第二十五章-第二幕- カオスリキッドの狂気
ライナスとリュミエルは、無事退院手続きを済ませ、
これから食事でも、という段階に至ったまでは良かったが、
ここ
ハイアード・タウンにて
ミサイルでの攻撃を受けた。
だが、爆発が無いことに二人は疑問を抱いていた――
「きゃーっ、何、何なのーッ!?」
一般人が逃げ惑っている。続々とシェルターに退避中だ。
「着弾点から何か来る!?」
ライナスがそう言って指を差す方向から、
無数の人型ロボットが駆けているのが見えた。
民間人を追い掛け回して攻撃しているのは明らかだった。
「見てしまったからには見逃すわけにはいかないな。
何より、自分自身の身を守るためにもね!」
「ええ、分かってる!」
ライナスとリュミエルは一目散に民間人の救助に向かった。
いくら自衛組織と言えど、こうまで無道な真似を
見逃しておくほど無責任な私設軍という話でもない。
それが
勇者軍の矛盾であり、美徳でもあった。
「てりゃッ!」
ガチィン!
甲高い音を立ててライナスの剣が止められた。
よほど頑強な装甲でも採用しているのか、なかなか斬れない。
砲剣ストレンジバスターのように爆発性の攻撃であれば
いっそ簡単に通用しただろうが、これが刃物の弱みでもある。
「ならば!」
ライナスは一枚のコインを取り出した。
「
呪鞘カオスリキッド!」
コインは瞬間、液体金属となり、鞘となってライナスの剣を包む。
ライナスの切り札、呪鞘カオスリキッド。
戦闘時はコインとして隠れているが、
平常時は鞘として機能する意思を持つ生きた液体金属だ。
人の負の感情を餌に、持ち主の武器に異常な切れ味を与える。
ライナスの剣にたちまち負の力が宿り、再度鞘はコインへ戻る。
「
烈風剣!」
超高速の豪剣が唸りをあげ、
エリミノイドへと叩き込まれる。
まるで豆腐でも切るように、見事な真っ二つだ。
そもそも規格外の相手に使うための武器なので当然だった。
「
疾風剣!!」
更に返す刀で多数のエリミノイドを轟然と叩き斬る。
ライナスが本気になった以上、この程度の数は
ものの数とは言えなかった。
「ライナスさん、あれ!」
リュミエルが敵をなぎ払いつつ指差したのは、
例の円盤浮遊都市だ。やたらと遠くにいてこちらの攻撃は届かない。
「自分は遠くから高みの見物をかましておいて、
白兵戦で消耗戦を強いようというつもりか!」
ライナスはその姑息なやり口に怒りを禁じ得なかった。
真っ向から向かってきた分だけ先日の方がまだマシだった。
そのライナスの怒りを吸収し、呪鞘カオスリキッドが笑い狂う。
カオスリキッドの笑いもまた、ライナスを苛立たせた。
段々、ライナスの中で負の感情のループが始まった。
「ライナスさん、落ち着いて!
そんな怒り狂うような敵じゃない!
刀線刃筋(とうせんはすじ)が乱れてる!」
「分かってる! 分かってるけど!!」
ライナスの負の感情のループは収まらない。
更にライナスの戦いが荒っぽくなる。
切り裂くような剣撃が、斬り潰す、という具合に変化した。
それに耐え得る剣も脅威だが、使いこなすライナスは更に脅威だ。
「でぇぇぇぇぇああああああああああッ!!」
「きゃあッ!?」
苛立ちが最高潮に達し、ライナスはカオスリキッドに
本来存在しないはずの狂気まで引き出されつつあった。
ミサイルの数に比例して送り込まれたはずの
多数のエリミノイドがたちまち細切れと化していく。
それは、傍にいるリュミエルさえ傷付けかねない勢いだ。
(駄目……止まれないの、ライナスさん!?)
リュミエルも必死に応戦するが、
むしろライナスの出鱈目な太刀捌きの方が危なかった。
(そうじゃない……私が止める!)
