第二十五章-第一幕- 不穏なる気配、再び






勇者軍主力部隊は、セシリアと戦場で合流。
どうにかこうにか敵のフィアナ=マーベルを撃退し、
ひょっとしたらリュミエルがいるかもしれない、という目算だけで
ハイアード・タウンへと進路を変更したのであった。
一方で、惑星アース国際平和機構本部施設に舞い戻った
キョウカ王妃は、何故か情報を一番多く保持している割に及び腰の
ザン共和王国民政部を放置し、自分達で独自の対策を立てるために、
日々側近や幹部等と、協議を繰り返していた。

とりあえず勇者軍経由で得られた情報が極少数だが存在している。
まず敵の浮遊円盤都市が『FSノア49』というコードネームで
ザン共和王国民政部から呼称されている事。
ネーミングの由来も、そう呼ぶ理由もまったく謎のままだが、
少なくとも名称不明よりは余程マシである。

次いで、敵性の存在なのは間違いない、という事。
真っ先にヴェール・シティへ無差別攻撃をかけ、
多数の死傷者を出している。
勇者軍メンバーの孤軍奮闘が無かったら
市民の全滅も危惧されたというだけに、
決して無視していい存在でないのは明らかである。
更に言えば強大な火力を保持し、
行く先々での蹂躙が可能であるという事。

また、ストレンジャー・タウンにも襲来し、直接爆撃でなく、
白兵戦をも仕掛けてくるという柔軟さを併せ持っており、
大小問わず、人類の居住区への脅威となるのは明白であった。

最後に現在の行方がまったく不明、というのも明らかである。
光学迷彩ででも隠れているのか、人工衛星にも引っ掛からない。
もはや反則そのものの存在だと言っていい。
だが、勇者軍(というかイスティーム王)から聞いた報告で
一番驚いたのはジルベルト自らが全力攻撃を仕掛けて
小破程度で済んでいるという事実であった。
マキナ戦役を通じて、ジルベルトの恐ろしさを直に見てきた
キョウカ王妃には、にわかには信じがたい話である。
「どうしたものでしょうね……」
本気で困り果てて書類とにらめっこするキョウカ王妃。
部下がとりあえず進言してくる。
「勇者軍の火力で難儀するとなると相当のものでしょうね。
 とりあえずは、緊急時の避難態勢の充実でしょうか。
 シェルターへの誘導を強化させましょう。
 流石にあの爆撃の規模では防ぐ術がありませんので……」
「……無理とは思いますが、撃墜の方向ではどうです?」
「えー、ちょっと待って下さい」
端末とにらめっこする部下、計算をしているのだろう。
「……通常兵器での撃墜は不可能に近いようです。
 そもそも勇者軍の火力で撃退出来ないものを
 どうにかするなら、NBC兵器レベルでなければ……」
「NBCは駄目ですよ。そんな方法を取るぐらいなら
 まだ勝手に暴れさせておく方がマシですから」
やんわりと拒否するキョウカ王妃。まあ無理も無いが。

大体そんな事をすれば、撃墜地点が汚染区域になってしまう。
そんな手法を国際平和機構長官として認めるわけにはいかなかった。
「では、引き続きザン共和王国民政部との交渉を継続。
 勇者軍と連携を取り、各国の支援を仰ぐ。
 その方針で、しばらく様子見をするとしましょう。
 ただし、シェルター誘導強化は即実行です」
「では、そのように」
部下がそそくさと退出する。
「……随分と難儀な事になっているのですね、ジル君……
 ユイナも、大丈夫だとよろしいのですけれど……」
キョウカ王妃は、親心から純粋に心配するしかなかった。

一方のライナスとリュミエルは、退院手続きの途中だった。
「えー、支払いは20000ゲルになります」
「あ、現金でよろしいですかー?」
ライナスはサッと大金を出してくる。大人の対応である。
「いいって、私が出すってば」
リュミエルは先日レースで当てた大枚をはたくつもりでいた。
もともとあぶく銭なので治療に当てられるなら
惜しくもなんともないつもりでいたからである。
「いいって、どうせ経費で落ちるんだから。
 君が払っても俺が払っても一緒だってば」
「だからって一時的にお金無くなっちゃうでしょ!
 ごはんも食べられなくなっちゃうじゃない!」
とは言っても既に支払いは済んでしまった。
見事にライナスの財布はすっからかんである。
「もう遅いよ。払ったし」
「ああっ、もう! お金に無頓着なんだから!
 うわっ、休日じゃない、銀行も開いてないし!
 いいわよ! お金下ろすまでの間、私が奢るから!」
ぷりぷり怒りながらも所持金を確認するリュミエルだった。
「いやぁ、助かる助かる」
「すっからかんになるまで見栄張らなくていいから!」
と、ぼやきながらも食料品を買いに出かけた。
いや、いっそレストランで食事でも、と思ったが、
デートみたいだな、と思い、リュミエルは一人で勝手に赤面した。
「どうしたの?」
「何でもないわい!」
やけくそ交じりに怒鳴るリュミエル。

……が、平穏の時はそこまでだった。
ごがん!
「うぉわっ!?」
「ひゃあああ!? 何、何!?」
地面が派手に揺れた。地震ではなさそうだが……
「アレを見てくれ、リュミエル。ミサイルか!?」
「……ミサイルにしてはおかしいわね。爆発が……無い?」
ミサイルらしきものを確認したは良かったが爆発が無い。
不発弾にしても不自然なその一撃は、更なる不安を掻き立てた。
住民は既にシェルターに避難しているが、場合によっては
二人だけで戦闘を行わなければならないかもしれない。

「……保つか……!? いや保たせる!!」
ライナスは無制限の救難信号を出した。
近くにいると思われる勇者軍主力部隊に届いたはずだ。
あとは来るまでの間、保たせれば勝機はある。
「行こう、リュミエル。退院早々申し訳ないけど――」
「いいわ。昼飯前にちょうど良さそうだもの。付き合う!」
二人は身構え、戦闘態勢に入った――



最終更新:2011年06月11日 14:31