった。見事だ、って』
ジルベルトの意訳メールが即座に入る。
ソニアはなんとなく、ジルベルトとあのニンジャ、
何となく気が合うかもしれない、などと
どうでもいい事を考えてしまったが、
それはともかく、先を急がなくてはならない。

フレイデッド・タワー3F。
面積としてはだいぶ狭くなったが、自由に動き回れないだけ、
より危険になっていると言っても良かった。
ジルベルトが足を踏み出した瞬間、床から槍が飛び出してきた。
だが、瞬間的に気付いたフローベールによって引き寄せられた。
ただし首根っこを引っ掴んでいるのでかなり苦しかったようだが。
「隊長、大丈夫ですか!?」
『ありがとー』
かなりびっくりしたのか、目を丸くしているジルベルト。
やはり殺す気仕様で作っているのかもしれない。
「……面倒ですね……」
上下移動でかなり気分が億劫なのか、メイベルがおもむろに
前へと歩み出る。正直に言って無造作過ぎる。
「メイベル、迂闊に……!」
フローベールが制止する間も無く、左右から槍が飛び出してきた。
ぱきぽきっ!
メイベルのスカーレット・アーマーに傷さえ付けることなく、
槍はあっさりと片端から折れてしまった。
どうやらスカーレット・アーマーの硬度は
当代最強レベルのようだった。前戦役では
酸攻撃という予想外の攻撃に溶かされてしまったものの、
一部の攻撃を除いては、この鎧に死角はほぼ無い模様である。
「後からついて来て下さい」
メイベルがいつになく自信満々に言うと、また無造作に歩き出す。
槍だけでなく、手裏剣も飛んできたし、爆薬も出てきたが、
ことごとく弾き返すか、折れるかなどしてたちまち無力化される。
まさに重騎士の本領発揮であると言えるだろう。
狭いだけに、程無く4F――最上階への階段へと至った。
もちろんその前には例のニンジャがいた。
「秀」
『優秀な判断、見事だ、って言ってるよー』
ニンジャは頷くと、更に一言加える。
「待」
それだけ言うと、また上へと去って行く。
『上で待っている、って』
「兄様がいなかったら、コミュニケーションが
 成立しなさそうですね……」
これまた今はどうでもいい事をメイベルが呟く。
「とにかく、ようやく認めてくれたってことかな。
 ようし、行くぞ、最上階だ!!」
バスクが意気込んで階段を昇り出す。
他の者も遅れじと、急いで階段を昇り始めた――



<第十二章-第三幕-へと続く>
最終更新:2011年03月05日 21:26