リュミエルは何かを決意し、そしてライナスに肉薄する。
「寄るな! 今の俺は危ない!!」
「黙って!」
リュミエルは無謀にもライナスにとっての零距離まで接近。
無数に切り刻まれ、柔肌が傷まみれになる。
鉄の意志で刃筋をライナスが制御していなければ死んでいる。
それでもやはり多少の怪我は免れなかった。
「こっち向いて!」
「なっ……むぐっ!?」
熱いヴェーゼをリュミエルの方から交わす。
刹那の間、時が止まる。ライナスは我を失っていた。
それが上手く作用し、負のループは掻き消えた。
「……はっ」
予想外の行動に、エリミノイドさえも動きを止めた。
「私を守って頑張ってくれるのは嬉しいけどね。
それでライナスさんに正気を失わせはしないわ。
二人で、何としても生き残るの。いい?」
真っ赤になりつつも、精一杯の見栄を張って諭すリュミエル。
「……あ……うん。分かっ……た。分かったよ」
ライナスがまだ夢現の定かならぬ精神状態のまま、剣を振るう。
すると、今までにも例を見ないほどの剣筋が敵を切り裂く。
決して鋭くはない。重くも無い。ただ正確だった。
……と、ライナスとリュミエルが何者かの気配を察知して
後方を仰ぎ見ると、顔を真っ赤にした
勇者軍主力部隊一同が、
じーっとライナスとリュミエルを観察していたりする。
「って、うわーっ!?」
「え、ええええッ!?」
ライナスとリュミエルは一応敵を迎撃しながらも
大慌てで味方への弁明を考え始めた。
「お二方とも、いつの間にそんな仲に……」
ユイナ姫は呆然と呟いた。
「任務中に、不真面目ですーッ!」
フローベールは猛然と説教を始めた。
「ここ、子供は見ちゃ駄目!」
(えー、なんでー?)
何故かジルベルトの目を塞いでいるルシアとソニア。
教育上悪い、ということだろうか。
「いやはや……参りましたね、はははー」
「ラブラブですねぇー」
リゼルとシルヴィアの言葉はある意味とどめだった。
「ちっ、違う! そんなんじゃない! まだ!」
「まだね、まだ!」
ライナスとリュミエルの弁解は『まだ』とか
言っている時点で、既に大して意味は無かった。
「お熱いとこ申し訳ないけど、まだ敵いるわよ。手伝う?」
実はこの場で冷静なのはセシリアだけだったりする。
「もう自分で片付けるからいいです!」
と、リュミエルは奥技を放つ準備を始めた。
そして、即展開――
「
天罰覿面・雷鳴陣!!」
ばぢばぢばぢっ!
もう残りいくらかしかいなかったエリミノイドが全て感電し、
根本的な精密機械部分が根こそぎ破壊された。
「敵知らずして百戦勝つ術無し……成敗!!」
ぼごぉぉぉん!!
無駄にカッコいい決め台詞と同時に敵が爆発する。
「で? どういうわけだか合流の前にお聞かせ願いましょうか。
特にリュミエルさん。あなたの方からですよね?」
しつこくフローベールが訊いてくる。
「もう! そんなんじゃないってのー!」
「どんなんだって言うんですか、このこの!!」
「あれは人工呼吸!
マウストゥマウスみたいな奴ー!」
「こんな陸のド真ん中で何がマウストゥマウスですかーッ!!」
きゃいきゃいと騒ぐフローベールとリュミエルだが、
ライナスも落ち着かなかった。ああまでされて
意識していられないほど、鈍感でもないからである。
一方セシリアは、エリミノイドの残骸を細かに見ていた。
(パーツや駆動系に見覚えはないけれど、
外観が明らかに彼等に似ている……どういうこと?)
かつて勇者軍主力部隊と共に戦った人間の脳を入れた
サイボーグ、
フロントとリア。それらと同型のマシンにしか見えなかった。
だが人間の脳が入っているようには見えない。
恐らくはこのエリミノイドをベースにして、
スペースを空けて人間の脳を接続したのが
フロントとリアなのだろう。だとすればこのエリミノイドは
惑星アースが出自なのではないか、とセシリアは勘繰る。
もちろんジルベルトにもその意図を
テレパスで読ませ、
それを全員に伝達する事で、至急会議が開かれる事になった。
ライナスとリュミエルの仲の事はともかくとして、
事態はまた新たな方向性へと動き始める――
最終更新:2013年03月25日 21:13