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第十二章-第一幕- 解決する疑問、新出した疑問






新たにフローベール、バスク、
そして天馬ベアトリスと馬のヴィッセルを加えて、
勇者軍主力部隊は重要拠点のひとつである
バイオレット・ヴィレッジへと向かった。
この拠点が重要拠点に指定される理由はいくつかある。
ジャパニーズ・チルドレンと呼ばれる旧時代の
『日本』という国の国民の直系の子孫達が残るという、
旧文明のわずかな残滓が残っている事による。
分かりやすく言えば文化遺産だとか
天然記念物だとかそういう扱いなのだ。

更に加えて、エドウィン=ストレンジャー総帥の時代に
勇者軍に加わったバイオレット・ヴィレッジ村長、
バイオレット=アーリア及び
その子孫が住む村という事になるのも理由の一つ。
加えて言えばアーリア家は、かの有名な
『十三英雄』の家系の一つであり、
『十三英雄』自体も勇者軍とは協力・同盟関係にあったことからも、
決して無視していい土地ではないと言える。

そうした文化的な諸々をさておいても、
ここにはフレイデッド・タワーという
観光名所兼訓練施設があり、歴代村長の考えるユニークな仕掛けは
勇者軍予備役や、サブメンバー昇格したての人間の訓練に
著しく好影響を与えているという実利的な意味合いも含まれている。
ただの一つの村に過ぎなかったバイオレット・ヴィレッジの
地位をここまで向上させたのも、それによって狙われるのも……
そう、良くも悪くも勇者軍と関わったことによると言っていい。

そして、そのバイオレット・ヴィレッジを統括するのが
バイオレット=アーリアの息子、ワイマール=アーリアなのだが、
もちろん彼は村長職が忙しいので、出撃は不可能。
しかし彼には息子の名義で育てている一人の男がいる。
そんな情報がここ最近、勇者軍の間で有名になっていたのだ。

ゼクウ=ユウキ少佐。現在19歳で男性。
バイオレット=アーリア前村長の補佐官にして夫、ラング=ユウキが
第二子を儲けられなかった事により、彼の意思で、
彼のクローン体として生まれた人間である。
もちろん今更ラングの息子というわけにもいかなかったので、
戸籍上はワイマールの甥で、
かつ養子という扱いにされているようである。

……という情報とにらめっこしているジルベルトだったが、
彼にはもう一つの思案もあった。
(レイリアさんとエイリアさんと、猫達に共通点――あるのかなあ?)
どうしてもそれが気になってしょうがなかった。
「なあに? ジルベルト君。お悩み?」
と、ソニア。
『レイリアさん達と猫が同列視されてる理由が分からないのー』
ジルベルトの問いには、いきなりバスクが身を乗り出した。
「うーん、推論でしかないですけど、あれじゃないですかね。
 レイリアさんとエイリアさんって人は会った事無いですけど、
 猫は遺伝子調整動物だからって狙われたんだったら、
 敵は遺伝子工学を敵視してるんじゃないでしょうか」
この推論に、全員ぴたりと足を止める。
「……猫達はそれで説明がつくとしても、
 レイリアさんとエイリアさんは
 別に遺伝子調整を受けて生まれたわけじゃないわよ?」
「それに彼女達の扱うナノ・マシンは医療工学技術であって、
 遺伝子調整技術とは何の関係も無いのでは……?」
と、ルシアとメイベルがとりあえずツッコミを入れておく。
「……いえ、そうとも言えないですよ。ナノ・マシンはそれ自体が
 遺伝子調整を可能とする可能性を持っています。
 要するに遺伝子の配列の直接操作ですね。
 もし敵がそれも嫌っているとしたら、納得はいきます」
すると、キョウカも頷く。
「そう言えば勇者軍もDNAクローン体の培養を
 認可していますし、惑星アース国際平和機構も、
 遺伝子操作技術を否定はしていません。
 国際法で明文化しない限り、
 それは肯定しているのと同じですから」
なるほど、と全員が頷く。そしてそれにフローベールが続く。
「だったらアーム城と惑星アース国際平和機構は攻めておいて、
 妖精の森に特定の相手へのピンポイント攻撃を
 行ったという理由も分かります。陽動部隊はともかく、
 レイリアさん達だけが狙いなら、いないと分かれば、
 無理に妖精王の城を狙う必要もありませんし」
「どうやら間違いないようだな」
ふんっ、と得意げに鼻を鳴らすバスク。
急に不安げに飼い猫のあんみつを抱き寄せるメイベル。
「どうしましょう……せっかく早産を乗り越えて一匹、
 生き残ったのに、そうやって寄ってたかって
 殺されてしまいそうだなんて……可哀想……」
ソニアが思案して、名案を思いついた。
「名案と呼べるかどうかは分からないけど、
 いちいち守るのも厳しいから、キョウカ王妃に
 預かってもらいましょう。キョウカ王妃と同位置の
 一箇所にまとめておけば、守る際の手間は激減するはず。
 理論上は生存率がこれでかなり上昇するはずよ」
「あ、そうですね!」
メイベルが喜ぶ。
「ふふ、それにこの六人がいるのなら、
 そう負けたりしないのでしょう?
 なぜなら勇者軍はそれ自体の個が一騎当千なのですから。
 六人いるのなら、六騎当六千ですよね」
どこか頼もしげにしょうもない事をのたまうキョウカ王妃。
「六騎当六千って……また随分と大きく出ましたね」
半ば呆れてフローベールがツッコむ。
「これは私のセリフではございませんわ。ジル君。
 あなたのお母上が、昔、似たような事を言っていました」
(ふーん)
自分の知らない母の一面を垣間見て、
ジルベルトは神妙な面持ちになる。
そんな顔を見て、キョウカはまた笑うのだった。

