第十四章-第一幕- 高速船闘
カルナード港に到着した
勇者軍主力部隊は、ようやく船に乗る事で、
キョウカ王妃をゆっくり休ませられるものと思って安心した。
見れば、既に停泊しているのは勇者軍所属の最強の海洋戦力の一つ、
『
レッド・ワイズマンMk-Ⅱ』であった。
「うおーい!」
なにやら元気良く手を振っているのは船長であるコンラッド。
メイベルの幼馴染みにして、現ワイズマン家の当主でもある男だ。
「コンラッド君……元気みたい……」
メイベルが真っ先に駆けつけ、次いで残りの者も寄っていった。
「いやあ、随分と苦労してきたみたいだな。無事で良かったぜ。
おう、良く見りゃフローベールにバスクもいるんじゃねぇか」
「うん、相変わらずそうで安心したよ、コンラッド」
「随分と久しぶりね。元気してたみたいで何よりよ」
親睦を暖めている中、ヴァジェスが急かす。
「とにかく、こっちでも捜索を続けてきたが、
レイリアとエイリアを見かけたという情報は
キャッチ出来ていない。ならば
ザン共和王国領内か、
シャンゼリー王国国外の土地にいる可能性が高いだろ。急ごう」
「おっと、そうだな。話は海の上でも出来らぁ」
コンラッドも了解して、急いで指示を出して航路を決める。
「出航だ、急げ!」
「了解!」
かくしてレッド・ワイズマンMk-Ⅱは滞り無く出航する。
「はふぅ。こういう長旅はちょっとこたえますね」
と、ようやく落ち着いた顔でキョウカ王妃が言う。
『ユイナママは体力が無いのだー』
「こら、なんて事を言うの」
と、ド失礼な事をほざいてのけるジルベルトをソニアが小突く。
「あら、でも本当の事ですわ。実際の話、
お嫁入りするまでは、
箸より重い物持ったことありませんもの」
「はー、そりゃまた……」
筋金の入ったお嬢なのである。貧弱さにも納得がいく。
ソニアはつくづくこんな人が
勇者軍にいることの不思議さを感じた。
ずずん!
と、いきなり船に振動である。まったく物騒な話であったが、
敵は早速攻勢をかけてきたようだ。
しかし、状況はこちらの方が有利だろう。
何故なら、船さえ守っていればキョウカ王妃を
慌てて逃がしたり隠したりする必要が無いからであった。
「コンラッド。迎撃態勢を取らせろ」
「おうさ!」
テディの要請に応え、コンラッドは船員に砲撃指示を出した。
砲撃には砲撃を。簡単な理屈である。
どん! ずどん! どどん! どがん! ぼごん!
猛烈な砲撃が飛び交うが、互いに船足が速く、まともに当たらない。
似たような性能を持った高速戦闘戦艦なのだろう。厄介だった。
しかも砲門自体はあちらの方が多く、ジリ貧になりかねない。
「くそっ、なんて旋回能力の高さだ、当たらん!!」
コンラッドがぼやきつつ、引き続き射撃を加える。
が、それも焼け石に水。かすめるのが精一杯だった。
「ならば、これで!」
ドルカスは特殊狙撃銃である装備を取り出した。
「ソニア、ルシア、手伝いなさい!!」
「それはデリバリー・
ランチャーね! 姉さん、手伝うわよ!」
ソニアとルシアがドルカスのアシストに入る。
「さあ、誰か掴まって。直接送り込むわよ!」
デリバリーランチャーは中距離間弾道輸送弾用銃砲であり、
弾頭の取っ手と輸送対象を何らかの方法で固定する事により、
曲線的に人ないし輸送物を送り込む兵器だ。
ただ、輸送対象の側に常識外れの固定力が要求されるため、
誰しもが輸送してもらえるという類の便利兵器ではない。
この兵器の経験があったジルベルトとテディが真っ先に掴まった。
「デリバリーランチャー、発射!」
ずどん!
放物線を描いて、的確に敵の船上に乗り込むジルベルトとテディ。
「メイベル、私達も行きましょ!」
「分かりました、フローベール」
次いで、自力での飛行能力を持つフローベールとメイベルが飛翔。
更に
ワイバーンに変身して、ヴァジェスも突貫していった。
躊躇するバスクを置いて、ゼクウもとっとと飛び立っていった。
「さあ、バスクで最後よ!」
「お、俺はいいよ! 危ないよそれ!
