第十二章-第三幕- 練兵戦技(後編)
フレイデッド・タワー4Fへと登ってきたジルベルトは、
割と小さい部屋で仁王立ちしていた
ニンジャと対面した。
(小さい部屋、というのはあくまで3Fまでの広さと比較してであるが)
ニンジャは唐突に
勇者軍情報端末を取り出した。
どうやら自分が勇者軍
サブメンバーだという主張らしかった。
そして手袋をしたままなのに、素早く器用にメールで伝達する。
『既に察しているとは思うが、我が名は
ゼクウ=ユウキ。
喜んで仲間入りさせてもらう、と言いたいところだが、
ここは蛇足ながら、改めて諸君等を試させてもらう』
それだけメールで伝えると、彼は速やかに武器を……鎌を構えた。
「攻」
簡潔に攻撃の意志を示し、ゼクウは素早く動き出した。
流石に少佐クラスだけあって、一切の無駄が無い。
その上に膂力まである。一筋縄ではいかない相手だった。
何とかルシアが一撃を避けると、彼の一撃で床がめくれ上がっていた。
「ひぇぇ、強い!」
「
グランドバスター!!」
すかさずソニアが援護に入り、呪文を放つ。
「無!」
がごんっ!
ゼクウはなんと、グランドバスターの魔力弾を
その豪腕で叩き落とした。実弾を叩き落すのとは
わけが違うというのに、荒技にも程がある。
「ええっ!?」
更に驚くソニアを尻目に、ゼクウはバスクに仕掛けてきた。
「うわっと!」
かろうじて回避したバスクは、棒の一撃を叩き込む、が――
「遅!」
絶好のタイミングでの攻撃だが、意にも介さないゼクウ。
ひらりとかわすと、今度はフローベールへ仕掛ける。
だが、流石にフローベールは素早かった。
余裕をもって回避し、素早い一撃を的確に命中させる。
「軽!」
しかしこちらはまさしく当たっただけ、という具合だ。
まったく効いていない事も無いはずだが、
性能の良い鎧を着ているのだろう。
続けてゼクウは、メイベルに照準を合わせて発破、
すなわち爆薬を撒いた。
ずどがん!
もちろん、
アースシールドが加わってより頑強になった
スカーレット・アーマーの前ではそんな物は意味を成さないのだが、
その一瞬の隙を突いて、ゼクウは最接近する。
ごくわずかなアーマーの関節の継ぎ目を狙って、
素早く手刀で突きを加えた。
「あたッ!?」
大きくよろけるメイベルを、雑に蹴り飛ばすゼクウ。
「脆!」
メイベルの鉄壁の守りまで崩された事に少なくともジルベルトは
驚きを禁じ得なかった。特殊な攻撃を除いては
無敵の要塞だった守りまで純粋に攻めで崩されるとは――
ジルベルトも本気にならざるを得ない状況になった。
ジルベルトは先手を打った。
スプレッダーとは違った意味でまったく油断のならない相手に、
ついジルベルトも口を開いてしまう。
「一騎討ち!」
「是」
どうやら応じる気なのか、今度はゼクウが防御に回る。
剣による一撃をジルベルトが叩き込むが、
それは容易に受け止められた。
「可」
どうやら及第点はもらえたらしい。
しかしジルベルトはそれで終わらなかった。
久々に取り出したリールで
相手の腕を巻き取り、振り上げてゼクウを放り投げる。
「!」
ゼクウは慌ててリールを振りほどき、不時着する。
が、態勢は既に崩れている。
ジルベルトは猛烈な足払いをかけると、ゼクウは転ぶ。
更に剣でもう一撃を加えようとするが、
ゼクウは腕だけの力で跳躍。
ジャックナイフと呼ばれる動きで速やかに立ち上がった。
「良」
ゼクウが反撃に出ようとしたところで
ジルベルトは盾を放り投げた。
ゼクウは立て続けに発破を投げつけてくるが、
ジルベルトは巧みに回避。
むしろ爆発までのわずかな間に、ジルベルトは多数の発破を
手掴みにして投げ返すという蛮行までやってのける。
思わぬ反撃にたじろぐゼクウ。
並の胆力で出来る事ではなかった。
「秀」
これまた巧みに回避しながら、
どこにそんなに隠し持っているのか、
更に大量の発破をばら撒き始めた。
一方のジルベルトは、いつまで耐えても終わらない発破攻撃に
かなり業を煮やしたのか、遂に信じられない暴挙に出た。
おやつに作ろうと思って持っていた
ホットケーキミックスの入った袋を
ゼクウに向けて投げつけたのだ。
「不!」
ゼクウは鎌で一閃。あっという間に袋は切り裂かれ、
粉が空気中に飛び散る。
「ちょっ、隊長! 今それは……」
「バスク、手を出さないの! 叩きのめされたいの!?」
「そうじゃないって、フローベール、俺が言いたいのは……!」
黙って見ていたバスクが慌てて止めに入ろうとするが、
フローベールが慌ててそれを止めるという
不毛な光景が繰り広げられようとしていた。
しかしそれにも構わずゼクウは発破を投げ――
ずどごぉぉぉぉぉん!!
「!?」
ようとしたが、いわゆる『粉塵爆発』の現象を起こして、
ゼクウは自らの発破で吹き飛ぶ事になった。
ちょっと威力が高かったのか、
周りの壁の一部にヒビなど入っているが、
まあゼクウなら問題無く耐えられるであろう、と思った。
半分失神しかけたゼクウだったが、
強靭な意志で何とか持ち直した。
「……?」
一瞬事態を把握しかねたようだが、
粉塵爆発だったと悟ると一言加えた。
「優」
『優秀な判断だった。見事である』との意味であろう。
ゼクウはジルベルトに握手を求めてきた。
「加」
『これから自分も加わるからよろしく、ってさー』
ジルベルトが通訳する。
四苦八苦の末、合格印をもらえたのか、ようやく
ゼクウ=ユウキは主力部隊入りしてくれたのである。
……とはいえ、粉を投げた本人のジルベルトはもとより、
他のメンバーもあらかた軽く焦げているのはご愛嬌かもしれないが。
その後、帰り道でソニアはジルベルトに話しかけた。
「ねえ、ジルベルト君。あのホットケーキミックス、
粉塵爆発で攻撃出来るって分かっててやったでしょ?」
(んー?)
ぷるぷるとジルベルトは首を振る。
(突然爆発したからびっくりしちゃった)
「結果も知らんとあんなモン投げちゃダメでしょうが!
私らはアレで焦げてんのよッ!?」
どがっ!
そのあまりの発言に、ソニアはゲンコツを食らわせた。
(ソニアさんがぶったー!)
涙目でルシアに泣きつく。
戦闘中とのあまりのギャップの大きさに、
ゼクウは思わずうつむいて、ただ一言付け加えた。
「笑」
その一言にメイベルが振り向いた。
「面白い……ってことなんですか?」
「是」
それだけ加え、ゼクウはまた黙ってしまった。
ともかく、一癖あるメンバーをまた加え、
勇者軍の旅はこれから本番を迎えつつあった――
最終更新:2011年02月20日 22:05