そしてまた進軍は再開するが、しばらく歩いていると、
明らかにキョウカ王妃の息が荒くなってくる。
どうやら相当に疲労が溜まっているようだ。
「……キョウカ王妃、大丈夫ですか?」
「す、すみません……少々……SPに持たされた荷物が重くて……」
キョウカはこの旅が始まる前に、SPに荷物を持たされていた。
本来彼女が持つべき専用品であり、彼女を守る盾――
アースシールド。惑星アースの名を冠する最高峰の盾である。
惑星アース以外にも各惑星の最高責任者を守るための防具が
各惑星に点在しているのだが、
アースシールドはそのうちの一つである。
彼女が脱出に成功したのも、このアースシールドがあればこそだった。
だが、盾としては破格の防御力の代償に、かなりの重量があり、
旧時代の人間と同じ程度の体力しか無いキョウカの膂力では、
持ち上げて運ぶだけでも恐ろしいほどの重労働だった。
本来は自分が使わなきゃならない防具だからと、頑張る姿を見て、
勇者軍メンバーも敢えて持つのを止めるようには言わずにいたが、
あまりにしんどそうで見ている方が辛い。
というより放置していたら、あと数十分もあれば昏倒するであろう。
「メイベル、持ってあげなさい」
「はい。貸して下さい、キョウカ様」
ルシアの指示で、アースシールドを受け取るメイベル。
流石はアースシールドより遥かに重い重量の鎧を
軽々と着こなすメイベルである。
さっさと持ち上げると、通常の盾同様に
前に構えて見せた。見事である。
「ふぅ~……文字通り肩の荷が降りましたわ」
キョウカはめいっぱい伸びをして、解放感に身を任せる。
「メイベルさん、やっぱりそれはあなたに預けます。
 イザという時は、それでみんなを守って下さいね。
 いっそその方が、私自身も安全でしょうから」
「はい」
メイベルの鉄壁の防御が更に厚くなった。真紅の雌鹿は
鉄壁を超越して、今ここに絶壁と化したのである。
「色が気に入らないですね……」
と、メイベルはどこから取り出したのか、ラッカースプレーで
勝手に元々青いアースシールドを着色し始めるが、
どうも着色料は一切固着しないらしく、
塗料を無駄遣いしただけに終わったのは余談である。

足取りも軽くなった中、勇者軍は更に
バイオレット・ヴィレッジを目指し北上を続けた。
と、いきなりその目の前に黒装束……
否、忍者装束の人物が姿を現した。
発見から接近まで、コンマ約6秒。ジルベルトの眼前に出てきた。
そして鎌を取り出してやはり即座にジルベルトに斬りかかる。
「!」
ジルベルトは前回の戦いの後、結局まだ捨てていなかった、
効力の切れたプラズマブラスターの書を
瞬時に盾にするために放り投げ、身を引く。
さくっ。
プラズマブラスターの書に鎌がさっくりと刺さった。
命拾いをしたようだ。最後の最後まで役に立つ魔道書である。
無言で臨戦態勢に入るジルベルト。剣を抜いた。
次いでフローベール、ソニア、ルシア、
バスク、メイベルの順に構える。
だが、敵かもしれないニンジャは
特にそれ以上攻撃は加えなかった。
「良」
とだけ言い残し、勝手にニンジャはその場から立ち去った。
どうやら様子見ついでにからかわれたのだと、
今更に気付くジルベルト。
『強かった~……』
「ジル君、お知り合いですか?」
と、びっくりした状態から
やっと正気を取り戻したキョウカ王妃が尋ねる。
『知らない。けど敵意は感じなかった。
 良くかわした、見事だ、って思ってたみたい』
と、メールでジルベルト。
「なるほど、だから『良』なのね。
 さっぱり意味分からなかったけど」
「フローベール、俺達は遊ばれているのか?」
「知らない。試されたのかもしれないけどね」
謎のニンジャは引き上げたが、
とりあえずバイオレット・ヴィレッジはもうすぐ。
これ以上足を留めるわけにもいかなかった。
いよいよゼクウ=ユウキとの対面が待ち構えているのだから。
勇者軍は急がなければならない。来たるべき敵の襲来に備えて――



<第十二章-第二幕-へと続く>
最終更新:2011年03月05日 20:46