それに馬と一緒じゃ、行った後、戻って来れないだろ!?」
「あ、そうか。じゃあやめときましょか」
「ふう、助かった……」
バスクは内心こんな物騒な兵器に乗せられないでホッとしていた。
ドルカスがちょっと残念そうな顔をしていたのは余談である。
一方、船に真っ先に乗り込んだジルベルトとテディは、
強引に乗り込んだ二人に対して驚く敵船員をよそに、
主砲を真っ先に破壊しにかかっていた。
「よいしょっ!」
続けて、フローベールが到来。更にメイベルも続く。
「がぁぁぁッ!」
ヴァジェスは、ブレスでマストを直接破壊し始める。
これで風による風力走行は少なくとも出来なくなった。
この段階になって、ようやく敵船員が反撃に出始めた。
あまりに手際が悪すぎる事に、遅れて来たゼクウが気付いた。
「紛」
『紛らわしいが、これは敵じゃなく、ただの野良海賊?』
それを汲み取ったジルベルトが一旦攻撃をやめて、メールを送る。
すると、全員の攻撃の手が止んだ。
(もっともその頃には、とっくに海賊が土下座を始めていたが)
「まったく、どういうつもりだ?
勇者軍に手を出すとは、お前達、馬鹿か?」
テディが不機嫌さを隠そうともせずに言い捨てる。
「だからすいやせん! すいやせん!
もうほんっとしませんから!」
なんか子供のように許しを請う海賊を見て、これ以上の攻撃も
馬鹿馬鹿しくなったのか、ヴァジェスが指示を出す。
「くだらん。ちっといい船持ってるからと
警戒してみりゃこのオチか……俺は戻るぞ。
ゼクウ、乗っていけ。どうせ自力じゃ戻れんさ」
「是」
ゼクウはヴァジェスに乗って帰っていく。
次いでジルベルトはメイベルに引っ張られ、
テディはフローベールに同乗させてもらって帰っていった。
「た、助かったー」
半泣きの海賊は、何とか無事だったエンジン部分をフル稼働させて
全力で逃げていったようである。
「……ったく、デリバリー・ランチャーの弾丸も
タダじゃないんだからこのクソ忙しい時に
仕事を増やさないで欲しいわよね」
と、真相を知ったドルカスは怒り心頭だったが、
とりあえず全員無事という事もあり、それ以上の詮索、追及は
無用という事になった。
「まあそう言うな、ドルカス。ああいうのが未だに暴れてるのは
遠回しに俺ら、ワイズマン家の不手際に過ぎねぇ。
また平穏になったらああいうのも片っ端からのしていくさ」
と、珍しくコンラッドがフォローに入る。
「…………」
数分後、凄まじく眠そうな顔をしたジルベルトの気配を察して、
ソニアが語りかけてやる。
「ジルベルト君、眠いの?」
「…………おねむ」
「ほら、ベッドまで歩こ? 添い寝してあげるから」
ただそれだけを述べて頷くジルベルトに苦笑すると、
ソニアは手を引いてベッドへと連れて行った。
まるで母と子のようだ。
とてもアレで恋人同士などとは端から見れば信じられまい。
「隊長ってなんか、小動物みたいですよね」
「何か可愛いんですよねー、ね、バスク」
「うん、分かる分かる」
と、自分の上司相手に好き勝手を言うフローベールとバスク。
ルシアもなんとなくだが、思った。
「小動物度が上がってる気がするし、
むしろ身長とか縮んでるんじゃないかしら」
「いや、それは無いと思うし、
あんたの身長が伸びただけだと思うが……」
と、律儀にコンラッドがツッコむ。
「ともかく、ここまで長い事歩いてきたんでしょ?
フローベールも、バスクも、メイベルもゼクウも
もう寝ておきなさい。寝るのも仕事よ。
キョウカ王妃だってもう寝ているのよ。見張りは私達がやるわ」
と、ドルカスが年長者の威厳を見せてみる。
「はーい」
「眠」
(一人を除いて)どこぞの中学生のような
返事をしてから一通り去っていく。
「俺も寝るわ。今日は疲れた」
「うむ、ヴァジェスもお休み」
テディに見送られ、ヴァジェスも船室に仮眠を取りに行った。
コンラッドも再度、船長室に入る。
本来はそこが彼の居場所なのだ。
テディとドルカスは二人きりになった。
「敵の組織は私達が思っているより強大なのかもしれないわね。
ストレンジャーソードも無しに勝算はあるのかしら」
「ある……あのお方達が
惑星アースに降下済みとの報告が入った。
俺も面識は無いが、合流出来れば勝機は充分以上にある」
「あのお方?」
ドルカスが珍しく勿体ぶるテディの態度を怪訝に思う。
「…………あのお方は、過去の経験から、
惑星アース国際平和機構他二拠点への強襲以降、
独自に事の重大さを痛感し、既に動かれていたのだろう。
やはりあのお方の慧眼、洞察力、行動力全てが
我々未熟者の及ぶところではあるまい」
「…………一体誰なの? 味方みたいだけど」
ドルカスの問いに、一拍置いてからテディは、口にした。
「――総帥だ」
最終更新:2011年03月26日 20:45